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魔王転生~元魔王と勇者とその他諸々の物語~  作者: Black History
謳歌する一学期
12/28

——改訂版2——魔王転生 夏休み編 イレイナ視点

「——レイナ、イレイナ」




誰かが私の名前を読んでいる気がする。




私は重い瞼をゆっくりと開ける。




そこにいたのは——私の父親だった。




「イレイナ、ご飯の時間だよ。そろそろ起きなさい」


「うーん、もうちょっとだけ」


「じゃあ先に食べてていいんだね?」


「むー、一緒に食べる」


「じゃあ起きないと」




これは何気ない日常だった。




いつも朝に弱い私とそんな私を優しく起こしてくれるお父さん。




席に着くとお母さんがフランスパンとベーコンを一切れ運んできてくれる。




貴族とは思えないほど質素だが、それでも私たちは仲良く幸せに暮らしていた。




平民のような暮らしの中でも幸せはそこにあった。




すると急に場面は暗転する。




「お父さん?お母さん?どこ?」


私はどうやらそう叫んでいるらしかった。




周りは炎で囲われていて熱い。




ここは私の、私たちの家だったはずだ。




一体なんでこんなことになってしまっているのだろう。




私は私のまだ知らない何かに、家をこんな風にした何かに恐怖を覚えこう叫ぶのだった。


「お父さん!お母さん!どこ!私まだ死にたくないよぅ!」


叫んだことによりこの恐怖すべき状況は実感となって私を襲い、私をその場に押しつぶすのだった。




「私……まだ死にたくないよぅ……」


その場にへたり込んだ私は、年端もいかない私は、その時期らしくこの恐怖にただめそめそと泣くのだった。




そんな時、遠くからかすかにこんな声が聞こえた。


「——レイナ……愛しのイレイナ……」




即座にそれがお父さんの声だとわかり、声の方向へと駆け出していく。




扉を開けるとそこにはお父さんが寝そべっていた。




「イレイナ……」


「お父さん!」


私はお父さんに会えたことにより先ほどの恐怖が一気に霧散し、嬉しさで抱き着いた。




そう、この時の私は嬉しさのあまり周りがよく見えていなかったのだろう。




だから私は気づかなかった。あたりは血で染まっていたと。




「お父さん!これどうしたらいいの?」


「イレイナ……早くこの場所から逃げなさい」


「じゃあお父さんもそんなところで寝そべってないで早く行こうよ!」


「イレイナ……お父さんはね、まだやるべきことがあるんだ……一人で先に行っててくれるかい?」


「そんなの嫌よ!また一人になんてなりたくないもん!」


「イレイナ……お願いだイレイナ…どうか先に行っててくれ……」




そんな時だった。




後ろの扉が開かれる。




大男たちが続々と入ってくる。




「おい!いたぞ!」


大男の一人が後ろに向かって叫ぶ。




ほかの一人は私の後ろにいる父親を見て苦い顔をする。




「多分、もう大人のほうは……」


仲間たちもお父さんのほうを見て苦い顔をする。




そうか、こいつらがこの家をこんな風にしたんだ。




こいつらはお父さんが嫌いだからこんな苦い顔をするんだ。




確かに朝起きていきなりこの状況になっていたのは驚いた。




でも今なら何にも怖くない。




だって後ろには寝ているみたいだけどお父さんがいるから。




私がこいつらを成敗してやるから見ててね、お父さん。




「近づくな!この悪党どもめ!成敗してやる!」




「……まあ確かにこんなのが急に起こったら錯乱しちまうのはしょうがねぇ。でもすまんな、今はつべこべ言ってられねぇんだ。こいつだけでも助けるぞ!運べ!この大人はもう無理そうだが一応病院に連れて行くぞ!」




