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魔王転生~元魔王と勇者とその他諸々の物語~  作者: Black History
謳歌する一学期
1/28

——改訂版2——後悔先に立たず

俺は後悔の淵にいた。




これはこの世界に生まれてから感じたあらゆる感情、人間どもの子供を殺したりついには人間どもを根絶やしにしてしまった時のものよりも深く俺を傷付けるものだった。




この世界は現在、破滅へと向かっている。

なぜかというとそれは俺の、いや、ここで言い訳が許されるなら俺を魔王として担ぎ上げた者たち、先祖のころから脈々と続く歴史やら伝統やらが俺の情動或いはその場しのぎの価値観に影響した結果だ。




この世界の摂理として、人間の存在が欠かせなかったのだ。




厳密に言えば、人間が生まれ続けなくてはいけなかった。




この世界は正の力と負の力が打ち消しあっているために存在できている。

それぞれ正の力は人間が生まれるときに、負の力は魔族が生まれるときに生み出される。

また、その力は定量的なものではなく、人間:魔族の存在比によって左右される。

例えば人間:魔族が1:3でいるとしたら、人間が一人生まれるときの正の力は魔族が一人生まれる負の力の3倍になる。




しかし、俺の世界のように人間が全部滅んでしまっては話が別だ。

そうなってしまった世界は負の力のみが生み出され続け、世界は負の力へと傾く。

その結果、それに耐えられなくなった世界は滅亡するというわけだ。

これは魔族側が滅んでも同じことなんだろう。




それを知ったのは、というか、そういう真理に行きついたのはつい最近のことだ。




それまでの俺はたとえ俺になついてきた人間の幼児であろうが、「せめて子供だけでも」と親が先に犠牲になった子供だろうが、ちょうど赤子の手を捻るように無残に殺してきた。




それが魔族の永遠の平和になるだろうと、ひいては俺が殺してきた、別に輪廻転生を信じているわけではないが世界の摂理としてはあり得る話であるから、人間たちがまた転生して魔族側に生まれた時の幸福になるだろうと思ってきた。




俺はこの悲しい種族戦争を終わらせれば俺に脈々と受け継がれてきた悲しみやら憎しみが救われると本気で思っていたのだ。




いや、それだけではない。




俺はこの世界に生まれる未来の世代の恒久的な平和がかなえられるとも思っていた。




だが、それは違ったようだ。




勘違いだったようだ。




俺のやってきたことは間違いだったようだ。




これだったらあいつらの言うとおりに勇者を殺さなければよかったかもしれない。




あいつが殺される直前に言ってきた「俺とお前は種族さえ同じだったら最高の友達になれたかもな」という言葉に「今からでもなれるさ」と力強く答えてやったらこの世界はどうなっていただろう。




これだったらあいつらの言うとおりに勇者を殺したのち、全人類側の拠点をつぶさなければよかったかもしれない。




唯一魔族と人間が共存していた村、そこにいた人間どもは少なくとも俺たちを恨んではいなかった。

恨みは恨みしか生まないことを悟っていたのだろう。

そこを滅亡させずにそこの人間と共に生きるようにしたらこの世界はどうなっていただろう。




しかし、今悔いたって過去はどうにもならんのだろう。




いや、そんなこともとうの昔に分かっているさ。




ただ、俺のような悪党にはこうやっていろいろ後悔しながら死ぬっていうのがお似合いなんだろう。




世界の破滅まであと少しとなり、自殺者であふれている魔王城で一人寂しくそんなことを思うのであった。











次に目が覚めた時にはやけにふわふわしたところにいた。




体に重力を感じず、まるで本で読んだ宇宙みたいだった。




あたりは包まれるような白い光で覆われ、目の前には人間の女、と言っても人間の部分はどうやら形だけのようだがそいつが微笑みを携えながら立っていた。




久々の光に感動を覚えつつも、目の前にいる女を怪しく思っていた。




そんな時だった。女が脳へと透き通るような声でこんなことを言ったのは。


「あなたには我々に協力してもらいます。我々の世界でも今、あなたの世界と同じように一方だけ非常に強い状態へとなろうとしています。勇者として召喚される“サンドラ”という人物ですが、正直に申しますと、宇宙規模で最強となるかもしれません。あなたにはその人物の制御をお願いしたいのです。」




