第51話 目覚めたスキル
『…パイちゃん』
「何よ?」
『…愛してるよ』
「うるさいわね!」
『いや、僕ちんたちもさ、初夜を無事に迎えたわけだし、本来であればベッドの上でイチャイチャしてるところじゃない?邪魔者を折角、排除できた事だし…ここはパイちゃんも僕ちんにさ、ほら、私も愛してるわ〜とか…』
「調子に乗るな!それより、なんか凄いとか呟いてたじゃない!あれはなんなのよ!」
『あ、あれは凄い初夜だったって事で…』
「……」
『はい、冗談で御座いますよ。いや、初夜が凄かったのは本当だけどね!人生観が変わるほどの経験だったもの!男として、一皮も二皮もズルリとベロリと剥けた感じだし…』
「いいから。何を隠してるのよ?」
『いや、隠してると言うか…勿体ぶってるだけ』
「一緒でしょ?何があったのよ」
『実はね、今のSランク冒険者を倒して捕食したじゃん?』
ダンは動かなくなったSランク冒険者のヤーリとオーノを、捕食した。岩石もそのまま飲み込み、今は溜まった水の排水の為、ゴクゴクと飲み込んでいるところだ。
『あの二人を捕食してね、まあ…なんて言うか、アホみたいな経験値をゲットしたのよん。それとDPも』
「確か前はレベル10だったはずよね?」
『うん。それがあの二人のお陰でレベル18までアップ。召喚可能なモンスターも、一気に20体増えたの』
「凄いじゃない!ひょっとしてDPもかなり増えたの⁉︎」
『3000DPだったところ、今は34000DP。あのSランク冒険者一人が、15000DPってところだね』
「それって一人で150人分のDPってことよね⁉︎本当に凄い…Sランク冒険者を捕食すればする程、どんどん強くなるじゃない!」
『そりゃそうだけど…次も同じ様に倒せるとは限らないから、も少し弱い連中を倒しながら、経験値は貯めたいところだよ』
「あ、確かにね。あの二人はSランクになったばかりだし、魔法を使えないから倒せたけど…もし、魔法を使える上位冒険者なら、罠を壊すついでにあなたが死んでたかもね」
『やっぱり…』
「氷系の魔法を使えば、水攻めも凍らせて対処できるし、その凍らせた余波の魔法の効果を内壁が受ければダンにダメージがあるだろうし…うん、詰んでたわね」
『でしょ?それにあの二人にしても、こちらからの呼びかけに反応しなければ、時間稼ぎも出来ずに水攻めを抜けられたし、本当に薄氷の勝利だったんだよね』
「そう考えると、本当にヤバかったわね。…あ、そうだ!折角DPを大量にゲットできたんだから、ダンジョンの壁の強化に使いなさいよ!」
『うーん。どうしようかね?それは後でもいいと思うし…』
「はあ⁉︎あんた、壁が弱くて死んでたかも知れないのよ⁉︎」
『そりゃそうなんだけどさ…でもね、強化するDPがあっても、強くした分の維持DPが増えることも、考えなくちゃいけないんよ。龍脈があって、毎日安定したDPの増加があるなら、それに併せて強化はできるけど…』
「そうか…。ダンジョンを大きく、強くする程に毎日の維持DPが増加するんだったわね」
『今回増えたDPを使えば、王都襲撃も楽に行えると思うんよ。でもね、拡張がかなり増えた分、維持DPもかなり増えるはず。その辺も考えると、ギリギリまで壁の強化は控えたいところ…』
「…折角、王都襲撃の目処がついたのに、維持費のことは考えてなかったわ」
『そんな訳で、壁の強化は再びSランク冒険者が来るまで、我慢しようと思うの。んで、壁のレベルを一段上げるのに5000DP消費するから、壁の強化と維持費の分として10000DPを常に所持。残りを王都襲撃に使いたいと思います』
「残りのDPが24000DPなら、王都襲撃は問題無さそうね」
