#6 とりあえず戦わせてみた
目覚めた俺はまさかニ〇リのベッドで寝る日がくるとはなぁ、とか思いながら、俺を助けてくれた少女の話を聞いていた。
「──ということよ。分かった?」
少女が言ったことを簡単にまとめるとこうだ。
二年前、耀輝市でバイオテロが起き、多数の人間が死に至り、ゾンビへと変わり果てた。国は耀輝市を見捨て、街は崩壊した。今でも街は封鎖されたままで、生き残った人々が苦しみながら生きている。
「言ってることは分かるんだけど.......」
「まぁこんな現実離れした話、信じられないのも無理ないわ。でもあんたも見たでしょ?」
見たとは、間違いなくゾンビのことだろう。あの醜悪な外見、改めて思い出すと吐き気がする。
「それにしても、あんたの記憶がないのが話を難しくしてるのよ。あとその再生能力はなんなの?」
「それに関しては俺が一番聞きたいわ.......」
「アレほんとにびっくりしたわよ? ただの肉塊がピクピク動きながら再生してるのよ?」
「見たのそれぐらいならいいじゃん。俺なんか骨生えてきて肉まとわりついて皮膚生えてくんだぞ」
「それの時って、どんな気持ちなの?」
「別に痛くも痒くもないから、変な感じってだけだ」
「ふぅーん。ま、いいわ。そろそろ移動しましょ」
「.......は?」
ここにゾンビの姿は見当たらないが、さっきみたいに移動したらそこら中から出てくるだろう。もう少し慎重に動いた方がいいのではないか。
「ん? あぁ、レヴェのこと?」
「.......レヴェ?」
「あー、それも知らないのね。説明する時は分かりやすいようにゾンビって言ってたけど、そのゾンビの正式名称は〝レヴェナント〟って言うの」
「へー、正式名称なんかあるのか?」
「そうよ、国の軍ではそう呼ばれてるみたい」
俺の知らない情報が多すぎる。色々覚えないといけないことがありそうだ。
「あとレヴェのことなら心配しなくてもいいわよ」
「避ける方法でもあるのか?」
「そんな方法はないわよ。そんなことしなくても全部殺っといたから」
「へ.......?」
やっといたから、とはどのような意味の。
「いやだから、あんたの情けない声で大量に集まってきたから全部倒しといたわよ」
「.......嘘だろ?」
情けない声は別に言わなくていいだろう。
「ふふっ、そんなマヌケ顔しないでよ。私結構強いのよ? あの〝レヴェナントキラーズ〟にスカウトされるぐらいだからね」
「レヴェナントキラーズ.......?」
また知らない単語が出てきた。
「あー、あんたと話す時気をつけないとね。ま、それの説明はまたするわ。殺し残しがいたようだし」
「.......!?」
少女の向いた方へと目を向けると、一体のレヴェナントがこちらへと向かってきているのが見えた。
「ちょ、ちょっと早く倒してくれよ」
「あんた、男でしょ? 私の後ろに隠れるとか恥ずかしくないの?」
「こんな状況で恥ずかしいもクソもないわ。俺の能力もプライドまでは再生してくれなかったらしい」
「いつ失ったのよ.......。いやでも残念ね。このレヴェはあんたに処理してもらうわよ」
「.......はい?」
何言ってんだこの女は。強者が弱者を助けるのは当たり前だろ。これはパワハラだ。
「いやムリムリムリムリかたつむり」
「懐かしいネタ出してくるわね.......。そうじゃなくて本当に戦えるようになっといた方がいいわよ。私も最初はそうだったわ。でもこの先絶対に必要になるわ」
「ぐうっ.......どうすればいいんだ?」
「リュックにサバイバルナイフ入れといたでしょ。それを逆手に持って眉間にぶっ刺すの」
「女の子がぶっ刺すの、とか物騒な言葉使うんじゃありません」
「いいからいいから、もうそこまで来てるから。早く楽にしてあげなさいよ」
そう言って押し出される俺。目の前には四肢はあるが、肉が腐り落ち、骨が露出しているレヴェナント。
「.......マジかよ」
俺は言われた通り、ナイフを逆手に持った。何故だか分からないが、懐かしい感覚に襲われる。前にもこんなことが何回もあったような、そんな感じ。
「頑張れー!」
「いくぜ.......」
「かっこつけてんなー!」
外野がうるさい。そして俺は動いた。
「んんん?」
少女の驚く声が耳に入った。俺は無駄のない綺麗な動作でレヴェナントの眉間にナイフを刺し入れ、そして流れるように引き抜いた。
レヴェナントが倒れ、周囲に血が飛び散る。
「えぇ!? すごいじゃない!」
少女の拍手が周囲に反響する。
「そんなうるさくしたらまた生き残りが襲ってくるんじゃないのか?」
「大丈夫よ。あえて一体残しておいたんだから。もうショッピングモール内には一体もいないわよ」
「おいマジか」
この世界で生き残るための試験、みたいなものを受けさせられたのだろうか。
「それにしてもすごかったわよ。前世は人殺し?」
「だったら今頃まだ地獄だわ」
「ま、あんた記憶失くす前は、そこそこ強かったんじゃない? 将来有望よ」
「そりゃありがたいこったで」
自分でも驚くぐらい、すんなりと体が動いた。記憶喪失前は、自分もこの世界に適応した、普通にレヴェナントを倒せるような人間だったのだろうか?
「よし、そろそろ本当に行くわよ」
考えるだけ無駄だろう。思い出せば全て分かる。
「あぁ、どこに行くんだ?」
「んー、そうねー」
そう言って少女は唇に人差し指をあて、考え込むような素振りを見せる。
「ん! 予定変更するわ!」
「.......何するんだ?」
「私の良い所も見せないとね!」
「嫌な予感しかしないんだけど.......」
少女は楽しそうにニタリと、唇を歪めた。
「強敵に会いに行くわよ!」
ご覧の通り、面倒臭いことになった。