俺は状況がうまく呑み込めなかった。




ここはどこだろう。なんでここにいるんだろう。そして俺はどうなってしまったのだろう。ましてや、そんな混乱状態の俺が目の前の女の話を聞いているわけがなかった。




すると、女はそんな俺の心を見透かしたようにこう言ってきた。


「ここは我々の世界の転生管理局です。あなたは世界の破滅とともに死亡し、前世で振るっていた実力を買われて我々への協力を今勧められています。普通の魂だと記憶消去をしてから送り出すのですが、あなたには前世の記憶を思う存分有用に使ってほしいので、そのような真似はしません。」


なるほど、やはり俺の世界は破滅してしまったのだな。




思い出が一挙に押し寄せてきて悲しい事実から目をそむけたくなる。




そうか、俺はあんなに戦争しかなかった世界でも、憎しみの色で塗りたくられた眼をした者しか周りにいなかった世界でも愛していたのだな。




ありがとう、前世のみんな。




やけに尊厳とかは気にするが俺を存分に甘やかしてくれた父親、誰にでも優しくてみんなからの人望も厚かった母親、学校では少し浮いていた俺に帰り道とかでも積極的に話してくれた同級生、今となっては伝えられないかもしれないが実はそれも含めて全部、愛していたんだぜ。

伝えたかったな。

今となっては遅いだろうがこれだけは言わせてくれ。

俺はお前らを忘れない。だからお前らも俺を忘れてくれるなよ。











少し感傷的になってしまったが、本題に戻ろう。こいつは何と言ってきたんだ?


「あの、聞いてなかったんでもう一度内容を話してもらえますか?」


すると女は了承したという意図を込めているのだろう、微笑みをさらに柔らかくして先ほど言ったことを繰り返した。


「あなたには我々に協力してもらいます。我々の世界でも今、あなたの世界と同じように一方だけ非常に強い状態へとなろうとしています。勇者として召喚される“サンドラ”という人物ですが、正直に申しますと、宇宙規模で最強となるかもしれません。あなたにはその人物の制御をお願いしたいのです。あなたは世界の破滅とともに死亡し、前世で振るっていた実力を買われて我々への協力を今勧められています。普通の魂だと記憶消去をしてから送り出すのですが、あなたには前世の記憶を思う存分有用に使ってほしいので、そのような真似はしません。」




なるほど。話を聞く限り前世で振るっていた実力を買われたらしい。

まあ確かに勇者と戦った時も余裕があったから俺が強いというのは事実なんだろう。




しかし前世の力がかわれたということは力というのは魂と関係があるのか。

俺が持っていた力は、まぁこれは俺に限らないのだが魂と結びついているんだろう。




そして今、その力が買われ、他の世界へと転生することになったのではなかろうか。




それでも、いや、それだからこそ疑問が残る。




それはなぜその人物に対抗するように俺を勇者の敵側に置くのではなく、制御をすることになるのかということだ。




こう言っちゃなんだが、俺みたいに強い奴を魔王側に何人も配置してそいつが死ぬまで拮抗してればいいじゃないか。




そしてそいつ、“サンドラ”といったか?の死後は俺達で故意に人間を残すようにすればいい。で、そいつの魂はそちら側で何とかしてもらえばいい。




俺は女にそんな提案をしてみた。

すると女は聞いているのかいないのかわからなくなるぐらいにただ微笑みを湛え続け俺が話し終わるとこんなことを言った。


「それはその勇者がどんな強者を束にしようともなぎ倒してしまう可能性があるからです。」











へぇ、それは強いこった。だとしたらそれは前の世界でも問題にならなかったのかね。


「いえ、それは新たに生まれた魂ですので。」


ん?新たに生まれた魂?なんで新たに生まれるんだ?


「お古の魂だけでは補いきれないところもあるので、新たな魂を生み出すことがあるんです。あなたの魂を生み出すときもなかなか成功ではあったんですけど今回のはどうやらうまく行き過ぎたようで…」


だとしたら迷惑な話だ。

要はこいつらの尻ぬぐいを俺たちがやるということだろう?

