第96話 魔王フェンとの戦い2
深夜。エクレア王国の王宮から、抜け出す二つの人影があった。
「本当にコッチで大丈夫なの、ナキ?」
「心配要りません。アミ様、どうぞこちらに」
アミ王女と親衛隊隊長の女騎士ナキ。二人が王宮より国外へと逃走を謀っていた。
「ったく!何で私がサディ王子みたいなド変態と結婚しなくちゃならないのよ!」
母親であるナーム女王により、無理矢理結婚を決められたアミは、国外への脱出を決意。腹心のナキと共に、王宮の外へと逃げ出すところである。
ナキの案内により、無事に港に到着。あとは国外へと逃げ出す手筈なのだが、ナキがその場で立ち止まる。
「申し訳ありません、アミ様。これより先は、アミ様のみでお願いします」
「はあっ?どうしたのよ、ナキ!一緒に国外に逃げるんでしょ⁉︎」
「その予定でしたが、私も親衛隊隊長の座を失うのは今更ながら、どうかと思いましてね…」
「ちょっと…まさか、私を裏切ろうって言うの⁉︎今まで散々、可愛がって上げたのに!」
「はい、とても可愛いがって貰いました。主にベッドの中で。しかし、私は可愛がられるより、可愛がる方が趣味でして…残念ながら、アミ様とはここでお別れです」
まさかの腹心の裏切り。激昂するアミであったが、怒っている暇は無い。踵を返し、一人船へと乗り込んだ。
「覚えらっしゃい!いつかこの国に戻って来た時には…」
と、そこで言葉が止まる。何故なら、船内には水夫と共に、見慣れた顔があったからだ。
「どうしたの、アミ?こんな夜更けに…まさか逃げ出そうって言うんじゃないでしょうね?」
ナーム女王が冷たい笑みを浮かべる。断じて、我が子に向けるべき笑顔では無い。
「ど、どうしてママがここに…」
「ナキに裏切られたのだから、私に通報されてる事ぐらい理解しなさい。まあ、丁度いいわ。この船はプチプリン王国への直行船。サディ王子がお待ちしてるわよ」
「嫌よ!何で私がド変態のサディ王子の…ゲフッ⁉︎」
ナームの膝蹴りが、アミの腹部にめり込んだ。結婚前に顔を傷付けない、その為の配慮であろう。
しかし、ナームは高性能な装備品を身に付けていた。ステータス値がSランク冒険者並みになる程の、優れた装備品。それによる膝蹴りだ。アミはその場に倒れ込み、腹を抑えてのたうち回る。
「母親との最期の別れに、ゲロをぶちまけながらとは…やはり、子育ては失敗したようね。サディ王子にしっかり、教育してもらいなさい」
「いや…やめて…助けて…ママ…」
アミの懇願はナームに届く事はなかった。水夫に捕縛されたアミは猿轡をされ、そのままプチプリン王国へと船は出航するのであった。
◆
無限思考によって策を練ったダンから、対魔王戦に向けて作戦が告げられる。
『では、まず…ワーウルフの一団は、ウルちゃんを残して我々とは別行動にします!』
戦力の二分。これがダンの最初の作戦だ。
折角の戦力を二分化するのは、流石にどうかと思うパイから、質問がなされる。
「ワーウルフの一団は結構な戦力よね?二分化して戦力を分けるのは、本当に大丈夫なの?」
『確かにリビングウエポンの甲冑で強化すれば、戦力としてはかなり頼もしいけど…それを作る為のDPが足りないからね。せめてDPを貯めるだけの、時間的猶予があれば別なんだけど…』
「強化できないから、戦力を二分化して魔王フェンの目標を分散するって事?」
『うん。本当は魔王狩りの暗黒騎士セイによって、とっくの昔に打ち倒されてるのが一番なんだけど…』
「ああ、確かにそうね。暗黒騎士セイも魔王狩りの異名を持つ魔王だし、魔王フェンを倒してるかも知れないのね」
『それでも、倒されてない事を念頭に策を練りました。まず、二分化するハスキ達、ワーウルフの一団には…他の魔族の領地へと赴いて貰います』
ハスキ率いるワーウルフの一団を、他の魔族が治める領地へと、五日間かけて逃す。これによってウルとハスキ達を分断。つまり、フェンの狙いをも分断することになる。
もし、魔王フェンがウルを狙うなら、このままこのダンジョンに向かうはず。
逆に皆殺しを考えてハスキ達を狙うなら、他の魔族の領地内で戦闘になり、その領地の魔王と揉める事になる筈。
他の魔族を強制的に戦火に巻き込み、時間稼ぎとダメージを負わせる、一石二鳥のアイディア。その領地の魔王には恨まれるかも知れないが、この際それは気にしてられない。
他の魔王にフェンを無理矢理倒してもらえれば、ダン達にとって何よりも朗報。生き残ったハスキ達はここに戻って来て、平和に暮らせるって寸法だ。
『十中八九、魔王フェンはウルちゃんを目指して来ると思います。つまり、ハスキ達ワーウルフの一団は襲われないと思いますが…』
「なら我々も残って戦います!わざわざ二分化しなくても…」
ダンの策にハスキが異を唱えるが、それを受け入れる事はなかった。
『我々が全滅したら、誰がその仇を取る?生き残るハスキ達だろう?万が一、我々が全滅した時の為に、戦力は分けておく。これは決定事項だ』
「…突然やってきた我々の為に、過分なる御心遣い感謝いたします。しかし、それではダン様達は…」
『ウルちゃんの為だ。やるだけやって無理なら、死を受け入れるまで。それより、時間が無いから出立の準備を早くしてくれ』
ダンに急かされ、ハスキ率いるワーウルフの一団は荷物にならない程度の食料を用意し、準備を完了させた。
『では、こちらの準備が整ったことだし…健闘を祈る!』
ダンはエクレア王国の王都から少し離れた場所に、ハスキ達ワーウルフの一団を転移ゲートで送り出した。
そしてダンジョン技の壊死を使って、ハスキ達のいる所をただの洞窟へと変貌させる。
穴を掘り、外に出たハスキ達は打ち合わせ通りに、他の魔王の治める領地へと向かうのであった。
『次はこちらの番だな。ダンジョンの形を大幅に変更…よし、これで完成だ!』
ハスキ達を見送った深夜、魔王討伐に向けた、新たなるダンジョンの形が完成した。
残り五日。勝てる見込みなど、僅かでありながらも…その僅かな可能性に賭けて、ダン達は魔王と対峙する事となる。
全滅か。魔王討伐か。その結果は、すぐそこまで迫っているのであった。




