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第六章:ウールヴヘジン

アキヒサの別荘は鎌倉の外れにある一軒家だ。


煉瓦で作られた壁に車が数代は入る車庫に軽いガーデニングが出来る庭といった少し羽振りの良い家を思わせる。


武器商人である彼は世界中を飛び回り休暇の時は一人で北欧の山奥やアラスカを馬に乗り横断するなど冒険を繰り返している。


日本の別荘には数年に一度か二度来るか来ないかだ。


しかし、ちゃんと手入れなどもされていて人が住んでいると思えてしまう。


「あれは・・・・・・」


クーパーを停車させて降りようとした時だ。


車庫の中に違法改造よろしくのバイクがあった。


しかも四台も、だ。


「彼の趣味じゃないわよね」


ステファンが首を傾げた。


間違っても彼は、こんなバイクは乗らない。


彼はバイクよりも馬を好むし違法改造は好まない。


私も彼も改造はしているが外見は変えていない。


「まぁ、行ってみるか」


玄関に行きライオンの顔をしたドアノックを叩いて名乗った。


「マーロウです。ミスター・アキヒサ」


ガチャリとドアが開いた。


「・・・・誰だ?てめぇ」


ドア越しから見てきたのは白い特攻服に身を包んだ男だった。


男というより未成年に見える。


恐らく18、19歳だろう。


「私はマーロウ。ここの家主。草神彰久の友人だよ」


柄の悪い青年を刺激しないように柔らかな口調で言った。


「・・・・入りな。ただし、変な真似をしたら殺すぞ」


入る前から脅し文句を言うとは何とも言えないな。


分かったと了承してから私とステファンは中に入った。


靴を脱いでリビングに行くと上半身に包帯を巻いた灰色が掛った褐色の髪をした三十代後半の男が一人用のソファーに座り、それを護るように前を歩く彼と同じ服を着た青年が立っていた。


