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魔王転生~元魔王と勇者とその他諸々の物語~  作者: Black History
けれども謳歌する二学期
17/28

払暁の余韻

期間がだいぶ開いてしまったので前回までのあらすじをさらっと。

”前世が魔王である主人公、柊真は女神から勇者の統御を頼まれる。その勇者とはサンドラ・ユーロプスという少女のことで、そいつは正義感が人一倍強く、また型破りで激しい少女で…そんな彼女を中心に主人公の柊真、いつも微笑んでいていけ好かないエリック・オービンス、銀髪のショートカットでいつも無表情のため何を考えているかわからない稲川蘭、赤髪のロングヘアーでちょっとドジなエマ・コーギーが振り回される!前回、合宿先で出会った少女、イレイナからキスをされた柊真であるが、その命運やいかに!”

あ、これいいあらすじですね。

ちょっと使おうと思います。

9月1日。

うだるような暑さは夏休みの余韻、暑さで想起させられるひと夏の思い出を漂わせるからといってそれは決して心地の良いものではなく、むしろ正常の思考を邪魔するものだった。

そういう意味で俺は夏が嫌いだ。

夏の暑さが嫌いだ。

そう言っても俺にはこの天候をどうにかする能力も妙案もないわけであるし、さらにはもうこの季節は夏というよりかは夏の副次的な期間、一語で言うのならば残暑であるのだから暑さの根源たる夏の文句をここで言うのは的外れも甚だしい。

しかし、残暑というのは言い得て妙だ。

比べるかの日、あの濃密だった一週間から考えるとそこまで日が照っていないのにどうしてここまで暑くなることができるのだろう。

それこそが残暑の意味ではないだろうか。

この暑さはあくまでも夏の残り香に過ぎない。

もしかしたら俺たちは残暑が残り香に過ぎないという暫定性というのだろうか、そういうものに俺たちの今は過ぎ去りし夏の思い出、刹那の出来事を想起するのかもしれない。

ここまでいって俺はついに残暑のいざない、というよりかは妨害か、に負け思考を放棄し夏休みを思い返すのだった。






しばらくそうしているとどうやら待ち合わせの場所に着いたらしい。

そこには銀髪で無表情な少女、稲川蘭が立っていた。

蘭もどうやらこっちに気づいたようでこちらにくぎ付けになっている。

蘭はなかなか奥手な奴で、こっち側から話さないと何も話さないのだ。

「よう、蘭」

俺は蘭に近づくとそうあいさつする。

「…おはよう、真」

蘭は真顔のまま挨拶を返してきた。

そして俺たちはまるで揃えたかのように歩き出す。

これは俺たちが長い間一緒にいたことによって会得したいわば阿吽の呼吸ってやつだ。

そして俺たちは学校に向かう。

そう、今日は始業式だ。




俺たちは教室の前で別れそれぞれのクラスへと向かう。

うだるような暑さがまだ残っているというのに高校生の諸君は元気なもので内輪でふざけあっている。

もちろんかくいう俺も高校生なのだが。

俺はそんな数々の内輪によって形成される活気に一瞥をくれてやり、俺には到底混ざれないことを痛感しながら自分の席に向かうのだった。

俺はとりあえず俺の後ろの席、金髪のツインテールの女にあいさつするのだった。

「よう、サンドラ」

「ああ、シンね、遅かったじゃない」

「いや、そうでもないと思うが」

するとサンドラは教壇の一瞥して

「あら、そうね、そうでもないわ。あんたのことだから長い休みにだらけ切っててっきり遅れてくるものだと思っていたわ」

朝からひどい言われようだな。

「おいおい、俺はそんなに怠惰な奴じゃ——」

「ああはいはい、わかってます、だから今は話しかけないでくれる?」

こいつ、なんか機嫌悪くないか?

