1人目:涼風
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「久しぶり……。元気にしてた? 私はね、元気にしてたよ……。その、私たちさ。もう高校生だし、良いよね?」
見覚えしかない彼女が頬を赤らめ、俯きながらたどたどしく話す。
ハーフアップのお団子がやわらかさを演出している。
両方の人差し指をくっつけたり、離したりして遊ぶ。
俺は何も言わずにただ黙っていると彼女は俺の袖をギュッと掴んだ。
「その、えーっと、久しぶりだな」
とりあえずなにか喋らなければならない。
そう咄嗟に思いなんの捻りもない言葉を口にする。
それでも彼女は嬉しかったらしく「えへへ」と声に出し、微笑む。
彼女は俺の幼馴染だ。
俺が親の仕事の都合で東北の方に転校する小学校3年生まで良く遊んでいた。
他にも3人親しくしていた女子が居るのだがここには見えていない。
転校してから一切連絡を取っていなかったので、今どこで何をしているのかも良く分からない。
俺と同じくどこかへ転校したという可能性だってあるし、不良に捕まってヤンキーと化している可能性だってある。
俺の事をそもそも忘れていて、ここに来ていないなんてこともあるかもしれない。
「うん。久しぶり。りゅうくんが転校する時にした約束、憶えてる?」
頬が更に赤くなり、耳の端まで赤くしている。
昔の俺は一体どんな約束をしたのだろうか。
申し訳ないが1ミリも記憶にない。
ただ、憶えてないから教えてくれと言えるような雰囲気でもなくただただタイムリミットだけが迫ってくる。
仮に憶えてないと言った場合どうなるかを考えてみよう。
涼風が泣く。以上。
ダメだ、流石に泣かせちゃうのはまずい。
「あー、うん。憶えてるぞ。アレだよなアレ」
適当に喋りながら記憶を呼び起こす。
ちょっと考えただけで思い出せるのならとっくのとうに思い出しているわけであって、今思い出せていないということは自力じゃ無理ということだろう。
純粋無垢な視線を向けられるとどうしても分からないとは言えない。
泣かせたくもないし。
「うん。私ね、ずっと守ってたの。りゅうくんはどう? 守ってくれてた?」
ちょこんと首を傾げながら訊ねてくる。
「あぁ。守ってたぞ」
もちろんなんの事だか分かっていない。
とりあえず、悲しませないために嘘を積み重ねているだけだ。
分からないが、所詮小学3年生がするような約束だ。
取り返しのつかないことなんて約束しないだろう。
「えへへ。やっぱり両想いだね……。りゅうくんが『再会した時に付き合おう』って、言ってくれたの嬉しかったんだ」
また照れて俯く。
ここまで言われれば流石に思い出す。
当時の俺はとある恋愛ドラマにどハマりしていた。
そのドラマは10年越しに再会した男女が愛を育む……っていうような内容であり、影響されまくっていた俺は幼馴染4人にそれぞれ「再会した時に付き合おう」と言い残していたのだ。
アホすぎる。
タイムマシーンを作って今すぐ過去の俺をぶん殴りに行きたい。
幼馴染4人はかなり可愛いので付き合うという点においてはむしろ好都合だ。
だが、4人に約束をするのはダメだろ。
どうすんだよ、これ後々面倒になるぞ。
汗が額からつーっと流れてきたのでそっと拭う。
とりあえず油断したら凄い剣幕になりそうだったので作り笑いで表情を維持する。
「ちょっと……すまん。用事思い出したからまた今度な」
「りゅうくん私たちと同じ学校なんだよね?」
「あー、涼風とは同じ高校って聞いてるぞ」
「えへへ。じゃあ、また……。学校でね」
疑うことを知らない涼風は大きく手を振ってこの場を後にする。
公園にぽつりと取り残された俺はどうやって、自分の蒔いた種を回収するか必死に頭を悩ませた。
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