俺はほかの奴の尻ぬぐいが大っ嫌いな質でね、当然こんな依頼やるわけないさ。




そんな俺の予想に反して俺は、というよりかは俺のまだ知らない部分の俺は、また俺の世界のような悲劇が起きてほしいと思ってないらしかった。




こんな一見迷惑な話、普段の俺だったら即断で断っていただろうが、このときの俺の偽善には強く響いたようで、気づくと二つ返事でオーケーしていた。




「では転生を行う前にあなたの知識とこの世界の言語知能とを結びつけますね。無知の状態から言語を学ぶのであればそれほど苦労はしないのですが、他の言語の記憶を持っている状態で学ぶのには少し苦労を要するので。」


そして俺は深い眠りへといざなわれた。











目が覚めたら俺は高くて太い、角が丸まっているところにどこか作り手の優しさを感じる木の柵で囲まれていた。




前方を見てみてもきっちりと並べられている木の板を眺めることしかできないのですぐに退屈した俺は横を見て、木の柵の木目と途切れ途切れに見える木の柵の外の世界に意識を向けた。




あまり本が入っていない本棚、窓の光が当たるように設置されている椅子、壁紙と合っていない扉、そのほかいろんなものを少し見渡しただけでついに見るものがなくなってしまった。

それぐらいこの部屋は簡素だということだろう。




次に俺は自分について意識を向けた。




背中に重力を感じるということは今俺は上を向いているのだろう。

体は幾分か不自由で、重力に逆らって首を持ち上げられない俺は今の状況を事細かに確認できずにいた。




何度も首を上げようとしたが結局無理だとわかり、とうとう詳細な状況確認をあきらめた俺はあの女に言われた“転生”という言葉の意味を考えることにした。

というかそれぐらいしか今の暇をつぶすのにちょうどいいものはなかった。




あれだけの説明ではよくわからないのだが、一つ分かったのは魂というのはどうやら循環するものらしい。

しかし、前世の記憶をもって、とはいかない。

だから“転生”というものを行う前に記憶をまっさらな状態に戻すのだろう。




だが、思い返す限り、俺の転生はいつもと違うらしい。

具体的にどこがと言われるとそれは俺が前世の記憶を持っている点だ。

まあ、言語知識をなんちゃらとも言っていたがこれは無視してもいいだろう。

その記憶を有用に使ってこの世界を救ってくれだったか?まあそんな理由で俺は前世の記憶を持っている。




しかし、あの女はそれ以外に何も言ってこなかった。

ということは俺の転生が他と違うのはその点だけだろう。

とすると、順当にいけば…俺は今赤子の段階なんだろう。




道理で体の自由が利かないわけだ。




ようやく状況がつかめてきた俺はひとまず落ち着き、おなかがすいてきているのを感じた。

こういう時は母親の乳房にごめんになるのだろう?知っているぞ。それくらいの知識は持っている。




しかし、問題がある。それはどうやって呼び出すかだ。

ん?魔法を使ってみてはどうだと?何を言っているんだ。魔法はそんなに何でもできる道具ではないぞ。

第一戦闘しかできなかった俺にそんな有用な魔法があるわけがないだろう。




ということは残された選択肢は一つとなった。

しかし、そのことを前世の記憶を持った精神年齢が大人の俺は積極的に肯定できずにいた。

口に乳房を押し当てられるというのは百歩譲っていいだろう。前世でも俺を篭絡しようとした女たちにいっぱい押し当てられていたからな。




しかし、泣き叫ぶというのは難儀だ。

いや、しかしそれが年相応のことなんだろう。おなかが空いた赤ちゃんが母親を呼び出すために急に「お母さーん、ミルクー」とでも言ってみろ。

授乳どころではなくなるぞ。




さらに先ほど気づいたことがある。

それはこの体では言葉すらうまくしゃべれないということだ。

試しに「お母さーん」と小声でしゃべってみようとしたがとしてみたが、喃語というのだろうか、あえいでいるみたいになってしまった。




仕方ない。泣き叫ぶか。そして俺は覚悟を決めて泣き叫んだのであった。











俺は声の限り泣き叫んだ。するとドアが開き、ドタドタとあわただしい足音が近づいてきた。




そして右の木の柵の上から女性がのぞき込むようにして俺を見てきた。




