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魔王転生~元魔王と勇者とその他諸々の物語~  作者: Black History
謳歌する一学期
5/28

——改訂版2——陰謀と偶然は表裏一体

今日のユクドニア、北コルロ高校という俺たちが通う高校のある場所はいたって平穏であった。




俺が入学したての時は凛凛と咲いていたはずの桜どもも、今や完全に散り切り、新芽を芽吹かせている。




道中、もはや見慣れた景色であるためか道の景色にではなく自分の意識の内側に、思索にふけることに意識を持っていかれていた。




そうそう、こんなこともあったな、あれは恥ずかしかったななど何らとりとめのないことを思索という高尚なもので言い表していいかどうかはともかく、俺は今までの濃い日常を反芻し、少し苦笑するのであった。




桜の木と比べるとてんで隆々としておらず、人工物であることを感じさせそれを隠そうともしない電柱の陰に彼女はいた。




銀髪のショートカットで無表情な彼女もどこにも焦点が合わさっていない眼を見るとおそらく俺と同じように思索にふけっているのだろう。




俺は別段思索が人間に与えられた唯一のものとは思っていないしましてや人間の機能の中でそれを特別視するイデオロギーも持ち合わせてはいない。




ただ、この時の俺は確かに蘭に声をかけるべきか否かを悩んでいたのである。




思索、確かにある程度は高尚なものだがそこまで高尚なものではないと思っているのにではなぜ俺は声をかけるべきか否かを迷っていたのか。




それは一言で言って思索の持続時間ないしは連続性にあると思う。




思索には積み重ねというものが必要だ。




AはB、BはCであるからAはCであるという論の連続性だ。




これは結論が欠けてもまだ問題はないかもしれない。




いや、その時にしか出せない結論だったのなら大問題なんだがそれはとりあえず置いておこう。




置いておく、という表現はいまいちかもしれなかった。




なぜならこれにはもうすでに結論が出ているからだ。




それは結論が欠けたら大問題という結論だ。




であるから、その時にしか出せない結論が欠けてしまった場合の結論は結論が欠けても大問題ということだ




ということで、そのほかの場合、恒常的に画一された結論が出せる場合を考える。




まあこの問題は先の例にも当てはまるのだが。




その時大問題となるのはAはBもしくはBはCという部分が欠けてしまった時だ。




こうなってしまってはAはCという真理、結論にたどり着けない。




そして思索が外的要因によって中断されたとき、こういうような問題がしばしばおこる。




つまり、人間の記憶保持能力、論の持続性というのは案外低いということだ。




であるから、思索にふけっている人の思索を中断するということはこのような危険性を内包しているということだ。




で、それを理解してもらったうえで今、蘭に話しかけるか否かの問題が再浮上する。




相変わらず思索にふけっている様子の彼女はこちらに気づこうとしない。




あちらから気付いてくれればうれしいのだが。




そしてここまで来て俺は思いついた。




ん?待てよ?思索が外的要因に中断されたら論の連続性が途切れやすいんだよな?

つまり中断されることが思索にとって害のあることなんだ。




ということは中断しなければ……?




つまり俺がその思索に入り込めば……?




この時の俺が言っていたことはどういうことかというとただ単に蘭に「何考えてるんだ?」と聞いて、そして蘭から返ってくるであろう返答を一緒に考えるというものだ。




もしかしたら大半の人は蘭が思索にふけっている様子であるというときにもうすでに思いついていた方法かもしれない。




俺がその結論に行きつくのが遅すぎてやきもきしていたかもしれない。




しかしそこは勘弁してやってほしい。




だってこいつは人とのコミュニケーションが苦手なんだ。




ここは俺に免じて、こいつの無知蒙昧を許してもらえないだろうか。




許してもらえたと仮定して先を続ける。




俺は蘭にその案を実行することにした。


「よ、蘭、何か考え事か?」


「…秘密。」


しまった!俺はこの場合を考えていなかった!


