第92話 壊死
海賊島。そこで繰り広げられる惨劇に、なす術のない聖百合騎士団。その副団長のヤンが目の前の地獄絵図に、ただただ驚愕する。
「あり得ない…何なんだ…コレは…」
島の住人である、女海賊300名。この辺りの海域を荒らし回る、悪名高い海賊団だ。それら全てを、たった一本のマグナムの無双によって壊滅されたのだ。
更には、海賊団殲滅に乗り込んで来た聖百合騎士団500名までもが壊滅。あり得ない現実に、ヤンはワナワナと震えている。
「ユリは…ユリはこんなところで、マグナムの無双を受ける様な女じゃ無いんだ!なのに…」
ヤンの目の前には体液に塗れた女海賊と女騎士達が、死屍累々として倒れている。
その中に、聖百合騎士団のカリスマであり、比類無き乙女と謳われた団長のユリも倒れている。裸で、体液に塗れ、更には…アヘ顔ダブルピースで!
女としての喜びを叩き込まれたユリは、とても幸せそうにアヘ顔ダブルピースをしている。かつてのカリスマなど、見る影も無い。
だがヤンとて、マグナムの無双を体験した一人である。その威力の凄まじさを知る者であれば、ユリを責める事は出来ない。
女であれば、誰もが太刀打ち出来ない…それが30cmマグナム!
すでに聖百合騎士団は全滅。ヤンも腰がガクガクと震えて、力が入らない。だが、それでも立ち上がろうとする。被害を最小限にする為に…。
「立てる者は私に続け!この島を脱出しなければ、更なる惨劇が待ち受けているぞ!」
ヤンの呼び掛けに、何とか立ち上がる者は…僅か20名。それでも、船を動かす為の最低人数としては、充分な数だ。
船に乗って海賊島からの脱出。ヤン副団長と20名の団員によって、命懸けの撤退が行われる事になった。
体液に塗れた裸の身体を引きずりながら、ヤンと20名の団員は何とか船へと到着。そして出航の準備が整うと、一人の団員から報告が上がる。
「ヤン副団長!マグナムです!マグナムが追って来ます!」
団員の指差す方向には、カッチカチのマグナムが物凄いスピードで迫っていた。
「急げ!急いで岸から離れるのだ!」
ヤンの指示に従い、急いで船は岸から離れた。しかし、時すでに遅し。岸から離れる間際、ジャンプしてマグナムは船に乗り込んでいたのだ。
船に乗り込んだマグナムと対峙するヤン。だが、不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ!引っかかったな!我々はただ、逃げるのでは無い!貴様を団長達から引き離す為に、敢えて船で逃走を試みたのだ!見ろ!岸からこれだけ離れれば、もう戻れまい!」
聖百合騎士団が帰還しなければ、本国から新たなる調査団が送られて来る事だろう。
恐らくは聖百合騎士団の予備兵である、新人の少女達。そう、男を知らない新たなる贄が、マグナムの元へと送られて来るのだ。それだけは何としてでも阻止したい。
その為、ヤンは船による逃走を決意。上手く逃げ出し、本国に帰還できれば、マグナムの情報を伝える事ができる。
仮にマグナムが追って来て、船に乗り込むのであれば、海賊島から引き離せばいい。
どちらに転んでも問題は無い。そう判断したヤンであったが、団員の一人が疑問を提示。
「あの…ひょっとして、私達だけであのマグナムの相手をしなければならないのでは?」
…確かにそうなる。船内という限られたスペースにて、マグナムの相手をするのは僅か21名。幾ら何でも少な過ぎるだろう。
青ざめた顔をするヤンと20名の団員。だが、そんなことはお構い無しにと、マグナムは再び無双を繰り広げる。
聖百合騎士団、21名を乗せた船から歓喜にも似た奇声が轟く中、船はゆっくりと大海原へと消えていくのであった。
◆
水に満たされたミミズの巣ダンジョン。その水面に泡がブクブクと出始めると、水中からパイが顔を出した。
「どう?槍で突っつかれた調子は?」
パイは陸へと上がり、手に持っていた槍を振り回しながらダンに聞くが、その答えは芳しく無い答えだった。
