表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30cmマグナムの生涯!  作者: 猪子馬七
第2章 ジョンとマグナム
41/98

第40話 脱出

今回で第2章終了です。

(●´ω`●)



 ギルドの情報が筒抜けであれば、パイア王女は既に詰んでいる。

 王宮内にて仲間と呼べる者がおらず、何とかギルドとの繋がりで仲間を募ろうとしていたのに、そのギルドの職員が…それも副ギルドマスターがナーム女王と繋がっているのであれば、もう手の打ちようがない。


 だからと言って諦めるのであれば、とっくの昔に命をたっている。

 実母を殺し、自分にも殺意を向ける連中に復讐をせずに、何故自死を選ばなければならないのか?アホらしい。

 死ぬぐらいなら、一人でも多くの敵を道連れに死んでやる。それがパイア王女の考えだ。


「…まずは情報を整理しないとね」


 諦めることを知らないパイア王女は、自分が置かれている状況を整理する。




・実父であるダブツ王

 ナーム女王の色気に惑わされ、国政の実権を握られる。今は病床に伏せており、恐らくはナーム女王に微量の毒をもられている可能性が高い。


・実母であるペチャ女王

 10年前に毒殺され、今もなお犯人は捕まっておらず。


・継母であるナーム女王

 現エクレア王国の実権を握り、王宮内にて強権を振るう。ペチャ女王の毒殺を指示したとみられ、その死後に女王に就任。


・腹違いの妹であるアミ王女

 王位継承権第二位の為、パイア王女の死は王位継承に直に繋がる。


・メイド長のメルギブ

 ナーム女王の手となり足となり働く老婆。


・ギルドマスターのルドー

 冒険者ギルドを切り盛りする白髭の爺さん。立場上、一応中立ではあるが、パイア王女に対してはそれなりに気を遣っている。


・副ギルドマスターのクギー

 巨乳眼鏡で元々は弓使い。ナーム女王と繋がっており、パイア王女の情報を流していた。


・Aランク冒険者のビコー

 単独でのAランク冒険者の為、実力はかなり高い。義理堅い女性で、更に隠密行動に優れている為、パイア王女が専属のボディガードとして雇おうとしたが、拒否される。今にして思えば、副ギルドマスターのクギーが拒否する様に促していたのかも知れない。


・Bランク冒険者チームの餓狼の牙

 そつなく依頼をこなす中堅冒険者チーム。安全パイを徹底してる為、王女絡みの依頼は受けたがらない。


・迷宮族のダン

 元々は人間で、30cmマグナムの所有者。優しいらしい。


・30cmマグナムのジョン

 現マグナムの所有者。王都に来てマグナム無双を繰り返し、恨みを買って殺されかかる。現在は賠償金の不正受領で捕まっている。




「…こんなところね。でも、コレだけじゃ私が殺されるのは回避できない…。もっと情報がないと…」


 そう呟くと、足音が聞こえてきた。食事の時間だ。


 メイド長であるメルギブが食事を運んできた。だが、パイア王女はそれを拒否。


「食事は要らないって言ってるでしょ?下げて頂戴」


「まあまあ、縁談を前にダイエットですか?それでは失礼します」


 そう言って食事を下げ始める。白々しい。だが、パイア王女もこの食事に毒が盛られているとは思っていない。縁談の日に殺す予定なのだから、わざわざ前倒しで殺す必要もないのだから。

 それでも食事を摂らないのは、パイア王女の意地であった。それともう一つ。いつも通りに振る舞うことによって、メルギブに警戒させない為である。


「ところで…ジョンはどうなったの?流石に死刑にはならないだろうけど…」


 その質問にメルギブは笑顔で答える。


「ああ、あの男ですか?今頃、奴隷商船に積まれて旅立ったところでしょう。無一文でしたからね」


「はあっ⁉︎昨日の今日で奴隷として売られるなんて、ありえないわよ!」


 驚くパイア王女。確かに、そんなに早く奴隷として売られる事は、まずあり得ないのだ。


 本来であれば奴隷商に奴隷となる者を紹介し、そこから国への申請など手続きが必要となる。その間、およそ一週間。それを省略して、たった一日で奴隷として売られるのはとても異常な話である。


