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第四章:プロポーズ

これ以上、調べるなという警告である狙撃をされてから私とステファンは悪魔の探索を始めた。


あんな脅しで屈するほど軟な男でもないし障害が大きいほど燃えるものだ。


“伯爵様”から送られた資料を頼りに奴が出入りしそうな場所を探索したが、ちっとも見つからない。


これには少し苛立った。


「どういう事なんだ?」


私はディスクの上で乱暴に両足を置いて組んだ。


探索を始めて一週間が経過した。


その間に得た手掛かりは皆無だった。


普通なら幾つかの有力な情報を手に入れて余裕だったが、今回はまったく手に入らない。


ホームレスのネットワーク、知り合いの魔術師による探索、果てはオカルト団体が掲載しているサイトなどを調査した。


意外とサイトなどには有力な情報があるが全て空振りだった。


一体どういう事だ?


「ただいまー」


ステファンがドアを開けて中に入ってきた。


「どうだった?」


「駄目ね。ちっとも無いわ」


首を振るステファンに私は溜め息を吐いた。


「どういう事なんだろうね?」


「私にも分からないわ」


はぁ、と溜め息を吐くステファン。


その時、受話器が鳴った。


苛立った心を落ち着かせてから受話器を取った。


「・・・はい。MNT探偵事務所です」


「俺だ」


“伯爵様”の声だった。


「申し訳ありません。まったく情報が手に入らなくて・・・・・・・」


言い訳を先に言った。


役に立たない自分が酷く情けないと感じたからだ。


「気にするな。俺の方で調べたが奴は指定暴力団、銀星会の幹部として生活している」


「銀星会・・・・・暴力団の幹部ですか?」


悪魔が暴力団の幹部とは可笑しな話だ。


しかし、暴力団の幹部となれば私の情報網でも掴めるはずなのに何でだ?


