ルート:ジェフ
あなたは、ジェフとデートすることに決めた。
「じゃあ、行こう?」
ジェフを選ぶと、彼の口元は本当に嬉しそうにほころんで。
自然とあなたの口角も上がっていく。
「巫女姫さま」
差し出された手を、あなたは一瞬だけ躊躇し、そして握った。
ジェフは「えへへ」と笑ってとても嬉しそうで。照れのまじった笑みは何とも言えず、あなたの胸はきゅっとなる。
幼く見えるけれども、背はあなたよりも高くて、体つきもちゃんと男の人だ。繋がれた手に、少し汗が滲む。
「今日は、街を案内するね。ずっとここで暮らすなら、必要な事だし」
そう言って、ジェフは隅から隅まで案内してくれた。
おすすめのパン屋さんや、生活用品店、八百屋に魚屋。竜の鱗細工店もある。
「よう、ジェフ。その方が噂の巫女姫さまか?」
ジェフがお店を覗くたびに、そんな風に聞かれてしまう。
どうやらもう噂が広まってしまっているらしい。
「そうだよ。僕の、花嫁候補なんだ」
聞かれるたびにジェフはそう答えるものだから、あなたは身の置き所がなかった。
幸せそうにそう答えられると、あなたは少し困ってしまう。
そんな風に言われて嬉しくないわけでは、もちろんなかった。
元彼氏にはいつもいつも結婚をはぐらかされて、〝花嫁〟という言葉からどれだけ遠ざかっていたことか。
嬉しい反面、親子にしか見えてないのではないかと、街の人の反応が怖くてあなたはドキドキとする。
しかし誰も彼も、「巫女姫さまと結婚たぁ、すげぇな!」と嬉しそうで。
この国では、歳の差婚はそんなに珍しい事ではないのかもしれないとあなたは思った。
「あ、僕のバキアが飛んでる」
空を見上げたジェフの言葉に、あなたも空を見上げる。
綺麗な青色の竜が、豪快に翼をはためかせ大きく旋回していた。
「すごいね、竜って。ジェフはあの竜に乗るの?」
「うん、バキアは竜具を装着すれば、三十人くらいは乗れるんだよ。僕はセレストブルーっていう名前の、あのバキアに乗ってる」
「……怖くないの?」
「怖くはないよ。もう手懐けてるからね」
「いや、そうじゃなくて、あんなに飛んでたら、高さとか、風圧とか」
「うーん、それも慣れるかな? 風圧は専門の魔法があって相殺してるから、息ができなくなるなんて事ないし」
魔法と言われてあなたの目はキラキラと輝いた。まさにファンタジー世界である。
「魔法よりも、すごいの見せてあげるよ」
魔法よりすごいもの? とあなたが首を捻らせると、ジェフは街の喧騒を後にした。
しばらく何もない草原を進むと、湖畔が顔を覗かせる。日の光をキラキラと反射させる湖面は、嘘のように美しい。
「ここは、バキアの水飲み場なんだ。ほら、何匹か空を舞ってる」
赤い竜、黒い竜、そして先ほどのセレストブルー。
「セレスト!!」
ジェフがそう叫び、ピューーウと指笛を鳴らした。
その瞬間、セレストブルーが勢い良く降下してくる。
まるで、巨大隕石が降ってくるかのような感覚に、あなたは背筋を凍らせた。
「ひいいいいいい?!」
「動いちゃダメ。余計に危ないから」
ジェフに抱き寄せられ、あなたもギュッと彼の背中に手を回す。
セレストブルーは地に着く直前に翼をはためかせ、フワリと勢いを殺している。
羽ばたきの風圧で、湖面が荒れた海のようにザザンと音を立てた。
「グルルルルウルルル…………」
おそらく、セレストブルー的にはゆっくり着地したのだろう。それでもドスンという重い振動が響く。
フンという鼻息だけで、あなたの体は吹っ飛ばされそうなほど服はバタバタとはためき、ジェフにしがみついた。
「あはは、かわいいでしょ?」
「はわわわ……」
目の前に降り立ったセレストは、あなたが想像する以上に大きい竜で。
