俳句4
俺はクラスに入ると、後ろの席のサンドラにあいさつする。
「おはよう、サンドラ」
「ん?ああ、あんたね、おはよう」
返事はいつも通りだったものの、何かこいつが浮足立っているように感じる。
……これは気のせいだろうか。
だがその様子は俺の背筋に悪寒を流し、何やらよからぬことが起こりそうだと想像させるのには十分すぎた。
俺はこの悪寒を共有するためにエリックの方を見た。
するとエリックはただ微笑み返してきた。
エリックのことだからサンドラのこの様子にはもうとっくに気づいているだろう。
となると……あいつ、もしやこの状況を楽しんでやがるな。
俺は今までの出来事を経てもなお楽しめる、能天気なエリックに恨みがましい視線を送った。
どうやら予感は的中したらしい。
俺たちは部室に集められた。
集められたという言葉ではいささか適切ではないかもしれない。
俺たちはサンドラというあらゆる世界に対して正義を振りかざす裁判官に召喚させられたのだ。
そんなサンドラは周りの物をどかしてホワイトボードを奥から引っ張り出そうとしている。
そうこうしていると、エマさんが遅れてやってきた。
そしてエマさんに視線が行っている隙にサンドラはホワイトボードを引っ張り出し終えたようで、バンッとたたいた。
俺は予想外のところからの音でビクッとする。
「皆は聞いたかしら?今回、校内で俳句大会が催されることになったわ!だから私たちの威厳を見せてやりましょう!」
「ちょっと待て」
俺はすかさず突っ込みを入れる。
ああ確かに担任が数日前にそんなことを言っていたようなと回想するが、大前提としてここを外してはならないので質問した。
「俺たちが初心者だってことは分かってんだよな?」
「そんなのもちろんよ。だから今日から習えばいいでしょう?」
こいつはまためちゃくちゃなことを言う。
俺はこの状態になったサンドラには何を言っても無駄だと知っているが、それでもせめてもの抵抗としてこんなことを主張した。
「お前なぁ……俺たちの自由の時間も考えてくれよ」
するといつものようにサンドラは言い返してくる。
「何よ、あんたはどうせ暇が空いたらいっつも図書館に行くだけでしょう。それが有益な授業に変わるだけじゃない」
俺はヒートアップして言い返す。
「お前は本のありがたみをわかっていないな。そもそもエクリチュールというのは——」
「ああ、はいはい、あんたの無益な豆知識はどうでもいいからさっさと話を進めるわよ」
こいつはいっつもこうやって俺の話を聞こうとしない。
だから俺は最後の抵抗とばかりに呟くようにこう言った。
「ていうかなんで俺が図書館に行っているって知っているんだよ。一度も話したことないだろ。」
するとサンドラは、聞こえていたのか少し焦ったようにこう言い返してきた。
「し、仕方ないでしょう。知っちゃったものは知っちゃったんだから」
「知っちゃった?それは有難迷惑だな。いや、もはやただの迷惑だ。だから——」
「それで、今回のお題は何なんですか?」
エリックが俺たちの口論は聞き飽きたと言わんばかりに話題を戻す。
「よく聞いてくれたわね。いい?今回のお題は“月”よ!」
するとサンドラは、誇ることでもないだろうに、胸を突き上げたたきながら自信満々にそう言った。
「僕は不思議でたまらない。
おとといの最新部分の読者が一桁だったのに昨日の最新部分の読者が二桁であるという事実が。
僕は不思議でたまらない。
新規読者を獲得しようと権謀術数を張り巡らしているのに誰も来ないことが。
僕は不思議でたまらない。
不思議を不思議と感じる自分が。」
これで終われば締まりもよかったのですが、時間があって暇すぎるのでまだ書きます。
この詩の解説なんですが、最初の二個はそのままの意味に受け取ってもらって結構です。
最後の一個は解釈が分かれると思うので解釈を一致させたいと思います。
”不思議を不思議と感じる自分”。
これは自己への漠然とした、マクロな不安を示しているわけではありません。
というのも、不思議と感じる自分は不思議と感じるような自分の総体という風にかからせることを意図したわけではないからです。
僕は”不思議と感じる”で自分の中にある様々な自分を限定したのです。
その為これは不思議と感じさせる、自分の中に含まれる機能に対して不思議を抱いているのです。
では次になぜ不思議に思うのかについて解説していこうと思います。
我々は合理的な生き物で、例えば悪い行動にも合理性があれば許してしまいます。
そして世界も物理学の発展を見る限り定式化された、理路整然とした世界でしょう。
その世界の中で起こることなので当然、一見不思議に思われることにも合理性があるはずです。
しかし、我々はそれを薄々勘付いていながらもなお不思議だと、非合理的だと思ってしまいます。
もちろん、その機能、不思議に思う機能もこの世界にある以上合理的なのでしょう。
しかし、この一連の流れを見てみると不思議でたまらないということです。
では、時間もそろそろなのでさようなら。




