頼み事
お昼休み。
弁当を胃の中に掻き込むようにして食べたあと、希愛と一緒に涙実の元へと向かった。
「希愛飯食わなくて良かったのか?」
俺が弁当を一生懸命食べている間、希愛は隣で俺の事を見つめながら時々スマホを確認していた。
パン1つぐらいならゆっくり食べる時間あったと思うのだが、希愛は何も口にしていない。
「最近少し……、ね。ほら、ここが」
希愛はたどたどしく声を出し、お腹をつまんでいる。
「あー、ダイエット中か」
「わざと言わなかったんだけれど。バカ! ほんと、アンタってデリカシーないわよね。さいてー」
顔を赤くしながら叩いてくる。
だが、いつもよりも優しい。
力があると思われたくないのだろうか。
だとしたら今更感半端ない。
既に過去と現在を精密に比較出来るぐらい今までの暴力を受けてきた。
「アンタなんか失礼なこと考えてるわね。次本気で殴るわよ。ついでにそこの水道でビショビショにしてあげるわね」
ゆったりと微笑むが、その優しそうな微笑みが逆に怖い。
多分本気でやるつもりだ。
「アハハ。気のせいだよ、気のせい。それよりも、涙実ってどこのクラスだっけ」
「そう……? 涙実はE組よ。1番離れてる教室ね」
E組に入ると、昼休みということもあってか4人でゲームをするものや、音楽を流しながら課題をやっている者、元静かに弁当と向き合っている者と様々いる。
その中で涙実は5人ぐらいの女の子と話していた。
教室を開けた音で涙実は俺たちに気付いたようで、手を振ってくる。
「涙実ちょっと良い?」
俺が口を開く前に希愛が口を開いて、涙実を呼んだ。
「うん、良いよ。ちょっと席外すね。ごめん。終わったら戻ってくるから」
「良いよー。行っておいでー」
しっかりと友達付き合い出来てるんだななんて思いながら教室から出て、更に廊下を歩いた周りに人が居ない秘境へとやってくる。
「どうしたのかな? 2人揃って来るなんてなにか大変なことでもあった? それとも、2人付き合いでもしたのかな?」
涙実はそこまで口にすると「アハハ。そんなわけないか」と自己解決した。
もしかして、既に涼風から話を聞いていたのではないかと懐疑的になってしまったが涙実の反応的には聞いていないと判断して良さそうだ。
「希愛と昨日デートしたんだけれど……」
「あれれ。案外間違ってなかったかな?」
涙実はイタズラっぽい顔で笑う。
「あくまでデートごっこだったんだけどな」
「うーん。ちゃんとデートしてないじゃんそれ。しっかりデートしなきゃダメじゃん」
「まぁ、それはどうでも良いんだけどな」
涙実が一々話を脱線させようとしてくるので、無理矢理話を持っていくことにした。
付き合っていたら話終わる前に昼休みが終わってしまう。
「デートごっこの帰りに、涼風が俺達のこと見たらしくて、なんか付き合ってると勘違いされたんだよね」
「涼風ちゃんは純粋だからね。それは2人が悪いよ」
「まぁ……。それはそうなんだけどな、なんか避けられてるんだよね」
「ちなみに私も避けられてるっぽい」
「なるほどなるほど。大体理解出来たかな。つまり、私に説得を試みて欲しいとかそんなところかな?」
大まかには間違っていない。
一応、津森よりも先にという制約は存在するのだが、修正しなくとも勝手にやってくれそうという謎の信頼がある。
それにその事まで説明していると時間もかかるし、変にこんがらがってしまう可能性もあるだろう。
無駄なリスクを背負わないというのも生きていく上で大切だ思う。
「そう。申し訳ないけど頼む」
「私からもお願いするわね。涼風をよろしく」
俺が頭を下げると、希愛も頭を下げる。
「えへへ。任されました」
ポンッと胸を叩いて涙実は教室へと帰った。




