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37 ただいま国作り進行中


 街作りと並行して私は周囲の魔族さんに接触して友好的な関係作りに努めることにした。

 魔族さんが少ないこの辺りの地域だけど、それでも少数の集落は存在する。何もせずにいると怖がらせちゃうかもしれないと考えて、挨拶回りを行うことにしたのだった。

 折角ご近所さんになったのだから、仲良くしていかないとね。

 お互い困ったときは助け合えるような関係になれればいいんだけど。

 作りすぎたのでって、お味噌汁持っていくみたいな感じで。


「こんにちは! はじめまして。近頃この辺りで暮らし始めたナギと申します」


 お土産として新鮮な野菜とお肉をたくさん持っていくと、魔族さんたちは喜んで迎えてくれた。


「これはこれは。ご丁寧にどうも。どうぞゆっくりしていってください」


 森の中でも辺境で比較的田舎ということもあってか、素朴でやさしい魔族さんが多かったのも幸いだったと思う。訪ねていったこと自体喜んでくれる魔族さんも多くいたし、みんな「お返しに」とたくさん集落内の特産品をくれた。


「オイオイ、オ前俺様タチガ誰カワカッテネエノカ? 俺様タチハ彼ノ最強子鬼族ゴブリン盗賊団。オ前ノモノハ俺様ノモノ。俺様ノモノハ俺様ノモノダ!」


 中には、私たちを倒して身ぐるみ剥いでやろうなんて魔族さんもいたけれど、


「窓枠の汚れより容易に掃除できてしまい残念です、とシトラスは敵の清掃を終え手の埃を払います」


 緋龍族レッド・ドラゴンさんがいる以上倒すのは簡単だったし。


「悪カッタ。俺様タチノ負ケダ。コレカラハ力尽くデ奪ッタリセズ真面目ニ生キルコトニスル。ダカラ命ダケハ、命ダケハ見逃シテクレ」


 こうして更正し慈善活動に勤しむようになった彼らが周囲を荒らしていた盗賊団ってことがわかってまたみんなに感謝してもらえたり。

 加えて、私には魔王厨房デモンズキッチンがある。


「病に倒れた仲間を救ってくださって、本当にありがとうございました」


 どの集落にだって、病や怪我を抱えた魔族さんはいるわけで、そういう人たちを治して回ったことで私の好感度はさらに急上昇。私の国に加入して恩返ししたいって魔族さんたちも出てくるくらいで、挨拶回りは当初の予定以上に順調だった。

 人口も増え、街はどんどんと順調に大きくなっている。食料庫ができ、資材倉庫ができ、体育館くらいの広さの大工房ができた。大食堂ができ、小さな図書館と学校ができた。


「すごいね! 本がいっぱい!」


 中でも私の目を惹いたのが、鍛冶人族ドワーフさんたちの書物を集めた図書館である。

 学校の図書室くらいの小さな図書館だけど、本好きな私の満足度はすこぶる高かった。鍛冶の技術だけじゃなく、錬金術とか植物学とか魔道具製作とか、いろいろな本が揃っていたし。


「レイレオさんが集めたものです。旧魔術文字で書かれてるものも多いんですけど」

「ちょっと変わった形の文字だね」


 シャーロックホームズの踊る人形にちょっと近いかもしれない。私あれ好きだったんだよな。授業中自分でも暗号をプリントの裏に書いてたりしたっけ。

 幸い、女神様のおかげで私は問題なく異世界の言葉を読むことができた。読み書きについては困らないよう配慮してくれてたんだろう。

 ほんと、弱すぎること以外はかなり優秀なんだよな、私のスペック。絶対良い女神様になれるはずだから、めげずにがんばってほしいと思う。応援してるよ、私は!

 街ができていくにしたがって、必要な仕事も増えていく。


「大臣を任命することにします」


 効率よく仕事を進めるため、私は頼りになる魔族さんを大臣に任命することにした。


「おお! それは良いな。良い考えだ」


 緋色の目を輝かせるジルベリアさん。


「うん。私以上にできる魔族さんばかりだからさ。みんなの裁量で自由にやってくれた方がより効率的で働きやすいかなって」


 まず建設大臣と科学大臣にレイレオさん。副大臣をセードルフさんにお願いして、鍛冶人族ドワーフさんたちと国の技術力と文化レベルの向上を目指す仕事をしてもらう。

 労働大臣に大鬼族オーガのお姫様。自ら先頭に立って大鬼族オーガさんの指揮をしてくれる彼女には、労働環境を整える役職もお願いした。現場で誰よりも働く姿を見てるお姫様なら、無理せず働ける環境を作ってくれるはず。頭が良いから無理しない程度にがんばろうっていう私の方針もばっちり理解してくれてるしね。