「おい、どうしたんだ。何かあった——」

「何もないわよ!」

「何もなかったらそんなに興奮しているわけ——」

「そうよ!あったわよ!重大なことが!あんた!やっぱりあの子と不貞な関係だったのね!?」

「あの子?不貞?いまいち何を言っているのか——」

「あんたがイレイナとキスしたってことよ!」

こいつ、なんでそのことを…

俺はすぐに思い当たりエリックを睨む。

エリックは申し訳なさそうに微笑んでいた。

エリックめ……言いやがったな……

サンドラがあまりにも大きな声で言うためクラス中の注目を集めてしまった。

何やらよからぬことが周りのひそひそ話から聞こえる。

俺はサンドラに一息つかせてこう言う。

「待て、サンドラ、これには深い誤解があってだな——」

「誤解も何もあるわけないでしょ!キスしたんだから!」






どうして俺は今こんな責め苦を受けているのだろう。

サンドラには本気でキスされたと思われて、その周りからはひそひそ話がより邪推を極めている。

俺はクラスのみんなにも聞こえるような声量でこう弁明した。

「実はそこには大きな誤解があるんだ。あの地方はだな……その……キスでお礼をするという文化があるんだ。実際あいつはそう言って走り去っていったさ。俺にあらぬ勘違いをさせたくなかったのだろう。では、それを知った時点でサンドラ、お前はどうするべきか。もちろんこれを信じないでキーキー喚くのもまた一つの途だろう。しかしな、それは俺への抗いであるのと同時に今ここにはいないあいつへの侮辱にもつながるんだぞ。果たしてそんなんでいいのか?いいや、いいわけがない。だからお前は、お前たちはその邪推をやめるべきなんだ」

「なんか論理臭く言いくるめられた気がする……けどまあ分からなくもないわ、ただ……」

「ただ?」

「これからは私とも一緒に帰りなさい!あんた確か帰りにランと一緒に帰っているわよね?怪しいわ……不貞のにおいがするわ……」

「だから俺はそんな色男じゃないから……第一俺と蘭は知り合ってから結構になるんだからふしだらな行為をしていようといいじゃないか。お前には関係ない問題だろう」

「いいえ、関係あるわ。部員の失敗は部長の失態でもあるもの。私がとことん管理してやらないとね」

「お前なぁ……」

「何よ、何か文句あんの?」

「……いや、なんでもない」

俺は呆れて言葉も出なかった。

これはあとでエリックに強く言っておかなくては、そう決意した。






「おい他人との密会をぶち壊した上にそれをチクった下衆野郎」

「ちょっとその言い方はひどいですよ」

「事実だから仕方ない」

あの後エリックが男子トイレに行ったのを見た俺はエリックを追って男子トイレに来たのだった。

「まぁ……客観的に見たら確かにそうですけど……結構僕も不運な部類なんですよ?」

「そんなことはどうでもいい。で、なんで話したんだ。お前のことだから単にチクったってわけではないだろ」

「ほう、そこらへんは信用されているんですね。ありがたいです」

「うるせぇ、早く言え」

「実は……」

エリックが言うには俺たちが出ていくのをたまたま見たエリックという構図をたまたまサンドラが見ていたからそのあと問い詰められたということだった。

最初は黙っていたんだが、だんだんサンドラの方が涙目になって、さすがにこれは言うしかないという状況になったため仕方なく話したのだという。

一応最初はオブラートに包んで言っていたのだが、サンドラの激しい詰問にあい、あえなく掉尾全貌を話してしまったらしい。

それを聞いた後のサンドラはしばらく放心状態で、エリックが部屋を出るときも何も言わず、虚空を淡々と見つめていただけだったらしい。

「まぁ、理解してやらんことはないさ。俺だってサンドラの烈しさは理解しているつもりだしな」

「じゃあ——」

「しかし俺だけが罰を受けてお前が受けないというのはなんか癪だな……」

俺はそう呟く。

「そうだな、お前にも一緒に帰ってもらおうか」

妙案が思いついたという感じで話す。

「……え?一応聞きますが、僕がいつもシンさんとは反対方向に帰っていることはご存じですよね?」

「そうか、じゃあいつもより長く散策できるな」

「なるほど、鬼ですね」

「ん?他人との密会をぶち壊した上にそれをチクった下衆野郎が何か言ったか?」

「いや、だからそれは本当に申し訳ないと思っているんで——」

「申し訳ないと思っている……言語で言うのは簡単だ。なぜなら自分の気持ちをある程度型の決まったものに流し込んで出せばいいのだからな。しかしそれで反省が伝わるだろうか?いいや、伝わらない。そんな時我々はどうするべきか……お前ならわかるな?」

