第23話 襲撃事件の真相
『さてさて、外もすっかり暗くなって、敵兵による捜索も打ち切られたみたいだし…それでは落ち着いたところで、詳しい説明をお願いします』
ダンジョンの入り口にある大広間。その先にある小さな小部屋が、ダンジョンコアのあるコアルーム。ダンの本体がある場所だ。
このコアルームにあるモニターで大広間を観察し、侵入してくる敵兵を仕留めていたのだ。
ダンの用意したドロップアイテムのウサギ肉を焼き、食べ終えたところでパイア王女が語り出す。
「私は王女よ?捜索の手は夜でもあり得るかも知れないから、気を付けて頂戴ね」
『あーそれなら大丈夫。迷宮族は睡眠を取らない種族だから、寝ずに番が可能なんよ』
「ふーん。やっぱり羨ましいわね、魔族は。私も特殊能力のある魔族に生まれ変わりたいわ」
『そういえば王女様は魔族になりたいとか言ってたね』
「そうね、そのところから話し始めようかしら?改めて、私はパイア・エクレア。王女様とか堅っ苦しい呼び方はしなくてイイわよ」
『あ、そうなの?田舎者だから王族のことなんか知らないからね。ならパイちゃんで』
「…いきなり、馴れ馴れしくなったわね。まあ、いいわ。私は王族…って言っても家族から殺されかけてるから、大したもんじゃないけどね」
『なら、あの追手は家族からの刺客ってこと?』
「まあ、平たく言うとそうなるわね。私に力があれば追手を返り討ちにして首謀者を吐かせて、ナーム女王とアミ王女を失脚させる事もできたけど…どうせ何をしても罪にもならないから、逃げるしか無かったのよ」
『んんん?女王と王女が首謀者?あれ?パイちゃんは王女でしょ?』
「私はエクレア王国のダブツ・エクレア王とペチャ女王の間に生まれた第一王女。王位継承権は私にあるわ。そんな私の母を、私が幼い頃に毒殺して女王の座に着いたのがナーム女王。そして腹違いのアミ王女を生み、私を殺して娘に王位継承権を奪わせようと画策してるのよ」
『なるほどー。登場人物が多過ぎてよく分からないけど、つまりは継母に殺されかけて逃げて来たってことで?』
「早い話がそうなるわね。直接私を殺せば流石に問題になるから、隣国のババロア王国の王子との政略結婚って形で私を王都から離して、国境沿いで私を殺す手筈だったのよ。国境沿いで私が死ねばエクレア王国とババロア王国、どちらが責任を負うかでお互いに責任のなすりつけ合いになるでしょ?あとは、そのまま無駄に時が経ち、問題を風化させるってところかしら?まあ、クズの考えることなんか、その程度でしょう」
『うわー最悪だなぁー!王族って、もっと煌びやかな凄いところを想像してたのに…』
「夢を見過ぎてるわよ。王都は国の最高権力者がいる場所なんだから。腐敗に腐敗を重ねた伏魔殿よ。それと、あんた他人事みたいに言ってるけど、事件の当事者でもあるんだから、少しは危機感を持ちなさい」
『え?当事者?ああ、確かに敵兵を返り討ちにして当事者になったけど、人の女に手を出すんだから、返り討ちにするのは当たり前でしょ?』
「だから、何で私があんたの女になったのよ!ってか、そうじゃなくて!あんたは元々冒険者だったんでしょ?」
『それはジョンに聞いたの?確かに冒険者になったばかりの新人冒険者だったけど…』
「で?その新人冒険者として、あなたは殺されかけたんじゃなかったの?」
『ああ、確かに新人冒険者専用依頼とか受けて、この近くで襲撃に遭い…んん?まさか、俺が殺されかけたのって…』
「本当に鈍いわね。そう、私の暗殺事件に巻き込まれて、あなたは殺されかけたのよ。だからあなたは、この事件の当事者。もっと怒りなさい。何の罪も無いのに、暗殺事件に巻き込まれて、殺されかけたんだからね」
『ちょ、ちょっと待ってよ!何で俺が暗殺事件に?それに一方的に襲撃されて殺されかけたんだよ?実際に、一緒にいた新人冒険者は皆殺しにあったんだし…何で俺達は襲撃されたんだよ⁉︎』
「少し話は逸れるけど、私は幼い頃に母を毒殺されて、自分もいつか殺されるんじゃないかと、毎日ビクビクしながら過ごしてたのよ」
『さっき、そんな話をしてたよね。それで?』
「少なからず私の身を案じてくれてた家臣は居たけど、そういう家臣はナーム女王の手によって地方に左遷。私の身を守ってくれる家臣は一人もいなくなったわ。まさに四面楚歌。宮殿で出される食事はいつ毒が紛れ込むか分かったもんじゃないから、私は宮殿で食事をしなくなったの…」
『え?それでどうやって生きてきたの?』
