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「こんなに可愛いのに、呪いなんだね」
リーシェは上げていた手を下ろす。自分の小指を見つめたままであったが。
一体何が彼女をそう行動させたのか。
その言及は止めておく事にした。
何故ならこれはもう既に『済んで』しまっているからだ。
「……これはね、呪いっていうより願掛けに近いんだよ」
諦めたリベルが苦笑する。
先程からずっとそうしているような気がして、リベルは更に苦笑を重ねた。
「さっき赤い糸は恋愛成就って話したろ? まぁある意味呪いみたいなものだけど……どっちかって言うと願い事みたいな感覚で使われる。星が流れたら手を合わせて祈る……そんな感じのね」
リーシェの下向きの視線が勢い良くリベルに向き直る。
「そんな道具も有るんだ。でも……パッと見たら普通の糸なのに何でそういう物ってわかるんだろう?」
それに対し、リベルは間を置かずに返答する。
「この糸に関しては、作った人が持って来たんだ」
「へぇ、どんな人?」
リベルは少々言い淀む。これには、先程伝えていないもう一つの事が関係していた。
「……ガレットさん」
「……へ!?」
自分でも素っ頓狂な声が出た、とリーシェは自覚した。
それでも開けた口を手で覆う事はしていない。代わりに、パッチリとした目が更に大きく丸まった。
「君のお父さんだよ。魔術の素質が有る家系なんだって……聞いた事無い?」
リベルの問いに、リーシェは思いっきり首を横に振った。
「失敗作だって言ってたけどね」
「何で?」
「簡単さ。糸が結べないんだ。赤とか黄色は元から友好的な相手に対してだから結べるけど、黒なんてね……復讐を誓う相手になんて、大体相手側にも警戒されてるから」
リーシェは成程、と納得して頷いた。
確かに、糸の塊を良く見ると黒い糸だけやたらと大きい。消費されていない証拠だ。
それに比べて青や黄色などの明るい色、特に赤色の糸は一番小さくなっている。
「二人の間で結んだ糸が切れたら相手が死んだって証拠だから、死ぬのを確認したいなら、そういう使い方も有るには有るけどさ。それより他の道具を使った方がマシだよ」
リベルが表情を変えずに恐ろしい台詞を付け加える。
「……スレてる」
「父さんにも良く言われる」
彼が困った顔で笑うので、リーシェもそれ以上は追撃しない事にした。
実際に効果が有るかはともかく、これなら黒以外は表の店で販売したら良いのに、と自分の左手を擦りながら思ったリーシェは、ふとある事に気付いた。
「……あ、お店、大丈夫……かな」
突然何の事だろうとリベルは思ったが、リーシェの視線が店内のカウンターの方を向いているのを見て察した。
「……ヤバい。父さん帰って来てるかな」
急いで糸たちの上に布を被せ直し、リベルは足早に、だがなるべく音を立てないようにして店の方に進む。