——改訂版2——人生——人として生きる——
「ここが本当のアジトってわけですか。」
エリックが前に建っている建物を見ながら言う。
そこは活気であふれていて、飲み屋みたいだった。
「ふぇぇ、今から適地侵入するなんて緊張しますね。」
エマさんが少し怯えた様子で言う。
「緊張なんて戦っているうちにならしておけばいいのよ。じゃあ皆!正義部執行よ!」
サンドラが快活に言い放ち、ずかずかとその建物の中に入っていった。
「ち、ちょっとまって、えぇ!?正面突破するつもり!?一応言っとくけどここの奴らは私の比にならないくらい強いのよ!?私を捕まえたくらいで調子に乗らないほうがいいわ!」
イレイナがなんかわめいている気がするが気にせず俺たちもサンドラのあとに続く。
中に入ってみると案の定そこは飲み屋らしく、がやがやしていた。
「いやぁ、来ちゃったよぉ。ばれたら終わりだよぉ」
イレイナがまたそばでぶつぶつ言っているが気にしない。
俺たちはそんな野郎どもをしり目に奥へと進んでいく。
どんどん奥に進んでいく俺たちを不思議に思ったのか、一人の野郎に呼び止められた。
「おいおい嬢ちゃんたち、それ以上奥に進んじゃあいけないな」
「私たちはあんたに用があってここに来たわけじゃないの。構わないでくれるかしら?」
「そりゃあ釣れねぇぜお嬢ちゃん。一体奥に何の用があるっていうんだい。」
「それはもちろん図書館を燃やそうとしたことへの天誅と私たちにちょっかい出したことへの制裁よ」
「ほう、そいつはおもしろいやお嬢ちゃん。でもなぁ、世の中そう甘くはいかないんだな」
さっきまで酒を飲んでいた大勢の野郎どもは何やら武器を片手に持ってこちら側をにらんでいた。
「ひぃ!終わったぁ!」
イレイナが叫ぶ。
「ひぃ!」
エマさんが男たちからの圧力に驚いて驚く。
「ここは僕に任せてください。」
エリックがサンドラにそう言う。
「任せたわ。まああんたのことだからこれぐらいどうってことないでしょうけど」
「おいおい嬢ちゃんたち、まさかそのすかした男一人で俺らとやるつもりかい?いくらなんでも舐め過ぎだぜ」
「じゃ、私たちはもう行くから」
そう言ってサンドラは奥にずんずん進んでいく。
「おいおい本当にいっちまったぜ。見捨てられたお仲間さん、お気持ちはどうかな?今なら泣いて謝れば許してやってもいいんだぜ?」
男たちの不快な笑い声が響き渡る。
「…クックック、ハッハッハッハ。なるほど、あなたたちは本気で僕に勝てると思っているんですね。面白い自惚れだ」
「なんだと?どっちが自惚れかわからせてやる!お前ら!かかれ!」
それ以降のことは当然の結果が現れるだろうと思ったので俺は見ていなかった。
当然、エリックが勝つだろうと。
その後またしばらく先に進むと扉があった。
俺たちはそこにあたりを付けて合図とともに中に入ることにした。
俺たちと言ってもエマさんはあんまり役に立たないため観戦組、イレイナも実力が知れないので観戦組となったため実質俺とサンドラだったが。
サンドラが指で「3…2…1…」とあらわす。
そして0になった瞬間、俺たちはドアを勢いよく開け、突撃する。
そこには二人の人物が見えた。
俺は即座にそれを認知すると、重力魔法を使い、即座に相手の動きを封じる。
サンドラは床に押し付けられた二人に対してこんなことを言った。
「正義部ここに見参よ!あんたらの悪事、成敗させてもらうわ!」
「正義部?くそ!あの公爵家たちと平民の集団じゃないか!なぜここに!」
太った男が床に打ち付けられながらも言う。
「決まっているわ。あんたたちの悪事を晴らすためよ。さあ、観念しなさい!」
「くそ平民どもが……」
「へぇ、そんなこといっちゃうんだ。グレナウ・サンズボーンさん?」
そういわれると太った男もといグレナウ・サンズボーンはがばっと顔を上げ真っ青にし、
「なぜ俺の名を……そ、そうか!あいつか!イレイナの奴か!勘違いしないでくださいユーロプス様!そもそもあなた方にちょっかいを出したのはあいつです!あいつが全部悪いんです!」
と喚き散らした。
もちろんこいつらの名を言ったのはイレイナであり、俺たちにちょっかいを出したのもイレイナだ。
しかしそれは当然上からの指示であるから諸悪の根源はこいつらであるというのにそこらへんがこいつ、グレナウ・サンズボーンは分かっていない。
「うるさい口だわ。いい?とにかくこの一件はお父様にちゃんと報告するから」
「ひぃ!ご勘弁を!」
ん?お父さんに報告する?