『お疲れ、パイちゃん。残念だけど、その槍で攻撃されたらDPが僅かにだけど、消費しちゃったよ。やっぱり水圧がかかる状態だと、ダメージを受けるみたいだね』
「私の一撃でダメージを受けるとなると、対策を練らないとダメみたいね」
ダンがダンジョンの性能について調べる為に、パイの協力を得て色々と実験を繰り返していた。
今は水圧のかかる状態で壁に攻撃をした場合、ダメージを受けるかどうかのチェック。更に、魔法を使う者がこの罠をクリア出来るかのチェックも、並行して行われていた。
パイはクナイ型のリビングウエポンのクナ次郎による魔法、エアシールドを展開し、深さ100mのミミズの巣ダンジョンに潜っていた。万が一の事も考え、ダンジョンモンスターのマーメイドを付き添わせて。
そういった実験を繰り返し、昼を過ぎた頃にはパイがコアルームへと戻って来た。
「ずっと部屋でくつろいでるのも、運動不足だったからね。今日は良い運動になったわ」
『おかえりパイちゃん。運動不足なら、この触手の相手をするのも、アリなんじゃ…』
「で?結果はどうなのよ?」
ダンの触手は無視して、パイは結論を聞く。
『うーんとね、結果としては…魔法を使える上位冒険者だと、水を張ったミミズの巣ダンジョンは攻略されそうだね。今まで攻略されなかったのは、相性とかが関係してたかも』
未だに一度も突破されたことの無いミミズの巣ダンジョンであっても、ダンとパイは油断していなかった。
たった一度の油断が命取りになると、経験からそう、感じ取っていたからだ。
そんな実験結果を聞きながら、パイも自分なりの実験結果を述べる。
「リビングウエポンのクナ太郎とクナ次郎。【読心】のスキルがあるから、念じれば指示に従うけど…触れていないと難しいわね」
【読心】のスキルは対象に触れて心を読み取るスキル。触れていない状態だと、著しくスキルの性能がガタ落ちする。
離れた所にいる敵が殺気を放てば、それを察知して対応は出来る。しかし、綿密な指示をするには、直接触れていないとダメなのだ。
「まあ、念じなくてもクナイが声の届くところにいれば、問題無く指示はできるけど…敵にこちらの動きが筒抜けになるからね。その辺のデメリットも考えものよ」
パイからの考察を聞き、ダンも思案する。
『クナイに紐を付けてもいいけど、それだと目立つからね。極力、目立たずに攻撃するには…やっぱり、今のままが一番かも』
そんなやり取りをしながら、二人はダンジョンの新たなる改革を話し合う。
ある程度煮詰まったところで、ダンから提案が持ち上がる。
『そう言えば、ビコーちゃんとアンちゃんが嵌った罠の、ロング横穴。あれ、塞いでもいいかな?二人にとって思い出の罠だから、残したいなら残すけど…』
その提案にビコーとアン、二人は塞ぐ事を支持。
「いらん!目障りだ、あんな罠!」
「トラウマですから、無くなる事に賛成です」
ビコーとアン、二人とも塞ぐ事に賛成だ。と、そこでパイが疑問に思う。
「あの横穴は拡張するのに1万DPは使ったんでしょ?だったら、縮小させるのにも、同じDPが消費するし…塞ぐのは勿体無くないかしら?」
『あ、それなら大丈夫だよ。実はある、裏技を発見したから!』
ダンが自信満々に語る裏技。それは【壊死】と名付けた、新たなるダンジョンの技である。
『この【壊死】って技でね、色んな活用が出来ちゃうの!その活用の一つが、縮小に使うDPの節約。1万DP使って拡張した部分を、少ないDPで縮小が可能になるんだよ!』
ダンはモニターで全体図を表し、そこで説明。
『このコアルームのある場所をA地点。ロング横穴をB地点。エクレア王国の地下の部分をC地点とします。全てが一本の道として繋がってますが、ここに転移ゲートを設置します』
そう言うと、A地点とC地点とを繋ぐ転移ゲートを設置。
『これでA地点とB地点とを繋ぐ部分の道を、切り離す事が可能になりました。この転移ゲートの設置が無いと、切り離しは出来ないからね。んで、今度はこの転移ゲートに、王宮から盗んできた魔力を封じる封魔のマントを置いて塞げば、切り離したB地点とC地点のある部分が壊死して、普通の穴になる…はず、なのです!理論上は!』