そう、俺の案には一つの欠点があったのだ。


それは思索の内容がプライベートな問題だった時だ。




人は私的な問題は極力人に話したくないと思う。




それは当然なことだしとやかく言うつもりもない。




しかし、しかしだ。

思索については別問題なんだ。




というのは思索にはさっき言ったように連続性がある。




その連続性をプライベートは何らかの外的要因が発生したときに即座に一刀両断する。




つまり、プライベートな問題は誰にでもいえる概念的な問題より重要度が高いくせしてもろく壊れやすいのだ。




プライベートな問題が解決しなかったらもちろん精神の健常な発達はなく、最悪の場合は鬱までも……




俺は何とかその問題の持続性を伸ばそうと、つまり話してくれはしないにしろその論を何回も蘭の心の内で思い出させ定着させようとした。


「蘭はどんな問題で悩んでたんだ?」


「…秘密」


「そうか、で、その論の結論は出たのか?」


「…まだ」


「そうか、じゃあどのくらいのところまで行ったんだ?」


「…まだ全然」


「どういう論理の構造だったんだ?」


「…記憶に依る」


「どんな内容のところまで行ったんだ?」


「…秘密」


よし、これくらいすればいいだろう。


俺は適当な言葉をかけてこれを終わりにしようとした。


しかし、俺のそのはたから見たら積極的な態度は蘭の心に何かを宿したようで


「…真がそこまで手伝いたいなら一つだけできることがある。」


と言ってきた。


俺には願ってもないことだった。


なぜなら手伝うことで論の持続性をより上げることができるからだ。


「手伝えるなら手伝おう。何ができる?」


「…真の女性の好みのタイプを教えて」




「え?」


俺は困惑した。


そんなこと聞いてどうするんだろうと思った。


第一、俺は女の良し悪しは分からないので返答に困った。


「えっと、ごめん、俺の好みを聞いてどうなるのかわからないんだが…」


「…そ」


そうそっけなく言うと、早歩きして俺を置いていこうとした。


「待て待て、分かったよ、言えばいいんだろ?」


「…そう」


そういうと彼女は無表情ながら目を輝かせて俺の次の言葉を待っているようだった。


「俺の好みのタイプは…」




「…タイプは?」




「ないな!この一言に尽きる!」


そういうと蘭の眼には影が差し


「…そ」


というと足早に俺を置いていこうとした。


「待て待て本当なんだよ!別に嘘とかじゃなくて!」


俺はそんな蘭の後を足早に追いかけるのだった。











その後も不機嫌だった蘭といつもの通学路を歩き、いつも通りクラスが違うという理由で別れたのだった。




別れ際、蘭はこんなことを言ってきた。




「…顔の良し悪しというのは愛の発生のとっかかりにしか過ぎないということかな?」




顔の良し悪し、つまり風貌の是非がその後に発生するはずである愛のとっかかりにすぎないか否か。




これは好みのタイプがない俺にはよく分らないのだが感覚的には正しいような気がした。




というのも、自分の好みのタイプというのはあくまで性的趣向にしか過ぎない気がしたからだ。




しかし、愛というのは必ずしも性的趣向のことではないだろう。




例えば親子だ。




親は子供に性的興奮を覚えるから愛を持っているのではないだろう。




親は自分たちが苦労して生んだわが子が、今懸命に自分たちの後ろを追ってくるわが子が、自分たちがいなくなっても続いていくわが子の歴史がいとおしくて仕方がないのだろう。




