第7話 新人冒険者専用依頼
「困った…。これが都会か…。なんて冷たい街なんだ!まさか、どの店も自分を雇ってくれないなんて!」
結論から言えば、ダンが十軒以上訪れた飲食店、その全てから雇用を断られた。女性客の多い飲食店を虱潰しに訪れたが、どこもダンの雇用を拒否。
仕方がないので従業員募集の張り紙が貼ってある、普通の飲食店を訪れた。それでもダンの容姿を見ただけで拒否。
心がへし折れたダンはトボトボと宿屋に戻り、今日一日を振り返る。都会での生活の厳しさ、それは俺の想像を遥かに超えていた、と。
「くそっ!くそっ!くそっ!俺の何がいけないって言うんだよ…」
何がいけなかったのか?答えは簡単である。それは…つけ過ぎた香水が、異臭を放っていたからである。
飲食店で働く上で、体臭がきついのは論外。可愛い女の子が多少の香水をつけるぐらいなら問題は無いが、ダンは男であり無駄に沢山の香水を振りかけている。
特にマグナムにはありったけの香水を振りかけたのだ。異臭を放つマグナムを見て、飲食店で働かせてくれる店があったら、余程の奇特な店長であろう。
寝る前に風呂に入り、ある程度臭いを落とした今なら雇ってくれる飲食店はあるかも知れない。
しかし、今日一日の面接で心の折れたダンは、飲食店での仕事は既に諦めている。飲食店以外での仕事を模索するのであった。
「飲食店が無理なら…他にどんな仕事があるんだ?」
ダンは頭を悩ませる。
「消去法で行けば危険な仕事は無理。田舎者で学の無い俺じゃあ、頭を使う仕事も無理。人脈も無いし、技能も無い。そうすると、残るは頭を使わずに…尚且つ、危険じゃあない、力仕事ぐらいか?でもなぁ…」
力仕事なら、元々炭鉱で働いていたダンには問題の無い仕事である。エクレア王国に来る時、船の積み下ろしの仕事のついでにここまで来れたのだ。港での荷運びなら問題は無い筈。それでもダンは荷運びの仕事に抵抗を覚えたのは、一緒に働く者たちにある。
ガチムキなマッチョな港で働く海の男達。そんな男達が、ダンのマグナムを見る目がとてもエロいのだ。二週間の船旅の中でも、貞操の危機を覚えるほどに…。
ダンは女好きだ。それも筋金入りの。そう、男色の毛など微塵としてあり得ない。
そんなダンの初めての相手が男であっては堪らない。もしも男の相手をするのなら、腹を掻っ捌いて自刃することであろう。
マグナムの初めての相手となる女を求めて王都に来て、女を知る前に男を知る。絶対にあってはならない間違いだ。
故に、力仕事も諦める。しかし、そうなると選べる仕事がない。
悩みに悩むダン。それでもなんとか結論を出した。悩んだ挙句、出した答えは…多少の危険がありながらも、夢のある仕事…そう、冒険者であった。
◆
翌日、ダンは王都にある冒険者ギルドに向かった。ここで登録を済ませれば、晴れて冒険者の仲間入り。
そしてダンも新人冒険者講習会を済ませ、受付にて登録を完了した。
「これで俺様も、ついに冒険者の仲間入りか…。危険な仕事さえ避ければまあ、何とかなるだろう…」
新人の冒険者であれば、薬草採取などの危険の少ない仕事が一般的だ。危険なダンジョンの攻略で一攫千金など、ダンは目指してはいない。
なんと言ってもダンの体は世界一立派なマグナムが存在している。危険な仕事で命を失うなど、世界の損失だとダンは考えている。だからこそ、命を大事に。それがダンの信条だ。
そんなダンに初めての仕事をギルドの受付のお姉さんが紹介してくれる。それなりに可愛いお姉さん。マグナムがピクリと反応する。
「それでは登録が完了しました。現在、ダン様はEランクの冒険者となります。Eランクで受けられる仕事は…」
受付嬢による説明によると、大きく分けて四つの系統の依頼がある。
・薬草などの採取系の依頼
最も簡単で危険の少ない仕事だが、採取する薬草やキノコなどの見極めには熟練がいる。
この採取の仕事のみを生業としている冒険者は、どのギルドにも存在する。そのベテランを差し置いて新人が活躍するのは困難と言える。
故に新人が採取の仕事のみで生活するのは難しい。採取しやすい場所は多くの新人冒険者に荒らされる為、見返りもかなり少なくなる。
