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30cmマグナムの生涯!  作者: 猪子馬七
第4章 ロリメイとソウメイ
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第58話 助命



 …最高であった。メイド服を着たパイによる奉仕。それはとても、素晴らしいものであった。


 正直、パイには奉仕能力など無い。それどころか性格からいって、マイナスの奉仕能力ではないのかと、疑われる程だ。

 そんなパイがメイド服を着て、健気に、必死に、触手を相手に奉仕に奮闘するのだ。

 これを味わって感動しない漢がいるのであれば、余程のアホか馬鹿かインポ野郎か…兎に角、碌でも無いない(やから)である事は間違い無いだろう。


 素直に最高であると、奉仕を受け入れたダン。その夢のような時間も、終わりを迎える。


「…邪魔者が来たようね」


 そう言って、パイがモニターからダンジョンの入り口を確認する。

 エクレア王国の紋章が入った鎧。それを装着した大勢の兵士が、このダンジョンのに向かって大挙して来たのだ。


『ぐぬぬ…いいところで邪魔しに来やがって!ダンジョンの外に出れるなら、皆殺しにするところだぞ!』


「何言ってんのよ。私はもう、疲れたわよ?睡眠を取らない魔族のあなたに付き合わされる、人間の私の気持ちも考えなさい」


『いや…でも…せめてあと、五時間は…』


「半日も奉仕して貰って、まだ足りないなら専属のメイドでも雇ったら?私なんかより、よっぽど奉仕してくれるでしょうからね」


『専属メイド…うん、確かにそれは素晴らしいよね!本業のメイドさんならもう、なんか凄い奥義とか繰り出してくれそうだし!あ、でもね、それはそれ!これはこれ!パイちゃんの奉仕も、大好きだから…』


 そんなダンを無視して、パイはお風呂に。仕方ないので、汚れたシーツなどを触手で交換して、ダンはパイの寝る準備を。

 行為が終われば、奉仕の立場が逆転するのだ。



『…うーん。どうやら、今日は侵入してこなさそうだね』


 豪華な天幕付きのベッドで、寝る支度のできたパイに、一応の報告。


「そうなの?なら都合がいいわ。私はもう、寝るから何かあったら起こしてね」


『はーい。おやすみなさい』


 奉仕に疲れたパイは、すぐに就寝。睡眠を取らない迷宮族のダンは、その後の外の様子を観察。

 時折、パイの寝顔を眺めては、奉仕してくれた時のことを思い出して…。


『デュエへへへ♪』


 と、いやらしい笑みをこぼすのであった。







「倒木、全て完了しました!」


「では、残りの切り株の除去と整地を急げ。時間は無いからな!」


 ダンジョンの入り口に大挙した兵士達は、突入はせずに森の伐採を始めていた。

 伐採が終わると切り株の除去、そして整地。手際良く進んでいく。


『あ、おはよーパイちゃん』


 モニターで外の様子を観察していたダンが、パイの起床に気が付いた。

 まだ眠そうだが、敵兵が大挙しているのを思い出し、状況を確認。


「で?外の様子はどんな感じ?」


『見てた限り、突入する気は無いみたい。そこの森を伐採するグループと、このダンジョンから何か出てこないか、盾を構えて身構えてるグループの、二手に分かれてる』


「ここから見える範囲だと、かなりの伐採が進んでるようね。敵兵の数は…数千人ぐらいかしら?」


『多分、三千人前後。伐採した木材で加工も始めてるから、整地が済んだら拠点でも作るんじゃないかな?』


「つまり、敵さんは長期戦を見越して来た。無闇矢鱈に突っ込ませるナームらしく無いから、ちゃんとした軍部の人間が指揮を取ってるのかもね」


『まあ、普通はそうでしょ?何だかんだで、こちらはSランク冒険者を二人も捕食したし。運の良さも左右したけどね』


「長期戦を選ぶなら、お金が必要となるはずよ?王都のお金は私達が巻き上げたから…恐らく、ナームは他の都市から臨時徴収でお金をかき集めてると思う。でも、それだと足りないだろうから…近隣諸国からの支援もあり得るわね」