愛というものはそういうものだ。




愛というのは常に未来を含んでいる。




同時に愛というのは過去も今も含んでいる。




いわば愛とは時間なのだ。




長年一緒にいたから、一時期共に苦難を乗り越えたから、そういうような時間を依り代として愛は生まれる。




そんな愛に性的趣向はあくまで中立なのだ。




確かに性的趣向が合えば一緒にいる時間は増えるかもしれない。




確かに性的趣向があっていればあっていないときに比べて激しい夜の回数が増えるかもしれない。




しかしそれは直接的には愛に何らかかわりがないのだ。




間接的にはあるにしろそれはなくてもかまわないことなのだ。




長年一緒にいたから、苦難を一緒に乗り越えたから、理由は何でもいい。

過去を依り代とし、今を一緒に居られて、未来のこれからの展望に笑むことができる、それが愛なのだ。




であるから俺はその問いにこう答えた。




「そう思うぞ。」











俺がクラスについていつも通り席に着いた時、トントンッと後ろから肩をたたかれた。


俺に声をかけるやつでかつ俺の後ろの席の奴は一人しかいない。


そいつは金髪のツインテールで性格のきつそうな顔をした正義第一主義の激しい女だ。


「なんだ?サンドラ。お前が変な目で見られるのは気のせいだし、部活の認可が遅いのもあんな正義部とかいう得体の知れない部活だからであって決して陰謀論ではないぞ。」


と振り返りながら俺は言った。


そう、その正体とはサンドラである。


しかし、読者諸君は俺の言動に疑問を覚えるかもしれない。


サンドラに対して開口一番に言ったのはあいさつでもなんでもなく、まるで未来を予想しているような言葉だったことについてだ。


しかし、最近のサンドラは、俺が予知能力者ではないにしろある程度未来を予測できるような、つまり普通の人だったら聞き過ぎてうんざりしてしまうような問いかけしかしてこないのである。




実際俺は最近のサンドラにうんざりしていた。




口を開けば登校中変な目で見られるわ部活の認可が遅いわ愚痴を言ってさらにはそれを魔王による陰謀だという始末だ。




実際変な目で見られるのはあの半ば独裁政治を敷くと言わんばかりの自己紹介のせいだし、部活の認可が遅いのはあんな変な部活誰が許可するかということだ。




そしてそんなこんなでもう6月も終盤になってしまった。




「でも遅すぎじゃない?もう6月も終わりよ?これは絶対陰謀よ。魔王め…許さないわ…」


「だからと言って前みたいに職員室に殴り込むのはやめてくれよ。もしやるんだとしてもお前ひとりでやってくれ。」


「何言ってんのよ。あんた、私の相棒でしょ?あんたと私は一心同体なの!」


「だからそれもお前が勝手に言って…」


「どうかされました?」


エリックが俺たちの会話に割り込んで言う。


「いや、エリック実はさ、聞いてくれよ。こいつまだ部活の認可が遅いことにぐちぐち言ってんだよ。」


「いーや、ただ遅いってわけじゃないわ。絶対何かの陰謀よ。私たちがこの学校で正義を行使することを嫌がっている輩でもいるんだわ。もちろんあんたもそう思うでしょ?エリック。」


エリックは俺たちの気迫に押されて「いやぁ…アハハ」と頼りなさげに笑うだけだった。











俺とサンドラの議論は平行線、感情的になって白熱すれど議論は踊る、俺はほとほとサンドラと話すのに嫌気がさしていた。




だから黙った。




いや、黙ったという表現は俺の心情にはあっているかもしれないが実際は違ったかもしれない。

正しい言い方をするならサンドラのそれをすべて受け流した。




するとサンドラのほうはまるで構われなくなった子供のように、はしゃぎすぎて元の場所に戻された子犬のようにしゅんとなった。




俺もさすがにやり過ぎたか、いや、企図してこの結果になったわけではないがいくら嫌気がさしたとしてももう少し話してやるべきだったかと反省していたが当然そんな話を俺から切り出すような勇気もなく、サンドラがまた話しかけてくるのを待っているだけだった。




