第32話 後悔
ジョンが町中で手当たり次第に女の子に手を出し、マグナム無双。その様なことをすれば、町中の男達から反感を買う。
普通に考えれば分かることだが、元魔族であるジョンには、人間としての常識が欠如しており、他人の心を理解する事が出来なかったのだ。
それが今回の末路へと繋がる。
町中の男達が怨嗟の炎を燃やすなか、空気を読まずに女の子に手を出し続けるジョン。挑発行為と思われても仕方が無い。
女帝のシロキと愛人契約を結ぶだけでも、裏社会の男達から命を狙われる可能性があるにも拘らず、町中の女にまで手を出すしまつ。正気の沙汰とは思えない。
自業自得とは言え、これからマグナムを切り落とされて、死ぬ末路が待ち受けているのだ。ジョンは己の愚かさに、ただただ涙した。
マスターチェンジによって人間になったジョンは、人間の命というものを軽く考えていた。人間とはDPを貯めるための捕食対象。それ以上でもなければ、それ以下でもない。
だから自分の代わりにダンジョンになったダンが、何の罪も無い冒険者を殺すことに躊躇っていたことを、不思議に思っていた。
でも、今は違う。短い期間ではあったが、人間としての生活を経験した今なら、ダンの気持ちが痛いほどよく分かる。
人間が死ぬ。それは生との決別。美味しいご飯も食べられなくなるし、娯楽を楽しむことも出来なくなる。
それに人間には繋がりがある。親、兄弟、恋人、友達…。その繋がり、全てを死は断ち切るのだ。人が死に対して恐怖を持つのは、当然のことと言えよう。
逆に言えば、人を殺めるという事は他人の繋がりを勝手に断ち切る行為である。到底、許されることでは無い。
私刑を受け、生死の境を彷徨い、その命の尊さを骨身に染みて理解したジョンではあったが、今更もう遅過ぎた。
あれだけ無双したマグナムには、六人の凶刃が突きつけられているのだから…。
これからマグナムを切り落とされた後、ジョンを町に解き放っても、誰もジョンの事を助けてはくれないだろう。
マネオの言う通り、ジョンは敵を作り過ぎた。男は勿論のこと、味方となってくれる女の子も、マグナムを失えば誰もジョンの事を相手にしてくれないだろう。
男も女も助けてくれない。まさに四面楚歌。それに唯一の味方である筈のダンも…恐らくマグナムを失えば激怒するだろう。
あれだけ世界一の肉体だと自負していた、このマグナム。それを遊び呆けて失うのだ。命からがらダンの元へと辿り着いても、言い訳すらさせて貰えずに殺されるかも知れない。
マグナムとの決別。それはダンとの決別でもあるのだ。
つまり、マグナムを失うという事は、千年間30cmダンジョンとして生きてきた、あの時のような孤独になること。
孤独に生きた、あの時に戻る…それだけは絶対に嫌なのだ!
…ならば答えは一つしかない!そう、何としてでも、このマグナムを失わせる訳にはいかない!自分の為にも、ダンの為にも!
致命傷を負い、死にかけているジョンの目に命の炎が宿る。まだ、諦めない。このマグナムは自分だけのものでは無いのだから!
マグナムはジョンのモノであり、ダンのモノでもあり、そしてマグナムを愛してくれる女の子達のモノ!
僅かにでも可能性があるのであれば、この死地より生還する手段を考えるのが必要だ。
そしてジョンは考えた。とても、とても、考えた。そう、とても…エロいことを!
「な…馬鹿なっ⁉︎」
マグナムに凶刃を突き立ててるマネオは驚愕する。この状況下に置かれて、ジョンはまさかの「マグナムの硬化」を遂行したのだ。
全身の傷を治す為に全身を駆け巡る血液が、一瞬にして下半身へと流れ始める。全身の傷の事などよりも、まずはマグナムの硬化。そう言わざるを得ないスピードで、マグナムに血液が集約される。
恐るべき速さでカッチカチになったマグナム。その大いなる硬度が六人の凶刃を跳ね返す!
ガキンッ!
マグナムを切り落とす筈であった六人の凶刃が、そのマグナムの硬度に押されて弾け飛ぶ。そして宙を舞い、そのまま地面に突き刺さる。
呆然とする六人の強面達。今、自分達が相手にしているマグナムは、自分達の想像を絶するほどの存在なのではないのだろうか?そう思わせるほどの硬度であった。
特にマネオ。この状況下でマグナムを硬化させるジョンの胆力に、驚きを隠せなかった。
ひょっとしたらシロキはこのジョンの胆力の事を、薄々気が付いていたのではないだろうか?
ただ、マグナムに惚れただけで愛人契約をしたのではなく、それなりに理由があったのでは?
そう思うと、マネオは自身のとった行動が軽はずみだったのではないかと、額に汗が流れる。
しかし、今更もう遅い。ここまで来たら、引き返す事などできる訳がないのだから!
「く、苦し紛れに硬くしたところで、結局マグナムは切り落とされるんだよ!いつまでも硬くさせるなんてこと、流石に無理だろう⁉︎」
確かにマネオの言う通りだ。全身が傷だらけで、一時的に硬化させただけなのだから、本当に一瞬の硬化でしかない。
苦し紛れの硬化。的を射ている。だが、この苦し紛れの硬化こそ、ジョンが急死に一生を得る事となるのだった。
再びナイフを拾い上げ、マグナムを切り落とそうとするマネオ達。絶体絶命のピンチのジョン。自力での逃走は不可能だ。
ならば、誰かが助けに来てくれるしかない。だが、誰が助けに来てくれる?
唯一、ジョンの味方となってくれそうなのはシロキ。現状を知ったら激怒して助けに来てくれるはず。
だが、シロキはマグナムを相手に五時間ほど奮闘したばかりである。今はベッドで就寝中。助けに来てくれる事はない。
ならばダンは…勿論、ダンジョンなのだから動ける訳がないし、助けに来る事はない。
ジョンを助けてくれる人はいない。当たり前だ。誰もにも知られぬ様に、マネオはジョンを拉致したのだから。
ここにジョンがいることは、当事者以外にいないはず。
そう、ただ一人…この一ヶ月間、ジョンを尾行し続けた、Aランク冒険者のビコー以外には!
ボフンッ!
「んなっ⁉︎これは?」
マネオ達の周りに煙幕が張られた。冒険者が使う煙幕弾だ。
閻魔草と火薬を配合して作る煙幕弾。広い場所ではすぐに煙幕が晴れるが、木々の生い茂る森の中ではそれなりに効果が高い。
そして夜という条件もまた、ジョンに味方した。煙幕が晴れ、辺りの景色が確認できる様になると、紐で縛られていたジョンの姿が、忽然と消えていた。
夜の森の中にて、Aランク冒険者の逃走を追跡できる者など、ここにはいない。
たとえジョンを背負っていて動きが鈍かろうとも、たった一人でAランク冒険者に昇り詰めたビコーの実力は、裏社会の連中をも凌駕する。
死ぬ覚悟と殺す覚悟で拉致したジョンを、不覚にも取り逃したマネオ。
致命傷の傷を負っているとは言え、もしジョンがマネオの凶行を、シロキに報告したら、どうなるのか?
マネオは頭を抱えて、その場に蹲り、逃げられたことを…そして不本意に拉致した事を、激しく後悔した…。
こうして私刑によって死にかけたジョンは、死地から奇跡の生還を成し遂げるのであった!




