第68話 下手くそ
「ビコーは戻って来なかった。恐らくは殺されたか…いや、ビコーの事だ。きっと捕虜になってでも生き延びているはず。ソウメイ様の話だと、使える者は殺さないと話してたそうだからな」
ビコーをダンジョンへと送り出した張本人、ギルドマスターのルドーは副ギルドマスターのクギーに状況の説明をする。
「それでは…我々の今後の方針はどの様に?」
「本来であれば、ワシも責任を取ってダンジョンに向かう予定だった。だが、ビコーに止められてな。これから財宝目当てで冒険者が大挙してくる可能性が高い。其奴らを無駄死にさせない為に、奔走するつもりだ」
「…そうですか」
「と、その前にクギーには、やって貰いたい仕事がある。このお金を届けてきて欲しい」
そう言ってルドーはクギーにお金を手渡す。受け取ったクギーは怪訝な顔をする。
「これだけの大金、どちらに届けるのですか?」
「5万Gある。ビコーへの報酬だ。50万Gを十回に分けて孤児院に送る様、頼まれているんだ。マカロン王国にある孤児院ロリっ子ハウスは、ビコーが育った施設でもある。あいつが命を懸けて稼いだお金の大半は、施設の運用費に使われている。そして、このお金がビコーからの最後の支援になるだろう」
「分かりました。では、早速届けに行ってきますね」
「頼むぞ。くれぐれも、道を間違えるなよ!」
「マカロン王国へは単純な道のりですから、迷いはしませんよ。では…」
念を押すルドーに、クギーは急いで支度を終えると、冒険者ギルドを後にするのであった。
◆
『ふっふっふっ。どうだい、ビコーちゃん?気持ち良いかい?』
「……」
『まだ耐えられるんだね?では、これならどうだい?』
「……」
『ほう?これに耐えられるんだ⁉︎では、これはどうだい?』
「……」
ダンの触手責め。それに耐えるビコー。
言葉では埒があかないとして、ダンがビコーを責め続けているが、一向に変化は見られない。
そこに仮眠をとっていたパイが起き出してきて、様子を確認する。
「何よ?まだ触手責めなんかしてたの?」
パイの起床にダンが反応。
『あ、パイちゃんオハヨー!うん、まだ触手責めしてます。とても気持ちが良い事をしてるのに、中々ビコーちゃんったら素直にならなくて…』
「それはきっと、気持ち良くないからじゃないかしら?」
『え?何を言ってるの、パイちゃん!触手だよ!ショ、ク、シュ!女の子が大好きな触手だよ⁉︎馬鹿を言っちゃあいけないよ!』
「…だってほら、ビコーの顔が苦悶に満ちてるじゃない」
確かにパイの言う通り、ビコーは触手に責められながら、苦悶に満ちている様にしか見えない。
『いやいやいや!パイちゃん、これはビコーちゃんが気持ち良くなってるのを、悟られない様に耐えてるだけで…』
「ちょっと、ビコー。あんた、その触手責めは気持ち良いの?」
パイの質問にビコーは、ずっと黙していた口を開く。
「…気持ち良い訳がないだろう!どれだけ責められたところで、気持ちが悪いだけだ!」
ビコーの突き付ける現実に、ダンはショックを隠しきれない。
『な、な、な、何を言ってるの、ビコーちゃん!僕ちん、こんなに頑張って触手責めしてるんだよ⁉︎そろそろ「もう、触手無しでは生きていけない!ハーレム第一号になりたいです!」って、そうなるところじゃないの⁉︎』
「…死ね、この腐れ触手が!」
『うそぉん…え?何で?こんなにお互い、気持ち良かったのに…』
困惑するダン。それをパイが一蹴する。
「あんたが、下手くそだからよ」
『ちょっとパイちゃん!なんでそう、情け容赦なく人を傷付けるの⁉︎だってパイちゃんだって触手を味わったじゃん!』
「……」
『え?まさか味わったから下手くそだって言ったの?嘘でしょ⁉︎嘘だって言ってよ、パイちゃん!』
「…いい、ダン。誰だって初めての時は、下手くそなものなのよ?」
『否定してくれないの⁉︎下手くそなのは肯定なの⁉︎』
余りにもショックな現実に言葉を失うダン。ビコーとパイ、二人の視線が痛い。
◆
『くそっ!どうだ!これでどうだ⁉︎これは気持ち良いだろう!』
現実を突きつけられたダンは、その後一時間程ビコーに触手責めを続けた。
我武者羅に、ただ我武者羅に責め続けるダン。だが、ビコーの態度は変わらない。
「……」
『なんなんだよ、ビコーちゃん!ひょっとして、不感症?』
半ベソをかきながら触手責めをするダン。そこに調べ物をしていたパイがやって来た。
「もう、いい加減やめたら?それ以上の触手責めに、意味なんか無いだろうし」
『あ、パイちゃん…。でも、ほら…』
「それより、面白い情報があったわよ?ギルドの金庫から盗んできた資料を調べてみたけど…ビコーは世話になった孤児院に多額の寄付をしているようね?」
パイのその言葉に、触手に対しては全く反応してこなかったビコーが反応する。
「…孤児院は私と関係が無い!そんな話をするな!」
「いや、関係あるでしょ?あなたにとってアキレス腱となるなら、私達にとって有益な情報になるんじゃない?この孤児院ロリっ子ハウスってのは?」
