表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王転生~元魔王と勇者とその他諸々の物語~  作者: Black History
謳歌する一学期
16/28

——改訂版2——魔王転生 夏休み編 イレイナ視点5

酒場に出るとそこには人の山があった。




そこには元仲間たちがたくさんいる。




「ひぇぇぇぇ」




私はその光景に圧倒された。




見るとその上に誰か座っているようだ。




そいつはこちらに気づくと身軽にその山の頂上から降り、私たちにこんなことを言った。




「あれ?遅かったですね。シンさん、サンドラさん、待ちぼうけを食らってましたよ」




そう、その人物とはエリック・オービンスである。




まさかこの人数を一人で片づけたのか……?いや、それはないだろう。




最初にも言ったようにこの中には警察でも手が付けられない輩がいるんだ。




それを一人で相手するというのは常人、いや、仮に異常に強かったとしてもあり得ない。




「待たせて悪かったわね。それじゃ、帰りましょう」




「エリックさん、あの数を一人で倒したんですか?」




エマ・コーギーが常識はずれな質問をする。




いやいや、そんなわけないでしょう。




多分大勢の軍と協力したんでしょう。




しかし、私のその予想に反して、エリック・オービンスはこう答えるのだった。




「ええ、まあ、今回のは全員雑魚だったんで。」




雑魚?この人はいったい何を言っているんだ?




警察というのは日々強くなっていく犯罪者に対抗するために国家ぐるみで強い奴を集めた組織だぞ?




そんな奴らの手に負えないって時点で異常なのにここにはそんな奴がわんさかいるんだぞ?




そんな奴らを雑魚だなんて言うなんてまるでこの人一人で警察1万人を相手できます、しかも余裕ですと言っているようなものじゃないか。




まあ、それを渋々飲むとしたらやっぱりこの人は正義部の中で一番強いんだろうな。




ていうか、この人より強い人なんて存在するのだろうか?




ささやかな抵抗のつもりでこうつぶやく。




「あいつら一応一人一人が警察でも手が付けられない程度には強かったんだけどな」




しかし、予想外は続く。




「しかし、僕なんかよりシンさんのほうが強いですよ?僕の場合だと全員倒すのに一秒かかってしまいましたけど多分シンさんなら瞬きしている間に倒せます。」




は!?あいつらを一秒で倒したって!?




しかもシンのほうが強いのか!?




それはもはやこの正義部にかかればたとえ警察全体を敵に回したって勝てるってことじゃないか!




