第八章:狙撃者と対決
アキヒサがボディ・ガードを始末した事から難なくボディ・ガード達が屯している左側に着けた。
明かりに当たらないように細心の注意を払いながら窓ガラスから中を覗いてみた。
見るからに人相が悪い男たちが黒い背広を着てウィスキーなどをラッパ飲みして大声で笑っていた。
テーブルの上にはベレッタM92FやコルトM4カービンやM16A2などのアメリカ軍正式兵器が置かれていた。
「・・・・流石は悪魔が裏で糸を引いているだけの事はある」
どう考えても日本のヤクザが持てるような物ではない。
武器を見て私は口笛を吹く真似をした。
「どうするの?ダーリン」
ステファンは少し緊張した声で聞いてきた。
「ここから見える人数は5人。アキヒサにも気を引けって言われてるから、ここは派手に行こうか」
OKとステファンは言って低くしていた身体を起こし窓ガラス越しに自分の姿を見せた。
酒を飲んでいた奴らは目を見張ったが直ぐに銃を取ろうとした。
しかし、それより早くステファンが構えていたレミントンが火を噴いた。
ダアッン!!
大きな銃声と窓ガラスが粉々に砕ける音がした。
カシャン
機械的なスライドを前後に動かす音がした。
硝煙の臭いと白い煙が辺りを囲んだ。
「さぁ、ダーリン。行きましょう」
私は頷いてイングラムM10とウィンチェスターM73ランダルを持ち砕けた窓ガラスのあった場所から中に潜入した。
砕けた窓ガラスから屋敷の中に潜入した私とステファンは辺りを見回し息のある者がいるか確かめた。
5人とも身体に殺傷能力の高いスラッグ弾を食らって息絶えていた。
もっとも酷かったのは目の前にいた男で腸が出ていた。
しかし、ステファンは見慣れているのか気にしていなかった。
狩猟で動物の解体などをしているからかもしれない。
「さて、ここからどうしましょうか?」
「まぁ敵が来る方角を目指そうか」
ステファンは楽しそうに笑った。
私も彼女も悪魔探偵などという職業に着いているため何処か普通の人間とは少し、いやかなり違う。
殺しが好きな訳ではない。
ただ、こういったスリルのある状態が好きなだけだ。
私とステファンはボディ・ガードの死体を尻目に部屋を出て廊下を歩いた。
廊下には中世の甲冑やらが飾られていた。
「これはこれは、随分な歓迎だな」
私が笑うと甲冑達が動き出した。
手には剣や斧が握られていた。
大方、悪魔が魔力を使って動かしているに違いない。
こいつらを倒すのは簡単だ。
用は動けなくなるまで徹底的に叩きのめせば良いだけの話だ。
「君ら雑魚では役不足だよ」
私はM73ランダルとM10の引き金を同時に引いた。
ババババババン!!
ダッン、ダッン、ダッン!!
9mmルガー弾と44ウィンチェスター弾が甲冑達を蜂の巣にしていった。
カチッ、カチッ
M73ランダルとM10の弾が切れた。
辺りは白煙だらけだが、気で甲冑達が迫って来るのを感じ取れた。
「ステファン。頼むよ」
私と入れ替わるようにステファンが前に出てレミントンを撃ち始めた。
ダアッン!!ダアッン!!ダアッン!!
