第63話 お兄ちゃん愛
「ソウメイ様!よくぞ、ご無事で!」
ロリメイの側近達が駆け寄るが、ソウメイはそれを一蹴。
「私が愛するロリメイをお前達は見殺しにしておいて、よくも 阿容々々とその面を私の前に出せたものだな!」
「いえ、それは…ロリメイ様が無断でダンジョンへと侵入し…」
「ならば追って、突入すれば問題なかろう⁉︎誰一人として追うこともなく、怖気付いておきながら、何を言い訳を並べているのだ!」
普段温厚なソウメイが激怒。萎縮する側近達であったが、そこにエクレア王国の軍部の連中が集まってきた。
「これはこれは、ソウメイ様!よくぞご無事で!」
「…どうやら、役者は揃った様だな。では、私がダンジョン内で得た情報を伝える!おい、通信機も用意しておけ!」
「は、はい!」
ロリメイの側近に通信機を用意させ、ソウメイは自身が得た情報を語り出した。
「まず…ババロア王国は魔族と繋がっている」
その一言に、ソウメイを囲むエクレア王国の軍部やロリメイの側近が、にわかにざわつく。
それを無視してソウメイは続けて話す。
「私がエクレア王国冒険者ギルドから、新人冒険者専用依頼によって、この地に訪れた。その時、隊長のヒズがここにババロア王国の兵士を伏兵として忍ばせ、我々34名を皆殺しにするよう企てたのだ」
再び、どよめく。それが事実ならば、ババロア王国とエクレア王国は、共同して新人冒険者34名…更に、次期教皇のソウメイを殺す計画だった事になる。
事情を知っているエクレア王国軍部の将校は、それは何かの間違いだと言い訳を並べるが、ソウメイにその様なものは通じない。
「その、我々を引き連れて行った隊長のヒズは、このダンジョンに引き摺り込まれただろう?全身、火達磨になりながら」
「そ、それは…」
「ダンジョン内で捕獲され、私と同じ様に捕虜になったので問い詰めたのだ。そして白状したぞ。ババロア王国と結託して、我々を殺す計画だったと…」
本人が証言したなら、それ以上の証拠はないであろう。勿論、ソウメイが嘘をついてるなどと、言えるわけもない。
ソウメイは次期教皇。嘘つきに仕立て上げて、煙に巻ける相手では無い。
「私はババロア王国の百人以上の兵に取り囲まれ、それでも私だけが逃げる事ができた。他の者が私の代わりに犠牲になったからな。私はその無念を…晴らすつもりだ」
ソウメイの独白に、あたりは静まり返る。
「私が逃げ出し、そして追手が三人。それならば倒せると、何とかこの地で返り討ちに。それから鎧を奪い、ババロア兵になりすました。それが、そこ証拠だ」
確かにソウメイの着ている鎧はババロア王国の紋章の入った鎧。疑う余地はない。
「更なる追手が来ることを見越して、ここで隠れていると…なんと、ここがダンジョンである事に気が付いた。私は恐る恐る中に入ると、このダンジョンの主に見つかる。だがババロア兵だと勘違いされ、中に通され…魔族とババロア王国が繋がっている証拠を目の当たりにしたのだ!」
余りにも衝撃的な話に、誰もがついて来れない。そしてソウメイは続ける。
「ババロア兵を装っていたが、結局バレて捕虜に。その後は全身火達磨のヒズの証言を聞き、ババロア王国とエクレア王国が繋がっている事に唖然とした。これが国のする事か?人のするべき所業か?私はその場で泣き崩れた!だが、神は見捨てなかった!私の元に女神が現れたのだ!そう、我が愛しの妹ロリメイだ!誰も助けに来ない薄情な連中をよそに、単身一人で乗り込み…そして敵に捕まりながらも、私を逃す事に成功したのだ!そして今、私はここにいる…」
ソウメイの話に嘘は無い。誰もがそう思った。特にエクレア王国は新人冒険者虐殺の主犯だ。実際にババロア王国に指示したのだから、言い逃れはできない。