そんなことしてなんになるんだ?
確かに前行ったサンドラの家は豪邸だったがそんなに偉い人なのか?
「…ところでサンドラの父親って誰なんだ?」
俺は当然の疑問を聞く。
「私の父親は現政権の王の側近よ。ちなみにエリック・オービンスのオービンス家、ラン・イナカワのイナカワ家もそうよ」
なるほど、俺は知らず知らずのうちに凄い奴らと知り合ってしまったらしい。
俺はしばらくその事実に驚愕していたが、サンドラはそんな俺を横目にこう続けた。
「いい?あんたら、今回はお父様に言うだけにしといてあげるけど、次またこんなことを起こしたらそれだけじゃ済まさないわ。分かったわね?」
グレナウは恐縮してコクコクと頷く。
「よし、じゃあシン、もういいわ。帰りましょう」
サンドラは満足したのか、すたすたとその場を後にした。
俺は魔法を解いて、サンドラについていった。
道中、グレナウのそばにいたやつ、コリンギ・エンデンが俺たちに追いついてきてこんなことを言ってきた。
「いやぁ、僕もあのグレナウの考え方はどうかなぁと思っていたんですよ。平民にもこんなに素晴らしい方がいらっしゃるのでね?」
そして笑顔で俺のほうを向く。
そいつの顔にはエリックとはまた違った、媚びるような笑顔が張り付いていた。
「何言ってんの?コリンギ・エンデンもちゃんと報告するんだけど」
サンドラが冷めた目でそいつにそう告げる。
その瞬間そいつは顔面蒼白になり、頭が真っ白になったと言わんばかりにその場に立ち尽くしていた。
エリックと合流すると、エリックは大勢の人が積み重なって山みたいになっているところの頂点で座っていた。
時折下の山からうめき声が聞こえる。
その様子を見たイレイナとエマさんは口をそろえて
「ひぇぇぇぇ」
と言うのだった。
「あれ?遅かったですね。シンさん、サンドラさん、待ちぼうけを食らってましたよ」
「待たせて悪かったわね。それじゃ、帰りましょう」
そうしてエリックはその山から飛び降りて俺たちに合流するのだった。
「エリックさん、あの数を一人で倒したんですか?」
エマさんが驚いた様子で言う。
「ええ、まあ、今回のは全員雑魚だったんで」
エリックがさも当然という感じで答える。
「あいつら一応一人一人が警察でも手が付けられない程度には強かったんだけどな」
イレイナがぽつりとつぶやく。
「しかし、僕なんかよりシンさんのほうが強いですよ?僕の場合だと全員倒すのに一秒かかってしまいましたけど多分シンさんなら瞬きしている間に倒せます」
「ひぇぇ」
エマさんとイレイナが驚愕の表情で口をそろえるのだった。
イレイナは用事があるらしく、先に帰ってくれとのことだった。
その日の夜、扉がコンコンとノックされた。
多分イレイナだろう。
俺は寝袋を用意して扉を開ける。
するとそこにはやはりイレイナがいた。
しかし、服装が変わっていた。
「おう、着替えでも買ったのか?」
「いや、そういうことじゃないの。これも含めて諸々説明するからちょっとついてきてくれる?」
「まあいいが、そこまで遠くじゃないことを願う。」
そして俺たちはホテルのロビーを抜け、繁華街を抜け、川の岸辺に着いた。
「ここに座って」
「おう」
そう言って座るとイレイナは俺の隣に座りこむ。
夜風は潮のにおいとともにぬくもりも運んできて、まるで俺たちをこの世界が温かく見守っているようだった。
まあ実際誰かが俺たちの後を付けて俺たちを見ているっぽいが。
彼女はそれに気づかない様子でこう会話を切り出した。
「…私、前言ったお父さんの友達、私を引き取ってくれた平民の家に戻ったわ」
「そうか、で、相手はどんな反応だったんだ?」
「その人たちだけではなく、子供までも泣いて喜んでくれたわ。どうやら子供たちとの確執はあっち側が私が貴族であることに変に気を使ってしまったことが原因らしいわ。そしてその泣き顔を見て思ったの。本当にこの人たちは私を愛してくれてたんだって。私は自由に生きていいんだって。あんたの言うとおりだったわ」
「ほう、それは良かったな」
「だから、だからね?」
「うん」
「お礼をしようと思うんだ。あんたに」
「それはありがたいな」
「嘘、絶対思ってない」
「ばれたか!」
「ばればれ」
そういうと彼女はくすくすと笑う。
すると、次の瞬間、彼女は俺の顔にずいっと寄ってきて頬に軽くキスをした。
