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57 神樹の森防衛戦その2

短いです。

本日もう一話更新予定です。


「やった! これなら!」


 言ったのは一体誰だったか。

 おそらく、ほとんどの魔族はそう思ったはずだ。

 自分たちは仕事をやり遂げたのだと。


「届かなかった、か」


 飲み込もうとする触手たちを切り伏せながら、蛇王族ナーガの王は言う。

 そこには、勝利の喜びなど欠片もない。


「やってられないわ。こんなのが最期なんて。地獄で恨んでやる」


 黒妖精族ダークエルフの女王は吐き捨てるように言う。


「あと少し、あと少しだったのに……」


 エルは呟く。

 彼女たちは強者ゆえに気づいていた。

 自分たちが、すべきだった仕事を完遂できなかったという事実に。

『災厄』への距離は二千メートルほど。

 ジルベリアの力が絶大とは言え、茨の赤い海は既に一魔族の手に負えない域に達している。

 何せ、森の最上位に位置する彼らでも、一人ではろくに進むこともできずやられてしまう相手なのだ。

 しかも、もし奇跡的に倒せたとしても、次に再生する触手は今までのそれよりさらに強くなる。

 だから、自分たちは最低でもジルベリアが単独で間合いを詰められる距離まで道を作らなければならなかった。

 そのはずだった。

 届いてない。

 咆哮して開いたその先端は、まだ『災厄』に千メートル近い距離が残っている。

 ああ、なんてことをしてしまったのだろう。

 エルは思う。

 私が目を離さなければ……。

 もっと警戒していれば……。

 どう償っても償いきれない。

 大好きな神樹様は、化物になって森を跡形も無く消し飛ばすことだろう。

 開いた道の中を進むドラゴンの王と、料理が上手で人が良い新興魔族の王。

 彼らの姿を目で追うことなんてとてもできない。

 羽虫が大蛇の群れに捕食されるように、その結末は見るまでも無くわかりきっているから。

 私たちはきっと多くを望みすぎたのだ。

 みんなが救われて、幸せになるハッピーエンドなんて。

 そんなもの、凡庸な一魔族には叶わない、とても大きすぎる望みだというのに。


「大丈夫ですよ」

「ええ、私もそう思います」


 絶望するエルの耳に届いたのは二つの声だった。


「え?」


 顔を上げる。

 そこにいたのは騎士とメイドの姿の緋龍族レッド・ドラゴンだった。

 たしか、リーシャロットとシトラス言ったか。

 騎士隊と侍女隊。その長を務める、ジルベリアの懐刀。


「ナギ様とジルベリア様は、いつも我々の予想なんて簡単に跳び越えてくれますから」

「計るなんてとてもできないほどお二人はすごい方だと私は知っています」


 彼らは信じているのだと思った。

 絶望的な状況を前にしてなお、自分たちの王を信じ、勝利を信じ。自らがすべきことを全うしようとしている。

 私は何をしているんだ。

 まだ身体は十全に動くのに。呼吸は続いているのに。


「みなさん、あきらめてはなりません! 全員無事に生還するのです!」


 声をあげる。

 渇いた喉が痛んだけど、そんなこと気にしていられない。

 赤い茨の海に弓を放ちながらエルは願う。

 どうか、どうか……届きますように。



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