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The Basin of the Dead.  作者: 耀輝 成
2/11

#1 実はこの少女がヒロイン

──少し時間は遡り、山奥にある小屋の中に少女はいた。


「え? 今、なんて?」


『もう連絡はできないって言ったの』


「嘘.......だよね?」


『ほんとのことよ。もう時間がないの』


「ねぇ! なんで!?」


『.......それは言えないわ』


「お、お願い、お願いだからっ、私を一人にしないで.......っ!」


『ほんとにごめんね.......もう行く時間だわ』


「ちょ、ちょっと待っ──」


 一方的に別れを告げられ、通話を切られた。かけ直そうとするが、向こう側から端末の電源を落とされたらしく、操作することもできなくなってしまった。


「うっ、ううっ、なんでよ.......っ」


 街が崩壊した約二年前。一連の騒動によって家族を失い、心が荒んだ私は、自らの命を絶とうとしていた。

 その時、私を救ってくれたのが彼女だった。実際に会ったことはなかったが、この端末越しに生活を共にしてきた。

 辛いだけの毎日が、少し楽になった喜びを今でも覚えている。その時の私にそれは十分すぎる変化だった。

 それだけに今が悲しい。彼女のおかげで心は強くなった。昔みたいな考えに陥ることはないが、悲しいものは悲しい。


「うっ、うっ、ううっ.......」


 今だけは少しぐらい泣かせてほしい。


 ✣ ✣ ✣ ✣ ✣


 どれくらいの時間が経っただろうか。突如、耳に飛び込んできた轟音によって私は目を覚ました。

 どうやら泣き疲れて寝てしまっていたらしい。先程までは暗かった外も今は明るくなっている。


「.......っ!」


 私は拠点である小屋を飛び出し、駆け出した。先程の轟音を皮切りにして、激しい銃撃音や人々の叫声が、山全体に絶え間なく反響している。

 何がどうなっているのか理解できない。


 この山は最後の防衛線だ。国の戦闘部隊が数千人体制で張り込んでいる。

 この山にも決して少なくない数の感染者が押し寄せてきたが、そんなものとっくの昔に殲滅されている。

 これほど大規模な騒動を起こせる数の感染者が残っているはずがない。だとすると隔離区域から一斉に攻め込んできたとなるが、それも考えにくいだろう。

 となると考えられるのは国の敵対者だ。


 騒動が起こった当時、国は多くを救うため、多くを犠牲にした。結果、多くの敵を作ってしまった。私もその一人だ。

 恐らくこの予想で間違いないだろう。


 生存者を集め、生活しているグループがあったはずだ。その中の少数で形成された戦闘チームは非常に強力だった。昔私も勧誘を受けた記憶がある。断ったけど。


 それにしても面倒臭いことになってしまった。未知数の軍事力を持つ国相手に立ち向かうなんて無謀にも程がある。もうちょっと考えようがあったのではないだろうか。それとも何か追い込まれる、そうせざるを得ない理由があったのだろうか?


 そうこう考えているうちに、私は崖の手前までやってきた。この先の大きく広がる森を抜けると国の管理区域だ。

 一歩足を踏み入れれば誰であろうと生きては帰れない死の区域。やはり戦闘音も上の方から聞こえてくる。

 しかし濃霧のせいで何も見えはしない。


 志を同じくする者達に加勢しに行きたいのは山々だが、戦況が芳しくないのは見なくても分かる。わざわざ命を捨てるようなことをする必要はない。


 その時、崖の上で耳を劈くような、より一層大きな爆発音が轟いた。

 私の頭上に影が曇ると同時に、多量の岩石と共に何かが地面へ激突した。

 それは地面に紅の花を咲かせ、その直後に多量の岩石に覆われてしまった。

 それが人だというのは分かった。


「.......はぁー、仕方ないわね」


 まだ降ってくる岩石を避けながら何者かがいると思われる場所の岩石だけを取り除いていく。ほぼ助からないだろうが、戦闘に参加できなかった分、それくらいのことはしてやろうと思った。


「うわぁ、キッついわね.......」


 そんな頑張りも虚しく、いざ出てきたものは、もう人かどうかも疑わしい程に崩れ切った肉塊だった。


「.......え?」


 しかしもっと疑わしい光景が私の目に飛び込んできた。その肉塊は徐々に再生していた。目を凝らさないと分からないが、それは確かだ。


「んしょ、っと」


 私はその肉塊を抱えた。もちろん気分は良くないが、もっと酷いことをしたこともある。これくらいなら大丈夫だ。

 どこか千切れてしまうかもしれないが、その時はその時に考えよう。


 あんなに煩かった轟音も、いつの間にか止んでいた。結果はこの肉塊が表しているだろう。となると急いでこの場を離れなくてはならない。


「はぁぁー……」


 少女はため息一つ吐くと駆け出した。

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