『あ、それと…王都襲撃の前に、色々と試したい事があるから、それに時間とDPを少し使わせてもらいます』
「別にそこまで急いでる訳じゃないから、構わないけど…何よ、試したい事って?」
『いや、実はね、勿体ぶってたのはこの事なんだけど…』
「?」
『なんと!レベルが上がる事によって!待ち望んだ固有スキルが発現しました!』
「固有スキル?ジョンのマスターチェンジみたいなの?」
『そうです!でも、ジョンの固有スキルとは全くの別種のスキルです!それは…【融合】ができる融合ルーム!ほら、この部屋に新たなる部屋が出来ました!』
今まで何の変哲もない壁だったところに、ウニュンと扉が出現。これが融合ルームへの扉だ。
『おおっと、パイちゃん!近寄らない方がいいよ!まだ、その性能とか未知だからね!』
「別に近寄らないわよ。それより、どんな性能なのよ、この融合ルームってのは?」
『まだ、調べてみないと分からないけど、この能力が予想通りの能力なら…凄い事になるね!』
「具体的にどんな能力なのよ?いい加減、勿体ぶらないで教えなさいよ」
『まあまあ、落ち着いて!実は…この能力を使えば…パイちゃんを…魔族にする事が可能かも知れません!』
「…は?」
パイが待ち望んだ念願の魔族化。それが遂に実現かも知れないと、ダンは自信満々に語る。パイも突然の朗報に素っ頓狂な顔をするが、みるみる笑顔になる。
「ほ、本当なの⁉︎遂に私、魔族になれるの⁉︎」
『ふっふっふっ!まあ、慌てなさるな、マイハニーよ!これから色々と試してみないと分からないけど…でも、魔族化と初夜の契約は、遅れながらも果たせそうだよ!』
「そっか…遂に…魔族になれるのね…薄汚い人間をやめて…憧れの魔族に…」
『いや、でも能力が予想通りじゃない可能性もあるから、過度の期待は落胆に繋がるかも知れないよ?だから実験結果を見るまで秘匿にしたかったけど…パイちゃんに隠し事はできないからね』
「それで?どうやって魔族化できるの?」
『あくまでも仮説だけど…ヴァンパイアを捕まえてきて、この部屋でパイちゃんと融合させれば完了』
「…えらく簡単な方法ね」
『それで魔族化が完了なら、問題はないんだけどね。ただ、それによってパイちゃんがヴァンパイアになるのか、それともヴァンパイアハーフになるのか…あと、ヴァンパイアの思考もパイちゃんと融合するなら、人格もかなり変わるだろうし…』
「え?それは嫌よ。私は私でいたいもの。この人格のまま、魔族化が希望よ。それにヴァンパイアハーフじゃなくて、生粋の魔族が理想ね」
『うん、それは分かってる。だからダンジョンモンスターのヴァンパイアを使えば…ひょっとしたら人格が変わらないかも知れないの。ダンジョンモンスターは自我が無いからね』
「ダンジョンモンスター?それも何か問題ありそうよね?」
『だよね。ダンジョンモンスターは僕ちんの意思で動くから、ひょっとしたらパイちゃんが僕ちんの操り人形になるかも知れないし、それにダンジョンの外に出たら、死ぬ体になるかも知れないし…』
「私、操り人形も、外に出れないのも嫌よ」
『自分もそうだよ。パイちゃんを無理矢理操り人形なんて、ラブドールにする様なものだもの。まあ、ラブドールはラブドールで魅力はあるかも知れないけど…』
「そんなものと一緒にするな!」
『まあ、冗談はさて置き…これからこの固有スキル【融合】の性能を調べたいと思います。恐らく、一日は実験で費やすとは思いますが…吉報をお待ちして下さい!』
そしてダンは、融合ルームの性能調査を開始する。それによって自身の固有スキルが、とんでもないチート能力である事を自覚するのであった!




