勝利宣言
この仁義なき戦いでは無力である。
俺に出来ることは、津森の妨害なのだが、津森の妨害をするということは涙実の妨害をすることと同義となってしまう。
故に、こちらからなにかアクションができるわけもなく、静観している他ない。
賭けを始めて1週間。
津森が満面の笑みを浮かべてこちらへやってくる。
主人公らしさを醸し出していた、今までの津森とは違い、自分の欲を思いっきり表へと出している。
目を細め、こっちにくるなと目で訴えるが知ってか知らずか足を止めるどころかむしろペースを早めた。
「……。なんだよ」
俺の席の前へとやってきた津森に対して冷たく一言放つ。
本来であれば完全に無視したいところなのだが、涼風の調子なんざ俺にはこれっぽっちも分からないので来るなと言えない。
「いやぁ……。この僕がここまで手間取ってしまうとは思わなかったよ。あの子は本当に心を開くのが苦手なんだね。1週間足繁く通ってやっと、数センチ心の扉を開けてくれたよ」
津森は少し疲れたような表情を見せた。
「君がどんな妨害をしているのかは分からないけれど、心を開いてくれたからにはもうこっちのものだからね。明後日までには片付けてあげよう」
津森はそれだけ宣言すると片手をヒラヒラして立ち去る。
その去り姿が妙にカッコ良い。
仕事をやりきった男の後ろ姿という感じだ。
「涙実から進捗みたいなの聞いた?」
津森が去るのを隣でジーッと見つめていた希愛は椅子をズーッと床を引きずる音を立てながら引っ張り、ちょこんと座る。
座った時の姿勢がお気に召さなかったようで、足を組み始めた。
ただでさえ、スカート短くしてる人がそんな姿勢しちゃダメでしょ。
もう、見えちゃう。
っていうか、変に妄想が掻き立てられるので見えるよりもエロいまである。
「……。アンタどこみてんの。キモ」
恥ずかしがる様子なんてこれっぽっちもなく、ただただ軽蔑のような視線を向けられた。
そんな誘うような格好しておいて、そんな目するとかこんなのハニートラップじゃねぇーか。
希愛は呆れたようにため息を吐くと、立ち上がり椅子を自席に戻して、俺の前の席の椅子を勝手に拝借し、座った。
そして、俺の机に腕と顎をおいて突っ伏せるような体勢となる。
「私何も聞いてないんだけど、アンタは何か涙実から聞いてるわけ? このままだと普通に負けるわよ」
つまらなさそうな顔をする。
「俺は何も聞いてない……。津森の奴も結構順調そうだし、ヤバそうだよな……。まだ、俺何も動いてないけどさ」
「何かしなさいよ。1から10まで涙実任せは流石に良くないと思わない?」
「そりゃそうだけどさ。具体的に俺たちって何手伝えるんだろうな」
冷静に考えてもらいたい。
涼風と涙実のアポを取るなんてことは出来ないし、作戦だって俺たちより頭がキレている涙実に一任した方が間違いなく良い結果となるだろう。
出来ることといえば、涙実の近くに居るよう心がけ、常に早くやれと催促し続けることぐらいだ。
もちろん、そんな催促したら嫌がられるのは目に見えるのでこれも却下である。
「……。なくね?」
「そうね、私たちに出来ることはなさそうね」
露骨に肩を落とす。
涙実の力と運に縋るしかない希愛はそのような反応になっても致し方ないだろう。
少なくとも俺が勝手に賭けの対象にされ、いけすかない女子に狙われたと考えたら気分なんてあがらない。
「自分の運命がかかっているのに、自分じゃ何も出来ないってここまで辛いのね」
まるで、津森と婚約することになるのかってぐらい大袈裟な嫌がり方をしている。
「そうだなぁ……」
「大体、アンタのせいなのよ?」
俺に言葉をぶっ刺し、ふんっと俺の目の前から去っていった。