こいつらは強すぎる。




私は驚愕し


「ひぇぇ」


と圧倒されるのであった。











「にしても『自分らしく』か。そんなありきたりな言葉でここまで動かされる私って実はちょろいんじゃないか?」




私はある家の前に立って呟く。




その家のインターホンを押すとしばらくしてこんな声が聞こえてきた。




「は~い、どちらさまですかぁ?」




相手は眠そうである。




それもそのはず、さっきの一件でもう時間は深夜なのだから。




「夜分遅くにすみません。私、そちらで前にお世話になったイレイナです」




「え?嘘!イレイナちゃん!?……ちょっと待って、今出るから」




そして扉が開く。




そこに立っていたのは、そこに立っていた平民は、私の両親が死んだときに私を引き取ってくれた平民だったのだった。




彼女は私の姿をとらえるとすぐに駆け寄って抱き着いてきた。




「イレイナちゃぁん……もう会えないと思ってたよぉ」




泣きそうになりながら彼女はそう言う。




「あ!いけない!皆にも伝えないとね!」




そう言って彼女はまた家の中に戻る。




彼女は2児の母である。




「おいで!イレイナちゃん!」




私はそれに従って久々にこの家の中に入る。




「ここで待ってて!」




そう言って連れてこられたのはリビングだった。




前とあまり変わっていないリビングを見渡すと節々に懐かしさを感じる。




「連れてきたよ!」




彼女はそう言うと扉を開ける。




「おう!久しぶりじゃないか!イレイナ!」




そう言った彼がお父さんと友達だった人だ。




「久しぶり……イレイナお姉ちゃん」




そう少し照れながら言った小さい男の子がこの家の末っ子である。




「イレイナさん、久しぶりです!」




そう言った彼がこの家の長男である。




皆感極まっているようで頬には月明かりでもしかと分かるほど大粒の涙を流していた。




私たちはその後しばらく自分のこれまでの暮らしぶりに花を咲かせた。




子供たちとの確執は私の勘違い、というよりかは相手が私が貴族だったことに気を使ってくれていたためだったことも分かった。











「で、お願いというのがまたこの家でお世話になりたいんです」




「おう!大歓迎だ!」




この家の家主が言う。




「またイレイナお姉ちゃんと一緒に暮らせるの!?嬉しい!」




末っ子が満面の笑みで言う。




「部屋はとってあるからね」




この子たちの母親が言う。




今日からそこにお邪魔する、というよりかは戻ることにした。




私はこのことを恩人、いや、私にとっては恩人以上となった人に報告することにしたのだ。











私は今とある部屋の前にいる。




夜更け過ぎであるから少し躊躇しつつも扉をノックする。




そこからしばらくして出てきたのはシン、シン・ヒイラギだった。




「おう、着替えでも買ったのか?」




私のさっき着替えた服装を見て言う。




そう、私はさっきあの家で着替えてきたのだ。




それは言うまでもなくシンに対する甘酸っぱい感情に依拠するのだが、その甘酸っぱい感情がいまだに何なのかこの時は分かっていなかった。




しかしそれは不快なものではなく、むしろ私を女の子らしくさせるという点で甘美なものだった。




しかし、この気持ちを彼に打ち明けるのがなぜか気恥ずかしかった私は服装が変わったのは例の平民の家に戻ったからだという理由を立てることにした。




「いや、そういうことじゃないの。これも含めて諸々説明するからちょっとついてきてくれる?」




「まあいいが、そこまで遠くじゃないことを願う」




彼は夜分遅くということもあってか渋々であったが、それに応じてくれた。











彼が後ろからついてくる。




ついてくるということはつまり私を見続けているのだろう。




私はそんな状況に少し照れていたのだった。




彼をちらりと盗み見るとやはり私を見つめている。




しかしなんだろう、この高揚感は。




ただ見つめられているだけなのに、照れてしまうようなこの心の中の甘酸っぱさは。




そうか、と私は気づいた。




私が彼を好きになってしまっていることに。




そうか、私は彼が好きなんだ。




その事実は驚愕でもあったが同時に納得でもあった。




確かに私は長い間こんなに大人びた人には会わなかった。




確かに私は長い間、一部例外はあるが大半を通じて優しくされなかった。




私は彼のそんな今まで私が経験したことのない部分、空虚な心の部分を埋めてくれたんだろう。




さらに彼は間接的ではあるものの私を救ってくれたのだ。




それが初恋の相手だったのは腑に落ちる部分もある。




そんなことを考えながら私はホテルのロビーを抜け、繁華街を抜け、川の岸辺に着いた。




彼も後からついてきているようだった。




「ここに座って」




「おう」




辺りは月明かりでほの明るく照らされていて周りの青草たちは海から運ばれる潮風のにおいに身を揺らしているのだった。




私は暗がりの、独特な彼との距離感の中、こう切り出すのだった。




「……私、前言ったお父さんの友達、私を引き取ってくれた平民の家に戻ったわ。


そしたらその人たちだけではなく、子供までも泣いて喜んでくれたわ。


どうやら子供たちとの確執はあっち側が私が貴族であることに変に気を使ってしまったことが原因らしいわ。


そしてその泣き顔を見て思ったの。本当にこの人たちは私を愛してくれてたんだって。


私は自由に生きていいんだって。


あんたの言うとおりだったわ」




「ほう、それは良かったな」




「だから、だからね?」




「うん」




「お礼をしようと思うんだ。あんたに」




「それはありがたいな」




「嘘、絶対思ってない」




「ばれたか!」




「ばればれ」




私はこの会話の一語一語ですらいとおしく感じられるほど彼に恋をしていた。




そういえば彼は今日で帰っちゃうんだったな。




私はその事実を少し寂しく思った。




(だったらこれくらいしても許してくれるよね?神様?)