カシュッ、カシュッ、カシュッ
銃声とスライドを動かす音がする傍らで私はM10に新たな32連発の縦型マガジンを装填しM73ランダルにも弾を補充した。
「ダーリン。交代よ」
ステファンのレミントンが弾切れのようだ。
「OK」
私が入れ替わるように前に出て再びウィンチェスターとM10を乱射した。
交互に交代しながら私とステファンは先に進んだ。
かなり時間が掛るが、甲冑みたいに急所がない奴らを倒すには確実な方法だ。
十五分くらい掛り甲冑を全部破壊した。
弾と時間の無駄になったが、仕方ない。
「さて、アキヒサの方に行くか」
甲冑の残骸を踏みながらステファンと廊下を歩き螺旋階段がある部屋へと出た。
一歩踏み出そうとした時だった。
ダンッ、ダンッ
立て続けに二発の銃声がした。
私はステファンを庇い跳んだ。
肩に衝撃が走ったが人体に損傷はない。
防弾繊維で作られたコートを着ているからだ。
銃声の方向を見ると螺旋階段の上からスコープを付けたオート・マチックライフルで、こちらを狙う男がいた。
私たちを狙撃した男だ。
「・・・・ここまで来るとは恐れ入った」
死人のような生気のない瞳を爛々と輝かせながら男は言った。
「悪魔探偵を舐めてもらっちゃ困るね」
皮肉気に笑いながら私はステファンと一緒に近くのテーブルを倒してバリケードにした。
ギリギリ狙撃者から身体を隠せられる。
「ここから先は通さん。貴様らを殺してから、あの男も殺す」
ゲタゲタと品のない笑い声を上げる狙撃者。
「どうしようか?ステファン」
「向こうは上。こっちは下。どう考えても不利よね」
私は頷いた。
「爆弾があれば柱を壊して奴を落とせるんだけどね」
階段を支えるのは太い鉄の柱で今の武器では壊せない。
「さて、どうしたものか」
対策を考えている間に狙撃者は撃ってきた。
ババババババン!!
バリケードのテーブルを叩く音。
「M16A2か。厄介だな」
中距離での狙撃は最高水準を叩きだすM16A2で狙撃されては一溜まりもない。
「早々に決着を着けないとヤバくない?」
ステファンの言葉に頷く。
「だけど、どうしようか?」
二人の武器を合わせてもM16A2に太刀打ち出来る武器はない。
アキヒサのヴァルメなら太刀打ち出来るかもしれないが、彼は奥だ。
ボディ・ガードの使っている武器は廊下を行かなければならないしバリケードを離れないといけない。
そこを狙撃されたら終わりだ。
ババババババン!!
バリケードを破り弾が襲って来た。
「どうしたら良いかな?」
伏せながら対抗策を考える。
「どうした?怖くて動けないのか?」
狙撃者の甲高い声が聞こえてきた。
挑発しているのが目に見えて分かる。
「完全に舐められているわね」
ステファンが額に青筋を立てていた。
「挑発に乗ったら奴の思う壺だよ」
冷静な声でステファンを止めた。
どんな時でも冷静さを失わないのも探偵だ。
「はははははは!!所詮、貴様らは雑魚だな?!」
狙撃者の階段を降りる音が聞こえてきた。
どうやら自分の立場が不動だと思い込み私たちに近づいてきているようだ。
これはこれで私たちにとっては好都合だ。
「ステファン。どうやら私たちに勝利の女神は微笑んでくれたようだよ」
私の言葉にステファンは怒りから嬉しそうな顔になった。
「そのようね。マーロウ」
ババババババン!!
バリケードを破り弾が襲って来たが私たちは、じっと動かずに我慢した。
後もう少し近づけ。
そうすれば、こっちの勝ちだ。
サブマシンガンの射程距離はアサルトライフルよりも短い。
もう少し奴が来れば射程距離に入る。
コツ。
奴の足音が射程距離に入った。
今だ。
私は勢いよくバリケードから打って出てM10を階段に目掛けて撃った。
パパパパパパン!!
9mmルガー弾が階段を撃ち抜き狙撃者の足を撃ち抜いた。
「ぐわっ!!」
狙撃者は悲鳴を上げて階段から身を落とした。
それを見逃さずにステファンがレミントンで撃った。
ダアッン!!ダアッン!!
二発のスラッグ弾が男の身体を撃ち抜いた。
カシュッ、カシュッ
カラン、カラン
スライドが前後し排出された弾が地面にぶつかり弾ける音がした。
ドサッ
男が地面に落下した。
足を撃ち抜かれ心臓を二発分の弾が貫通して男は絶命した。
顔は勝利から死へと変化していた。
私たちが負け自分が勝つと思っていたのに自分が負けて死ぬと信じられない顔だった。
「・・・過信が敗因だよ」
私は息絶えた男に言ってキャメルをコートから取り出して銜えた。