楽しい時間はあっという間
ジェットコースターを降りる。
久しぶりのジェットコースターは少し緊張したがやはり楽しい。
チラッと希愛を見ると満足したようでニマニマしていた。
乗る前に怒っていたことも忘れているらしい。
本当にジェットコースター様様である。
「次はアンタが何乗るか決めなさいよ」
「あー、うん。どうしよっかなぁ」
決めろと言われたって選り取りみどり過ぎて迷ってしまう。
自分が乗りたいものにプラスして、ある程度希愛のことも考慮しなければならない。
思っていたよりもデートって大変だ。
「あー、じゃあメリーゴーランド?」
「メリーゴーランドとかアンタ頭メルヘンなの?」
「嫌?」
「嫌なんて一言も言ってないじゃない。ついに、日本語すら理解出来ない頭になってしまったのかしら」
嫌味を言われながらも、メリーゴーランドに乗り、その後もお化け屋敷やらなんやらとにかく狂ったようにアトラクションを回りまくった。
フリーパスなので乗れるだけ乗らなきゃ損だろうという意識が働いてしまったのだから仕方ない。
気付けば空はオレンジ色に染まっている。
園内では閉園30分前を知らせる園内放送が流れている。
「結構色々回れたな。かなり歩いたしすげぇ疲れたわ」
「アンタ男なんだからもっとシャキッとしなさいよ」
「んな事言ったって、運動部だったわけじゃないし疲れるもんは疲れるよ」
近くのベンチに腰掛け、自販機で買ったカフェオレを希愛に渡す。
そして、俺はアイスの缶コーヒーを開けてグビっと飲む。
「あと1つぐらい何か乗れそうじゃない?」
カフェオレを飲み終えた希愛はまだ元気が有り余っているようでそんなことを口にする。
元気な娘を持つお父さんの気持ちを少し理解出来るかもしれない。
「まだなんか乗るのかよ。流石に疲れたんだけど」
「……。分かったわ! じゃあ、行くわよ」
希愛は俺の手をギュッと握り、そのままどこかへ引っ張っていく。
「おい……。何も分かってないだろ。もう、疲れたから帰りたいんだけど」
「黙ってなさい。まだ、やり残したことがあるのよ」
ということらしいので、俺はもうどうにでもなれと思いながら引きずられる。
どうせ俺には決定権なんて存在しないのだ。
抵抗するだけ体力の無駄である。
連れて行かれた先にあったのは大きな観覧車である。
ゆっくりと回る観覧車は夕日に照らされ、オレンジ色に輝いているように見えた。
「観覧車か」
「そう。遊園地といえばやっぱり観覧車でしょ! 乗るわよ」
そのまま引っ張られ、ガラガラな観覧車に乗り込む。
待ち時間ゼロ。
閉園時間が近いのもあるのだろうが、待ち時間ゼロってすごいな。
ゆったりとゴンドラが浮上していく。
少しずつ地面が遠くなっていき、視界が広くなっていく。
「なんか観覧車ってデートっぽいな」
「そうね」
お互いはそれ以上何も喋らない。
密室で2人っきりというのを意識してしまった。
顔が熱くなっているのが分かったので両手でパタパタと扇ぎ、冷却する。
「ねぇ」
沈黙を切り裂いたのは希愛だった。
丁度観覧車の頂点、ここから下がるというタイミングだ。
「さっき好きな人居るか聞いたら誤魔化したわよね?」
「あぁ……。そうだな」
話を逸らしたく、あまり深く話さない。
必要最低限の返事だけして話をストップさせようとするが、希愛はそれを許してくれない。
「単刀直入に聞くわね……。その好きな人って私たち4人の中に居るのかしら」
もう好きな人が居るというのは希愛目線決定事項らしい。
まぁ、はぐらかした俺も悪いだろう。
しっかりと訂正するつもりもないのでこのままにしておく。
「どうなのよ」
「あぁ……。居るな。居るけど、面倒臭いことになるから黙っててくれ」
「言うわけないじゃない。だいたいアンタの好きな人なんか知りたい人なんて誰もいないわよ。別に私だって知りたくて聞いたわけじゃないんだから」
恥ずかしくて顔を赤くしたのか、夕日が頬を赤く染めているように見せているのか分からないが、頬が赤くなった希愛は俺から顔を逸らすようにゴンドラの外を眺め始めた。
「近付いてくる。終わりね」
その後特に会話することなく、観覧車を降り、遊園地を去る。
デートと言うよりも友達と遊んだという感じは否めないが、希愛はこれで満足していそうなのでまぁ、良いのだろう。
最初から希愛のために執り行ったデートなわけなのだから、経過がどうであれ、俺の手応えも関係なく、希愛の満足度が結果的に高ければ全て良しだ。
「その……。今日はありがとう。楽しかったわよ」
家の前でこの言葉を聞けたので大成功と言えるだろう。
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