——改訂版2——計画と火遊びした後の就寝は必ず漏れる
「よし!じゃあ班決めはくじ引きでやりましょう!」
サンドラはそういうと紙にA,B,Cと書いた紙を二枚ずつ作って箱の中に入れよくシャッフルした。
みんなでまとまって動くにはどうやら少々広すぎるようなので手分けして怪しい人物がいないか探すことにしたらしい。
くじ引きの結果、明日はA班が俺と蘭、B班がサンドラとイレイナ、C班がエリックとエマさんになった。
この結果にサンドラは不服そうだった。
「おいサンドラ、お前がくじ引きにするっていったんだからごちゃごちゃ言うなよ。そんなにイレイナが嫌だったんならお前がいつも通り勝手に決めればよかったじゃないか」
「そんなことしたら運命を感じれないじゃない!」
「運命……なるほどな、お前とイレイナにはもしかしたら運命があるのかもな」
「はぁ!?そんなこと言ってないでしょう!」
「私もこんな性格きつそうな女と一緒なんて嫌だ」
イレイナが火に油を注ぐ。
「はぁ!?私だってあんたと一緒なんて嫌よ!」
「まあまあ、落ち着けサンドラ」
俺がヒートアップしたサンドラを即座に止めに入る。
「……言いたくなかったけど一番気に食わないのはあんたよ!シン!なんでランと一緒なわけ?!」
そしたらサンドラは急に俺に矛先を向けてきた。
「次は俺かよ……」
「まあまあ落ち着いてくださいサンドラさん。じゃあサンドラさんがAチームに入ってイレイナさんをCチームに入れて2チームにしてみては?別に巡回ルートをこうして怪しそうなところを重点的に、人目に付きやすいところは警備を薄くすればいいんですから」
「そ、そうね。ナイスアイディアだわエリック。ただ……」
「ただ?」
俺とエリックがハモる。
「勝手に決めちゃうとシ、シンに申し訳ないわね。シ、シンはその辺どうなのよ。私と一緒でもいいわけ?」
なんだ?急に言動がしおらしくなったぞ?態度は依然として高圧的であるが。
「ん?俺か?まあ別にかまわないが」
「そ、そう、よし!それじゃあ決まりね!明日はこのチームで行くわ!」
その夜、俺の部屋のドアがノックされた。
こんな夜更けに誰だと思いつつ扉を開けるとそこにはイレイナがいた。
「あの…一晩泊めてくれない?」
「なんでだ、家に帰れよ」
すると彼女は顔を深刻にし、衝撃の事実を告げた。
「実は私、家がないの」
家がない、とはどういうことだろう。
しかし彼女の顔を見るとどうやらそれは彼女にとって深刻な過去に結びついているらしく、いつ聞かれるかと苦悶の表情をしていたため俺は安易に聞くことをやめた。
俺はまた面倒ごとが増えたとため息を一つ吐きつつ、彼女を迎え入れ馬車で使っていた寝袋を探しにカバンを開けた。
彼女は何も聞かれなかったことに驚いたのか、しばらくは俺の動向を目を見開きながら観察していた。
「お前はベッドで眠れ。俺はこの寝袋を使う」
「へ、平民の癖にしては良くそこらへん分ってるじゃない。そうよ。あんたみたいな薄汚い平民は私みたいな高貴な貴族にいいものを譲るべきなの」
「へいへい」
そして俺たちは眠りについた。
「ねぇ、聞こえてる?」
そう言って夜の沈黙を破ったのはイレイナだった。
「ん?ああ、聞こえてるぞ」
俺はもちろん聞こえていたのでその声に応える。
「なんで家がない理由を聞かなかったの?」
「……なんだ、急に話したくなったのか?」
「……うるさい、平民は黙って貴族の質問に答えなさい」
「……まあそりゃあ、あんな苦しそうな顔されたらな」
「そう、優しんだね」
「いや、そうでもないさ」
「平民は貴族からの誉め言葉をちゃんと素直に受け取りなさい」
「へいへい、嬉しゅうござんした」
「絶対思ってない」
「ばれたか!」
「ばればれ」
そう言って彼女は抑え気味でころころと笑う。
その笑い方にはどこか幼さがあって、母性本能、俺には到底ないと思ってたのだが、そういったものがくすぐられる心地がした。
「……私の親はね、平民に殺されたの」
「ふーん」
「お父さんはね、階級なんか気にせずに分け隔てなくだれとでも接する人だったの。でもそれがダメだったのかな。お父さんの友達の一人が『自分のことを見下している』って親をめった刺しにしてしまって…病院にはすぐ行ったんだけどもう手遅れだったわ。ついでに家も燃やされたわ。その時からかな、私が平民を憎むようになったのは。まあめった刺しにした人は死刑になったんだけどそれでもいまだに許せないわ」
