第82話 闘技場エリアの戦い
ダンジョンの入り口を降り、その先にある三本の道。その先に進む冒険者の末路は、この様な形に執り行われた。
・スカーフェイス→真ん中の道→水エリア→溺死予定
・百花繚乱→右の道→オーク部屋エリア→凌辱予定
・ブルーハイエナ→右の道→迷路エリア→矢による刺殺予定
・ヌンチャク使いのヌン→右の道→闘技場エリア1→ビコーとバトル
・暗器使いのアン→左の道→ロング横穴→水責めによる捕獲予定
・双子の冒険者フーとタゴ、肉便姫、イージス冒険団、マジカルアロー→左の道→毒ガスエリア→ 影豚によって捕獲完了
・毒針使いのドク→左の道→闘技場エリア2→クギーとバトル
『さあ〜て!それでは観戦と行きましょうかね!』
そう言ってダンは、モニター二台でビコーとクギーの戦闘を観戦する事に。
パイもソファーに座り、悠々とお菓子をかじりながら観戦。
◆
「お待たせ。私があなたの相手だよ」
闘技場エリア1に到着したヌンチャク使いのヌンの元に、転移ゲートを使ってビコーが登場。全身を甲冑で包まれている為、その姿は確認できないが、佇まいからそれなりの実力者である事は窺える。
「なるほど。一本道を進んでいたのに、突然他の冒険者が居なくなったのは、俺様とサシで勝負する為に分断を謀ったって事か?」
ヌンは警戒心を緩めず、ビコーに問いかける。ビコーもヌンの問いかけに、素直に答える。
「ああ、その通りだよ。で、あんたと私は、戦わなくちゃいけない運命にあるんだけど…一つ聞きたい。何でこのダンジョンに来たの?どれだけ危険なダンジョンか、分からないほど馬鹿じゃ無いでしょ?」
「勿論、金と名誉の為…と、言いたいところだが、それだけじゃねぇ。戦友のヤーリとオーノ、二人の弔いの為に来た」
「…そう言う男、嫌いじゃ無いよ。一応、ダメ元で聞くけど、こちら側に付かないかい?ここのダンジョンマスターは命乞いをする奴には甘そうだから、今すぐ降参すれば死ななくて済むかもよ?」
「弔いに来た者に命乞いを勧めるか?舐められたものだな…」
「ああ、すまない。殺すには惜しいと思ったから、ついね」
「御託はそれだけか?言葉で語るのはもう、いいだろう?」
「そうだね。つまらない事を言って申し訳ない。それじゃあ…行くよ!」
ビコーとヌン、二人が一瞬で姿を消した。常人では目で追えぬ程の、凄まじい超スピード。
徒手空拳のビコーに対し、二本のヌンチャクを華麗に操るヌン。二人の攻防は若干、ヌンが有利。
徐々にヌンのヌンチャクのスピードが上がっていく。
「どうした?口先だけか?このヌンチャクをかい潜って攻撃が出来なければ、ジリ貧だぞ?」
ヌンの挑発にビコーは何も答えず、ただ防御に徹する。
その防御に徹したビコーに、ヌンは情け容赦無くヌンチャクを浴びせ…そして、ついにクリーンヒット。ビコーの腹部にヌンチャクが炸裂する。
「ぐふっ⁉︎」
吹き飛ばされるビコー。だが、ヌンチャクの追撃は終わらない。
壁に叩きつけられたビコーを、更なるヌンチャクの殴打が攻め続ける。
ビコーの甲冑にはみるみるヒビが入り、そのヒビからビコーの血が吹き出し始める。
「…とどめだ。安らかに眠れ」
ヌンがビコーの頭上から、渾身の一撃を振り下ろす。だが、その一撃は空を切り、地面を殴打する。
「なにっ⁉︎消えただと!どこへ行った⁉︎」
突如、目の前から消えたビコー。その姿を確認できたのは、遙か後方である。
一瞬にしてヌンと距離をおいたビコー。更に、ボロボロに傷付いた甲冑が徐々に修復されていく。
「ふう…凄い猛攻だね。流石はSランク冒険者。生身だったら瞬殺されるところだったよ」
「…貴様のスピードもな。どの様な手品を使った?それに甲冑も…あり得ぬスピードで修復されていくではないか!」
「ああ、すまないね。格下の私があなたと戦うには、この甲冑の力が必要だったんだよ。ネタバラシをすれば、この甲冑はリビングウエポンの甲冑。更にダンジョンマスターの力によって強化された、常軌を逸した甲冑。Sランク冒険者のあなたを瞬殺出来るほどの性能…のね」
「世迷い言を…貴様ごときが俺を瞬殺するだと⁉︎」
「ああ、こんな感じでね」
その言葉を吐いた瞬間、ビコーは一瞬でヌンの懐へと潜り込み、顎に手刀を一閃。
脳を揺さぶる攻撃に、ヌンはその場に崩れ落ち、ヌンチャクを手放してしまう。
地面に落ちたヌンチャク。それはすぐにダンが回収して、地面へと吸い込まれていった。
これによってヌンは武器を失った。そう、勝負は一瞬にして着いてしまったのだ。