フシューと出入りする息だけで、吸い込まれそうになったり吹き飛ばされそうになったりしてしまう。
人の頭の二倍はある大きな目玉が、ギョロっとあなたを睨んでいて、体が勝手に強張った。これは、本能で恐怖を感じるレベルである。
ガチガチと勝手になる奥歯。人と竜が共存できていることがあなたは信じられなかった。
「大丈夫だよ」
ジェフはそう言って、あなたを優しく抱きしめてくれる。
するとホワンという音がして、セレストブルーから送られていた風が柔らかいものへと変わった。
「あ……れ……?」
「風の相殺の魔法だよ。普通、バキアの鼻息程度じゃ使わないんだけどね」
あなたの体の表面に、うっすらと緑色の膜のようなものが見えた。
セレストブルーがする息の風を、ほとんど感じない。
「触ってみる?」
そう言いながらジェフはセレストブルーの鼻の頭あたりを、ポンポンと触った。
竜とは、一体どんな感触なのだろうか。
大きくて近寄るのは怖いが、ジェフが大丈夫と言うなら大丈夫だろう。それに興味もある。
あなたは恐る恐る近づいて、手を伸ばした。
セレストブルーのまぶたのあたりを触ると、意外につるりとしている。竜の鱗は大きいのかと思いきや、意外にも細かくて、硬くも滑らかな触り心地だった。
「グル……グルルルゥ」
「な、何?!」
「あは、セレストが喜んでるんだよ」
フシューっと鼻息を荒くしているのは、どうやら喜んでいるらしい。
体は大きいが、単純で可愛らしいんだなとあなたは微笑んだ。
そんなあなたをじっと見ていたジェフが、隣で嬉しそうに目を細める。
「巫女姫さま、魔法よりステキなものを見せてあげる」
「え?」
ジェフが再びあなたの手を取り、セレストブルーから離れる。あなたは手を引っ張られるままに、トテテと彼に近寄る。
「見せてあげるよ。セレストのコールドブレス」
そう言ったかと思うと、ジェフは右手を上に大きく振り上げ、直後その手は横に切られた。
瞬間、セレストブルーの体はフワリと宙を舞い、砂埃を上げて空に羽ばたく。
「しっかりセレストを見てて」
空高く舞い上がったセレストブルーを、あなたは目で追いかける。
太陽が眩しくて、目を細めたその瞬間。
セレストブルーの口が大きく開き、ゴゴゴゴオォォオオという大きな音と共に何かがキラキラと噴射された。
「わ、すごい……っ」
太陽の下で、何もないところに出されたコールドブレスは、まるでダイアモンドダストのようにキラキラキラキラと輝いていて。
暖かい日差しの中を、光の粒が雪のようにちらほらと舞い降りてくる。
その幻想的な風景に、あなたは目を細めた。
感動するあなたの顔を見て、ジェフは最高の笑顔で口を開く。
「綺麗でしょ?」
「うん……ステキ……!」
抜けるような青い空と。眩しく光る太陽と。巨大な竜と。
キラキラと輝く風景の中に自分がいる事が信じられず、夢でも見ているのかもしれないとあなたは思った。
何より隣にいるのは、金髪碧眼の可愛い男の子で。夢だったとしても、本当におかしくない。
あなたは視線を移して、ジェフを見つめた。
彼もまた、あなたをじっと見つめていて、近いところで視線が交わる。
「夢じゃない……んだよね?」
「夢じゃないよ。巫女姫さまはここにいて、僕もここにいる」
彼は王子様のような端正な顔立ちに、柔和な表情を乗せた。
ずるいな、とあなたは胸をギュッとさせる。美形にそんな笑顔を見せられては、惚れてしまいそうになるではないか、と。
繋がれた手は温かく、そして優しく。
ジェフは空いている方の手で、あなたのもう片方の手を取った。
「ジェフ……?」
「巫女姫さまに、魔法をかけてあげる」
「魔法?」