今思うとこんな態度が悪かったせいなのかもしれない。




俺の態度がもう少し良ければ、つまり俺の方から謝っていればこの後の展開はもう少し違っていたのだろう。




しかしこの時の俺は知る由もなかった。

この後サンドラがあんなことになるなんて。











俺が謝れないまま日は進み、次の日となってしまった。




晴れない気持ちを引き摺りながら登校してると蘭から「…どうしたの?」と言われた。




「…真、なんか目の焦点が空を漂っている。」


「ああ、実はな…」




そして俺は昨日あったことをすべて蘭に話した。




すると蘭はこう返答した。


「…じゃあ今日の朝謝ればいい。」


「ま、それもそうだな。ありがとう、蘭。そうするよ。」


そして俺は心を入れ替えたのだった。











クラスに着いた。




俺はサンドラに謝ろうとしたが、そこにはサンドラの姿がなかった。




「まぁ、トイレに行っているだけだろう。」


そう思った俺は別段その事実を機にせず気長に待っていた。




朝の会のチャイムが鳴った。




それでもサンドラは来なかった。




出席の時間になった。




それでもサンドラは来なかった。




一時間目のチャイムが鳴った。




それでもサンドラは来なかった。




お昼ご飯の時間になった。




それでもサンドラは来なかった。




ここからぐらいだろうか。

俺が何かおかしいと思い始めたのは。




6時間目のチャイムが鳴った。




それでもサンドラは来なかった。




帰りの会が終わった。




結局サンドラは来なかった。




「まぁでも、いつも元気な人なんていないしな。」




俺はそう思うことにした。




うすうすサンドラがどうなっているのかわかっていた。




でも俺はそう思うことにした。




次の日になった。




サンドラは来なかった。




その次の日になった。




サンドラは来なかった。




さらに次の日になった。




サンドラは来なかった。




もう7月になった。




それでもサンドラは来なかった。




俺は確信していた。




或いはもう確信していたのかもしれなかった。




サンドラが来なくなった理由を。




俺がいつまでたってもサンドラに謝れない理由を。




しかしそれは絶望でもあった。




俺にはサンドラの住んでいるところがわからないのである。




俺は一人の友を失ったことに絶望しているらしかった。




俺は一人の友を失ったらしかった。




前の世界と同じように俺はまた悪行をしてしまったらしかった。




俺はまた後悔が似合う男になってしまったらしかった。




蘭やエリックやエマの励ましも心には響かないらしかった。




俺は自分を棄てたらしかった。




そんな時であった。




一筋の希望、というよりかは一縷の望みが現れたのは。




そんな時であった。




部活の認可、というよりかは同好会の許可が下りたのは。




そんな時であった。




俺がその報告の代理をする、というよりかはサンドラに会いに行くことになったのは。




「会い」は「愛」と似ていないだろうか。




俺はふっとそんなことを思い苦笑するのだった。




俺はふっとそんなことを思い久しぶりに笑うのだった。




後で分かったことなのだが、これは担任の先生の粋な計らいによるものだった。




担任の先生は俺とサンドラの様子を見て何かを察し、無理を通して俺を報告の代理に、つまりはサンドラに会わせることにしてくれたらしかった。




俺はあとで担任に「俺たちの物語に入りませんか?」と言ってみた。




よくよく考えれば意味の分からないことであるが、つまり、この世界にいる時点で物語には参加しているはずなのだが、その時の俺は勢い余ってそんなことを口走った。




すると彼女はいたずらっぽく笑い「君たちの物語は君たち若い世代が作っていくものなんだよ。私のような旬は過ぎてないけど年は過ぎた女には入る余地がないんだよ。」と独身女性らしい無邪気な言葉も入れながら言うのだった。




そう、これは俺たちの物語である。




俺とサンドラと蘭とエマさんとついでにエリックが紆余曲折を経ながら、時には周りを巻き込みながら、幸せになる物語だ。




題名は…そうだな…俺の前世が魔王だし、ここは俺にとっては異世界であるんだから「元魔王の異世界旅録」とでもしようか。




まあそんな、最後は絶対に幸せになるはずの物語なのだ。




そんな物語で落ち込んでいるのはもったいないぜ、サンドラ。




俺たちの物語はまだ始まったばかりなんだからな。











俺はサンドラの家に向かっていた。




しかしこれはさっきも言ったように一筋の希望ではなく一縷の望みなのだ。




それぐらい小さくて、それぐらい大切に扱わなくてはいけないものなのだ。




俺は前にそびえる大豪邸を前に心を入れ替えるのだった。











(ピンポーン)




