プロローグ 泣き方がおもろい
目にとめてくださりありがとうございます。
作戦は失敗した。周囲に広がるのは惨たらしい死体の山々。俺は大切な仲間だったそれらを呆然と眺めていた。
「おい! 何ボーッとしてんだ!」
「.......っ」
俺以外の唯一の生き残りである友人は、そう言って無理やり俺の手を引き、駆け出した。
「走れ! 逃げるんだよ!」
「おい、おい.......っ! どうすんだよこれ.......っ!」
「うるせぇ! 走れつってんだろ!」
「けどよ、けどよ.......っ!」
走りながら振り向いた俺の目に飛び込んでくるのは異形の怪物。
この状況を作り出した元凶。
「そろそろ自分で動けるか? なんとかして撒くんだ!」
「あ、あぁ.......すまん」
俺達は木々を掻き分け、疲れも忘れ、薄暗い森の先に見える光に向かって走り続けた。しかしその先に道は無かった。
「おいおい、まじかよ.......」
目の前に広がるのは霧に覆われた山々。少し目線を落とすと真っ白な奈落。完全に追い込まれてしまった。
「.......飛び降りるってのは?」
「今の俺らじゃ無理.......詰んだ」
その時、背後の木々が爆音と共に吹っ飛び、煙が一瞬にして周囲を覆った。
そして、中から巨大で歪なシルエットが姿を現す。醜悪な臭いを放つそれは、抉れた地面に血溜まりを作っている。
潰れた顔面を歪め、笑みを浮かべる。ただそれだけで本能的な恐怖を感じ、俺達は固まってしまった。
その瞬間、それは低い呻き声と共に、俺に向かって鋭く尖った鉤爪を振るった。
「聖也っ! 危ねぇ!」
友人の助けのおかげで俺はなんとか回避に成功した。しかし代わりに直撃を受けた友人は胸付近が大きく抉れていた。
「ぐっ.......いっ、でぇ.......」
「優真! おいっ! なんで.......っ!」
そんな情けない言葉を掛けることしかできない俺に向かって、友人が何か覚悟を決めたように目を合わせてくる。
「はぁ.......っ、くっ、はぁ.......聖也っ」
「うっ、ううっ、優真ぁ.......」
「はぁ.......お前に、託した.......っ」
その直後、胸に小さな衝撃を受けた俺は、謎の浮遊感に包まれた。
見えるのは白。思考が追いつかない。
──パァン!
そしてそんな何かが弾けたような音と共に俺の全身に強い衝撃が駆け抜けた。もうピクリとも身体を動かすことができない。
『あぁ、俺死ぬんだ.......』
そんな思考を最後に俺の意識は暗転した。