「……いやしかし——」

「異論は認めん」

そしてエリックはしぶしぶそれを吞んだ。




そのあとは「今日も一緒に帰るのよ!」とやたらしつこくサンドラが絡んできたが、式は特に起伏もなく過ぎ、あっという間に帰宅時刻となってしまった。

「それじゃ!帰りましょう!」

サンドラが生気溌溂に言う。

「おう、そうだな、エリックも行くぞ」

俺の声にエリックは反応を示し、席を立つ。

「え?ちょっと!どういうことよ!エリックなんて誘ってないじゃない!」

「いや、俺だけが罰を受けるのもなんか癪なんでな。エリックも一緒に帰ってもらうことにした」

「え?あんた……私と帰ることを罰だと思っていたの?」

「ん?そうじゃないのか?」

辺りには静寂が流れる。

なんかまずいことでも言ったか?

俺はそんなことを考えこむ。

「ちょっとシンさん、それは——」

エリックの言葉を遮ってサンドラがこういった。

「……もういい!」

そしてサンドラは腕を目に当てながら走り出す。

「おい!罰はどうなるんだ!」

俺はとっさに声をかける。

するとサンドラはその言葉に反応したのかはっと顔を上げる。

そして悔しそうに口を結ぶと何も言わず去ってしまった。

「シンさん、その言い方はさすがにひどいですよ……」

エリックの呟くような言葉ががらんとした教室の空気を寂しげに震わせるのだった。






あれから俺たちはさすがにサンドラ抜きで和気あいあいと帰るわけにはいかず、いつも通り帰ったのだった。

その時に一応蘭にも相談してみたがエリックと同様の回答を得た。

そして俺も考えた結果、これは俺の言い方が悪かったという結論に至った。

それもそうだろう。

友達に一緒に帰ることを罰と思われているなんて、そんな悲しいことはないからな。

そして今は9月2日。

あの出来事は昨日のことである。

俺は一瞬過去にも同様のことが起こったことを思い出した。

その時は俺がサンドラの陰謀論に食傷し、話さなくなった。

その結果、サンドラは家に引きこもるようになってしまったが、何とか一縷の望みが開花し、事なきを得た。

しかし、今回もし同じことが起こっても同様にうまくいくとは限らない。

だから内心ではもしやサンドラがまた来なくなるのではないかと戦々恐々としていた。

しかしそれは杞憂に終わった。

サンドラはちゃんと来たのである。

そのことで俺は内心ほっとした。

「おいサンドラ、昨日のことなんだが——」

「なにかしら、他人にキスされてほうける色男さん」

俺はあまりの毒舌に言葉を詰まらせる。

その間にサンドラは「色男なんかと話すと色移りするわ」とかなんとか言ってエリックの方へ移って会話を始めるのだった。

お前、今までそんなにエリックに積極的に話してなかっただろ。

俺は内心でそんなことをぼやきつつ、もしやこれはあの時よりもこじらせているのではと悟るのだった。




俺はその後も話しかける努力をしたが、結局骨折り損に終わった。

これではらちが明かないと俺はエリックに協力してもらうことにした。

「おいエリック。お前、手が空いているなら俺を手伝え」

「それならもうやっているんですけどね……しかしサンドラさんは一向に聞く耳を持たないので困っているんです」

「そうか……どうすればいいだろうか……」

「そうですねぇ……」

二人は男子トイレで考え込む。

するとエリックがこんなことを言ってきた。

「一つだけ名案が思い付きましたよ」

「ほう、なんだ、言ってみろ」

「サンドラさんはイレイナさん、あの夏休みの少女がシンさんにキスしたのが許せないんでしょう?でしたら今度はシンさんからサンドラさんにキスすればいいんですよ。それでおあいこ、いや、サンドラさんにとって見たらそれ以上のものとなるでしょう」