俺の心境とは全く正反対の、無機的で快活な音が鳴る。




「はい。何の御用でしょう」


低く威圧感のある、しかし少し疲れ気味の男の声がインターホン越しに言う。


「あ、実はわたくしそちらのサンドラさんも通われている北コルロ高校の同級生の柊真です。で、今日はサンドラさんに報告があってきました」


「ここではダメなんですか?」


その男は怪訝そうに尋ねる。


「ここでもいいんですけどできるなら直接会って話したいなって。」


「今うちの娘は傷心中なんです。悪いですがそこで話してもらえませんかね。」


そのように、問答している男は少し投げやりになって言う。


困った。これでは一縷の望みがなくなってしまう。


どうにかして直接話す口実を考えていると


「お、おい!サンドラ!どうしたんだ!」


「うるさい、その人通してあげて」


「い、いやしかし今のお前は…」


「うるさい!通せって言ってんでしょ!」


「あ、ああ、わかったよ。今通す」


どうやらサンドラが俺の声を聴いていたらしい。


「状況が変わった。今通すから待っていなさい」











だだっ広くて長い道をしばらく歩いて玄関までやっとの思いで着くと、そこにはサンドラの父親と思しき人物が立っていた。


「やあ、こんにちは。私はサンドラの父のクリス・ユーロプスだ。」


さっきのインターホンでの問答と同じように高圧的で威厳のある声でそう名乗った。


顔からは疲れが見える。


「サンドラさんの同級生の柊真です。真って呼んでください。」


「噂はかねがね娘から聞いているよ。サンドラなら客室で待っている。ただ、サンドラの言うとおりサンドラ以外誰もいないからな。うちの娘にもしものことがあったら…わかっているな?」


サンドラの父親は凄みを付けていった。


俺はそれに「はい」と短く答えただけだった。




客室に行くとサンドラが座っていた。




空色のドレスを着こなしていた。




しかし、髪はぼさぼさで顔はうつむき、傷心っぷりが一目でうかがえた。




俺はサンドラの右前に座り、話そうとした。




しかし、それはサンドラの言葉にさえぎられた。


「ごめんなさい」




ほう、最初から本題に行くか。




思えばこいつはいつもこうだった。




回りくどいことが嫌いだったのだ。




直接言えることは直接言う。




そうしてきたことで一体クラスの何人から嫌われたか。




一体どれだけ俺やエリックが手間を焼いたか。




しかし俺はそんな彼女でなければ、言いたいことを何も気にせずいえるような彼女でなければこんなに仲良くはならなかっただろうということも知っている。




彼女のそれは欠点でもあり、同時に魅力でもあったのだ。




彼女はいつもそれで自己犠牲になり続けた。




彼女はいつもそれで人を救い、自分の敵を作り続けてきた。




俺が感銘を受けたのは彼女のその勇士、徹底的な自己犠牲の理念なんだろう。




しかしな、サンドラ、お前はもっと楽になっていいんだぞ。




お前はもっと慕われていいんだぞ。




お前をとらえるという奇異なものを見るような目線、それを全部羨望の目線にしていいしお前はそんなことなど容易だろう。




無理だというのなら俺や蘭、エマさんついでにエリックが全力で手伝ってくれるさ。




「私、シンのやさしさに甘えてあんなことしちゃって…ごめんね。」




彼女は、俺の悪意の被害者であるはずのサンドラは涙を流しながら言う。




「……それは俺も悪かったんだ。ごめんな、サンドラ。」


「いや、そんなことは——」


「あるよ、サンドラ。俺もお前も、どっちも悪いんだ。」


サンドラは潤んだ瞳で俺を見つめ、その言葉の真意をかみしめているようだった。




多分こいつはいつもの性格からかどっちも悪いっていうあいまいな表現は好かなかったんだろう。




しかしな、曖昧っていう言葉にもちゃんと正義はあるんだぜ。




曖昧って言葉も人を救えるんだぜ。




確かに決着をつけたほうがいろいろと分かりやすいかもしれない。




だけど決着をつけるって行為が必ずしも正義とは限らないんだ。




絶対的な正義もない代わりに絶対的な悪もない。




この世界はそういう曖昧なところなんだ。




「ごめんなさい!」


そう言ってサンドラは俺に抱き着いてきた。


俺は級の動作に若干戸惑うが、その戸惑いを伝えただけでもこいつは消えてしましそうな、そんな儚さがあったもんだから俺はさも気丈にふるまった。


女の子らしい腕が、華奢な腕が、俺を抱きしめる。


辛かったんだろうな。


俺だってつらかった。


一人の友がいなくなったのは。


これからも一緒に歩もうではないか。


そう心の中で言いながら俺はサンドラの頭をなでながらこう言った。




「俺はな、思うんだ。お前がもっと認められてお前の凄さがもっと伝わったらこの世界はどんなに素晴らしくなるだろうって。この世界のありとあらゆる悪をお前が成敗してくれて、住みよくなった世界はどんなに素晴らしいだろうって。俺はな、お前の未来が見てみたいよ」