 だがメルギブは笑って答える。別に問題は無いのだと。


「パイア様、あの男が犯罪を犯しのは、自白によって証明されています。そして事件の遺族に対する賠償金も国庫に負担がかかり、早急にお金が必要となるのです」


 本当に白々しいことを言う。賠償金は確かに多額ではあるが、国の財産からの支出として考えれば大した事はない。


 パイア王女に睨まれながらも平然としているメルギブは、そのまま食事を片付けて退室。残されたパイア王女は…不敵な笑みを浮かべていた。


「なるほど。ジョンの奴、自分が元魔族だった事は、白状しなかったようね」


 メルギブの態度から、ジョンの自白内容について推測ができる。


 もし、ジョンがダンと入れ替わった魔族だと白状していれば、その確認をする為にも、奴隷商船に乗せて国外へと送る事はない。まずは現場に行って事実確認をするはずだ。


 メルギブの態度からして、ジョンは奴隷商船に乗せられた。つまり、ギルドも王宮の連中も、ダンという魔族の存在については気がついていないはず。

 これはパイア王女にとって、とても有益な情報だ。


 だがここで、一つ問題が生じる。ダンが生存していると考えるのであれば、必ず始末しなければならない。

 エクレア王国にとってもババロア王国にとっても、ダンの存在はアキレス腱になり得るのだから。

 それでもダンと繋がりのあるジョンを速攻で奴隷商船に乗せると言う事は、それなりの対策があるのだろうか?


 田舎者のダンが生きてて証言しても、圧力で潰せると考えているのか?

 それとも、重傷を負っていた為、既に死んでいるとジョンが嘘をついたのか?

 実はダンとジョンが同一人物だと思ったのか?