『王族のパイちゃんがいるから、こちらは情報にことをかかないね♪』


「私の読みが全て当たるわけじゃ無いわよ?Sランク冒険者だって、こないと思ってたらやって来たし…。まあ兎に角、油断だけはしないでね!」


『了解です!』


「で、こちらはどうする?恐らく、あいつらは他の国と連携をとって来るでしょうから、暫くは大丈夫だろうけど…決戦の日になれば、総力戦になるはずよ?」


『そうだよね。正直、今のダンジョンの形だと、魔法を使える上位冒険者にはやられそうだし…一応、パイちゃんが寝てる時に、幾つかの対策は考えておいたよ』


「王都襲撃にDPをかなり使ったし、残りは1万DP前後でしょ?それだと、かなり対策できることが絞られそうだけど…」


『あ、DPは現在8804DPでかなり厳しいね。でもパイちゃんの奉仕があったから、ヤル気だけなら満々だよ!』


「ヤル気でどうにかなるなら、苦労はしないわよ。それで、その厳しい状況をどうやって打破するのよ?」


『まずね、奥の手があるから、再びSランク冒険者が来ても、ある程度の対策は練れるのよん』


「なんで?Sランク冒険者が来た時と、大して状況は変わってないじゃない」


『チッチッチッ!それが違うんだなぁ〜。だってさ、運良くSランク冒険者を倒したんだよ?ならその死体も…ゲットしてるってわけですよ!』


「あ、そうか!確か死体をスケルトンにして召喚出来るんだったわね!」


『基本として、普通にスケルトンを召喚するなら、ステータスをカスタムする時に上限があるんよ。ダンジョンレベルが1の時に召喚できるダンジョンモンスターだから、最大値にしても最弱の20が上限。でも、死体を利用した召喚だと、その制約が外れて、死体の持っていたステータスを引き継ぎ。んで、Sランク冒険者のステータスは攻撃力を示すSTRが1208!スライムの初期値が2だから、なんとスライム604匹分の攻撃力!』


「…スライムで換算すると、途端に弱く感じるわね。でも兎に角、強い上に召喚費用のDPがゼロなんでしょ?最高の切り札じゃない!」


『うん。それ。本当に、切り札なの。だってさ、このレベルのダンジョンモンスターを召喚したら、維持DPがかかるでしょ?たとえ召喚費用がゼロでも、今みたいに敵の侵入が無い時に、無駄にDPが減っちゃうからね。かなりヤバい時に…本当に切り札として召喚する予定なんだ』


「そっか。維持DPのことも考えなくちゃならないのね」


『あとね、レベルが上がったらスケルトンの上位種の、スケルトンキングも召喚できるから、出来ることならこのキングでの召喚にしたいよね。スケルトンよりも強く召喚出来そうだし』


「まあ、その切り札についてはもう、大丈夫そうね。他の対策についてはどうなのよ?」


『いま話した問題点である維持DP。これがネックだよね。普通のダンジョンなら龍脈からDPをゲットして維持費に回せるけど…それが我々には無い。つまり、維持費をかけないのが理想』


「今まではダンが手動で罠を作動させたり、弱いモンスターでの奇襲がメインだから…そうね、本当に維持DPを節約して戦って来たのね」


『うん。でも、それだと流石に限界があるから、他の手も考える時期だと思うのよねん。あ、それと王都へ繋いだ道だけど…長い目で見たら、消失させるべきかな?それとも、放っておく?』


「今の話を聞いたら、維持DPの為に速攻で消すべきだと思うけど…それってDPを使って消すわけだから、今は無理でしょ?」


『そうなんだよねー。他に使い道があるならいいんだけど、もう一度盗みに入るにしても、警戒されてるだろうし…まあ、取り敢えず現状維持で』


「DPを増やせるならいいのに、あいつらは見える位置にいながら、入ってこないし…」


 と、そこでモニターに目をやると、どうやら動きがあったようだ。


 新たなる兵士が再び大挙。だが、兵士だけでは無い。見窄(みすぼ)らしい格好をした連中が…百人以上、連れてこられている。


『んんん?なんだ、あの連中は?あれ?どこかで見たことがある様な…?』


 ダンの疑問に、パイが答える。


「あれは奴隷落ちした連中ね。ほら、布の服の下に、奴隷の焼印が見え隠れしてるでしょ?」


『ああ、なるほどね。整地する為の人手にでもするのかしらん?』


「確かに、奴隷にしては鍛えられた身体をしてるけど…何か様子がおかしいわね?」


 二人がモニターを観察していると、何やら入り口付近にて、隊長らしき男が兵士全員に向かって声を上げる。


「この者達はー!重要なる任務を放棄して逃げ出しー!今回の強盗事件を引き起こした大罪人だー!よって奴隷落ちとなりー!これより、見せしめとして処分されるー!よく見ておけー!お前達も国に逆らえばー!こうなるのだぞー!」