イレイナは無邪気な笑みを顔に湛え、こう言った。
「勘違いしないでね!これはただのお礼なんだからね!」
そして走り去っていった。
俺は今いったい何が起きたのかわからなかったため、走り去る彼女を目で見送ることしかできなかった。
「いやぁ、あの子、結構攻めましたねぇ。これをサンドラさんが見ていたら一体どうなっていたことやら」
エリックが木陰から出ながら言う。
俺はその間もただぼーっとして現状に理解を追いつかせようとしていた。
「あれ?僕の声聞こえてます?シンさん」
そうか、あいつはお礼と言っていたな。
この地方の文化ではお礼はキスなんだろう。
そう理解が追い付いた俺はエリックにこう答えた。
「ああ聞こえているさ。レディとの密会に茶々を出すとんだゲス野郎の声が俺の耳にしかとな」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか。第一シンさんは最初から気づいていたんでしょう?」
「それとこれとは話が別だぞエリック。じゃあお前は——」
「はいはい分かりましたよ。僕はとんだゲス野郎です」
なんでお前が認めてやったみたいになってんだ。
レディとの密会を邪魔する奴なんて本当にただのくずだろう。
そんな反抗心を宿した目をずっとエリックに向けていた。
エリックはそれに気づいたのか、なんともなしに微笑みを湛え、話題をこう逸らした。
「そういえばキスの感触はどうだったんですか?僕、残念ながらキスされたことなくって。ぜひとも聞いてみたいものです」
何を言ってやがる。
お前だって前世があるのだからキスの一回や二回ぐらい受けただろう。
しかし、それは置いといてその間も俺は反抗心を宿した目を崩さないでいた。
エリックはしばらくの間俺と我慢比べをしていたが、ついに崩せないことを悟ったのか、ため息を一つ吐いて今の状況をこう弁明した。
「夜中にトイレに行こうと思ったらシンさんとイレイナさんが連れ立って外に出て行ったので気になったからついていっただけです」
ほう、なるほど、理解はできるが納得はできない弁明だな。
「いや、僕も反省しているんです。まさかキスまでするなんて思ってもいませんでしたからね」
どうだか。
ところでこいつは一番最初にサンドラの名前を出していたが一体どういうことなんだ?
「そういやお前最初にサンドラがなんたらかんたらとか言ってたがどういう意味だ?」
「シンさんのような朴念仁には言っても通じないことがもうわかりましたのでなんでもありません」
そして俺たちはホームタウン、ユクドニアに帰っていった。
それから何日かは事件を学校に報告したりやらなんやらで忙しかったがそれももう終わった。
だからもう一度あの一週間を俺の中で反芻し、感想と教訓を書こうと思う。
多分あの一週間は俺たちにとっては、特に俺にとっては忘れられないものとなっただろう。
こういうように紆余曲折を経ながら俺たちの物語は進み、俺たちの心は成長し、俺たちの人生は終わりへと向かっていく。
もしこれを読んでいる読者で人生が灰色だと諦めている人がいたらこう言いたい。
お前の人生は、その記憶は一度きりのものだ。
そのどうしたって覆せない事実を生かすも殺すもお前次第だ。
この事実に気づいてもなお行動しないか、はたまた行動を起こすのかも自由だ。
しかし、俺としては周りの目なんか気にせず、生きたいように生きるべきだと思うけどな。
もし全部の帳尻があったらカクヨムにも投稿しようかなと思う今日この頃です。
ありがたくも後書きを読んでくれていた方ならもうお気づきかと存じ上げますが、最近の僕の後書きは正直言って薄っぺらいです。
濃い内容を書く気力がないっていうのもあります。
しかし、一番の問題は僕の周りには何もないということでしょう。
こういう時に前の学校の人々がマルチ商法に引っかかったりしてれば嬉々として書くのですが、あいにくそんなことはないようです。
しかし、夏休み編はいい意味でも悪い意味でも山場だと思っています。
いい意味とはもちろん盛り上がりどころという意味です。
悪い意味とは僕の黒歴史になる確率が一番高いという意味です。
あの、サンドラとの不和が描かれた物語でも結構危なかったのですが、夏休み編はそれを圧倒的にしのぎます。
ですから黒歴史になる前に、何も受け付けなくなる前に感想をお願いします。