 一番、あり得そうなのは同一人物説だ。ギルドの受付嬢はダンとジョンの二人を見比べて、ダンはエロい目をしていて、ジョンは子供っぽいと評していた。

 しかし、その後のジョンはマグナム無双を繰り返した。ダンとジョンが同一人物のスケベな男として認識されれば、同一人物だと言い張れる。

 新人冒険者大量殺人の被害者が所持していたショートソードを、ジョンが所持していたのも説明がつく。


 ババロア王国から虐殺の時に一人逃したと報告を受けていれば、ダンがジョンという偽名を使って生還したと思うはず。



 …以上のことから、ジョンはダンと同一人物として処理されたと推測される。

 勿論、ジョンの性格からして、同一人物だと嘘をついたのではなく、取り調べを行なった連中が「お前は同一人物だ」と脅すから、それに従っただけなのかも知れないが。


 何はともあれ、魔族のダンの存在が明るみに出なかった事は朗報だ。だが、ダンの肉体であるジョンを失ったのは大きい。

 ダンのいる場所は把握しているが、ジョンがいない状態で果たして助けてくれるのか?ジョンの情報による「ダンは優しい」を信じるしかないが…。







 翌日、パイア王女はこの幽閉からの脱出を試みようとしていた。

 昨夜、情報を整理し、その後は脱出の為のシミュレーションをしていたのだ。予定では明日にはダンの元へと逃避行をしている…はず。


 そんなパイア王女の元に、メルギブが朝食を運んできた。それを昨日と同じ様に拒否する。

 パイア王女はこんな時のために、隠し持っていた干し芋で食いつないでいた。その干し芋も、もう無い。やはり今日の脱出は決行しなければならない。


 そう決意したパイア王女に対して、メルギブが悲報を告げる。


「そう言えば、昨日の奴隷商船ですが…その後、海賊に襲われたと報告を受けています」


「なっ⁉︎それじゃあ、ジョンは…」


「恐らく今頃、海の底ですね。では…」


 そう言って笑いながら退室するメルギブ。確かに悲報だ。普通に考えたら。しかし、パイア王女の考えは違った。


「やっぱり、私に風が吹いてるわね!これなら脱出も上手くいくはず!」


 そしてパイア王女は秘密裏に計画していた作戦を実行するのであった。







 本来であれば、城には王族しか知らない脱出経路が存在する。

 パイア王女も、その存在は知っていた。しかし、ナーム女王もその存在を知っているのだ。この城からの脱出に、それを利用する事はできない。


 まさに鳥籠の中の鳥。逃げ場は無い。と、そこでパイア王女は副ギルドマスターの、クギーの言葉を思い出した。


「なるほどね。確かに鳥籠の中の鳥だわね」


 クギーがパイア王女に確認した、自身が鳥籠の中の鳥。それは今思えば、忠告であったのだろう。

 女王と繋がりのある自分がいるのだから、絶対に失敗する。それを遠回しにパイア王女に伝えていたのだ。


「まあ、今更気がついたところで遅いけどね。それよりも…皆が寝静まった深夜になったんだし…急いで脱出しないと…ね!」


 そう言ってパイア王女は、石畳である地面の一部を引っこ抜いた。こんな時の為に長い時間をかけて用意しておいた、脱出用アイテム。今こそ、使う時であろう。


 パイア王女が取り出したのは、液体の入った瓶が二本。中に入っているのは蒸留して、濃度を高めたお酒。つまり、アルコール。


 あとはカーテンレールのところに隠しておいた、太さ5mmで長さ50cmの鉄の棒を取り出す。その棒を使って石畳の一部に長い時間をかけて穴を開け、見つからない様に塞いでおいたのだ。

