第25話 世紀末救世主伝説
ジョンが王都にきてからの数日間。その行動パターンは食事や演劇など、もっぱら娯楽に費やしていた。
尾行するAランク冒険者のビコーとしては、首謀者やそれに繋がる関係者との接触を望んでいた為、肩透かしにあったようなもの。
それでも尾行をやめないのは、冒険者ギルドからの依頼だからであり、Aランク冒険者としての勘が、ジョンを怪しいと感じていたからだ。
「…やっぱり、おかしいわね?」
ビコーが数日間、ジョンを観察して思ったこと。それはどう見ても田舎者のお上りさんが都会に来てから、はしゃいでるだけにしか見えないことだ。
そしてその違和感を、依頼主であるギルドマスターのルドーに報告する。
「この数日間、観察して分かったことは…あのジョンって青年、ただのお上りさんにしか見えません。田舎者が都会の生活を満喫してるだけ…そう捉えるしかありません」
その報告を受けて、ルドーもジョンのおかしさに気が付く。
「なるほど。つまり、双子の兄であるダンが死に、遺族であるジョンが国からの賠償金である5万Gを受け取り、豪遊しているのは、おかしいと?」
「そうですね。本当に兄が死んでいるなら、あんなに楽しそうに都会の生活を満喫するなんてあり得ません。兄が生きているのに賠償金を貰い、そのお金で豪遊している頭の悪い子供…そんな感じに見受けられます」
「なら、やはりジョンは黒か…。しかし、首謀者との接触と思われる動きは無いのだろう?」
「そうですね。本当に降って湧いたように得た賠償金で、ジョンは遊んでいるだけにしか見えません。ひょっとして、あの男は何も考えていないのでは?つまり、事件についてはダンが主犯で、双子の弟のジョンはいいように利用されただけかと。そうなると、ダンの身柄を確保しない限りは、首謀者との繋がりには至らないかと思われます」
「ワシも同意見だ。このままジョンを泳がせておいても、首謀者に繋がる様には思えん」
「なら尾行をやめて、行方不明のダンの捜索に切り替えますか?」
「いや、待て。無闇矢鱈に探したところで見つかる可能性は低い。それよりも、折角ダンとの繋がりのある男がいるんだ。それを利用しない手はないだろう?」
ルドーがニヤリと笑う。そして一つの策を用いて、ダンを炙り出す計画を企てるのであった。
◆
「あ〜今日も楽しかった!さて、明日はどこに行こう!」
ジョンは楽しみにしていた演劇を観賞して御満悦。そして明日はどこで遊ぶか思案中。そう、ジョンは毎日好きなだけ遊んで暮らしていたのだ。
「まさかダンの遺族を名乗ったら賠償金が貰えるなんて、思ってもみなかったよ!五万Gも手に入ったし、これで働かないで遊んで暮らせるぞ!」
ひょんなことから手に入れた大金。それは国の責任で、新人冒険者であるダンを死なせてしまった為の賠償金であった。
そんな大金を手に入れてしまったが為に、浮かれて羽目を外すジョン。自身に迫る危機などお構い無しに、散財を繰り返すのであった…。
◆
「いてぇ!おい、テメェ!どこ見て歩いてやがるんだ!」
モヒカンの三人組、モヒヤマとモヒタとモヒジマが、肩にぶつかった通行人に絡みつく。
「あーこれは肩の骨が折れちまったな!おい、テメェ!どうしてくれるんだ⁉︎ちゃんと慰謝料払えるんだろうなぁ?ああん⁉︎」
強面のモヒカン三人が、通行人…ジョンに対して慰謝料を請求する。ただの言いがかりによるカツアゲでしかないのだが、世間知らずのジョンにとってはそんな事は分からない。
ジョンは本当に肩を骨折して慰謝料を請求されているのだと勘違いし、荷物からポーションを取り出した。
「すみません!あの、ポーションを持ってますので、これで骨折は治して下さい!二個も飲めば完治すると思いますので!では…」
そう言ってポーションを二個渡し、その場を離れようとするが、そんな事はモヒカン達が許すわけがない。
「おい、ふざけてんじゃねぇよ!こっちは慰謝料を請求してんだよ!金を出せ、金をよぉ!」
「え?でも骨折ならポーションで完治できるけど…」
「こっちはなぁ、テメェに骨を折られて仕事に支障が出たんだよ!分かるか?大事な大事な仕事をよ、テメェのせいで台無しにされたんだよ!」
「そ、そんなことを言われても…」
「その慰謝料を払えって言ってるんだよ!何でそれをポーション二個で済まそうとしてるんだ?ああん⁉︎馬鹿にしてるのかぁ⁉︎」
「すみません!田舎者なんで、よく分からず…」
「兎に角、金を出せ!今、いくら持ってるんだ⁉︎」
モヒカン達に言われるがままに、有り金全てを見せるジョン。ダンに言われて隠していたお金すら、ご丁寧に見せるしまつ。
「ほう、結構持ってるじゃねぇか!でもなぁ、これだけじゃ足りねぇな!おい、あと5万Gを用意しろ!それで勘弁してやる!」
「そんな!僕はもう、お金なんか持ってません!そのお金も持っていかれたら、僕は生活できません!返して下さい!」
必死に懇願するジョンであったが、モヒカン達は許してくれない。
「甘ったれんじゃねぇよ、このガキが!テメェが金を持ってないなら、家族からでも借りてこい!」
「か、家族?」
「そうだよ、家族だよ!テメェにだって親ぐらい、いるだろう?もしくは…そう、兄弟とかから借りてくればいいだろうが!」
モヒカン達の言葉にジョンは少し考え…。
「分かりました。それじゃあ、僕の家族のところまで案内します。そこでお金を用意して貰いますので、このまま一緒に来てもらえますか?」
「ほう、殊勝な心がけじゃねぇか!よし、お前が逃げない様に、馬車を用意してやる。それで一緒に家族のところまで金を取りに行ってやるぜ」
モヒカン三人組がニヤリと笑う。そしてジョンも気付かれないように、ニヤリと笑う。
ジョンがこのままダンの元へと三人を連れて行けば、間違いなく三人を殺してお金を取り返せる。そう判断したのだ。
勘違いされやすいが、ジョンは田舎者の子供のように見えても元は魔族。人間の死に対して全くと言っていい程に、無関心だ。
だからモヒカン三人組が目の前で、ハリネズミのように矢が突き刺さり絶命しても、ジョンは一切の感情に揺らぎは無い。
お金を払わず、更にお金を取り返せる。その為にこのモヒカン三人組が死んだところで痛くも痒くもない。
ならば答えは一つしかない。ダンに世紀末救世主伝説の役割を果たしてもらえればいい。それで全てが丸くおさまるのだ。
それに対してモヒカン三人組も計画通りに事が進み、笑みを浮かべる。そう、ヒャッハーと雄叫びを上げたいほどに。
何故なら、ギルドマスターのルドーからの依頼として、ジョンから家族の場所へと案内させることに成功したのだから。
お互いに思い通りに事が進む、そう考えているところ…思わぬ邪魔が入るのであった。
「ちょっと、あんた達!何、言いがかりをつけてカツアゲなんかしてるのよ!」
見ず知らずの女が、モヒカン三人組とジョンとの間に、割って入るのであった。