「お前の網に引っ掛からなかった事を見ると、口止め何かがされたんだろう」


私の考えを読んだように言ってきた。


「なるほど。緘口令が敷かれたとなれば納得がいきます」


一人で頷いた。


「人間界に降りて、どうやら魔術を使って幹部に成り上がったらしい」


「なるほど。そうでしたか」


「あぁ。お前らを狙撃した奴もそいつの回し者だろう。こうなると捕縛ではなく射殺しても良い」


「畏まりました」


「また何か遭ったら連絡する」


じゃあな、と言って通話を終えた。


「銀星会って最近になって妙に力を付け始めた暴力団でしょ?」


ステファンの質問に頷いた。


「うん。麻薬、闇金、未成年売春って最低最悪の事を平気でやる組織だよ」


ヨーロッパ全域を牛耳っているマフィアの“伯爵様”も売春はやるが、それは自分の意思で来た女性とか限定だ。


決して無理やりはしない。


それに麻薬と闇金にも手を出さない。


それに比べて銀星会の奴らは借金の形とか無理やりだ。


人を壊す麻薬に鬼畜とも言える闇金にも手を出すと正しく畜生以下だ。


まぁ、一般人から見れば“伯爵様”も立派な悪党でしかない。


加えて言うなら、そんな悪党である“伯爵様”に仕える私も裏街道を歩く立派な悪党である。


別に後ろ指を指されても平気だから良い。


「麻薬に闇金と売春とは最近の悪党は仁義の欠片も無いわね」


やだやだとステファンは言いながら紅茶を淹れ始めた。


その乱暴な仕草で苛立ちが解った。


同じ女として麻薬漬けにしたり借金の片に身売りさせたりする銀星会のやり方が気に喰わないのだ。


彼女自身も身売りされ掛ったから、外見だけの同情などはない筈だ。


「戦う相手が分かった以上は、相手の行動パターンを調べないと」


「恐らく私たちに警告した所からして護衛とかは万全でしょうね」


ステファンは自分の紅茶を淹れ終えてから次に私のコーヒーを淹れ始めた。


「まぁ、そっちの方が面白いけどね」


私は一週間も無駄骨だったせいで鬱憤が溜まっていたから暴れたい気持ちが昂ってきた。


暴力団となれば相手にとって不足はない。


寧ろ壊滅させてやりたい位だ。


私はLARKを取り出して吸い始めた。


本日、二箱目のキャメルだ。


そして、その日は情報を得た事を祝って外食を取る事にした。


行き先は過去に何度か行った事がある横浜港に浮かぶ海上レストランとして有名な中華料理店だ。


オーナーは中国人でシェフも中国人だ。


金に汚く威張り腐るオーナーは好きになれないが、無骨ながら気配りの上手いシェフは好きだ。


高級店であるため格式が高くラフな格好では行けない。


だからパーティーなどで着る正装に、と言っても私は普段着と大して変わらない黒のタキシードに着替えた。


これを着たのは昨年にヨーロッパで“伯爵様”の誕生日をマフィアの幹部たちと盛大に祝った時だ。


ステファンも去年、私と一緒に出席したパーティーで着た紺色のパーティー・ドレスに身を包んでいた。


露出した肩と胸を形式的に隠すように黒のストールを掛けていた。


その姿が何とも言えない神秘的な美しさを誇っていて私は暫し見惚れていた。


紺色のドレスに金の髪を頭の上で団子状に纏めて薄く化粧してピンクのルージュを塗った姿は妖艶な妖精を思わせた。


恐らく世の男どもを虜にする事だろう。


「どうかしら?マーロウ」


軽くドレスの裾を摘んでみせるステファン。


その仕草を取っても美しかった。


「・・・・とても綺麗だよ。ステファン」


私は仰々しい位に一礼して右手を差し出した。


「今宵は、私のような道化と一緒にディナーに行ってくれませんか?妖精の姫」


気障なセリフに態度を見せる私と同じようにステファンは膝頭まである裾を両手で摘んで会釈した。


元が付くが貴族令嬢であるため画になっていた。


「喜んで行きますわ。ミスター・マーロウ」


「恐縮でございます」


私はステファンの手を取り事務所を出て車庫に向かいミッドナイト・ブルーのBMW・ミニクーパーSに乗りレストランに向かった。


「ダーリンと外食なんて久し振りね」


ステファンは子供のようにはしゃいでいて、その横で私は本当に子供のような女性だと思った。


彼女と出会って早5年。


私も彼女も当たり前だが歳を取った。


5年の間、彼女は文句の一つも言わずに私と行動をして来てくれた。


何があっても傍に居てくれて、どんな状況でも私を支えて助けてくれた。


そろそろ、結婚を考えても悪くはない。


“伯爵様”からもステファンを放すなと言われた。


『あんな出来た娘は珍しい。放したら一生を後悔して過ごすことになるぞ。だから、何が合っても放すな』


重い言葉だ。


結婚と言う檻の中に彼女を入れるのは心が痛むが、私は彼女と一緒になりたい。


「・・・・ステファン」


私は意を決して口を開いた。


こんなムードの欠片も無い場所で告白するのも彼女に失礼だが、言わないといつ言えるか分からないから続けた。


「なぁに?」


「・・・・この仕事が終わったら・・・・・・・・・私の妻となってくれない?」


言った。


とうとう言ってしまった。


「・・・・・・・・・」


ステファンは無言だった。


こんな車内でのプロポーズに流石に呆れ果てたか?と思い、チラリと視線をやると大きな胸が顔を包んだ。


「ありがとう!!ダーリン!?結婚しましょう!?」


前を素晴らしいバストで包まれて息苦しさと快感を感じながら、私は運転中だと思いだし勘でハンドルを切った。


ピィー!ピィー!


激しいクラクションの音がしたから、どうやらギリギリ交わしたようだ。


「ステファン。今は運転中だから放して・・・・・・・・!!」


私の言葉にステファンは慌ててバストを放した。


まだバストの感触が顔に残っている。


「ごめんなさい。嬉し過ぎて・・・・・・」


ごめんね、と二度謝るステファン。


「でも、嬉しいわ。私と結婚してくれるなんて・・・・・・」


「君ほど私を理解している女性はいないし、君ほど素晴らしく放したくないと思う女性は何処にも居ないからね」


「私も貴方ほど私を理解して、素晴らしい男性は何処にも居ないと思うわ」


互いに見つめ合い笑った。


「それじゃ、さっさと犯人を片付けて式場を探さないとね!!」


「えぇ!!」


頷くステファンを見てから私はクラッチを踏みサードからトップへと変えアクセルを踏んでスピードを上げた。


ギューン!!


猛々しいエンジン音がして勢いよくスピードは上がり夜の道路を走った。


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