「さて、これから敵の情報についてだが…このダンジョンには魔族の指示によって動いている。つまり、複数の魔族を確認している」
そこで「やっぱり…」「どおりで…」などと声が聞こえる。
「そして私以外にも捕虜はいる。百人以上だ。利用できる者は殺さずに生かされている」
捕虜の存在に、安堵する声が。確かにソウメイが生還してきた事こそ、その証拠だ。
「どの魔族もそうだが、女の事を見下している。そう、女に油断するからこそ、ロリメイは私を逃す事に成功した。これから突入するなら、女も同伴させよ。それが攻略の鍵となるだろう」
「た、確かに今まで突入してきたのは、全員男でした…」
軍部の声にソウメイは頷き、そして一番大きな情報を知らせる。
「このダンジョンの奥には…莫大な財宝が眠っている!見渡す限りの財宝だ!どれだけあるのか、確認できないほどにな!」
「そ、それは恐らくエクレア王国から盗まれた財宝です!」
エクレア王国の将校が食いつくが、ソウメイは質問で返す。
「盗まれた?それはいつのことだ?」
「え?先日になりますが…」
「私が捕虜になった時からある財宝が、何故盗まれた物になるのだ?勝手な話をするな!」
ここに財宝はある。だが、エクレア王国の盗まれた財宝では無い。そう締め括ったソウメイが踵を返す。
「…情報はこれまでだ。私は愛するロリメイを救いに行く。お前達は足手纏いだ。私が戻って来なかったら…その時は頼むぞ!」
「そ、ソウメイ様!お待ちを!」
言うが早いか、ソウメイは再び漆黒の穴の中へと飛び込んだ。
足手纏いと言われ、結局追いかける者もおらず、その場は静寂に包まれるのであった。
◆
『はい、お疲れ様〜名演技だったよ!』
モニターで外の様子を見ていたダンは、帰って来たソウメイに労いの言葉をかける。
だがソウメイは不満な顔を崩さない。
「私はお兄ちゃんの為にやったんだ。お前の為なんかじゃない!」
『あ、うん。確かにね。それより、その身体の調子はどう?完全にお兄ちゃんの身体になってるはずだけど?』
「…完全にお兄ちゃんだ。身体も、声も、匂いも…」
『おお!それは良かった!悪魔の取り引きに応じただけの事はあるね!』
そう、これこそダンが持ちかけた悪魔の取り引き。ソウメイとロリメイを入れ替える、固有スキルを利用した人体入れ替え術なのだ!
◆
ロリメイが捕虜となった時、ダンはロリメイに取り引きを提案した。
『ねえ、ロリメイちゃん!お兄ちゃんを生き返らせたくない?』
「そ、そんな事ができるのか⁉︎」
『うん、できるよー!生きた人形みたいだけどねー!』
「人形なんか、お兄ちゃんじゃない!本物のお兄ちゃんを返せ!」
『うーん。でもね、残念ながら死者蘇生は無理なんだよね。色々試したけど、死んだ人は生き返らない。それが結論』
「だったら…」
『いや、死んだ人は生き返らないけど…代わりの魂があれば、別なんだよね』
「代わりの魂?そんなものがあったところで、お兄ちゃんじゃない!」
『確かにね。でも…ロリメイちゃんなら、代わりになるんじゃないかな?』
「…?」
『誰よりもお兄ちゃんの事を理解しているロリメイちゃんなら…お兄ちゃんの肉体に代わりに入って、お兄ちゃんを演じられると思うんだよね〜?』
「…何が言いたい?」
『ん、つまり…ロリメイちゃんがお兄ちゃんにして欲しかった…あんな事やこんな事…それをお兄ちゃんの身体を使って、楽しめるんじゃないかなぁってこと』
「…あんな事やこんな事って?」
『それはロリメイちゃんが一番よくわかってるでしょ?ロリメイちゃんがお兄ちゃんにして欲しかったこと。逆に、ソウメイが妹であるロリメイちゃんにしたくても、できなかった事…それをね、今なら叶えられるかも知らないんだよ?』
「……」