そして悪党の一人が私を担ぐ。




こいつら、お父さんと私を引き離そうとしているんだ。




そうはさせない。




私は必死に男の腕にかみついた。




「離せ!この悪党ども!」


「いてて、ごめんな嬢ちゃん、後で山ほど説明してやるから今は急がせてくれ」


必死の抵抗もむなしく、どうやら男の手を振りほどくのは無理そうだった。




私がその男に連れられて外に出るちょうどその時、お父さんの声が聞こえた。


「イレイナ!愛しのイレイナよ!わが道を進みなさい!お父さんとお母さんはいつでもお前の味方だからな!」




私は言っている意味がよく分らなかった。




しかし、私の胸にはなぜかこれがお父さんの最後の言葉になりそうな予感があった。











「——レイナ!イレイナ!いつまで寝ているんだい!もう朝ごはんの時間だよ!」


寮長のおばさんのやかましい怒鳴り声で起きる。




何か懐かしい夢を見ていた気がするが一体何だっただろうか。




まあそんなことはどうでもいい。




早くしないと私の分のご飯がなくなってしまう。




急いで寝間着から着替えるとバタバタと階段を下る。




途中、すれ違った何人かにあいさつをしながら駆け足で食堂へと向かう。




そこに着いた頃にはもう大勢の大人であふれていた。




ここはCode:0という組織の寮で、この組織の目的は旧体制、貴族が上で平民が下の体制を取り戻すというものだ。




私はこの組織で長いことやっているのでまだまだ下っ端ではあるものの仲間の統括を行っている。




私は空いている席に着くと今日の朝ごはんのシチューをもらいに行く。




アツアツのシチューにパンを付けて食べると……ん~、とってもおいしい!




「おうイレイナ、今日も元気そうだな。俺のアソコも——元気にしてくれるかな?」


そう言って前にいる男はいやらしく笑う。




そう、私はこの組織では珍しい若い女なのだ。




当然このようにセクハラまがいなこともされる。




しかしこれをいちいち報告してもきりがないので最近の私は軽く流すようにしている。




「そうね、遠慮しとくわ。その仕事はあんたのおててのほうが適任だろうし」


「ガハハ!そりゃあ手厳しい!手だけにな」


その発言を契機に男がゲラゲラと笑う。




こんなん奴となんか目的が一緒じゃなきゃつるまなかったのに。




私は内心この組織の低俗さに嫌気がさしてきていたのだった。











その日の夜、私の部下の一人がある報告をした。




その報告と言うのがこの町、ユークに向かって平民一人と公爵家三人が向かっているというものだった。




もちろん名前も報告された。




これは当然私たちだけで考えるべき問題ではないので上に報告することにした。




そして今、この組織のリーダーのグレナウ・サンズボーンと副リーダーのコリンギ・エンデンがいる部屋の前にいる。




私は息を整えてその扉をコンコンッとたたくのだった。











(コンコン)


「グレナウ様!コリンギ様!一つご報告があります!」


「なんだイレイナ。言ってみろ」


「は!それが、ここに滞在予定の平民がいるようです!」


「ほう、名は?」


「それがシン・ヒイラギといった名らしいです!」


「ほう、シン・ヒイラギか……平民に似つかわしくない変わった名だ。心底腹が立つ」


「それとその男についてあともう一つ、彼の周りには公爵家が集まっているようです」


「そいつらの名は」


「エリック・オービンス、サンドラ・ユーロプス、ラン・イナカワの三人です!」


「オービンス!?ユーロプス!?イナカワ!?全員王と親しいやつらじゃないか!?そいつらの友達と思われるシン・ヒイラギにちょっかいを出したら報復が怖いぞ!これは無視を決め込もう!」




本当にこの人、グレナウ・サンズボーンは旧体制を目指しているのだろうか。




そんなことを疑うほどに逃げ腰だった。




「お待ちくださいグレナウ様、これは逆にチャンスかと。ここでシン・ヒイラギにとんだ恥をかかせて公爵家の方々に嫌われてもらえばもしかしたら公爵家が私たちに力添えをしてくれるかもしれません」




この人、コリンギ・エンデンはリーダーを利用しているだけだ。




リーダーを矢面に立たせて自分は安全なところにいる、そんなせこい奴だ。




そしてグレナウの方はそれに気づいていない。きっと馬鹿なんだろう。




「お、おおそうだな。見事な名案だ。…クックック、よし、それで行こう!イレイナ!お前には別の任務を与える!それはシン・ヒイラギに恥をかかせることだ!くれぐれも公爵家の方々には気づかれるなよ?いいか?くれぐれもだぞ?」


「は!」


私は内心また面倒なことを命令されたと嘆息するのだった。











今日は先ほどの平民が到着するであろう日だ。




私は部下にその平民たちの追跡をお願いした。




そして昼頃、部下にそいつらが宿泊しているホテルを報告された。




私はもちろんすぐにそのホテルへと向かった。




部屋はもう調べてある。




木に登って目当ての部屋を眺めてみると、そこに今回の任務の対象である、シン・ヒイラギと思われる男がいた。




彼は寝ている様子だった。




私はその様子をまじまじと見つめていると、なんだかお父さんを思い出した。




もちろん顔は全然似ていない。




でも雰囲気と言うんだろうか、彼は見た目からは想像できないほど大人で、優しくて、甘えたくなる雰囲気を出していた。




私は今からこの人を傷つけるのかと、心が痛んだ。




(脅したら帰ってくれるかな?)




