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アリアンテールの白い糸  作者: 黒華夜コウ
12/20

P.12

「の、呪い?」

 立ち上がって来るリーシェの気配を感じ取りながら、リベルは中へ進む。

 後ろから小走りで寄ってリーシェが追いついた時には、二人はすっかり異質な部屋の中に入り込んでいた。

 といっても、部屋にしてみればそれ程変わった造りではない。

 確かに中は薄暗くはあったが人を寄せ付けないような空気感は感じられず、先程の開けた瞬間にリーシェを襲った不安も何事もなかったかのように落ち着いている。

 強いて言うなら手前の在庫が並べてある部屋よりも、よりざっくばらんに物が置かれている事。

 そしてそのどれもが手を伸ばせば届きそうな位置にありながら、見えない空気の壁に隔てられたような拒絶感をリーシェは自分の中に感じ取った。

 ここは、まるで神聖な遺跡の中にある宝の山のようだ。

 部屋は頻繁には使用された形跡が無いくらい埃っぽく、少し息を吸っただけで咳込んでしまいそうだ。

 中央の大きな四角形の机には、瓶に詰められた石のような物や、これまた宝石のように鈍く輝く石の周りに鳥に似た装飾があしらわれた壁掛けみたいな物も見える。

 壁際の隅にはどこぞの王国で使われそうな立派な鎧、しかしその隣には民族衣装か魔術師達が着ていたとされるローブにも見える外套が建てたれた棒にぶら下がっている。

 ところどころ布切れが被せられているので何が置かれているのかさえ分からない箇所もある。埃避けだろうか?

「触らないほうが良いよ」

 ピシッと飛び込んで来たリベルの言葉に、リーシェは慌てて近くの机に置いてある瓶の様な何かから自分の腕を引っ込めた。

 意識はしていなかったが、気付かぬ内に手を伸ばしていたようだ。

「ここにある道具たちは、どれも呪いの力を持ってる」

 リーシェは呆気に取られながらも、リベルの言い方に何処か引っ掛かりを感じた。

 道具が『呪われている』のではなく『呪いの力を持っている』。

 呪いと聞くと普通は恐れられるような存在に思えるが、彼の言葉からはまるで道具自体に非は無いように感じられたのだ。

「……呪いの力って、例えば?」

 リーシェの問いに対し、リベルは暫し口を閉ざした。

 決して聞こえなかったという訳では無く、それは次に発する言葉を選ぶ為の沈黙だったのだろう。

 彼は埃っぽい机の上に無造作に並べられた、一見すると何の使い道が有るのか解らない道具に目を配ると、やがて慎重そうに口を開く。

「そうだね、例えば……」

 視線は、彼の目の前に置かれている小さな瓶に向けられていた。

 透明な瓶だ。中で液体が揺れ動いているのが見える。

 リベルはその瓶を一つ手に持って、リーシェに見えるように自分の顔の前に掲げた。

「この中に入ってる液体は、数滴飲めばこの世のありとあらゆる理を理解出来るとされている」

「されている?」

「僕は飲んだ事も、飲んだ事がある人を見た事も無いからね」

 いまいち理解しきれていないリーシェに対し、リベルは更に言葉を重ねた。

「その代わり、飲んだ数時間後には全ての事を忘れ去ってしまって、最後には考える事すら出来なくなってしまう」

「それって……」

 呪いというより劇薬だ、とリーシェは思った。

「実際には『その気になっている』だけさ。短時間で使用者の脳を限界以上に活性化させる代償に脳が焼き切れるんだ。そういう魔術が込められてる」

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