『ソウメイもさ、きっとロリメイちゃんと色々したかったと思うんだよね!それができずに死んじゃってさ!さぞ、無念だと思うんだよ!それをね、今なら!僕ちんに協力するなら…叶えられるかもね〜♪』
悪魔の誘惑。だが、今のロリメイは正常な判断力を失っている。
ロリメイは…ソウメイが生前、妹にしたかったプレイを勝手に妄想し、いやらしい笑みを浮かべている。マトモな精神状態ではないのは明らかだ。
「…取り引きって?」
ロリメイは悪魔の取り引きに喰い付いた。そこでダンは、かいつまんで考えた策を説明。
お兄ちゃんの身体を使って外に出て、こちらにとって都合の良い情報を流す。特にババロア王国とエクレア王国には、ダンジョン内に入るよう仕向けるように、説明した。
だが、ここで問題が生じる。
『実はね、ロリメイちゃん…この作戦を実行する為に、ソウメイとロリメイちゃんの身体を入れ替えるわけだけど…理論上可能でも、人体実験がまだだから、失敗する可能性があるんだよね』
「構わない。どの道、お兄ちゃんのいない世界なんか興味無いし。失敗したら死ぬだけ」
『うん、凄いお兄ちゃん愛だね。羨ましいよ、ソウメイが』
「そんなことより、早くして。私はお兄ちゃんの代わりを完璧に演じられるから」
『あ、はいはい。それと、一応人質としてロリメイちゃんの身体は預かっとくね。任務が完了したら、二人だけの部屋を用意しておくから』
こうして、悪魔の取り引きに応じたロリメイはソウメイの肉体を得る事に。
ソウメイの死体からスケルトンを召喚。キメラの融合能力によって、ソウメイの肉人形が完成。肉人形と裸のロリメイが融合ルームへ。
完成したのはロリメイの魂の入った人間のソウメイ。そして傍にはロリメイの形をしたキメラの肉人形。
人質としてロリメイの肉人形を預かり、ソウメイは打ち合わせ通りにダンジョンの入り口に。
裏切って逃げ出す可能性もある中、ソウメイを見事に演じ切ったロリメイ。戻ってくると、約束通りに肉人形を差し出すダン。
『人体実験もせずに融合して、更には熱演…恐れ入りました!それでは、こちらに二人だけの愛の巣を用意してます。さあ、邪魔者はおりませんので、ごゆるりと…』
そう言ってロリメイとソウメイを、二人のための作った小屋に送り出す。
ロリメイの肉人形をお姫様抱っこするソウメイ。その顔は、何とも幸せそうな顔をしている。
『…ふう。何とか、ハッピーエンドで終わったね!本当は僕ちんがお兄ちゃんになるのが、一番だったけど…』
「あんた、まだそんな事を言ってるの?」
呆れるパイに、ダンは不満をこぼす。
『いや、だってさ!これを見てよ!』
そう言ってモニターを映し出すダン。映っているのは、ソウメイとロリメイの愛の巣。つまり…そういうことだ。
『見てよ、パイちゃん!ロリメイちゃんはね、お兄ちゃんにあんな事をして欲しかったんだよ!ほら!ソウメイの身体を使ってあんな事やこんな事を!ああっ⁉︎まさか、そんな事まで!』
ロリメイとソウメイ。二人の愛の巣を、羨ましそうに覗くダン。お兄ちゃん愛とは、これ程までに美しいのか…。
その美しさに魅入るダンとは対照的に、パイは冷ややかな視線を送る。
「そんなことより、他にやるべき事があるんじゃないの?」
『ああ、そうだったね。ロリメイちゃんの熱演によって、これから忙しくなるだろうからね!』
ロリメイの熱演によってモンガラ教国は、ババロア王国とエクレア王国に対して大きな動きを見せる事になる。
ソウメイの証言による魔族の存在、捕虜の存在、そして莫大な財宝の存在。
これらはあらゆる欲望に塗れた者達をも、ダンジョンへと誘う罠として効果を発揮するのであった!
第4章 完
これにて第4章、完結になります。次は第5章!ヨロシクね!
(*^▽^*)