私はそう思って、何かあったときの護身用であるナイフにそこらへんで売られていた人形、紙を使って脅迫することにした。




内容はこうだ。

まず、人形にナイフを突き立てて机に置く。

そしてこの紙に「帰れ、さもなくば殺す」と書く。

そうすれば帰ってくれるだろう。

と言うか、帰ってほしいのだ。




私はこの人を傷つけたくない。




その気持ちは本能的に危険だと感じているからなのか、お父さんを連想してしまったからなのかは分からない。




しかし、私は彼を傷つけたくはなかったのだ。




だからそんなことをした。




それを部下に見られているとも知らずに。











私は組織の寮に帰った。




夜になったらまたあのホテルに行って彼が帰ったか確認しよう。




ほかの奴らには残念ながら帰ってしまったと報告すればいいさ。




私はその平民を救ってやった気でいて、同時になぜかいいことをしたと意気揚々としていた。




平民なんて私たちの敵なのに。




その意気揚々とした様子を見てか、いつもいやらしい目で絡んでくる男が、昨日の朝も半ばセクハラみたいなことを言ってきた男が


「お、何かいいことあったかい?」


といつも通りいやらしい目をしながら絡んできた。




うざったい。




私は今あんたの顔なんて見たくはないのに。




「別に何もないわよ。それよりあんたこそ昨日は自分のおててと遊べてご満悦なんじゃない?」


「はっは、おうそうだな、お前を想像しながらしたらたいそうご満悦だったよ。」


「そう、それは何よりだわ。」




私はそいつとの会話を早々に切り上げるとさっさと自分の部屋へ向かったのだった。











夕食の時間となった。




そろそろあの平民も帰っただろうか。




私は食べ終わったら確認しに行くことにした。




そんな時、グレナウに呼び出される。




至急部屋に来るようにということだった。




見下してはいるが一応はこの組織のリーダーなので私は急いで部屋に向かった。











「イレイナ、呼び出された理由は何か……分かるよな?」


グレナウは席に座りながら絶妙に似合わない神妙な面持ちで聞く。




「…すいません、分かりません」


「イレイナ、お前に与えた任務は何だったかな?」


「確かシン・ヒイラギに公爵家ご一行の前で恥をかかせることです」


「うむ、そうだな、で、お前は今日何をした?」




ここまで来て私は何で呼び出されたのか分かった。




そうか、つまりこいつ、グレナウは私があの平民を帰らせようとしたことを怒っているんだ。




しかし迂闊だった。




私を見張っていたものがいたとは。




「……すいません、帰らせようとしました」


「すいませんで済むと思ってんのか!」


グレナウは机をたたき、大声でそう捲し立てる。


「すいません!次はちゃんとやります!」


「次はないんだよ!次は!お前は降級だ!」




降級、つまりはまた下っ端からやり直せと言うことだろう。




そう告げられた私はとぼとぼとその部屋を出るのだった。




すれ違いざまに私の部下、今はもう元部下だがそいつらがにやにやしながら私を見つめていた。




そこで初めて気が付いた。




そうか、こいつらは自分よりも年下なのに上司となった私が気に食わなかったんだ。




だからこうやって私に不利なことを報告したんだな。




元部下たちはすれ違いざまにこう言ってきた。




「そう落ち込むなよ、お嬢ちゃん?」




今までは「イレイナさん」と呼ばれていたので多分「お嬢ちゃん」とは皮肉で言ったんだろう。




私は悔しくなってその場から駆け出し、自分の部屋へと猛スピードで向かった。




道中あいつらのにやにやした顔が浮かんできて余計に悔しくなった。




途中ではあのセクハラ男、いやらしい目で私に絡んでくる男にも出会ってしまった。




「おう、嬢ちゃん、どうした、そんなに——」


「邪魔!」


「うおっとっと、どこ行くんだよ嬢ちゃん」




ああ、もう本当に今日は最悪な日だ。




見下していたグレナウからは怒られて、元部下たちには笑われて、セクハラ男にもこんなところを見られて……こんな場所、もう辞めたい!




しかし、私はここに暮らしているのでそう簡単にはやめられない。




その日は自分の部屋に籠りっきりになって悔しさで夜通し泣いたのだった。












流します。

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