#5 叫び声の描写がマヌケ
高速道路を歩くこと十数分。俺の住む〝耀輝市〟へと続く出口に辿り着いた。
ここからのルートは分かる。何度か親の車で通ったことがある。地図に記された場所はこの先を真っ直ぐ行った所にあるショッピングモールだ。二キロ程の距離があるが、頑張って歩くとしよう。
「.......よし」
俺は慎重に一歩を踏み出した。今まで通ってきた道も、いつ崩れるか分からないような状態であったが、出口は斜面になっており、更に危険な状態だ。
別に落ちようが、痛みは感じないし、また再生するのだろうが、そこは気持ちの問題だ。先程崖から落ちたことが、ちょっとしたトラウマになってしまっている。
「.......ふぅーっ」
少し時間は掛かったが、やっと降りることができた。これで後は歩くだけだ。
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降りた先の林を抜けた俺の目に入ったのは衝撃の光景だった。高速道路の様子を見て、ある程度の予想はしていたが、これはあまりにも酷すぎる。
まるで、ゾンビ映画や、戦争映画、よくある人類滅亡ものの映画の世界だ。俺の記憶の中の耀輝市とは全く違う。見渡す限りの廃墟が俺の目の前に広がっていた。
そこらに散乱する自動車、銃血痕、更には骨のようなものまで転がっている。
もう何が起こったのかは明確だろう。先程は比喩的表現で言ったが、これはゾンビ映画の世界そのものだ。高速道路に現れた大怪我人も化け物も種類の違うゾンビなのだろう。
俺は一体何を忘れているのだろうか。それを思い出せれば、こうなった原因も分かり、もう少し対処のしようがあるのだが──。
そうこう考えているうちに、ショッピングモールの入り口までやってきた。周囲にそれらしき人影は見当たらない。とりあえず中に入って探すとしよう。
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「やべぇ.......」
薄々嫌な予感はしていた。ゾンビ映画を見ている時は「そんなとこ入るからそうなるんだよ」とか思ってるのに実際やってしまった。今考えると頭おかしい。ショッピングモールなんてゾンビの巣窟だろう。見た目からして、いかにもな感じだった。
「どうしょ.......」
三階まで吹き抜けになっている大通りを歩いていたらワラワラ出てきやがった。高速道路にいた大怪我人、改めゾンビだ。
なんとか撒いて、今は洋服屋の試着室に隠れている。もっとマシな場所はなかったのかと言われれば普通にあったかもしれかいが、あまりに突然のことに冷静さを失っていた。
先程までの低い呻き声はもう聞こえてこないが、まだ足音は聞こえる。しかもそれは徐々に近付いてきている。
それにしてもゾンビは一体何で仲間と人間の区別をつけているのだろうか。視覚や聴覚はもちろんだろうが、それだけでは無理だろう。嗅覚だろうか、それともキョンシーのように息をしているかどうかで──
──その時、シャッという音と共に試着室のカーテンが開いた。
「うぉぉおわぁぁぁぁぁおおおぉぉんああああんああああぉん!!!」
俺の情けないビビり声が周囲に響き渡った。意識が遠のいていくのが分かった。
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「.......私の顔ってそんなに怖い?」
少女は目の前で絶叫し、気絶した少年を見下ろしながら、そう呟いた。