「うん。少しの間、目を瞑って?」
あなたは魔法と聞いて、わくわくしながら目を瞑る。
一体ジェフは何の魔法を掛けてくれるのだろうかと、期待に胸を膨らませていると。
優しく、優しく、あなたの唇に柔らかいものが当たった。
ジェフの気配を、すぐ近くに感じる。
ゆっくりとジェフが離れていくのを待って、あなたはそっと目を開けた。
「ジェフ、い、今……」
あなたは己の唇の感触を反芻し、どぎまぎする。
するとジェフは、とても嬉しそうに。
「僕の事を、好きになる魔法!」
そう言って、ニッコリと笑い、あなたは耳まで熱くなった。
***
あなたがこの世界に来て一ヶ月が過ぎた。
もしかしたら、ジェフの想いは一時の気の迷いではないかと、あなたは疑ってしまって勇気が出なかった。
あなたの心は、とっくにジェフに奪われていたというのに。
「僕と結婚してください」
真っ直ぐ向けられる視線。
嬉しくも、まだ、あなたは決断しかねてしまう。
年だからとか。
映えある少年の未来を自分が奪ってしまっても良いのだろうかとか。
親子ほどの年の差があるからとか。
「ジェフ……」
「巫女姫さまは……僕が、嫌い?」
捨て犬のような瞳をされるともう、申し訳なくてたまらなくて。
それでもあなたは、簡単に結婚しますとは言えない。
「嫌いなわけ、ないよ」
「じゃあ……ザカリーや団長みたいな、大人の男の人の方が良いのかな……」
ジェフのする悲しげな瞳に、あなたは胸を抉られたような気持ちになる。
「僕はまだ頼りないかもしれない……けど絶対に、巫女姫さまを護る立派な竜騎士になる! だから……っ!」
ジェフは、あなたの両手を取って。
「僕と、結婚して! 僕はもう、あなた以外に考えられない!」
ストレートに浴びせられる言葉に、あなたはこみ上げるものを必死に堪える。
「でも……ジェフには他に若い女の子がたくさんいるじゃない。その方が、子どもだって望めると思うし、私なんかじゃ……」
「僕は別に、子どもが欲しくて結婚するわけじゃないよ」
本当に、本当だろうか。嬉しい反面、胸がしくしくと痛む。
「いつか、私と結婚した事を後悔するかもしれないよ?」
そう、今はよくても、いつか。
しかしあなたがそういうと、ジェフはキッと眉を吊り上げて。
「僕の、あなたを想う気持ちに変わりはない!」
あなたがくらりとする程、欲しい言葉を言ってくれた。
「ジェフ……」
「もう一度だけ言うよ?」
一転、ジェフはいつもの優しい顔に戻り。
「あなたを愛しています。僕の花嫁になってください」
ぐっと涙が込み上げる。
花嫁というワードが、あなたの涙の堰を決壊させた。
「ジェフ……私を、あなたのお嫁にしてください……っ」
そう告げると、ジェフはふにゃりと顔を崩した。
瞳は潤んで、喉を詰まらせたようにごくんと飲んでいる。
「うわ……やっとだ……やっと、僕の気持ちが伝わった……」
ジェフの流れ落ちる涙はとても綺麗で。
あなたは彼の顔にそっと手を伸ばす。
「返事、遅くなってごめんなさい……」
「ううん。僕を選んでくれて、ありがとう」
ジェフがにこりと笑った瞬間、また涙が一つこぼれた。
「あなただけを、一生愛し続けます」
「私も、ジェフを、一生愛します」
二人の視線が近いところで合わさり。
そしてゆっくりと口づけあった。
どうぞ末長くお幸せに♡
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『40歳なのに召喚されて巫女姫になりました 〜夫を一人選べと言われたあなたの物語〜』
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