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第七章:潜入

私が運転するミニ・クーパーSに四人の青年を乗せてからアキヒサは先頭を切りベントレー エイトに乗り込み走り出した。


「・・・・彼、大丈夫かしら?」


助手席に乗ったステファンが心配そうに言った。


敵地に乗り込むからアキヒサの家にあった男物の衣服に身を包んでいた。


私も動き易い服装だ。


もっとも帽子とコートは着ているが。


今の彼は我を忘れているのではないかとステファンは思っている。


後ろの四人もどこかアキヒサの事を心配している様子だった。


「大丈夫さ。彼は自我を失うほど頭に血が上ってない」


まだね、と付け加える。


「彼が自我を失ったら、その時は私が命懸けで止めるよ」


ウールヴヘジンの彼が自我を失えば悪魔探偵の私が全力で止める他ない。


「・・・・ダーリン」


ステファンが瞳を潤ませてきた。


「まぁ、そんな事にはならないと思うから心配ないよ」


クスリと笑って彼女にハンカチを渡す。


本当なら指で涙を掬ってやりたいが、後ろの青年たちには刺激が強いと思い堪えた。


「ところで君らの総長だけど、アキヒサとはどういう関係なんだい?」


私はバック・ミラーで四人を見て聞いた。


「どういう関係って・・・・・・それは・・・・・・・・」


四人は返事に戸惑った。


「友達以上恋人未満って所かい?」


私の推理というか推測に四人は頷いた。


「まぁ、推測だけど君らの女総長の両親は仕事に感けて自分を顧みない。そこで悪い事をして気を引こうとした。しかし、気を引く所か親は離れて行き自暴自棄になっていた所をアキヒサと出会った。・・・・・こんな所で、どうだい?」


