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35 楽しい国作り、農地拡大と牧場作り編


 家作りが進み、茫漠とした荒野は鍛冶人族ドワーフさんが住む小さめの家と大鬼族オーガさんが住む大きな家が建ち並ぶ街へと変わり始めていた。

 お洒落で上品な木組みの家は、白壁とあたたかみある木枠のコントラストがなんとも美しい。色鮮やかなテラコッタの瓦が朝の光を心地よさそうに反射している。

 街路や歩道の整備はできていないから、完成形にはまだほど遠いのだけど、それでも何も無かった荒野に家々が建ち並ぶ光景はかなりぐっとくるものがあった。

 すごいなぁ。がんばってくれてるなぁ。

 私も負けてられない。

 みんなが幸せに暮らせる場所にするために、できることをやっていかなければ。

 まず、取り組むべきは食料生産体制の拡充かな。

 人口が増えれば、必然必要な食料の絶対量も増える。

 みんなが明日のごはんを心配することなく、安心しておかわりできる環境を作らないと。

 目指せ! 毎食食べ放題生活!

 というわけで、私はみんなの力を借りて畑の拡大に乗り出したのだった。

『神樹の森』郊外に広がる茫漠とした荒野地帯。不毛のその地を緋龍族レッド・ドラゴンさんと大鬼族オーガさんの力で耕して畑に変えていく。


「ふははははははっ! 我輩の力にひれ伏すが良い!」


 ジルベリアさんは悪役っぽい台詞を言いながらノリノリで固い大地を砕いて空に巻き上げていたし、


「私たちも負けてられません! 皆の者、行くのです!」


 お姫様の号令で、大鬼族オーガさんたちも競い合うように仕事に励んでくれた。

 土が軟らかくなったら、畝を作り作物を植えていく。大根、にんじん、ピーマン、じゃがいも、かぼちゃ、小松菜、玉ねぎ、茄子、トウモロコシ……種を撒いたり、苗を植えたりする。


「種にかける土は種の厚さの三倍くらいでお願いします。かけた上から軽く土をおさえて、土が飛ばないように。でも押し固めてはいけません。そっとそっとお願いします」


 すっかり立派な野菜マイスターになったソラちゃんが言う。

 この種の蒔き方は自分でいろいろ実験して編み出した理想のやり方らしい。自分で考えて、そんなところまで追求してくれるなんて。持つべきものは頼りになる仲間だ。

 あとは、育てる品種の方がもうちょっと良いものになってくれるともっといいんだけど。

 しかし、それは望みすぎか。うちの集落『神樹の森』の辺境だし。加護も弱い分、採れる野菜の質にも限界がある。



 名称:グリーンキャロット

 希少度:F

 安全度:A

 食材等級:E

 寸評:やわらかい肉質が特長。臭みが少なく、生のままサラダに向いている一方、香味野菜としての用途には向いていない。



 そうなんだよなぁ。

 この辺りじゃどうしてもこれくらいの水準のものになっちゃうんだよね。

 これでも十分美味しいから不満ってわけじゃないんだけど。



 名称:太閤南瓜

 希少度:B

 安全度:A

 食材等級:B

 寸評:砂糖をまぶしたかのような高い糖度が特徴。黄金色の果肉は染料としても非常に価値が高い。摂取すると、筋力と敏捷性が五パーセント上昇する。



 …………うん?

 待って。今おかしなものが見えた気がする。

 疲れてるのかな。

 目をこすって再度鑑定スキルで確認する。



 名称:太閤南瓜

 希少度:B

 安全度:A

 食材等級:B

 寸評:砂糖をまぶしたかのような高い糖度が特徴。黄金色の果肉は染料としても非常に価値が高い。摂取すると、筋力と敏捷性が五パーセント上昇する。



 やっぱ見間違えじゃないよね。

 なにこのカボチャ。めっちゃキラキラ光ってるんだけど。食べたらステータス上昇みたいなことまで書いてあるし。

 しかも一つや二つではない。当たり前みたいに他の野菜と同様に積まれているし。


「そ、ソラちゃんこれは一体?」

「ああ、ナギ様。さすがですね。わたしもそれが一番よくできたかなって思ってたんです」


 ソラちゃんはにっと目を細めて言う。


「ナギ様がひんしゅかいりょう? 用の畑を用意してくれて、いろいろ掛け合わせながらがんばったんです」

「こ、これ自分で品種改良して作っちゃったの……?」

「はい。と言っても、わたしにはなんとなくでしか物の善し悪しはわからないので本当に良い物なのかはわからないんですけど」

「いや、良い物だよ。これ引くくらい良い物だよ」

「またまたー。ナギ様は褒めるのがお上手ですね。今はまだまだなわたしですけど、これからたくさん勉強して本当に良いお野菜作れるようがんばりますから。見守っててください」