「視察と称して毎日、王都の城下町を散策してたのよ。そこで毎日店を変えながらリンゴとかを購入して、食いつないでいたの。所謂、買い食い。王女ともあろう者が、ね」
『…なんかますます、自分の想像していた王族のイメージが崩れてくなぁ』
「現実なんてそんなものよ」
『買い食いで生活する王女って…ああ、だから栄養が行き届かなかったのか』
「…どこ見て言ってるのよ」
パイがギロリと睨みつけると、ダンが慌てて話を逸らす。
『いや、それよりも襲撃について聞きたいんだけど!』
「ああ、そうだったわね。私がそうやって城下町を散策してたのは、食事以外の目的もあったからなのよ。それが『ナーム女王派しかいない王宮以外で、仲間を見つける』ってこと。つまり…冒険者ギルドとの繋がりよ」
『ここで冒険者ギルドが出てきましたか』
「私は城下町を散策する時、常に冒険者ギルドに顔を出して交友を深めていたの。ギルドマスターのルドーと副ギルドマスターのクギーは顔馴染み。私の事情も説明し、いつか私の身を守ってくれる、信頼できる冒険者を紹介して欲しいと、そう頼んでおいたのよ」
『そうか…じゃあ俺はここでダンジョンとしてパイちゃんと出会わずに、冒険者として出会ってたかも知れないって事だね?』
「んな訳ないでしょ?何で私が新人の冒険者を必要としなくちゃいけないのよ!私の身を守ってくれるのは、最低でもAランクの冒険者。それも絶対的な信頼のおける忠義の冒険者よ!」
『いや、俺も女の子を裏切る事は絶対に無いけどね…』
「裏切る裏切らないの前に、あなたは新人冒険者でしょ?私を守る力なんか無いじゃない。それどころか、私を窮地に立たせておいて、よく言うわね…」
『ええっ⁉︎敵兵の襲撃からあれだけ助けてあげたのに、何で窮地なの⁉︎』
「そうじゃなくて、あなたが新人冒険者として襲撃を受けたでしょ?それが私を窮地に立たせたのよ」
『ごめん、全く意味が分からない!俺にも分かるような説明して!』
「今回、国からの依頼である新人冒険者専用依頼を受けた34名が、全員殺されるって前代未聞の結末を迎えたのよ。それは分かるでしょ?」
『ああ、うん。俺だけは何とかジョンのお陰で生き延びたけどね』
「で、その危険な依頼をした王国に対して、ギルドとしてもペナルティを課さないと行けない立場にあるのよ。死んだ冒険者の遺族に対しても、他の冒険者に対する面子もあるからね。そのペナルティってのが一年間、王国からの依頼は無しって事で手打ちになったの」
『ええっ⁉︎俺達、何も悪いことしてないのに、一方的に虐殺されたんだけど!それで一年間の依頼無しで手打ち⁉︎』
「被害者のあなたからしてみれば納得いかないかも知れないけど、落とし所としては悪くは無いわよ?王国からの依頼が一年も無ければ、ギルドにとってもマイナスだし、王国とギルドの双方にペナルティがある落とし所だからね」
『自分の知らないところで勝手に落とし前がついてるのは納得できないけど…それで?』
「それで王国とギルドは落とし前がついて一件落着。残ったのは…王族である私も一年間、ギルドに依頼が出来なくなったってことよ。つまり、女王派の手によって新人冒険者を虐殺し、私とギルドとの関係を断ち切ったってこと。その為に…あなた達、新人冒険者が人身御供となって殺されたって訳よ!」
『え?ちょっと待って…?そんな理由で…俺達、あそこで襲撃されて…皆殺しにあったの?』
「そう言うこと。私がババロア王国との政略結婚でババロア王国に出向く時、信頼できる冒険者も同行させる予定だったから、それを阻止するのが目的だったんでしょう。ギルドとの関係さえ断てれば、私に味方はいなくなるしね」
『ふ…ふ…ふざけるなぁ!何だその理由は⁉︎俺はなぁ、未だにあの時の光景が脳裏に焼き付いてるんだぞ!何の罪も無い新人冒険者達が…泣き喚きながら、無抵抗に殺されたんだ!そのあと、その死体を俺が美味しく頂いたにせよ…絶対に許されることじゃねぇ!』
「怒るのはごもっともだけど、少しは落ち着きなさい。今の話を聞いてて、少し疑問に思わない?」
『え?疑問?』
「だってそうでしょ?私に冒険者との綱手が無くなり四面楚歌。それで、どうやってここまで来れたと思うのよ?」
『それは…あ、そうか!』
「そう言うこと。ジョンと出会ったからこそ、私はこのダンジョンに亡命ができたのよ」
ジョンとパイとの出会い。これが世界の歴史を大きく変える程の、大いなる出会いとなるのであった!
第1章 完
やっと第1章が終わりました。
明日から第2章が始まりますが、更新が23時の一日一回更新になります。御了承を。
(●´ω`●)