女性は栗毛色の髪を持ち、髪の色と同じ深さの色の眼をぱっちりとさせていて、心持ち幼い印象を持たせるような容姿だった。


「はいはーい、どうしたのかなぁ。おしっこかなぁ。」


そういうと彼女は若干たどたどしい手つきで俺の下半身に取り付けられているであろう何かを確認するような仕草をした。


そしてすぐにそれではないとわかると、また問いかけるように


「こっちじゃないか。じゃあご飯かなぁ。」


と言って俺を抱きかかえるとそばにあった椅子に腰かけた。


俺はご飯で正解だという意思表示をするため「うー」と唸った。


すると彼女はころころと笑い、


「そうだねぇ、急に持ち上げられてびっくりしたねぇ。」


といとおしそうに言ってきた。全然違うのだが。











そして授乳は終わった。




ほう、授乳中はどんなであったか聞きたいと。

そして願わくばおっぱいの感触について聞きたいと。そんな顔をしているな。




無論、その答えはノーだ。

第一母親というのは性的対象としてみるものではないし、それに自分の母親が性的対象として見られるのを俺が好かん。

そういうことだからここで明言は避けよう。




では時を進めよう。

そして俺はその後も何度か授乳してもらいながら、下半身の物を何度か片付けてもらいながら、ただぼーっと、たまに思索にふけりながら時を過ごしていた。




そして一人しりとりという何とも悲しい遊びもそろそろ言葉が出尽くしてぽつぽつとしか続かなくなったころ、窓から差し込んでいた日の光も入らなくなってすっかり暗くなってしまった部屋に入ってくる足音が一つ聞こえた。




暗闇ということもあってその人物がどういう風貌をしているのか把握できずにいたため俺の脳内には緊張が走った。




もしかしたら強盗かもしれない。

或いは俺の親に恨みを持った誰かが殺しに来たのかもしれない。




そんな不安がよぎりどうにかしてこの家を守ろうと体を動かす試みをしてみたのだが残念ながら俺の体は言うことを聞かなかった。




絶望に打ちひしがれつつもただ刻々と最後の時を待っていた俺はせめて俺の母親だけでも逃がそうと思いつき、精いっぱいの泣き声を上げた。




するとドタドタという足音が聞こえ、扉が開く。

俺からは見えないほう、ちょうど木の柵で隠れてしまっているところで明かりがついたらしく辺りはさっきとは打って変わって一気に明るくなった。




急な光に若干まぶしさを覚えつつ、母親に逃げるように言うためにより一層泣きわめき、少ししか動かない体を目いっぱいに動かした。




すると、なにやらあちらから会話が聞こえてきた。




やさしさに包まれた母親の声と、もう一方は聞きなじみのない低い声だった。

その二人は親しげに会話をしていた。


「あら、あなたお帰り。ちょっと待って、今泣き止ませるから。」


「お、おう、俺にびっくりしたのかな」


「うふふ、多分そうね。あなたのドッスンドッスンっていう足音にびっくりしたんじゃないかしら。」


「それは悪いことをしたな。」




この会話を聞いている限り、多分相手は母親と近しい関係の誰かなんだろう。ひとまずは危険な相手ではなくて安心した。




俺は泣きわめく理由がなくなったので泣き止んだ。




「あら、私たちの会話でも聞いていたんでしょうかね。」


「さぁ、どうだろうな。まぁとりあえず俺を味方認定してくれてよかったよ。」


そう言ってころころとした笑い声と豪快な笑い声が部屋に響き渡った。




そして見たことがない顔が俺を上から覗き込んだ。




無性ひげを生やしていて、無頼漢を感じさせるような顔つきで、瞳の奥はどこか優しい感じがした。母親は


「お父さんですよ~。」


と言ってその男に続いてのぞいてきた。なるほど、こいつが俺の父親らしい。












今周回して書きなおしているんですけど、明らかにここの主人公のテンションが最新話の方のテンションと会ってないんですよね。

まあ……いっか!

と、いうことでそのまま投稿しまーす!

あ、ちなみにこの話は読み易くしましたが五月十日現在で次の話、その次の話は読み易くしていません。

ですからここで油断した方、地獄を見ますよ。

あー、でも、次の話はこの話とつながっているから大丈夫かな?


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