「はあっ⁉︎どう言う事よ、それ?」
『これが【壊死】!ダンジョンの一部をを切り離して、魔力の供給を止めて、無理矢理ダンジョンでなくす裏技!これを駆使すれば色んな活用ができるでしょ?』
「確かに凄そうだけど…でも、再び王都の下に行くのはどうするのよ?また、横穴を貫通させるの?」
『いやいや、そんな面倒な事はしませんよ!この切り離してあるB地点とC地点、これも同じ様に二つに分けます。んで、真ん中の横穴であるB地点のみを壊死させれば、残ったA地点とC地点だけでダンジョン運営ができます!』
「ああ、なるほどね。これで無駄な横穴を削除する事が出来るんだ。それに王都より先にダンジョンを広げるなら、C地点が残ってるから簡単に広げられるってわけね」
『そう言うこと!塞ぐ横穴はただの横穴になって、地中に穴が空いたままになるから、土をダンジョン内に貯めてから壊死させるけどね。でも、何も埋めずに壊死させたら、どうなると思う?』
「…かなり、ヤバイ罠が作れるわね?いや、罠どころか国を滅ぼせるんじゃない?この【壊死】って裏技は?」
『はい、御明察!流石はパイちゃん!つまり、DPが貯まればエクレア王国の王都を滅ぼせる程の、破壊力のある裏技なのです!』
その発言にパイは満足そうに頷くが、ビコーとクギーは別の反応を示した。
「ちょっと待て…本当に、エクレア王国を滅ぼすのか⁉︎」
「幾ら何でも…それはやり過ぎでは?」
心配する二人に、ダンは安心させる様、答える。
『ああ、心配しなくて大丈夫だよ!無辜の民を虐殺する気は無いからね!だって可愛い女の子がいるかも知れないのに、そんな事は出来ないでしょ⁉︎』
その発言に二人は安堵する。確かに、ダンが可愛い女の子を虐殺するとは思えない。
しかし、パイはどうだろうか?二人は気になり、パイに視線を向けるが、パイもダンと同意見であった。
「私もそんな虐殺なんかしないわよ?だってダンが嫌がるじゃない?女の子を殺すのはね。まあ、それに似た様な事は、するかも知れないけど…」
一応、パイも虐殺はしないと言ってくれた。だが、気になるのは似た様な事だ。それが何なのか…二人は怖くて聞き出せなかった。
恐らく、近いうちに何らかの、虐殺に似た行動を取るのであろう。青ざめる二人であったが、パイは気にせず、壊死の効果を見ている。
『では…行きます!』
ダンの掛け声と共に、土の詰まったロング横穴が壊死する。これでロング横穴による消費DPも無くなり、コストの削減が成功した事になる。
『うん、成功だね!』
「確かに成功したけど…これって逆に、ダンジョンを殺す技にも使えない?」
『目ざといね、パイちゃんは!でも、大丈夫!封魔のマントで塞がれても、力技で何とかなるから!』
「力技でって事は、無理矢理魔力を繋げるの?」
『うん。でも、それには消費DPが増えるから、出来る事ならばやりたくは無いんだけどね。今回の実験は抵抗しなかったから、壊死したの』
「そう。いらぬ心配だったみたいね」
『心配だったら幾らでもしてちょーだい!無視されたりするの、本当に辛いもの!』
「それより、他にやることは?」
『あ、うん。実験も済んだし、後は王都の下にある空間で情報収集を…ん?誰かが…呼んでる?』
酒場の下に延ばしてある部分から、声が聞こえて来る。
「…迷宮族の方、お願いがあります。聞こえていたら、返事をお願いします!」
何者かが、床下にあるダンジョンの存在に気付き、声をかけているのだ。
突然の呼び掛けに、狼狽るダン達なのであった。
これを予約投稿したのが2020年2月25日。運営からのクレームのお陰で、かなりペースダウン!
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腹が立ってもメリットは無いので、気を取り直して執筆再開。さて、三ヶ月後はどこまで書けてるだろ?最終回まで書けてるといいけど、まあ無理でしょう。
( ̄▽ ̄)




