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アリアンテールの白い糸  作者: 黒華夜コウ
13/20

P.13

「じゃあ、あっちの鎧は?」

 リーシェは先程の、壁際の鎧に目をやった。

 重々しい雰囲気だが、王都をちょっと歩けば見られるような鎧だ。

 以前、父親のガレットに連れられて行った王都に、あんな鎧を来た騎士が居た気がする。

「あぁ……あれは呪いとしてはシンプルなヤツだね」

 リベルはリーシェと鎧の間まで歩いて来ると、遮るように鎧との間に陣取る。

「十年程前に魔物の侵攻で滅んだ王国の鎧だよ。何でも、最後まで戦った人のらしい。あれを着た人間は決して外傷で倒れる事は無くなる……だけど、着ている間は永遠に血と体力を鎧に吸われ続けてしまう」

 またしても、リーシェにとっては実感の湧かない話であった。

 唐突にだが、彼女の頭が理解を拒んだのだ。

 つまらない、訳では無い。

 訳では無いのだが、何だか御伽噺を聞いているようだ。

 彼の口調から嘘は言っていないのだろう。

 顔つきも真剣そのものだ。

 もしこれがリーシェをからかう為だけの嘘だというなら、その演技に感服せざるを得ない。

 そして、その真剣さがリーシェが理解を拒む原因にもなった。

 それは「もしかしたら」という程度のものだったかもしれない。

 だが、リベルの表情と声色を見るにこれらがただのコレクションとは思えない。

 もしこれらがコレクションではないのだとしたら?

 胸の奥から悪寒が込み上げてくるような、陰った予感が脳裏に辿り着きそうになった。

 リベルに対して嫌な感情を抱きたくないと、そう思った。

「魔術……だっけ? それに近いのかな」

 ポツリと呟くようにリーシェは言った。

 魔術、というものが在る事はリーシェも知っている。

 人間の体内や空気中に存在する『魔力』を操って不思議な力を引き起こすもの。

 魔術を専門に生計を立てる『魔術師』という職業も存在しているらしい。

 またもや『らしい』というのは、やはりこの店の商品と同じく、扱う人間がめっきり少なくなったのが原因だ。

 今では年々思い出の産物として忘れられる一方で、そのうち歴史の教科書にも載ることだろう。

 リーシェが生まれた時には既に魔術師は見なくなったらしい。

 少なくとも十五、六年は前になる。

 その思い出の品々がここに集結しているのだ。

 リーシェは自分の鼓動が少し早くなるのを感じた。

「もしかして、ここに在る物を使ったら、その……」

「……うん、簡単に人を殺せる」

 今度はリベルが呟く。

 ただし、その言葉は少し、自然とリーシェの姿勢を曲げる程の重さが有った。

 息が止まったように沈黙が訪れる。

 その沈黙の間に、リーシェは頭をフルに回転させてある一つの答えに行き着いた。

 行き着いた上で『まずこれだけは』訊いて置かなければならなかった。

「じゃあ……このお店は……」

 ゆっくり、伏し目がちにリベルの方を見る。

 顔を逸らしていた彼は、ゆっくりとリーシェの言葉を続けた。

「うん……そうだよ」

 一呼吸置いてリベルは淡々と述べる。

「この店は呪いを……人を殺すための道具を売ってるんだ」

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