 再び、鉄の棒で穴を開けなおし、下の階の状況を覗き込む。


「うん、人は居ないようね」


 人の気配がない事を確認し、おもむろに濃度の高いアルコールを穴から下の階へと流し込む。


 下の階には都合よく()(くさ)となる資材などが置かれている。これで火を放てばよく燃え広がるはずだ。

 そう、パイア王女の計画は、城に火を放ち、その隙に逃げ出す事。

 王族であるパイア王女が城に火を放つなど、前代未聞である。故に、成功すると確信していた。


 都合良く、パイア王女の自室の下に燃え種がある。勿論、それらはパイア王女が事前に用意していたもの。

 全てはこの日のため、着々と秘密裏に脱出計画は進められていたのだ。

 もし、逃げるのであれば、火事を起こして逃げる。あわよくば、それでナーム女王を焼死させることも出来るかも知れないからだ。


 パイア王女は穴から下の階に火を放ち、その小さな穴を再び塞いだ。そして待機。


 資材置き場には揮発したアルコールが充満している。そこに火を投下すれば、いとも簡単に資材置き場はメラメラと火に飲み込まれる。

 しかし、どれだけ資材が燃えようとも、所詮は石でできた城。木造ならいざ知らず、それ以上の延焼は難しい。

 だからパイア王女が狙っているのは、火事による煙。そう、火事による死者は、煙を吸うことによる一酸化炭素中毒が多いのだ。

 煙を多く出させる為に、資材置き場には、煙が多く出る「閻魔草」を隠しておいた。冒険者が使う、煙幕弾の原材料となる乾燥させた植物だ。


 かなり早い段階で火事を知らせる警報が鳴り響く。パイア王女の部屋にも煙が上がってきたので、予想以上の煙の量だ。


 タオルをマスク代わりにしたパイア王女が、警報の音と共に部屋から飛び出す。


「火事よ!早く消火に当たりなさい!」


 そう指示を出し、パイア王女は消火活動をする者達とは逆方向に走り出す。

 一箇所の放火では、鎮火にそう時間はかからない。複数の場所からの放火になれば、どこが火元か確認しにくくなり、消火に時間もかかるはず。

 その為、他にも二箇所の部屋に火を放つ。資材置き場と同じ様に、閻魔草を隠した部屋に。

 煙が蔓延している為、パイア王女の動きを認識できる者はおらず、追加の放火は難なく成功。そして最後の部屋…宝物庫に到着。


「王族として…これは超えちゃあいけない事だけど…まあ、仕方がない!これが私とエクレア王国との決別の証よ!」


 パイア王女はそう言いながら、宝物庫に火を放った。絵画や書物など、歴史的な価値のあるものに、容赦無く火を放ち…そしてその場を後にした。







 王宮の火事のドサクサに紛れ逃げ出したパイア王女。向かう先は、軍馬が飼育されている厩舎。

 そこで隠しておいたアイテムを取り出し、一番の駿馬に飛び乗り城門へ。


「何者だ⁉︎この時間は通行できないぞ!」


 門兵が馬で駆け寄る者に警告するが、その姿を確認できる距離まで縮まると、驚愕の声を上げる。


「パ、パイア様では⁉︎何故このような時間に…いや、それよりも城からの煙が!」


「事情は後回しよ!今すぐ、この門を開けなさい!」


「い、いや…それは…」


「女王の命により私の出国が禁じられているのは分かります。しかし、今は緊急事態!王女である私の命に従えないなら、その首を跳ね飛ばすわよ!」


「申し訳ありません。それでも…」


 それでも開けられない。当然だ。ナーム女王の命を破れば、死刑が待っているのだから。だが、それもパイア王女の想定内。

 深々と頭を下げて拒否する門兵に、短刀を取り出したパイア王女が、何の躊躇いもなく短刀を門兵の顔に突き刺した。


「ギャアアアアアッ!」


 パイア王女の不意打ちに悶絶する門兵。左目に短刀が突き刺さり、確実に失明。

 そして、のたうち回る門兵と他の門兵に対して、短刀を振りかざしながら宣言する。


「王族である私の指示に従えないなら、貴様らを殺す!それとも、王族である私を返り討ちにするのか⁉︎私を殺せばどの道、貴様らは死刑!さあ、どうする!私に殺されるか、私を殺して死刑になるか…それとも、門を開けるか⁉︎」


 門兵が本気を出せば、女であるパイア王女を殺す事は可能。しかし、無傷で取り押さえるのには無理がある。

 一応、王族の嗜みとして、馬術も剣術も心得ているパイア王女。それを取り押さえるのに、無傷という訳にはいかないのだ。


 短刀を掲げるパイア王女に門兵は抵抗できずにいるが、それでも門を開けようとはしない。だからパイア王女は別の手を打つ。


「混乱を避ける為、本来であれば秘匿されることですが…賊が侵入し、ダブツ王は殺されました!そしてナーム女王とアミ王女も!唯一の生き残りである私の命を優先し、逃亡をはかります!さあ、門を開けよ!そして賊の追手をその身を挺してこの場で足止めしなさい!」


 大嘘だ。門兵も全員、疑いの目を向けている。しかし、実際に城から煙が出ているのだ。賊の襲撃の可能性は完全には否定できない。


 たとえ嘘であろうとも、この場で短刀を振り回す王女を相手に、怪我をするのは御免だ。だから門兵の一人が提案する。


「城が火事になっているのは事実!避難を最優先する為、時間外ではありますが開門をいたします!」


 一人の門兵がそう言い、開門を宣言。するとほかの門兵もそれに賛同。これが一番、無難な対応だと思ったからだ。


 そして門が開き、駿馬に乗ったパイア王女がババロア王国との国境付近へと目指す。


 暫く走っていると、後ろから気配を感じた。


「ちっ!対応が早いわね!もう追手が…」


 恐らくは門兵が王宮へと報告したのだろう。現場の状況から、パイア王女が城に火を放ち逃走したのだと、勘付かれたはず。


 追手の数はおよそ数十騎。全員が武装している。


「…私を完全に殺す気ね。まあ、そんな重装備じゃ、追いつけないだろうけど!」


 パイア王女は鞭を打ち、そのスピードを上げる。ドレス姿の軽装備のパイア王女。更に乗っている馬は駿馬。追手をどんどん引き離す。


 重装備である追手はそのスピードについて行けず、追いつけない。パイア王女の駿馬が残す足跡を頼りに、追手は追跡をするのだった。


 ある程度、追手を引き離したパイア王女は、緩やかなカーブを曲がった先で、厩舎に隠していたアイテムを取り出した。

 それを馬の頭に装着。そう、目前に人参をぶら下げた自動馬走らせ機である。


 人参を目前にし、スピードを上げる駿馬。そしてパイア王女は馬から飛び降り、受け身をとって無事に着地。その場からすぐに離れて森の中へと身を隠す。

 暫くして追手が駿馬を追いかけて、パイア王女が隠れている森を通過。これで更に時間が稼げるはず。


 そして朝日が昇る中、パイア王女は森の中を突き進む。目的地である…唯一味方となってくれる可能性がある、迷宮族のダンがいる場所へと、ただひたすらに走りながら、目指すのであった。


第2章 完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