 防衛大臣はリーシャさん。騎士隊の枠を増員し、腕利きの大鬼族オーガさんと武器製作を専門とする鍛冶人族ドワーフさんにも加入してもらって国の守りを固めてもらう。

 シトラスさんは財務大臣。国の急所とも言える大切な仕事だからこそ、隙無く仕事をしてくれるできる人なシトラスさんに。

 それから、農林水産大臣をソラちゃんにお願いすると、ソラちゃんはびっくりした様子で目を丸くした。


「わ、わたしですか!?」


 ひどく困惑した声で言う。


「うん。ソラちゃんが一番野菜のこと詳しいから。それに、誰よりもがんばってお世話してくれてたの知ってる。だから私はソラちゃんにお願いしたいんだ」

「でも、みなさんすごい魔族さんばかりなのにわたしなんかが務めていいのでしょうか……」


 不安げに辺りを見回すソラちゃん。


「いいんじゃないかな。こと農業においては実質的な指導者って聞いてるし」


うなずいたのはレイレオさんだった。


「皆わからないことがあるとソラ様に聞いていると伺っています。私も良いと思いますよ」


 大鬼族オーガのお姫様もうなずく。


「あ、あのレイレオさんと大鬼族オーガのお姫様に認めてもらえるなんて」


 ソラちゃんはびっくりして目を白黒させてから、


「わたし、精一杯がんばります。みなさんよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた。

 とは言え、ソラちゃんに一人で農林水産大臣を任せると、抱え込んでパンクしてしまう可能性もある。だから、副大臣を犬人族カーネのおばあちゃんにお願いすることにした。ずっとソラちゃんを見てきたおばあちゃんなら、一人で抱え込んでしまわないようばっちり補佐をしてくれるはず。


「なあ、ナギ。一つ大事なことを忘れてはおらぬか?」


 大臣を任命し終わったところでジルベリアさんが言った。


「大事なこと?」

「うむ。とても強くて優秀ですごい人材を見落としていると思うのだ。これはよくない。この国にとって看過できない非常に大きな損失だ」

「え? そんな魔族さんいたかな?」

「……ナギが頼りにしてくれなくて我輩さみしい」


 がっくり肩を落とすジルベリアさん。

 背中の羽根がしゅんと小さくなって垂れ下がっている。


「いや、ジルベリアさんは王様だから私が任命する感じじゃ無いかなって」

「王? 我輩王なのか?」

「うん。やっぱ経験者にお願いするのが一番だと思うし。だから頼りにしてないわけじゃ無くて、むしろ一番頼りにしてる」

「ナギ……!!」


 目をきらきらさせて私を見上げるジルベリアさん。


「任せよ! この国のことは我輩が完璧に取り仕切ってみせよう!」

「うん、お願いね」

「いずれ世界を股にかける超大国にしてみせるから楽しみにしているが良い」

「おっけえ。超楽しみにしてる」

「でも、我輩が王なら主は何なのだ?」

「私? あれ? 何なんだろ」


 そこでようやく私は自分の役職をまったく考えてないことに気づいた。


「ごめん、正直まったく考えてなかった」

「他の者優先して自分のことおろそかにするところあるよな、主は」

「そう? そんなことないと思うけど。自分が一番かわいいし」

「口ではそう言っても行動が伴っておらぬのだ。ここではないどこか遠くをぼんやり見ていることも多かったしな。近頃はそれも減ってきたが」

「……あー、ごめんね。心配かけて」


 それは多分お母さんのことだ。

 私は心のどこかでお母さんが死んだことを受け入れられてないところがあって。

 自分の存在をついついおざなりにしてしまうところがある。

 過労死するほど働いたのも、多分根底ではそれが原因で。

 もっとも、みんなのおかげで最近はずっとマシになってるのだけど。

 以前はこんな風に認めることさえできずにいたからな。


「主が生きている。それだけで救われる者がいることを忘れてはならぬぞ。少なくとも、我輩はナギがいなくなるとすごく悲しい。良いか、泣くぞ? 泣くからな? この世界が一面水浸しになるくらい泣く」

「ありがとね」


 胸が暖かくなる。

 こんな風に言ってくれるジルベリアさんのためにも、私はちゃんと生きていかなくちゃ。


「よし、王である我輩がナギの役職を命じよう」


 ジルベリアさんは大仰な口調と所作で言う。


「主は王だ。我輩と共に王をすれば良い。偉大な我輩が共に王となることを認める」

「王様二人なの?」

「良いではないか。ここでは我輩たちがルールだ。我輩たちの国なのだからな」

「それもそっか」


 私たちの国か。

 そう言われると、改めてすごいことをしている実感が湧いてくる。

 異世界で国作ってんだな、私。


「もちろん、恩返しのために主人として仕えるというのも続いておるからな。緋龍族レッド・ドラゴンは受けた恩を忘れぬものだ」

「もう十分すぎるくらい返してもらってるとは思うけどね」

「それは主ではなく我輩たちが決めることだ。言っておくが拒否権は無いからな。主が嫌がっても、我輩たちはつきまとって恩返しする」

「なにそれ」


 思わず笑ってしまった。

 自分の意志が強くていいなと思うけど。


「それじゃ、改めてよろしくね」

「うむ。共に世界を獲るぞ」

「そだね。やっちゃおう」


 こうして、新しい体制で私たちの国は動き始めたのだった。



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