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第十一章:女は強い

私たちは自宅へと帰り気絶した四人を取り合えず事務所に寝かせて美咲さんだけステファンの部屋に同席してもらった。


シャワーを浴びると急速な眠気に襲われて泥のように眠った。


久し振りの変身で疲れが溜まったのかもしれない。


次の日に目覚めたのは10時を回っていた。


客室に行くと四人は既に眼を覚ましていて私の姿を見るとアキヒサはどうしたのかと詰め寄ってきた。


「彼は無事だよ」


多少の手傷は追っているが敢えて心配させるような事は言わなかった。


「腹が減ってるだろ?今から朝食を作るから待ってなさい」


私は冷蔵庫から卵とハムに食パンを取り出してコンロに火を点けて調理を始めた。


「ああ。先に言っておくけど君らの女総長、美咲さんならステファンと一緒に寝てるから勝手に部屋に入らないようにね」


調理しながら四人に言っておく。


20分くらいで料理を作り終えテーブルに出す。


ハムエッグとフレンチ・トーストだ。


「食べていてくれ。私は少しステファンの部屋に行ってくる」


見た目からは信じられない位の上品さで食事をする四人に行って私はステファンの部屋へと向かった。


「ステファン。マーロウだ。入って大丈夫かな?」


どうぞ、と言われてドアを開けて中に入る。


中に入るとステファンはフラメンコの足を優雅に組んでベッドに座っていた。


美咲さんはベッドの下で正座をしていた。


二人とも毛髪が乱れて荒い息を漏らしていて、ついさっきまで喧嘩をしていたのが分かる。


「これは、どういう状態かな?」


何とも困った状態であるのは分かり切っていると私は心の中で思いながらステファンに聞いた。


「この子。アキヒサさんに会いたいって言ってるの」


「アキヒサに?」


ステファンの言葉に耳を疑ってしまう。


昨日の事を考えれば、アキヒサと会うのは嫌がると思っていたのに逆を言うとは驚いた。


「ダーリンの言いたい事も解るわ。昨日はあんなに怯えていたのに、今朝になって急に『おっさんに会わせろ』って聞かないのよ」


はぁ、と溜め息を吐くステファン。


「美咲さん。何で、アキヒサに会いたいんだい?」


私の質問に美咲さんは無言を通した。


「話せないなら彼には会えないよ。たぶん、もうあの家には居ない」


「・・・・じゃあ、何処に居るのよ」


苛立った口調で聞いてくる美咲さん。


「知りたいなら理由を言いなさい。これは取引だよ」


もしも喋るなら力にもなると付け加えた。


これに釣られたのか美咲さんは重い口を開いた。


「・・・・おっさんに一言、謝りたい」


「謝りたい?」


私とステファンは首を傾げた。


「あの時は、おっさんの姿に怯えた」


「それは仕方ないよ。あの姿を見れば普通なら怖がる」


彼女は人間だ。


異形の者を見れば怖がるものだ。


「でも!!おっさんは私を助けるために戦った。それなのに私は怖がって礼を言う事も出来なかった」


それが情けないと言う美咲さん。


「・・・・お願いだ。おっさんの居場所を教えて。会って謝りたいんだよ」


ポロポロと涙を流し頼み込む美咲さん。


「安心して良いよ。彼は家を出て行っても、まだ日本に入るよ」


私の言葉に美咲さんは何処に居るのと詰め寄ってきた。


「取引だって言ったでしょ?ちゃんと教えるし、力にもなるよ」


本当かと疑ってくる美咲さん。


「心配しないで。探偵は依頼人と信頼関係を大事にしているから」


先ずは顔を洗って飯を食べてからだよと言って私は二人に顔を洗うように言って新たに二人分の食事を作る為に再びキッチンへと向かった。


キッチンに行くと四人組は既に朝食を終えていた。


「美咲さんは?」


「ステファンと顔を洗ってる」


四人のうち一人の質問に答えて私は二人の朝食を作り始めた。


「彰久さんは何処に居るんだ?」


「たぶん山だね」


『山?』


四人は口を揃えて首を傾げた。


「山で獣を狩っていると思うよ」


四人は獣を狩る?とまたしても首を傾げていた。


「彼は商人であり有名な猟師でもあるんだよ」


武器商人であるアキヒサは有名な冒険家でもあり猟師でもあった。


日本では名前を知る者は少ないが世界では有名だ。


アラスカを一人で横断しアマゾン奥地をナイフ一本で生き抜いたりと無茶苦茶な冒険をしてきた。


まぁ、ウールヴヘジンである彼だからこそ出来るのだが。


四人組はアキヒサの別な顔を知り妙に納得していた。


「猟師なのは解ったけど、どうして山で狩りをしているんだよ」


「昂った心を山に入って抑えるためだよ」


山は彼にとって住み慣れた家みたいなものだと言った。


「アキヒサは北欧諸国の広大な山々で狩猟をしてきた。北欧諸国の山は世界各国の中でも群を抜いて広大だ。アキヒサはそれを見て山に魅せられたんだ。だから、気持ちが昂ると山に籠って心を静めるんだ」


