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 「お待たせ」


 俺は涙実の教室へと向かった。

 涙実に手を振ると笑顔で手を振り返してくれる。


 涙実は席を立ち、ゆっくりとこちらに向かってくる。

 荷物を手に持ってやってきた涙実は、ここから見えやしない図書室方面を指さし、「それじゃあ行こっか」と口を開いた。

 俺はコクリと頷き、図書室へと向かう。


 図書室の扉を開けると、涼風は涼し気な顔で、図書室の分厚い本を眺めている。

 見ただけで頭が痛くなってくるような本だ。

 まぁ、確かに文学少女みたいな雰囲気はある……。あるよね。


 「涼風ちゃん」


 涙実は、座っている涼風の前の席に座って手を振る。


 「やっと来た……。あ、え、りゅうくん……? うぅ。なみちゃん。連れてくるなら先に言ってよ……」


 涼風は顔を真っ赤にして、本で顔を隠す。

 チラッと涼風が視線をこちらによせ、目が合うとサッとまた顔を隠す。


 「どうせ、言ったら逃げちゃうでしょ? だから連れてきちゃった」

 「……」

 「ねぇ、もしかして私のこと信用できてない?」


 涙実は頬杖をつき、真剣な眼差しで涼風を見つめる。

 

 「いや、そういうわけじゃなくて……。その、信じてるし、もう付き合ってないっての、その……、り、理解出来てるよ」


 震えた声でぼそぼそっと喋る。

 本に隠れようとするが、涙実が回収してしまったのであわあわ口を動かし、涙実に手を伸ばしている。


 「そうなんだ……。てっきり、私信用されてないのかなって思っちゃった」

 「違うよ。なみちゃんを信用しないわけない」


 今まで見せていた弱気な姿勢は一体なんだったのかと思わせるような声を張る。

 涼風自身、出た声に驚いたようで周りにペコペコ頭を下げながらまた萎縮し始めた。

 ふたりの会話を俺はじっと眺めることしか出来ない。

 なんと言えば良いのか……、踏み入れてはいけない聖域のような感じがプンプンと醸し出されている。

 女子ふたりだけの特別な空間。

 悪くない。


 そんな陽気なことを考えていると、涙実が俺の制服をグイグイ引っ張り机の方へ寄せてくる。


 「……。なんだよ。どうした?」

 「ほら、龍二。涼風が話あるんだって。聞いてあげな」


 引き寄せた涙実は1人満足そうな顔をしている。

 しゃがんで、彼女らと同じ高さの視線になりながら、涼風をジーッと見つめる。

 涼風はサッと視線を逸らし、徐々に頬を赤くして気付けば耳元まで赤くなっていた。


 「うぅ……。あ、あのね。笑わないで聞いて欲しいの」

 「お、おう」

 「……。私、ほら、勘違いしてたじゃん」

 「そうだな」

 「それでね、そのあとなみちゃんから、りゅうくんたちが本当に付き合ってないって話聞いたの」


 うんうんと隣で涙実は頷く。


 「でね、申し訳ないことしちゃったっていう罪悪感と、勘違いが恥ずかしくてね、避けちゃってたの。その、本当にごめんなさい……。あのね、別に嫌いになった訳じゃなくて、その、あの、好きだから」

 「おーう。大胆な告白だね?」

 「なみちゃんに言われるとなんか恥ずかしいから茶化さないで」

 「ごめんね」

 「だから、りゅうくん許して欲しい……、かも。自分勝手だけど。後で希愛にも謝ろうと思うし、なんか分からないけれど気にかけてくれてた津森くんにも謝ろうと思う」

 「そっか。俺は別に気にしてないよ」

 「よーし。これで一件落着だね。めでたしめでたし。そうだ、せっかくだしこのままの足で希愛にでも会いに行こっか。よーし、連絡〜」


 涙実は失敗していたことが成功したと分かってウキウキらしく、図書室内で鼻唄を歌いながらスマホを操作する。

 涼風は、そんな涙実に「しーっ、しーっ」と人差し指を鼻の辺りにまで持ってきて静かにというジェスチャーをした。


 「ごめんごめん。つい嬉しくて……。っと、もう連絡来たよ。希愛ったら暇なのかな」


 1人ブツブツ呟きながらスマホをスーッスーッとスライドさせる。


 「あの公園で待ってるってさ。用事ないなら早速行こっか」

 「えへへ。りゅうくんいこ?」

 「お、おう。そうだな」


 俺たちは席を立ち、図書室を出る。

 涼風は頭を軽く下げていた。

 騒がしかったし仕方がない。

 そのままの足で希愛が待っているであろう公園へと向かった。

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