「まあ確かにそれ以上のものとなるだろうな。俺から急にキスをされて一生の傷を負うだろう。お前はなんだ?俺たちの仲をより一層険悪にしたいのか?」

「いや、そんなことにはならないと思いますけどねぇ……まあ当事者が嫌がっているなら仕方ありません。他の方法を考えましょう」

「と言ってもなぁ、俺達には何も思いつかんなぁ」

「そうですねぇ」

そして二人はまた思惟に入る。

「まあそうだな、同じ女子だからそれなりに気心も知れているだろうし、蘭とエマさんにでも聞いてみるか」

「そうですね、それくらいしか方法はありませんね」

「よし、じゃあ俺が蘭に聞くからお前はエマさんに聞いといてくれ」

「わかりました。で、じゃあその結果を明日加味しながら話し合いましょう」

そして俺たちは男子トイレから出た。




そのあとはどうせサンドラに話しかけても無駄だろうと思ったので、当分サンドラには話しかけないでいた。

すると今度はサンドラの方から積極的に話しかけるようになってきた。

といっても「色男さん、ちょっとそこをどいてくれるかしら」やら「色気が移るからこっち向かないで」やらひどい言われようだったが。

しかしそれに耐えること数時間、ようやく帰りの時間になった。

俺はこれ以上サンドラに粘着されてはたまらないので、一目散に教室を出ると、いつもは蘭のほうが先にいる待ち合わせ場所で今回は俺が待つこととなった。

そしてしばらくすると蘭が出てきた。

蘭は俺に気づいてすたすたと寄ってくる。

「…どうしたの?真、いつもより早い」

「ん?ああ、ちょっとな……それよりも早く帰ろうぜ」

そう言って俺は蘭に先を急かした。

しばらく何の会話のない時が流れる。

俺はもう少し人目がなくなってから話そうと思っていた。

歩いていけばいくほど生徒たちは減っていき、そろそろ頃合いだと思った俺はこう切り出した。

「蘭、あのさ、昨日の話の続きなんだけどさ、どうやらサンドラは俺に聞く耳を持つ気がないらしいんだ。でも、だからと言ってこのままじゃまずいだろ?なんかいい案はないか?」

「…そう」

蘭は何やら考え込む。

そしてこんなことを言った。

「…ただ一緒に帰ることが罰だと思われていただけでそこまで怒るとは考えにくい。ほかにも原因があるはず」

なかなかに鋭い指摘だ。

確かにもう一つの理由として、下衆野郎のエリックのせいでばらされたイレイナにキスされたということがある。

しかしこれを蘭に話していいものか。

あんな短期間しか付き合っていない少女とキスをするなど、はたから見たら色男に違いない。

これを話した時にいったい蘭がどのような反応をするのか読めない以上言いづらい。

いやしかし、俺は誓ったではないか。

夏休みの時にこいつらが俺を信用してくれたように俺もこいつらを信用しようと。

そう奮い立って俺は打ち明けた。

「蘭、夏休みの時実はな……」




「…そう」

蘭は俺の話を最後まで聞いて一言こう言った。

そしてこう話し始める。

「…サンドラさんは多分イレイナに真がとられたと思っている。理性ではそうではないと思っていながらも感性がそれを受容するのを拒否し、ジレンマに陥ってしまっているのだと思う。それを自分で客観視できていないから不満だけが募り、真のその発言を契機にそれが爆発したと想定される。解決法はサンドラさんに自分自身のことを俯瞰させることだと思う」

なるほど、確かに今思い返してみるとあいつの態度は怒っているというよりかは何かに対して切迫した様子だった。

あいつは自分のイライラの原因がわからず切迫していたのだろう。

とするとどうやら蘭の言ったことは的を射ていそうだ。

確かに友達を取られるというのは一切気持ちの良いことではないからな。

しかし、だとして、客観視をどのようにしてなすかという問題が残る。

「ちなみに蘭はその方法について思いついているのか?」

「…いいえ」

「そうか……」

そこで分かれ道が近づいてきたのでこう話を締めくくった。

「じゃ、今日はありがとうな、蘭、策については俺たちが考えるからあとは任せてくれ。良い結果だけ待っていればいいさ」

「…たち?」

「ああ、俺とエリックのことだ」

「…そう」

その言葉を最後に俺たちは別れた。







新作の方も書いているのでスローペースになります。

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