手には金属バットや木刀が握られていた。


一つの答えに行き着く。


『・・・・暴走族か』


今の子供たちにしては珍しいと思った。


今は掟やグループなどに縛られるのを嫌い完璧な無法者が溢れている。


そんな世の中で古臭いとも言える暴走族をしている彼らに私は興味を持った。


「やぁ。マーロウ。出迎え出来ずに申し訳ない」


灰褐色の髪をした男、アキヒサが苦笑して喋った。


「いきなり白い特攻服を着た青年が出迎えた時はビックリしたよ」


私も苦笑して答えた。


「怪我をした私を気遣ってくれたんだよ」


アキヒサの言葉に案内した青年は照れたように頭を掻いた。


「それで、その怪我はどうしたんだい?」


左胸と右肩に左脇と合計三ヶ所の傷口を見て尋ねた。


「銃で撃たれたね。しかも、中国製のトカレフやマカロフじゃなくイタリア製かアメリカ製のベレッタM92で撃たれたね」


私の推理に四人は目を見張った。


どうして分かったのかと思っている。


これでも探偵。


彼の身体から放たれる硝煙の臭いと小口径の9mm弾の大きさの弾痕から推理しただけの事だ。


「流石は探偵。鋭い洞察力だね」


アキヒサは微笑した。


微笑すると額の皺が小刻みに浮かび上がり彼の苦労が分かる。


「君の推理通りだよ。三ヶ所ともベレッタM92Fの9mmルガー弾で撃たれた」


彼は言い終わると見た目からは想像も出来ない強靭な筋力を浮かび上がらせて包帯を力づくで剥ぎ取った。


キツク結ばれていた筈の包帯は糸も簡単に身体から取られた。


包帯を外した彼の身体には銃痕が三つあった。


それ以外にも古い傷跡が幾つか見えた。


撃たれた銃痕はまだ完治してないが、もう皮膚が張り後もう少しで完全に塞がる。


たった数十分前に撃たれたのに驚異的な回復力だ。


「流石は“ウールヴヘジン”と言われるだけはありますね。もう傷が治りかけているなんて」


彼の異名に改めて眼を見張ってしまう。


ウールヴヘジン・・・・・北欧神話に出てくる狼の戦士で訳すると狼のジャケットを着た者となる。


軍神オーディーンの神通力を受け戦では狼の如く勇ましく戦う事でベルセルク(熊の戦士)と同じく知られている。


アキヒサは狼の如く五感に優れて狼のように勇ましい事から“伯爵様”の従者から名付けられた。


もっとも、本当の意味でも彼は“ウールヴヘジン”であるが・・・・・・・・・・・


「ありがとう。マーロウ。さて、長話はこの辺にして本題に入ろうか」


彼は礼を言ってから切り出してきて私とステファンは頷いた。


先に私が話し始めた。


彼らが気になったがアキヒサは大丈夫だと言ったから話した。


“伯爵様”から依頼され狙撃され銀星会の正体を知り、さっきも爆弾を仕掛けられた事を。


「・・・・という訳なんです」


「なるほど。という事は私の方と同時かな」


アキヒサは角のある顎に手を当て思案した。


「今度はそっちですよ」


何だか一人で考え始めたアキヒサに話しかけた。


「ああ。すまない」


謝ってからアキヒサが経緯を話し始めた。


外国から戻った彼は休暇を日本で久し振りに取ろうとしたらしい。


そんな時に偶然に暴走族と出会い、そこの女総長を叩きのめし今の四人と知り合った。


そして、彼女たちが麻薬で仲間を殺されたのを聞いて力を貸して銀星会に行き当たったらしい。


私とステファンが食事をして狙撃者と話し合っている時に彼の方でも銀星会から刺客が来て彼を撃ち一緒にいた女総長を誘拐した。


「バックに指名手配中の悪魔が居るなら、もう少し用心するんだったよ」


ギリッと拳を握るアキヒサ。


「・・・・・・・」


私とステファンは黙ってアキヒサを見た。


「・・・・・・・」


暫く沈黙が部屋を包み込んだ。


「・・・その指名手配の悪魔、譲ってくれないか?」


不意に喋ったアキヒサの言葉に私とステファンは顔を見合わせた。


「譲ってくれないか?と言う事は・・・・・・・・」


「私が始末したい」


沈めていた顔を上げるアキヒサ。


琥珀色の瞳がギロリと獲物を狙う狼の如く光っていた。


身体からも只ならぬ雰囲気を出していて四人が身震いしていた。


「・・・良いでしょう」


私は首を縦に振った。


「・・・・感謝する」


アキヒサは深く一礼した。


「さぁ、そうと決まれば銀星会のアジトに乗り込みますか」


アキヒサは頷いた。


ステファンに至っては私の意見に初めから賛成していたのか頷いた。


四人の青年は黙っていたが、意を決したのか自分たちも何か手伝わせてくれと言ってきた。


「俺らはあいつ等のアジトの内容も大体は分かるから、きっと役に立ちます」


私たちを出迎えた青年がアキヒサに懇願した。


お願いしますと残りの三人も懇願してきた。


アキヒサは私を見た。


一応、私にも聞きたいようだ。


『・・・・彼らの心も組んで上げた方が良いです』


彼は頷いて同行を許した。


彼らは大げさに頭を下げて礼を言った。


こうして私とステファン、アキヒサの三人と暴走族を含めた連合が完成する事になった。


上半身に上着を着てからアキヒサの家にある地下室に私たちは降りた。


アキヒサが地下室の鍵を開けてドアを開けた。


中に入ると一面に重火器が揃っていて四人は目を見張っていたが私とステファンは見慣れていた。


「好きな物を取って構わない。君らは拳銃を持ちなさい」


落ち着いた口調でアキヒサは後ろの四人に言った。


四人は分かりましたと言って銃を選びだした。


「君はこれだろ」


アキヒサは私に銃を二つ投げた。


片手で銃を受け取る。


ウィンチェスターM73ランダルとイングラムM10だ。


西部を征服した銃と謳われるレバー・アクション式ライフル、ウィンチェスターM1873をギリギリまで切り詰めてスピンコッキング(レバーに手を入れたまま、回転させて弾を装填するテクニック方法)が簡単にできるようにレバーを大きくしたカスタム・ライフルだ。