ロリっ子ハウス。その甘美な響きにダンも反応する。
『ほう…なるほど。ビコーちゃんはロリが大好物で、寄付をするたびにロリを食い散らかして来たのか。だから触手責めに反応をしないと…』
「ふざけるなぁ!貴様と一緒にするなぁ!私がお世話になった孤児院に、寄付をしていただけだぁ!」
憤慨するビコー。だがダンのゲスの勘ぐりは終わらない。
『つまり、ロリを育ててから捕食するつもりだったと?』
「お前はもう、黙れ!下手くそ!触手を喰いちぎるぞ!」
そんなブチ切れるビコーをよそに、パイがダンにある提案を持ちかける。
「ねえ、ダン。このロリっ子ハウスのロリ達を、全員捕獲したらどうかしら?」
『お、なるほど!確かにビコーちゃんと一緒にここで暮らせるなら、ロリっ子達も幸せになるだろうからね!それに気持ち良いこともしてあげられるし!』
パイとダンの話に、ビコーはワナワナと震えながら激怒する。
「貴様らには血も涙も無いのか⁉︎何の罪も無いロリを、どうするつもりだ⁉︎」
「どうしようと勝手じゃない?あなたが口出しすることじゃないでしょ?」
パイが冷ややかに吐き捨てる。だが、それだけでは終わらない。
「いい、ビコー。落ち着いてよく、考えなさい。あなたが私達に逆らえば、ロリ達がどの様な目に遭うのかをね。あのダンの下手くそな触手責めが、ロリ達に牙を剥く…それを止められるのは、あなた次第なのよ?」
『あの、下手くそってのは…』
ダンが訂正を求めるが、パイは無視して話を続ける。
「私はあなたの能力は買ってるわ。それに義理堅いところもね。だからかつて、私はあなたにボディーガードの依頼をした。そして断られた。その結果がこれよ?よく考えなさい、ビコー。再びあなたが間違った選択をすれば、今以上に酷い事が待ち受けているって事をね!」
「私は…仲間にはなりません…でも、ロリ達には何もしないで下さい!お願いです!」
「…残念ね。私はね、頭の悪い女は嫌いなの。折角、最後にチャンスを与えたのに、それを無碍にするなんてね」
「お願いします!ロリ達には…」
「何を言ってるの?私たちの仲間になれば、ロリ達は助かったのよ?」
「仲間は…無理です!パイア様は兎も角、アレは…生理的に無理です!」
生理的に無理。余りにも残酷なる発言に、ダンが再び凹みだす。
『いや、生理的に無理って…それは無いよ、ビコーちゃん…』
「ダンは少し黙ってなさい。いい、ビコー?あなたがどれだけ生理的に無理と言ったところで、私達はあなたを無理矢理、仲間にする手段があるのよ?」
「……⁉︎」
「魔族にはね、眷属ってシステムがあるの。最大13名の魔族を使徒として従える事が、条件さえ満たせば可能なの」
「じょ、条件?」
「そう。お互いに魔族であり、同意さえあれば、簡単に他の魔族を眷属にする事が可能なのよ?そしてダンは人間を魔族にする術がある。更にロリという人質を用意できる。分かる?あなたを魔族にして、絶対服従な眷属にする事が可能なのよ!」
「そんな…」
「私だってやりたく無いわよ、そんな事は。でもね、あなたは頭が悪いでしょ?私の与えた折角のチャンスを、あえて踏みにじる様な馬鹿なんだから!だったら、私達もあなたの心を踏みにじらせてもらう。それがあなたの選んだ選択なんだからね」
「あの…本当に無理なんです!生理的に無理なんです!」
「その生理的に無理な事を、目の前でロリがされるわけよ?それが嫌なら、その生理的に無理な事を、あなたが我慢して受け入れればいいだけのことでしょ?どっちに転んでもあなたにとって不満があるなら、より不満が少ない方を選べばいいのにね」
「……」
「まあ、もう遅いけど。これからあなたにとって、望まない展開が待ち受けてるけど…私の知ったことではないわ。少しでも待遇を良くする為に、努力するところを怠った訳だから、自業自得よ」
「…後生です、パイア様。せめてもの情けを…」
「うるさいわね。少し、牢獄で頭を冷やして来なさい。ダン、石化の用意を…あ、その前に麻痺薬を忘れずに。上位冒険者は状態異常に耐性が高いからね」
パイの指示により、ダンはビコーのお尻から麻痺薬を注入。ビクンビクンと痙攣するビコーをバジリスクの石化能力によって石化。そして牢獄へと運び込む。
静かになったコアルームにて、パイが大きな溜息をつく。
「はあ〜売り言葉に買い言葉とはいえ、言い過ぎたかしら?無理矢理、眷属にして仲間にするにしても、あそこまで言ったら、こちらも引き下がれなかったし…」
『……』
「あら、どうしたのよダン?」
『言い過ぎって言うなら…僕ちんに対してもじゃない?二人して下手くそ!下手くそ!って連呼するし…』
「何をいじけてるのよ?どんなに下手くそだって、私は別にあなたの事を責めたりしてないじゃない!」
『また言った…また下手くそって言った…』
「あー!もー!面倒臭いわね!はいはい、あなたの触手は凄いわよ!」
『…本当に?本当に凄いかな⁉︎』
「凄い下手くそって意味よ」
『……』
この日を境に…ダンは暫くの間、塞ぎ込むのであった。




