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ズグン、とリーシェの心に重いものが圧し掛かった。
予想、していたものが的中していたからだ。
正確には、想定したもののうち、最も当たって欲しくない予想が当たってしまった。
であれば、この先の予想も当たっている可能性が有る。
彼女はそう覚悟をして、次の言葉を発した。
「で……」
出来るだけ慎重に。
答えから離れたものが聞きたい、と願うように。
「でも、よくこれだけの物を集められたよね……? ほら、今じゃ珍しいものばっかりなのに、ここにはぎっしり」
言い終わって、リーシェは彼の言葉を待つ。
すぐに返答が来ないのは初めてだ。
もどかしくもあり、このままでも構わないというような不思議な時間が訪れた。
「……ガレットさんだよ」
唐突にトン、と落とされた言葉に、リーシェの心臓が一回大きく跳ね上がった。
やはりそうだったのだ。
「君の言う通り、僕達だけじゃこんなに集めることは出来ない。ここに在る物の多くはガレットさんが見つけて来てくれたものだ」
父親がこの店と繋がっている。
そしてこの店は、裏では意図的に人を死に至らしめる道具を売っている。
つまりは、簡潔に考えれば父ガレットは人殺しの道具を提供している事になる。
恐らくはどれも高価な物なのだろう。
それがこの店、アリアンテールの主な資金源となっているのだ。
納得すると同時に、リーシェは深く肩と目線を落とした。
父親が人を殺す物を探して売っている、などと一体誰に言えようか。
「そう……だったんだね」
実は、これに加えてもう一つ彼女に話しておく事が有った。
しかし、咲いた花が枯れゆくような彼女の様子を見て、リベルは思わず言い留まってしまった。
「私、知らなかった……お父さんがそんな事してるなんて」
困ったような、寂しそうな薄い笑顔を浮かべてリーシェは言う。
俯いた彼女の顔は部屋で一番大きな鎧よりも、道具が陳列されている机よりも低い床へ、リベルから目を逸らすように落とされる。
その時、リーシェは小さく「あっ」と声を上げた。
「……何か落ちてるよ?」
リーシェが床の何かに寄って行くもので、リベルもそれを確認しに行く。
「あ、待って。僕が拾うよ」
リーシェの影になって判らなかったが、どうやら随分と小さい何かのようだ。
「これ何……?」
それはリーシェの手よりも小さい、細く小さく巻かれた赤い糸の束だった。
何の拍子かは解らないが、丸いのでいつの間にか机から転げ落ちてしまったのだろう。
「あぁ……これは『赤い糸』だね」
ひょい、とリベルがそれを拾い上げたのを見るに、触れても問題無い代物なのだろう。