「う、うん……」


 既に相当とんでもないものができはじめてるんだけど。この子逸材過ぎるんだけど。

 これ作ってまだまだってどれだけ高みを目指してるんだろう……。


「しかし、この土壌で作物が育つとはとても思えないけど。いくらなんでも栄養が乏しすぎるんじゃないかな」


 あっけにとられていた私を現実に引き戻したのはレイレオさんの言葉だった。

 さすが、農業についてもある程度の知識は持っているみたいだ。


「このままだったらそうですね」

「このままだったら?」

「私の能力がありますから」


 私は言って、魔王厨房デモンズキッチンを起動。一さじだけ砂糖を加えた水を植えた種の上からやさしくかけていく。効果はてきめんで、植えたばかりの種から小さな芽がぴょこんと顔を出した。


「なるほど、能力で栄養を与えるわけか……すごいね。こんなに早く発芽するなんて」


 ふっふっふ。

 二日連続で褒められてうきうきな私である。

 ああ、やっぱいいなぁ異世界生活。素敵な能力くれてありがとう、女神様。

 新人女神様に改めて感謝しつつ、農地の拡大は順調に進んだ。

 しかし、みんなが毎日お腹いっぱい食べて、さらにいざというときのための貯蔵もしていける状態を作るには、他の食料供給源も必要になる。


「牧場を作ろうと思います」


 そういうわけで、私が考えたのが牧場作りだった。

 魔獣を飼育して、そのミルクや卵、そしてお肉を新たな食料として調達しようという作戦である。


「というわけでまず、どんな生き物を育てるか決めていきたいんだけど」

「牛、羊、鶏、豚、山羊といった種が候補でしょうか、とシトラスはナギ様に申し上げます」

「そうだね。基本的にはそんな感じかな」


 こうして早速私たちは家畜として育てる魔獣を選別することにした。

 理想としては攻撃してこない大人しい種類の魔獣。あんまり大きいのだと育てるの大変そうだから、普通くらいのサイズがいいかな。


「ナギ! これはどうだ?」


 ジルベリアさんが持ってきたのはマンモスよりさらに巨大な猪だった。空を覆うようなその猪の牙は、私の身体よりもさらに太く大きい。



 名称:グレイトファングボア

 希少度:A

 安全度:F

 食材等級:C

 寸評:大型の魔獣。獰猛で脚力が強く、その突進は山をも砕くと言われる。大槍のように巨大な牙は工芸品の素材として非常に人気がある。



「ダメだから! そんな山神みたいなの連れてこられても困るから!」

「そうか? 角がかっこいいと思ったのだがな」


 ジルベリアさんは残念そうに言う。


「わかった。逃がしてくる」


 山神みたいな猪は困った顔でジルベリアさんに連れられて遠ざかっていく。

 腕の上で大人しくしてるのは、捕まる過程で力の差を思い知ったからだろうか。

 あの感じだと飼えなくもなさそうだけど。でも、あんまり大きいと思わぬ事故を引き起こしかねないしな。

 仲間のみんなが安全に暮らせるようにするのは何をするにしても一番大切なことだ。みんなの存在があってこそのうちの集落だしね。

 へっぽこで弱い私はみんなが助けてくれないと何もできないから。その大切さは誰よりも知っている自信がある。

 自分のこと以上に、みんなのことは大切にしていかなくちゃ。


「こちらはどうでしょうか、とシトラスは捕獲してきた乳牛をご主人様に見せます」


 前世の牛より少し大きいくらいのサイズの魔獣だ。黒毛に白い粒のような模様が星空みたいに散っている。紅葉みたいな形の耳がアンテナみたいにぴんと伸びていた。



 名称:黒毛星牛

 希少度:C

 安全度:C

 食材等級:B

 寸評:夜のような黒毛と星空のような模様が特徴。無角で頭が大きく、脚は短い。肉質が良く、上級肉が多くとれる。美しい大理石模様の霜降り肉を形成するのも特徴。


 おお! これはかなり私の希望に近いかも!


「さすがシトラスさん! ばっちりだよ! この感じを求めてた!」

「ありがとうございます、とシトラスはご主人様に丁寧に一礼します」

「ぐ……さすがシトラス。我も負けてられません」


 それからリーシャさんも、大人しい品種の豚や羊、山羊を捕まえてきてくれて、一応牧場と呼べるだけの魔獣たちを集めることができた。

 牧草はソラちゃんに相談して、私の能力で栄養たっぷりなものをたくさん育てて用意する。折角だから、一緒に暮らす魔獣さんたちにも快適な生活を送って欲しいしね。幸い土地はいくらでもあるので、広々とした牧草地でストレス無く過ごしてもらうことにした。

 牧草地を覆う柵と建物は鍛冶人族ドワーフさんにお願いする。私が住みたくなるくらいの清潔で綺麗な牛舎や羊舎ができあがって、ここに小さいけれど私たちの牧場が完成したのだった。


「いやー、できるものだね。すごいね」


 大きくなった畑と、出来たての牧場を感慨深く見つめる。

 少し前まではただの荒れ地だったのにな、ここ。

 青々としたみずみずしい牧草が風に揺れている。魔獣さんたちは吹き抜ける風に心地よさそうに身体を揺らし、お辞儀するみたいに頭を下げて草を食べていた。

 こうして、私たちは毎食食べ放題生活へ向け、大きく前進したのでした。



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