第35話 200人斬り
シュー修道院長が語っていた危険が伴う医療行為。シュー修道院長が流す流血が、その危険性を物語っていた。
43年間生きてきて、初めて体験する医療行為。それは…最高だった。
初めての医療行為が故に、未熟さは否めない。それでも拙い医療行為は功を奏し、マグナムの鎮静化に成功した。
30分間に渡る壮絶なる医療行為。それを初めて見る若き修道士達もまた、生唾をゴキュリと飲み込んだ。
「ハアハア…治療はどうやら成功した様です…この医療行為は体を張った、壮絶なる医療行為…皆さん、くれぐれも真似だけはしないで下さいね…」
疲労困憊のシューではあったが、その顔はとても充実していた。
そんなやり遂げた感溢れるシューに、若き修道士の一人が声を上げる。
「待って下さい、シュー修道院長!あの、鎮静化したマグナムに…再び血液が集中し始めてます!」
何という事であろうか!あれ程の医療行為による奮闘によって鎮静化したマグナムが、再び硬化を始めたのだ!
ジョンの全身の血液が再びマグナムに集結し、その硬度を高める。恐ろしい程のスピードで…。
「くっ…!何という回復力!仕方ありません…もう一度私が鎮静化を…」
医療行為の第二ラウンド。そう決意したが、若き修道士達がそれを阻止。
「ダメですよ、これ以上は危険です!」
「何を言ってるんですか⁉︎これは人命に関わる問題ですよ!どきなさい!途中で医療行為を放棄するなど…」
「大丈夫です!放棄などでは無く、私達が引き継ぎます!」
神聖なる医療行為を目の当たりにした若き修道士達。その崇高なる精神は、誰もが医療行為に従事する者として誉れ高き精神。
たとえ修道院長であるシューであっても、止める事は出来なかった…!
「分かりました。では順番でという事で…」
いつの間にやら医療行為をする順番が決まっており、マグナムを前にして長蛇の列が出来ていた。
苦虫を噛み潰した様な顔のシューは渋々、列の最後尾に並ぶ。
若き修道士がシューを見習い、同じ様に医療行為によってマグナムの鎮静化を行う。
しかし、どれだけ鎮静化を繰り返しても、凄まじい回復力がマグナムに血液が集中させる。
夜通しの医療行為。いつしか夜は明け、他の修道士達もマグナムに対する医療行為を聞きつけ、治療室に集結。
男を知らない200人の修道士達が、代わる代わる医療行為に従事するのであった。
◆
ジョンが意識を取り戻した時、身動きが取れなかった。全身を手術した為、全身を包帯で巻かれていたからである。
包帯でグルグル巻きにされ、口からは流動食を流し込む管が。排泄のための管も、お尻に突き刺さっている。
唯一、自由なのは無傷であったマグナムだけ。ミイラ男にマグナムが生えている、何ともシュールな絵面だ。
そんなマグナムが相変わらず自由を謳歌している。包帯で顔も塞がっている為、何が起きているか分からないが、女の子の相手をしている事は確かだ。
私刑によって生死の境を彷徨い、そこから何とか生還したジョン。その時のことがトラウマとなっており、救助された後も、私刑の時の映像がフラッシュバックしてジョンを苦しめる。
この時、ジョンは思った。もう、オンナは懲り懲りだと。早くダンのところに逃げ帰りたい、と。
しかし、そんなジョンの気持ちとは裏腹に、包帯で自由を奪われ、複数の女の子と無双するマグナム。とても元気だ。
「う…う…う…」
自由を奪われているジョンは必死で呻き声を上げなら、包帯でグルグル巻きになっている体を動かす。だが、これは逆効果だった。
「修道院長!患者の意識が戻りましたが、暴れようとしています!」
「ダメよ!無理に暴れたら塞がりかけた傷口が開いてしまうわ!拘束具を…いや、それでも傷口が開いてしまう!もっと柔らかい物で押さえつけないと…」
そう言うシューに、若き修道士の中でも巨乳の部類に入る女の子達が複数人、志願を申し出る。
「修道院長!私達なら何とかなるかも知れません!患者の拘束なら私達に試させて下さい」
「…そうね。あなた達なら、何とかなるかも知れないわ!」
これによって巨乳拘束隊が結成。複数の巨乳がその身を以って、暴れるジョンを鎮静化させる。
「修道院長!患者の鎮静化には成功しましたが、マグナムの鎮静化がおさまりません!」
巨乳拘束隊の活躍により、暴れるジョンを大人しくする事ができた。だが逆に、マグナムの動きが活発化し、鎮静化とは逆の効果を促した。
「…仕方ありません!マグナムの鎮静化に全力を注ぐわよ」
シューの適切な判断により、手の空いている修道士達がひっきりなしに、マグナムの鎮静化に尽力する。
無双するマグナムと、男を知らない修道士達との熱き戦いは、その後一ヶ月も続くのであった。
◆
200人斬りを達成したマグナム。その雄々しさには磨きがかかり、医療行為に従事した修道士達も誇らしげだ。
反してジョンは、傷が完治しても包帯でグルグル巻きにされたまま、自由を奪われていた。シュー修道院長が絶対安静だと、いつまでも言い張り、動けなくさせていたからだ。
傷が完全に完治しても身動きが取れず、必死で暴れて訴えても、巨乳拘束隊の活躍によって鎮静化。そしてマグナムが暴れだす。それを修道士達が総出で鎮静化。それの繰り返し。
だがそんな修道士達にとって最高の日々も、終わりを迎えることになる。
ジョンが運び込まれてから一ヶ月、ジョンを助けたAランク冒険者のビコーが、ジョンを迎えに来たからだ。
「どうやら、元気そうだね。あれだけの重傷だったんだ。死んでたっておかしくなかったんだぞ?」
そう言うビコーにジョンは、力無く答える。
「あ、はい。シュー修道院長を始めとする、皆さんの尽力のお陰で…毎日…その…色々と医療行為を受け続けました…」
「そうかい。本来であれば男子禁制の場所なんだ。禁忌を破ってまで助けてくれた皆さんに、ちゃんとお礼を言っておきなよ!」
「それは勿論ですが、それより…」
「ああ、私のこと?シュー修道院長からは事情を聞いたのかい?」
「山中で私刑を受けていた僕を、Aランク冒険者のビコーさんが見かけて助けてくれて、ここまで運んでくれたと説明を受けました。本当に…本当にありがとうございました!」
ジョンはポロポロと涙をこぼし、礼を言った。本当にあの死地から生還できるとは、思ってもみなかったからだ。
「なーに。私にも色々と事情があったからね。そんなにかしこまらなくてもいいんだよ。それより、ここは男子禁制の場所。いつまでも居座ってたら迷惑だろ?早く身支度を整えて来な」
別に迷惑だと思っている修道士は一人としていなかったが、モンガラ教の禁忌に触れていると考えているビコーは、早目の退院を促すのであった。