「ふーん、にしては俺に対して恨みを持っているようには見えなかったけどな」
「それはね、ある時私は気づいたの。平民の中にもいい人はいるってね。私の父親の友達でめった刺しにした人じゃない人なんかはその最たる例だったわ。手元に何もない私をしばらくの間自分の家にかくまってくれてね。その人は私を我が子のように扱ってくれたわ。でもやっぱり前からいるその人の子供たちとはそりが合わなくてね、すぐに家出したわ。そのあと何の当てもなくふらふら歩いていたらその組織に出会ってね。その時の私はこんな風になったのは平民のせいだと思っていたからすぐにそこに入ったのよ」
「ふーん」
「私って駄目な子よね。これじゃあ私の親に格好がつかないわ」
そしてイレイナは自嘲気味に笑う。
その雰囲気は彼女がいつも漂わせている幼さとは違うが、いや、違うからこそ彼女を心配してしまうようなものだった。
彼女の悲惨な運命は彼女の心に重くのしかかり、幼さを一瞬にして覆い隠してしまうような、つまり彼女には身に余るような悲惨さを漂わせているのだった。
「親っていうのはな、お前のそのダメなところや後ろ暗いところも含めてお前を愛しているんだ。
もしかしたらそうじゃない親がいるのかもしれないがお前の親は話を聞く限りだとそうじゃない親ではないんだろう。お前は今の自分じゃ親に格好がつかないと言ったな。
だが、そもそも親というものは格好をつけるものではない。
それにそんな格好がつかないお前だってそいつらは愛しているはずだ。親に申し訳ないと思うな。
そんな姿を見たら親たちは自分たちが子供の桎梏となってしまったと逆に悲しむだろう。
お前は生まれたときからあくまで一人の人間なんだ。
自分のやりたいと思ったことをやればいい。
そして親っていうのはそういう子供の姿を応援する生き物なんだ。
もちろん人間なんだからたまには失敗するだろう。
しかし、それの是非を親に頼るな。親を自分の足枷とするな。
お前の人生なんだから自分に主導権を握らせるんだ。
お前はお前が失敗だったと思っていること、Code:0に入ったことでこの先の人生をずっとくよくよ生きていたいのか?
違うだろう。
お前はその組織をやめてやり直そうとしたはずだ。
お前はもっと自分らしく生きろ」
俺に言えるのはこのくらいだった。
この、いたって平凡な論はたぶん普通の人には響かないだろう。
しかし彼女はこの世の摂理を勘違いしていたのだった。
自分の人生の選択権は他人にあると思っているらしかった。
その勘違いが彼女を死んだ親の顔を、いわば見えないものを唯一絶対の監視者に仕立て上げ桎梏となっていた。
だから俺はそんな彼女にこのありきたりな言葉をかけた。
「……自分らしく……か。ありきたりな言葉ね。でもありがとう、元気づけられた気がしたわ」
そういうと彼女はまたさっきみたいな幼さを取り戻し、クスクスッと笑うのだった。
俺の朝の目覚めはドアがドンドンとたたかれる音とともにあった。
「ちょっとシン!いつまで寝てんの!経路の確認をするわよ!」
外からサンドラの大声が聞こえる。
時計を見てみるとまだ6時だった。
一体こんな朝早くから何を確認するんだ。
俺は起きたばかりでまだショボショボしている眼をこすりながらドアまで行くとゆっくりとドアを開く。
そこにはサンドラが一人でいた。
「あれ?蘭はいいのか?」
「ランはまだ寝てるからね。起こしちゃかわいそうでしょ」
俺はかわいそうじゃないのかよ。
そんな突っ込みを心の中で入れつつ
「早く部屋に入れなさい。早朝で寒いのよ」
と手で体を擦りながら言うサンドラを部屋に招き入れるのだった。
数秒後、サンドラの顔からは血が引いていた。
その視線の先にはどうやらベッドがあるらしい。
「ねえちょっとシン……これってどういうこと……?」
ギギギギギとまるでさびた歯車のように首を回すと俺にそう聞いてきた。
ん?どういうことってそりゃあそこにはベッドがあるだけで……
そこに来て俺は気が付いた。
そういえばベッドにはイレイナがいたな。
まるで今の状況じゃ、イレイナと一夜を明かしたみたいじゃないか!