まぁ、山でなければ女を抱いていると思うが、未成年の彼らに言う必要はないと思い言わなかった。


「ステファンと美咲さんがもう直ぐ来ると思うから食器を片づけてくれ」


四人は解ったと言って食器を片づけ始めた。


不良の割には他人の言う事も素直に聞くし更生の余地は幾らでもあると思った。


五分くらいするとステファンと美咲さんが現われた。


美咲さんは昨日着ていた白い特攻服ではなくステファンが持っているジーパンとブラウスを着ていた。


ステファンの方も山に彼が居ると解っているのかジーパン姿だった。


「山に行くんでしょ?」


「うん。たぶん今は白神山地か赤石山脈の山小屋で鹿か鳥を撃ってるんじゃないかな?」


ステファンの質問に答えながらフライパンを器用に動かして目玉焼きを焼く。


「山?おっさんは山に居るのか?」


美咲さんが聞いてきた。


「その辺は四人に聞いた方が速いよ。彼らには話したから」


美咲さんは四人に聞き始めた。


四人は検圧に戸惑いながら答え始めた。


「おっさんが猟師・・・・・・・・」


美咲さんはアキヒサのもう一つの顔に驚いていた。


「さぁ、出来たよ。しっかり食べて体力を着けないとね」


ステファンと美咲さんの分を作り終えると自分の分はトーストだけを焼いた。


「白神と赤石どっちかしら?」


立ったまま紅茶を飲みながら聞くステファン。


「恐らく赤石だね。あっちには彼の山小屋があるから」


なるほどとステファンは言って紅茶を一口飲んだ。


「山に行くとなると私たちも猟銃を持って行く?」


「そう、だね。そうしようか」


私は頷くとトーストを齧ったまま立ち上がりライフルを仕舞っている自分の寝室へと向かった。


ダイヤル式の鍵を開けて金庫に入っていた猟銃を取り出す。


私の愛用しているのはレミントンM700BDLボルトアクション式ライフルだ。


M700をカスタムしたライフルで長い年月を共にしてきた。


ステファンが使用する散弾銃はロンドンの老舗ライフルメーカー、ホーランド・ホーランド社の水平二連式散弾銃だ。


王室御用達のライフルメーカーで彼女の父が生前に残した唯一の形見でもある。


弾をポケットに詰め込んだ。


本当なら弾とライフルは別々にするのが、法令で定められているが私には法律など関係ない。


トーストを半分まで食べながらボルトをコッキングさせて始動するか確かめてホーランドの方も上下させて確かめた。


ライフルを準備して部屋を出てキッチンに行くと既にステファンと美咲さんは朝食を終えていた。


「はい。ステファン」


ステファンに二連式散弾銃を渡す。


「ありがとう。ダーリン」


礼を言いながら自分で操作して確かめた。


私は箱型弾倉にウィンチェスター357マグナム弾を込めた。


五人は私たちの様子を黙って見ていた。


五分ほどで準備を終えて私たちはクルーザーから出て車に乗り込んだ。


ミニ・クーパーSではなく大学に行った時のFX4、ロンドン・タクシーに乗って、だ。


エンジンを始動させてロンドン・タクシーを発進させた。


「これから行く所は獣も出るし毒蛇も居る山奥だから気を付けなよ」


後ろの五人に忠告しておく。


「その赤石って山はどんな所なんだ?」


リーゼント頭の青年が質問してきた。


「長野県、山梨県、静岡県に跨って連なる山脈だよ。通称は南アルプスって呼ばれていて古くから猟で生計を立てている人たちが居る場所だよ」


今では猟で生計を立てる者は少ないが、稀に猟だけで生計を立てている者もいる。


「まぁ、かなり山奥だから二、三日は掛ると思うから覚悟しておいた方が良いよ」


四人は顔を顰めたが、美咲さんは覚悟していると言った。


こういう時に女は強いと思う。


好きな相手に会う為なら、どんな試練も乗り越えられる。


それに比べて男は軟弱だ。


「・・・・君ならアキヒサに会えるよ」


彼女の覚悟を私はしっかりと受け止めて答えた。


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