サンドラは顔を上げてぼろぼろに泣きながら、それでも何とか笑顔を作って言う。


「その時はあんたが私の唯一の相棒なんだから」


「おいおい、そんなひどい顔で言われても説得力ないぞ」


俺はおちょくるようにしてその言葉に答えた。


「あんただって大概でしょ」


確かにそうだ。

俺だって昨今は憔悴しきっていたからな。




無駄に広い客室に二人の笑い声は響き渡った。











(ガチャリ)




客室のドアノブが回る




(キィィィ)




ドアがゆっくり開く。




そしてそこに立っていたのはクリス・ユーロプス、サンドラの父親だ。




俺は何で彼がここに来たのかわからないので言った。


「え?」




それと重なるようにサンドラの父親も言った。


「え?」




サンドラもそれに重ねていった。


「は?」











「なんだ貴様!うちの娘と不貞行為でもしようというのか!」


サンドラの父親が顔を真っ赤にしながら言う。


「入ってくるなって言ったでしょ!何勝手に入ってきてるのよ!」


サンドラが激昂した様子で言う。


「ごめんなさい!お父さん!これには深いわけが!」


俺はあろうことかサンドラの父親をサンドラのお父さんとして記憶していたため「お父さん」と言ってしまった。


「何!?お父さんだと!?ふざけるな!」


「お父さんこそふざけないでよ!入ってこないって約束だったでしょ!」


「ここから大声が聞こえてそのあと笑い声が聞こえたと思ったら貴様…殺してやる!」


「お父さんこそ…」


サンドラの父は俺に今も殴りかかろうとし、それをサンドラが必死に止めながら文句を言い、俺はソファであたふたしているという構図が生まれた。


「お静かに!」


ツンと響く高音がこの場の喧騒を止めた。


「まずは事実確認が必要でしょう。」


そう言って姿を現したのはサンドラの母親と思しき人物だった。











そして小一時間ほど事実確認という裁判にかけられた俺は、何とか無罪でサンドラの家を抜け出してきたのだった。




しかし、入る前は気が気でなかったからそこまで気が回らなかったものの、今見るとこの家って結構、いや、ものすごくでかいな。




もしかしてサンドラの父親はお金持ちなのだろうか。




そんなことを考えながらだだっ広い庭園を出口へと向かっていた。




「あ!待ちなさい!シン!」


どうやらサンドラが俺を追いかけてきたらしい。


「ごめんなさいね、うちの親がうるさくて」


「いやまぁ、俺が親でもあの体勢は起こるからいいよ」


「そ、ならいいんだけど……で、今日はそれだけかしら?」


「ん?というと?」


「いや、謝りに来てくれただけってのもうれしいんだけどあんたそもそも私の家知らなかったでしょ?それに私に私の家なんて知っている友達いないし。だから学校から聞いたと思ったのよ。それは何を口実に聞きだしたの?」


口実?これはそもそも担任の先生が粋な計らいをしてくれたおかげであって……


は!そうだった!俺はこいつに正義部の認可が下りたことを伝えに来たのだった!


「そういえば正義部の認可、降りたから。」


「え!?」


サンドラは一瞬目を丸くし、すぐに戻すと


「いよいよ始まるのね…待ってなさい!悪党ども!私がけちょんけちょんにしてやるわ!」


と高らかに宣言するのだった。


ここで俺はいつもならまた面倒ごとが増えたとため息を吐くのだが、今回は先ほどのこともあって少し楽しみになっていた。


僕のPCはキーボードの四角いパッドしか反応しなくてマウスが使えないんです。

だから今までWordで作った文章をいちいち四角いパッドで全選択してコピーしてたんです。

そんなことをしていると途中で切れちゃったり、全選択できてもコピー前に解除しちゃったりしてたんです。

すっごいイライラしてました。

パソコンの前で「このくそ雑魚PCがぁぁぁぁ!」と発狂するくらいイライラしてました。

しかし、今日、気づいてしまったのです。

Wordには自動で全選択してくれる機能がついていたのです。

ホームタブの編集の選択ってところを押してみてください。

いともたやすく全選択ができるのです。

つまり今回の教訓は……

Wordさまさま

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