 大声での説明を聞き、ダンは思い出した。


『ああ、あの時の!隊長を縛ってここに皆んなで落として、そのままボイコットした面白い兵士達だ!』


「確かに面白かったわね。それにあのボイコットのお陰で王都襲撃に踏み切れたし、私達にとっては都合のいい連中だったわ」


『…よく見ると爪を剥がされてる連中もいるし、ひょっとしたら拷問でも受けて口を割ったのかも?』


「でしょうね。あの兵士達も、まさかボイコットしたその日に、あれだけの大規模な強盗事件が起きるなんて、思っても見なかったでしょ?軍を辞めるつもりでボイコットしたら、それが大事件に発展して、責任取らされて奴隷落ち…まあ、そんなところでしょ」


『あ、その連中がここに見せしめとして、侵入させられるみたいだね。手錠を外されて…渡された武器が小さなナイフのみ。逃げ出そうにも数千人の兵士に囲まれてるから、結局突入するしか助かる術はなし』


「馬鹿ね。見せしめなんか、逆効果なのに。私達はDP不足で困ってたから、逆に敵に塩を贈ってるだけだってのに。迷宮族の生態が知られてないのが、運の尽きね!」


『…確かにね。でもさ、あいつら助けちゃダメかな?』


「はっ⁉︎なんでよ!DP不足してるのに、なんで助けなくちゃいけないのよ!」


『だってさ、あいつら別に悪い事はしてないじゃん?ここに入って来たら、こっちだって正当防衛で殺すけど、あいつらは逃げたじゃん。それなのに連れ戻されてさ、罪もないのに奴隷の印を押されて…幾らなんでも、酷くない?』


「酷いのは分かるけど、ここはDP稼がないと私達にとって、圧倒的に不利になるわよ?それでも?」


『…うん』


「あんたって、本当に変なところで人間臭いわね?敵と見なすと容赦無いくせに」


『あーうん、そうだよね。でもね、自分なりの倫理観があって、それに反するのは凄く嫌なんよ。あと、DP不足の解消は殺す以外にもあるからね。さっき説明する予定だったけど…それを試してみたいんだ』


「助命に他の理由が?なら別にいいけど…」


 取り敢えず、突入させられる奴隷落ちした兵士は、捕縛する事になった。


 暫くして、ナイフを所持した奴隷落ち兵士が一人、また一人と、ダンジョンへと侵入。

 100mを降りて、そこにはそれなりの広さがあった。ダンによって急遽広げられた場所だ。


 そこから先に進むのは、ナイフだけでは無謀だと、取り敢えず全員が揃うまで、その場で待機となった。


 奴隷落ち兵士が全員降りきった。そこで一人の男が謝罪する。


「すまねぇ。まさかこんな事になるとは思っても見なかった」


 ボイコットを提案した兵士だ。だが、他の兵士も怒るどころか、謝罪を始める。


「いや、謝るなら、拷問に屈して白状した俺たちもだ。それに…あの時、突入させられてても、俺たちは死んでたはず。むしろ、今回こうやって底まで来れたのは奇跡じゃ無いか?てっきり、罠が発動して底まで辿り着ける奴はいないと思っていた…」


「ああ、奇跡だな。この奇跡を利用して…何とか助かる道を探そうじゃないか!ここで数時間待機して、外の警戒が緩んだら、一斉に飛び出して八方に逃走。それなら何人かは助かるかも知れない!」


 そんな相談をする奴隷落ち兵士達に、別の方法を提案する声が聞こえる。


『いや、他にも助かる道はあるよ?少なからず、無謀に飛び出していくよりかは、ね』


「だ、誰だ⁉︎」


 奴隷落ち兵士達が辺りを見渡すが、誰もいない。しかし、声だけは響く。


『俺はこのダンジョンの(あるじ)だ。君達に、生き残るチャンスをやろうと思って、声をかけた。なお、本来であれば君達は底に辿り着く前に斬殺するところだった。あえて、生かして底まで辿り着けたのは、あくまでも温情。さて、どうする?こちらの指示に従うなら、捕縛した上で連行する事になるが?』


 まさかの、ダンジョンマスターからのコンタクト。どよどよと混乱しているので、ダンは続けて話をする。


『どう判断するかは君達に任せるが、その場にとどまるなら瞬時に斬殺する予定だから、そのつもりで。もし助かりたいなら奥の部屋にいるスケルトンに、ロープで捕縛してもらい、次の指示を待て』


 そんな事を言われたら、答えは一つしかない。そもそも、 Sランク冒険者二人を喰い殺すダンジョンに、一般兵士が何人集まったところで敵うわけが無いのだから。


 殆ど相談することもなく、奴隷落ち兵士達は指示に従い、従順に捕縛されるのであった。



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