・運搬などの護衛系の依頼
商人や旅人の護衛。それなりに腕の立つ冒険者でもない限り、一人で受けられる依頼ではない。
Eランクの冒険者であれば、最低でも五人のメンバーが揃わなければ依頼は受けられない。
商人のように定期的に依頼をする組織はお抱えの冒険者を利用する為、一般での依頼は少なく、その少ない依頼を新人が取り合うので、報酬もかなり足下を見られて少ない額になる。
・人探しなどの捜索系の依頼
旅先でモンスターや盗賊の襲撃による死亡した者、もしくは行方不明になった者の遺体の捜索や救援。または遺品の回収。
・モンスターや賞金首の討伐系の依頼
モンスターの討伐については指定された部位を持ち帰れば報奨金と交換になる。賞金首については、生け捕りだと満額。死亡しての捕縛の場合は、半額の報奨金に減額。
ギルドで依頼されている仕事について、大まかな説明を受けたが、ダンの選ぶ依頼は決まっていた。
「採取の仕事で新人向けのはありますか?」
最も危険が少ない採取の仕事。山奥の田舎で育ったダンであれば、採取する薬草の見分けや山歩きも慣れている。
危険が少なく慣れた仕事なら、ダンにとって理想と言える依頼だ。しかし、受付のお姉さんは別の依頼を勧めてきた。
「ダン様は新人冒険者ですから、新人冒険者専用依頼が受けられますよ?今なら丁度、一件の依頼がございますが?」
「新人冒険者専用依頼?」
「講習会で教わった筈ですが…?」
「え?あ、ああ〜そう言えば、そんな話を聞いたような…」
新人冒険者専用依頼は、そのギルドがある国からの依頼である。
この依頼は新人冒険者の育成に国が協力する形で依頼する、簡単でそれなりに身入りのいい仕事。それが新人冒険者専用依頼。
冒険者登録して一年以内、かつ二十五歳以下の新人冒険者のみが受けることができる。
若い冒険者の育成の為に年に数回、国からくる依頼だが、丁度いいタイミングで依頼が来てたのだ。
「う〜ん、自分は危険な依頼は受けない予定なんだけどね…因みに、どんな依頼ですか?」
ダンの質問に対して、依頼内容が記された紙と共に、受付のお姉さんが説明してくれる。
「とても簡単な仕事ですよ。新人育成の為の依頼ですからね。今回はババロア王国との国境にて、不審なものが無いか捜索。それと山道の整備が目的ですね」
エクレア王国と隣国のババロア王国は、国交断絶の間柄だった。それが王族同士の婚姻を用いて国交復活の動きがあるそうな。
その為、今まで使われていなかった山道の補修や整備、それを行う為の偵察が主な仕事のようだ。
移動も含めて一週間、力仕事もあるそうだが、報酬は2000 G。食事も出て一日300 G近く貰えるなら、かなりの破格値だ。
「…冒険者の仕事は初めだけど、これってかなりの高待遇じゃない?」
「そうですよ。新人冒険者を育てる為の依頼ですからね」
「う〜ん…受けたいけど、危険じゃないかな?」
「ババロア王国とは何十年もの間、国交断絶状態でして、旅人や商人の往来も殆ど無かったんです。だからこの山道に山賊などが住み着いてる可能性は低く、危険があるとしたら魔獣などのモンスターや肉食動物。それもこの辺りではあまり見かけませんので、ギルドとしても危険度は低いと認定してます。私がギルドで働き始めて五年になりますが、この新人冒険者専用依頼で死者が出たことは一度もありませんし、そこまで警戒する必要はないと思いますよ?」
ダンがビビっている。そうお姉さんに思われているとしたら、男して恥ずかしい。
ビビるということは、立派な30cmマグナムが縮こまっていると同義語。それだけは避けたい。
「いや、別にビビってる訳じゃないんですよ!ただね、ほら!山賊が現れたら、殺さなくちゃいけなくなるじゃん?無益な殺生なんかしたくないから、ちょいと聞いたまでですよ!」
『危険』に対して過敏に反応したダンの思考は、本来であれば冒険者として正しい思考。その慎重さが冒険者の命を救うことになるのだから。
しかし、ダンは依頼を受けることにした。金欠でもあり、お姉さんに見栄を張る為に。
その判断が、ある事件に巻き込まれる事になるとは、つゆ知らず…。