口径は44で銀弾を発射できる代物だ。


イングラムM10は特殊部隊用に作られた小型サブマシンガンで45ACPと9mmの二種類の口径がある。


かなり扱いが難しいが持ち運びも便利で私には頼もしい相棒だ。


ちなみに私のM10は9mmだ。


「ステファンさんにはショットガンだったね」


次にアキヒサはステファンにレミントンM870を手渡した。


アメリカのレミントン社が作り上げたポンプアクション式でモスバーグM500、イサカM37、ウィンチェスターM1300などと一緒にショットガンの定番として挙げられる。


ステファンは非人道的武器としてヨーロッパでは忌み嫌われるショットガンを好んで使っている。


彼女のM870は先の方に銃剣を取り付けられるように改造されている。


私たちに武器を渡してからアキヒサは自分の武器を手に取った。


フィンランド軍が使用しているヴァルメRk62突撃銃だ。


AK47を踏襲して作り上げた突撃銃で弾も7.62×39弾を使用し使い勝手が良い事からフィンランド国防軍の間では人気がある。


アキヒサはRk62に銀の7.62×39弾を箱型湾曲弾倉に装填した。


続いて彼は二振りの刃物をベルトに巻き付けた。


スペインの老舗ナイフ・メーカー、アライストール社の代表ナイフとも言えるジャングル・キングだ。


映画、ランボーでシルベスタ・スタローンが使用したナイフで有刺鉄線を切れるようにノコギリ状になっていて堅い肉も簡単に切れる鋭い刃を持っている。


握りの中には釣り糸やマッチ、釣り針などが入っていて一本だけでジャングルを制覇できる。


もう一つの刃物は日本製の竹割り鉈だ。


熊の毛皮で出来た皮の鞘に入った鉈を樫の木で作られたシンプルな柄を右手で握って感覚を確かめるアキヒサ。


ジャングル・キングより刀身が厚く白く輝くジャングル・キングとは対照的にドス黒く輝きを放つ鉈には何処か“得たいの知れない”気を感じる。


「それが“袈裟掛け”ですか?初めて見ました」


私は目を細めた。


“袈裟掛け”とは彼の持っている鉈の異名だ。


袈裟掛けとは1915年に北海道の留萌苫前村にある三毛別六線沢で発生した日本最大最悪の熊害ゆうがい事件に登場するヒグマの名前だ。


この事件は冬眠に失敗したヒグマが北海道に来た開拓民7名を死亡させ3名に重傷を負わせるという悲しい事件だ。


日本で熊狩りをしていたアキヒサも、この袈裟掛けと同じ位の大きさを誇るヒグマに襲われた。


しかし、彼は持っていた鉈でヒグマの頭蓋骨を陥没させて袈裟掛けに斬り殺し何とか難を逃れた。


この時にヒグマの血が鉈に染み付いて黒くなり前よりも切れ味が良くなったらしく熊の霊が取り付いたと言われて袈裟掛けと呼ばれるようになったと聞く。


彼が襲われた場所も北海道で殺した熊も100年前に起きた事件と同じく袈裟掛けと呼ばれる人食い熊だった。


「彰久さん。準備ができました」


ふと四人の声で私は思考を中断した。


四人はワルサーPKK、シグ・ザウエルP230を持っていた。


護身用としては十分な威力を誇る拳銃だ。


まぁ、恐らく彼らが銃を使う事はないだろう。


「・・・・よぉし。それでは、“狩り”に行こうか」


アキヒサが狼の如く鋭い犬歯を出して笑った。


「OK。真夜中の狩りの始まりだ」


私とステファンも彼に合わせるように笑って見せた。


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