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第九章:獣の雄叫び

狙撃者を殺した私たちは下へと降りた。


コンクリートで作られた無機質な階段を降りて行き鉄で出来た扉を用心しながら静かに開けた。


ギギギギ


錆び着いた音を出しながらドアが開いた。


私が先に行きウィンチェスターM73ランダルを前方に出して警戒しながら部屋に入りステファンが中に入った。


部屋の中は贅沢な家具で埋め尽くされているが、同時に拷問器具などと言った変態的な物まであった。


「・・・随分と良い趣味してるな」


随分と変態な悪魔だなと思いながらアキヒサを探した。


しかし、何処にもアキヒサの姿はなかった。


あるのは贅沢な家具と変態な拷問器具、そして・・・・・・・派手に崩れたコンクリートの壁だ。


何か強い力で崩された感じだった。


「・・・・・・・・・」


妙に嫌な予感がした。


「ダーリン。女の子が一人いるわ」


ステファンが崩れた壁とは反対側の壁で気を失っている娘を介抱していた。


気を失っているのは赤髪のロングに白い特攻服を着た20歳くらいの娘だ。


「この子が美咲さんだな」


私は確信しステファンに彼女を起こすように促した。


ステファンは心得ているのか首の辺りを押して彼女の意識を覚醒させた。


「う、んん・・・・・あんた達は誰?」


彼女は目を覚まし疑いの眼差しで見てきた。


まぁ、疑われて当然だ。


「君は美咲さんだね?私はマーロウ。アキヒサの友人だよ」


安心させるように笑った。


「アキヒサ・・・・・おっさんは?おっさんはどうしたの?!」


おっさんとは随分と言われているな。


しかし、38歳だからおっさんと言われても仕方ないのか?


「それはこっちが知りたい。あの壁はどうしたんだい?」


指で崩れた壁を指す。


「あれは私に注射をしようとした男が、おっさんを投げ飛ばしたんだ」


注射と聞いて私は部屋を見て粉々に砕けた注射を発見した。


「・・・・ヘロインか」


注射を持って臭いを嗅いで純度の高いヘロインだと分かった。


これを一本でも身体に打たれたら直ぐに麻薬の虜になる。


麻薬の中でも強い効果を持つヘロイン。


ヘロインを覚えたら地獄だ。


思い切って止めるか死ぬまでヘロインの餌食となるかの二通りしかない。


アメリカで麻薬と戦う人間と麻薬に溺れる人間を何度も見てきた。


恐らく彼女にヘロイン入りの注射を打とうとした所をアキヒサが駆け付けて止めたが、悪魔に投げ飛ばされたと言った所だろう。


私は片膝を着いていたが、立ち上がった。


「ステファン。彼女を頼む。私はアキヒサを助けに行く」


分かったわとステファンは頷いた。


「待って。私も行くっ。おっさんが心配だ!!」


背を向けた私を美咲さんがコートの裾を握って叫んだ。


見た目からは想像も出来ない可愛らしい事を言う美咲さん。


「危険だよ。それに、知らない方が良い」


私は極めて冷静で冷徹な声色で言った。


彼の姿を見たら、彼女は目を見張ると思った。


微かに臭った獣の臭い。


それは・・・・・アキヒサが変身した事を意味している。


その姿を見れば彼女は悲鳴を上げるに違いない。


それを私は避けたかった。


アキヒサの為にも彼女の為にも・・・・・・・・


「あんたに言われる筋合いはない。私は、彰久を助けたいんだよ!!」


悲痛な叫び声を上げる美咲さん。


まだ会って間もないが、彼女が心からアキヒサを助けたいと思う気持ちが伝わってきた。


「彰久は私を助けるために戦っているんだ。それを尻目に逃げるなんて嫌だ!!」


微かに見えた涙に私の心は揺れた。


「ダーリン。私からもお願い」


ステファンも嘆願してきた。


同じ女として美咲さんの気持ちが理解したのだろう。


「・・・これを持って」


私はイングラM10を美咲さんの前に出した。


美咲さんは一瞬だけ目を見張った。


「・・・・自分の身は自分で守りなさい」


美咲さんは何も言わずに奪い取るようにM10を持った。


その表情は何処か決意した様子だった。


「・・・・私に着いて来なさい」


私は先導して崩れた壁を通りアキヒサの気が感じる方向に向かった。


その後をステファンと美咲さんが追ってくる。


アキヒサの気を追っていると不安が確信へと変わってきた。


彼は変身して悪魔と戦っている。


それも本能を剥き出しにして・・・・・・・・・・


『・・・・“伯爵様”。どうかアキヒサを助けて下さい』


ここで神に祈るのが普通だろうが、私にとって神などよりも“伯爵様”に祈る方が自然だった。


神など所詮は役に立たない。


祈っても助けず、ただ傍観するだけの神。


そんな神に祈るより手を差し伸べてくれる“伯爵様”の方が祈り甲斐があるというものだ。


暫く走っていると何かが落ちていた。


アキヒサが持っていたヴァルメRk62だった。


弾は半数が残っていて全弾を撃つ前に落としたようだ。


あちらこちらに弾痕があり壁が破壊されていた。


何か強力な圧力などで壊されていた。


「・・・超音波の類か」


厄介な事だ。


私はヴァルメを背中に掛けると走り出した。


ステファン達も後を追って来た。


気を頼り追っていると壁などが進む事に凄まじく荒れてくるのが解った。


暫く進んで行くと何やら激しくぶつかり合い物が激しく壊れる音と獣の雄叫びが聞こえてきた。


ガゥゥゥ!!


ガシャン!!


ウゥアァウ!!


ドンッギシャ!!


「・・・・油断しないように」


ステファンと美咲さんに言いながら私は緊張して汗を流す手でウィンチェスターを握り直した。


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