私は彼にグイっと寄る。



間近で見れば見るほど愛おしくなった。




私はそんな彼に、彼の頬に軽くキスをした。




彼は驚いてこっちを見る。




「勘違いしないでね!これはただのお礼なんだからね!」




そう捨て台詞を吐いて私はその場を走って去った。




ああ、神様、どうか私のことが彼の心の中に残り続けますように。











家に着いた。




家というのはもちろんあの平民の家族の家だ。




その家の前に人影が一つ見えた。




怪しがってそっと近づいてみるとそこにいたのはセクハラ男だった。




「何してんのよ」




するとセクハラ男はビクッとなる。




「お、おう、イレイナ。うまくやっているようだな」




「あんたには関係ないでしょう?」




「い、いや、それもそうなんだが、最後にお前の顔を見たくなってな。ちなみに組織の方はもう壊滅状態さ」




「そう、ならいいけど」




「じゃ、じゃあ俺はもう帰るから」




そう言って帰ろうとするセクハラ男。




私はこいつが私に最低なことをしたのを知っている。




だけどこいつとも最後になるんだ。




ちょっとの間私を育ててくれたことには感謝しよう。




「あんた、待ちなさいよ」




「お、おう、なんだイレイナ」




「その……本当はこんなことを言うのは嫌なんだけど最後ってことだから言ってあげる」




「あ、ああ、聞いておこう」




「それは……」




その時セクハラ男が私の手を引いて自分に引き寄せた。




私は何事かと思って一瞬目を丸くする。




もしかしたらこいつは私を今ここでレイプしようとしているのかもしれない。




「イレイナ、ちょっと大人しくしてくれ」




私は激しく抵抗する。




「ハ、ハハハ、ハハハハハ!イレイナ!お前が悪いんだ!お前があいつらの仲間になるから!」




隙間から外の様子が見えたが何やら青の長髪の男がそんなことを叫んでいる。




そして走り去っていく。




「あんた!放しなさいよ!」




私はやっとの思いでセクハラ男から離れる。




「ハ、ハハ、こんな最後になるとはな」




そこには腹部から血を流しているセクハラ男がいた。




私は急いで駆け寄る。




「ちょっと!どうしたっていうの!」




「さっきの男はたぶんコリンギ・エンデンだ。組織の崩壊の責任はお前にあると思ったんだろう」




「そんなことは今はどうでもいいわ!それより早く病院に行かないと!」




私はセクハラ男の肩に手を回す。




「ヘヘ、美少女に介護してもらいながらこの世を終えられるなんて、男冥利に尽きるぜ」




「馬鹿なこと言っている暇があったら早く歩きなさい!」




「イレイナ、俺はな、お前が人生を再スタートできたことを嬉しく思うぜ。


人生っていうのはな、間違ったら何度でもやり直せばいい。


お前はまだ若いんだ。いっぱい失敗していっぱい経験しろ。


そして最後に、世界一の美少女になれよ。


そうなってくれたら俺も天国で話す自慢に困らないからな」




「絶対に死なせたりなんかしないんだから!もしこれで死なれたら私がちゃんとお礼を言えないじゃない!絶対に生きなさいよね!」




それからのことはあまりに必死過ぎて覚えていない。











今回の後日談。




コリンギ・エンデン、グレナウ・サンズボーンは謎の圧力によって投獄されたのだった。




さらにコリンギ・エンデンには殺人未遂の罪も加わり多分獄中死になるだろう。




そして今私は近くの病院にいる。




服はやはり平民の家にいるので少し平民っぽいがいいだろう。




目当ての病室の前に行くと息を整えて勢いよく扉を開ける。




「来たわよ!」




「おう、イレイナ!昨日ぶりだな!」




私の言葉に返事をしたのはあのセクハラ男だった。


ふぅ…………これで終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