いや確かに明かしたけど!でもそういう意味じゃなくて!
俺はすぐに弁解に走り出す。
「違うんだサンドラ!これには深いわけがあって……」
「何が違うのよ!あんたもあんたよ!よくもシンをたぶらかしてくれたわね!」
そう言ってサンドラはずかずかとベッドに歩み寄ると毛布をはぎ取る。
それに起こされたイレイナは眼をこすりながら開口一番にこう言い放った。
「お父さん?」
「ふーん、ま、納得はできないけど理解はしてあげるわ」
サンドラは俺たちの弁解を一通り聞いて一言そう言う。
イレイナの「お父さん?」発言でさらに激昂したサンドラをなだめるのは至難の業だったが、何とか成功したようだ。
「しかしあんたがCode:0に入った理由がそんなだったとはねぇ」
そう、サンドラには弁明の際にイレイナの生い立ちも話したのだ。
その時のサンドラは真剣に聞き入っている様子だった。
そして、イレイナの様子を見てこう言ったのだった。
「まあ、もう立ち直っているみたいだからいいけど」
イレイナはもう立ち直っているらしかった。
それは良かったと俺は安堵した。
俺たちはその後予定通りAチームとCチームに分かれて図書館の巡回に行った。
着いた図書館はユーク国立東図書館で、イレイナが言うにはここをCode:0は燃やすという計画らしい。
中に入ってみるとさすが国立というべきなのか、たくさんの本がびっしりと並んでいた。
正面には受付みたいなものがあってそこで見たい本がどこにあるかだとか、借りたい本を借りるだとかするらしかった。
俺たちはCode:0の計画を国に話そうかいったんは悩んだのだが、やはりそんな突拍子もない話を相手方は信じないだろうし、第一それでパニックになったりしたらもっと困るので黙っておくことにした。
俺たちは受付を素通りし辺りを埋め尽くす本棚の中心へと行くと計画通り二手に分かれた。
この図書館に入ってからいったいどのくらいたっただろうか。
少なくともこの“巡回”という作業がマンネリ化し怠惰が押し寄せるくらいは経っている。
入ったときは燦燦と輝いていた太陽ももうとっくに沈んだようだ。
しかしこれと言って目新しいことはなく、一応もう一方のグループとも無線でつながってはいるんだが、そっちも音沙汰なしだ。
蘭に至っては片手間に本を読みながら巡回している始末だ。
そんな時、事は動き出す。
俺がサンドラにそろそろやめにして帰ろうと言おうとしたとき、
「何あの男。少し挙動が変じゃない?」
と前方にいる男を指しながら言った。
確かに変である。
しきりに周りを確認している。
「どうかされました?」
俺はゆったりと余裕を持った歩調で男に歩み寄ると適度なスマイルを演じながらそう聞く。
「あ、ああ、ちょっと探し物をしていてな」
「探し物ですか…僕も手伝いましょうか?」
「い、いや、いい、人に迷惑をかけるのもあれだしな」
俺は確信した。
こいつはこの図書館に火を付けようとしていると。
しかし直感というものはなかなかあてにならない。
だからもう少し探りを入れることにした。
「探し物とは燃えやすい本とか……ですか?」
そういうと男は眼を見開き、
「俺たちの計画を知っているのか!どこで聞いたかは知らんが生きては返さんぞ!ここでお前らごと燃やしてやる!」
男が手を前方に突き出そうとする。
俺はその動きに瞬時に反応して流れるようにして懐に入ると鳩尾に一発食らわせてやった。
すると男は「うっ…」と言ってその場に跪いた。
俺は跪いている男の顔を引っ張り上げると、こう言った。
「まず一つだけ確認しておこう。ここはひと気がないな。おそらく誰かが苦痛で喚いたって人っ子一人気づかないはずだ。では聞こう、お前の組織のアジトはどこだ?」
すると男の顔はみるみる青ざめ、すぐにアジトの場所を吐いた。
俺はその場所を無線でエリックたちに伝え、一緒に向かうことにした。
多分あの男は鳩尾の一発で立てないだろう。
俺たちは床に伸びている男を横目にエリックたちと合流しようと先を急ぐのだった。
今から渾身のダジャレを言いますね。
「あったかい部屋で会った甲斐は有ったかい?」
3個もかかっています。
凄くないですか?