「冥土の土産に教えて上げる。このふざけた戦闘力を持つ甲冑は、まだ試作品の段階。それでSランク冒険者を瞬殺できるんだ。完成したら、どれだけの戦闘能力になると思う?」
ビコーの質問に、脳震盪を起こしているヌンは答えられない。なので、そのままビコーは続ける。
「リビングウエポンの持つスキル【装着】は、リビングウエポンの能力を装備者が使いこなす事が可能になる。つまり、私の身体能力は、これによって向上したんだ」
「……」
「どれだけスピードが出るのか?どれだけの防御力か?更に修復力、攻撃力を調べる為に、戦わせて貰った。すまないな。命を懸けた戦いで、装備品の確認なんぞをしてしまってな」
「……」
「更に…ここからが問題だ。この甲冑は条件さえ満たせば、ここのダンジョンマスターは幾らでも増殖させる事が可能なんだ。分かるか?既に、人間が逆らえる状況下には無いんだよ」
「……」
「お前程の男を殺すのは惜しいが…ここは戦場だ。次に生まれ変わるときは…可愛い女の子になってこい。それなら、死ぬ事は無いだろうからな!」
そう言ってビコーの手刀がヌンの心臓へと突き刺さる。口と胸から血が吹き出すヌンは、そのまま後ろへと倒れ込み、すぐに地面へと飲み込まれて行った。
「…本当にヤバいな、この甲冑は。完成すればSSランクをも凌駕するんじゃ無いか?」
勝利の余韻よりも、ダンが作り上げた恐るべき甲冑の威力に、戦慄するビコーなのであった。
◆
『おお〜やっぱり瞬殺できるのか!それに修復力の確認もできたし、これでSランク冒険者対策は万全だね!』
「これでビクビクしなくて済むから、枕を高くして寝れるわね。それと、闘技場エリア2の方も決着がつきそうよ」
ダンとパイ、二人が闘技場エリア2をモニター越しに確認する。
◆
「…申し訳ないですね。この甲冑の力がこれ程とは、思いませんでしたよ」
ビコーと同じ様に、リビングウエポンの甲冑に身を包むクギー。
その甲冑に対して毒針攻撃を繰り返すのが、Sランク冒険者の毒針使いのドク。だが毒針は一切、クギーには通用しない。
「くそっ!馬鹿なっ!あり得ねぇよ!何なんだ、その甲冑は⁉︎」
ドクもクギーの甲冑の異常さに驚きを隠せない。
クギーの体術のレベルから、実力のみで言えばBランク冒険者と変わらないと読んだドク。だが、実際に戦ってみて、その判断は一変。ステータス値が異常に高いのだ。
毒針を使いこなすドクであるが、それでも体術はSランク相応の実力はある。
つまり、体術のみで言えば、クギーを圧倒できる実力差があるのだ。
その実力差を埋めているのが、リビングウエポンの甲冑。状態異常を無効化させ、ステータス値を爆上げ…Sランク冒険者とは、遥かに実力が劣るクギーが、一方的に優位に立てる程の力を得たのだ。
「この様な反則技で勝つのは申し訳ありませんが…私も魔族に降った身。残念ながら、どどめを刺させて頂きます」
甲冑に身を包んだクギーがゆらりと動く。
得意の毒針が一切効かないドクとしては、勝てる見込みがない。その為、戦闘からの離脱…そう、逃走を決意させた。
「すまねぇな。戦術的撤退をさせて貰うぜ!」
言うが早いか、ドクは煙幕玉を破裂させ、その隙に転移ゲートへと逃げ出した。
だが、それで逃げられる程、甲冑の力は甘くは無い。
クギーは大きな溜息と共に、必殺技を繰り出すのであった。
「…オッパイミサイル、発射!」
甲冑の胸部にある二つの山。クギーの巨乳を納める為の、峨々たる名峰。そこから白い粘液が放出された。
あたかも、神聖なる母乳の様に見えるが、それは敵を捕らえる為のスキル【糸縛り】だ。
逃げ出したドクに糸が絡まり身動きを封じるが、麻痺毒が効かない為に大人しくさせる事が出来ない。
「くそっ!何だ、この攻撃は⁉︎」
「どうですか?とてもアホな必殺技でしょう?こんなアホなギミックを嬉々として取り付けるのが、このダンジョンの主人です。アホな必殺技で死ぬのは辛いかも知れませんが、仕方ありません。この甲冑があらゆる毒に対して耐性があると、性能を調べる事はできましたし…では、安らかに…」
クギーの手刀がドクの心臓を貫く。ドクはヌンと同じ様に、口と胸から血を吹き出しながら、絶命。そしてダンジョンへと飲み込まれる。
「…実力で言えばBランク冒険者の私が、Sランク冒険者を圧倒。それも魔法も何も、得意な分野で戦わずに。…これで試作品の甲冑が、もし完成した甲冑になったら…どれだけドアホなギミックが追加されるのかしら?」
甲冑の性能。更には、ダンのアホなギミックに対して、戦慄を覚えるクギー。
どうせ私の甲冑には、特別に巨乳用のギミックを多々取り入れるのだと、悪い予感しかしない、クギーなのであった。