四人は図星を指されたのか頷くだけだった。


大方の検討は着いていた。


族などという不良集団は大抵が自分を認めて欲しかったり誰かに構って欲しいという気持ちを抱えている。


ただ表現の仕方を知らないだけだ。


今の大人は逃げてばかりで子供と向き合おうとしないから、こういう子供たちが増える結果になってしまったと思う。


アキヒサの性格から考えるなら、彼らを見過ごす事が出来ずに手を差し伸ばしたと簡単に想像は出来る。


そして、その中でも女総長はアキヒサの行動に一番刺激が強く与えられて気が付いたら惹かれたのではないかと推理する。


「女総長が彼に恋する気持ちも分からなくはないわ」


ステファンが大げさに頷いた。


「私はダーリン一筋だけど、彼って優しいし気が利いて謙虚で好きな相手には尽くすタイプだから人気なのよね」


おまけに何処か哀傷が漂っているとステファンが言った。


「確かに彼みたいな男性は女性に好かれるからね」


実際ヨーロッパでは男らしい冒険家で仕事ができるビジネスマンとして若い女の子から絶大な人気を誇っている。


彼女ら曰く『紳士的な態度だが、何処か悲しい背中が魅力的』らしい。


“伯爵様”もアキヒサと似ているからモテルのかもしれないな。


「まぁ、君らの総長と彼がどうなるか分からないけど、先ずは助けないと」


場の雰囲気が和み始めた所で私は気持ちを引き締めるように言った。


「女総長はどうなっていると思う?」


ステファンが聞いてきた。


「彼らの立場から考えると、生かして人質にしていると思うな」


私が銀星会の立場なら来るであろう敵に備えて女総長は殺さずに人質として生かしておく。


「私も同意見ね。アキヒサとの関係を知っているなら尚更ね」


ステファンの言葉に四人は顔を強張らせた。


「まぁ、撃たれて直ぐに助けに行くとは流石に思ってないだろうから、そこが漬け込む点だね」


四人の態度を気にしながら喋った。


「アキヒサがウールヴヘジンだと向こうも知ってないのもポイントね」


ステファンがワルサーPKKの安全装置をカチッと外しながら言った。


「確かに狼の彼なら嗅覚で場所を直ぐに特定できるからね」


相槌を打ちながら私もワルサーP38を取り出して片手で安全装置を外した。


アキヒサの車を追って一時間が経過した頃だった。


横浜の外れまで来ていた。


後どの位なのだろうと思っていると彼が道路から外れたので習って外れた。


漆黒のベントレー エイトが道路から外れて近くの路上に止まった。


私も合わせてミニ・クーパーSを少し離して止めた。


ベントレーからアキヒサが降りた。


黒の皮ジャケットを着たアキヒサが右手にヴァルメRk62を握って出てきた。


ベルトにはジャングル・キングと袈裟掛けが吊るされていたが新たにヒップ・ホルスターが取り付けられていた。


銃口が抜き身でていた。


S&W M28ハイウェイ・パトロールマンだ。


S&W社が警察官用にと作った物だが、余りに重すぎるため警察官の拳銃としては採用されなかった。


しかし、ベトナム戦争では特殊部隊が正式装備ではないが、バックアップ・ウェポンとして使用したりハンターがサイド・アームとして使用している。


肩まで伸びた灰褐色の髪が無造作に後ろで束ねられていた。


「・・・・ここが銀星会のアジトだ」


Rk62で前方に立つ巨大な建物を指す。


5メートルは優にあるコンクリートの壁が周りを取り囲んでいた。


壁の中には森林で中央に白く洒落た洋屋敷があった。


「ヤクザの割には洒落た屋敷だ」


皮肉気に笑う。


ヤクザのアジトであるため周りには民家などは何一つなく道路だけが広がっていた。


まぁ、誰が好き好んでヤクザのアジトの近くに店や家を建てるものか。


「先ず最初に私が行く。君らは後から来てくれ」


彼は早口に言うと勢いよく走り出し糸も容易くコンクリートの壁を跳び越えた。


文字通り跳び越えたのだ。


ロープも何も使わずに、ただ助走を付けてジャンプしただけで5メートルの壁を跳び越えた。


「相変わらず大したジャンプ力だ」


四人は口を開けて驚いていたが、私とステファンには見慣れた光景だ。


「どの位で来るかしら?」


ステファンの問いに私は三本指を出した。


「三分だね」


彼なら3分もあれば、庭を護るボディ・ガードを皆殺しに出来ると確信していた。


ステファンは左手に填めたコーチの腕時計を見た。


「後2分ね」


2分もあれば十分だよ、と言った。


それから2分後に内側からロープが投げられてきた。


「きっかり3分ね」


ステファンが腕時計を見ながら言った。


「・・・・君らは、ここに残りなさい」


私は後ろを振り返り四人に残るように言った。


「何でだよ!!」


一人が私に食って掛ってきた。


「ここからは“殺し”だ。君らがしてきた“喧嘩”とは訳が違う。君らは、本当に汚れてはいけない」


族である彼等は“喧嘩”慣れはしてるだろうが、“殺し”はした事がないだろう。


一度でも手を黒く染めれば二度と白い手には戻らない。


アキヒサも彼らには真っ当な道を歩んで欲しいと願っているに違いない。


「てめぇに言われる筋合いはねぇ!!」


左端のリーゼントみたいな頭をした青年が私に殴りかかろうとした。


「・・・悪いが、少し眠ってもらうよ」


私は青年の拳を避けて腹に一発入れると残りの三人も眠らせた。


四人をクーパーSに入れた。


「彼らを出すな」


『承知しました』


コンピュータの声を聞いてから私とステファンは壁に近づきロープを伝って壁を越えて中に潜入した。


私はウィンチェスターM73ランダルをステファンはレミントンM870を構えて周囲を警戒した。


「・・・・こっちだ」


アキヒサの声に反応して茂みの方に身を低くして近づく。


屋敷からは離れているが明かりもあるし警戒に超した事はない。


「見張りは?」


「始末した」


手短に答えるアキヒサ。


右手には血を吸った袈裟掛けが握られていてRk62は革製の紐で右肩に掛けられていた。


「屋敷の左側にボディ・ガード達が酒を飲んで屯っているらしい。女総長・・・・・美咲は奥にいる」


ボディ・ガードの一人に聞いたとアキヒサは話した。


そのボディ・ガードはどうしたと思ったが、直ぐに自分の考えを消した。


私が彼の立場なら情報を手に入れたら殺すからだ。


「・・・私は奥に行って美咲を助ける。君らは、ボディ・ガードの眼を引き付けてくれ」


“伯爵様”から頼まれた依頼を彼に横取りされる形となっているが、了承済みであるため私とステファンは頷いた。


「・・・・気を付けて」


アキヒサに言う。


「そっちもな」


短く言い返した彼は袈裟掛けを熊の皮で作られた鞘に入れてヴァルメRk62を持つと疾風の如く走り出した。


「私たちも行こうか」


ステファンは頷いてM870のスライドを前後に動かし初弾を装填した。


私もランダルのレバーを回して弾を装填した。


二人で一定の距離を保ちながら茂みなどを利用して屋敷に近づいた。


気分は頗る上々だった。


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