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33 仲間が増えました


 鍛冶人族ドワーフさんと大鬼族オーガさん。そして他にも何種族かの魔族さんたちが仲間になってくれて、私たちの集落は一層活気づいていた。

 まず最初に取りかかったのは、家を作ること。本格的に街作りを始める前に、最低限快適に暮らしてもらえる環境を整える必要がある。

 みんなは野宿でも構わないと言ってくれたけど、ホワイト集落経営者を目指す私にとって、それは絶対に譲れないところだ。


「というわけで、今日は早速家作りから始めていこうと思います」


 こうして取りかかった家作り。

 まずは材料の調達から。

 ここでは、鍛冶人族ドワーフさんの知識に助けられた。使用する木材は加工しやすいローズメープル。生命力が強く成長も早いので、切った後植林することを考えてもこの木が一番良いらしい。

 木材が採れたら次は運搬の工程。


「さあ、皆の者! 誠心誠意働いてナギ様にご恩を返すのです!」

「「「ハイ、姫様!」」」


 大鬼族オーガのお姫様の号令で作業に取りかかる大鬼族オーガさんたち。

 巨大な体躯で太い丸太を物干し竿みたいに軽々と持ち上げ、街を作る予定地である森の外の荒野に運んでくれる。


「すげえ……もうこんなに」


 運び込まれた木材の山に、呆然とする鍛冶人族ドワーフさんたち。


「力仕事なら任せてください。このくらいの資材、私たちなら簡単に運べますから」


 お姫様は指揮をしながら、自分でも大量の木材を抱えてきて言った。


「うん、すごく頼りになるよ。ありがとう」


 こんな太い丸太の山、以前なら運ぶだけで何日かかっていたか。そう考えると、大鬼族オーガさんが仲間になってくれたのが本当にありがたい。

 ってかお姫様華奢なのに力すごい……いや、ジルベリアさん吹っ飛ばしたわけだし、当然と言えば当然なんだけど。


「あれ? でも、お姫様なのに力仕事なんてしてもらっていいの? 嫌なら全然無理すること無いけど」


 もっとお淑やかな仕事の方がいいのかなと思って聞いてみると、


「無理なんてとんでもない! 是非させてください。私、みんなに混じって力仕事をするの夢だったんです」

「力仕事をするのが夢?」

「はい。姫としてずっと育てられて。家の外に出るのも、許可がいるような環境だったので。実はお花やお琴より身体を動かす方がずっと好きだったんです。なんて、こんなこと以前は絶対に言えなかったんですけど」

「我慢してたんだ」


 そう言えば、助けたときもそんなことを言ってたっけ。


「でも、勇気を出してじいやに言ってみたんです。皆と外で働きたいって。初めはとんでもないって怒られたんですけど、何度も説得してやっとわかってもらえて」

「おお、よかったね」

「はい。こう見えて私力持ちですから。一生懸命働いて、ナギ様にご恩を返します」

「ありがとう。でも、無理はしちゃ絶対ダメだからね。無理しない程度にがんばるのが大事なんだよ」

「お気遣いいただいてありがとうございます。では、無理しない程度に励むことにしますね」


 お姫様は弾むような足取りで仕事に戻って作業を再開する。本当に外でみんなと仕事をするのが楽しくて仕方ないらしい。


「姫様、コノ木材ハココニ置イテ良イノデショウカ」

「そうですね。奥から丁寧に並べてください」


 並行して周囲を見ながら指示を出すあたりは、上に立つ魔族さんって感じだった。アクラさんもそうだったけど、みんなお姫様のことを慕ってるから指示されるのもうれしそうだし。


「姫様……ゴ立派ニナラレマシタネ……」


 その姿を涙ぐんで見つめていたのは、多分じいやと呼ばれてる大鬼族オーガさんなんだと思う。

 良かったなぁ、と微笑ましく見つめつつ作業は次の工程。荒れ地に家を建てるため整地の時間だ。


「現在の地盤から深さ一メートルの地点に軟弱な土の層があるね。これを取り除けばあとは大丈夫じゃないかな」


 レイレオさんの計測結果を基に、掘り出し工事開始。


「任せよ。我輩の圧倒的穴掘り力で蹂躙してやろう」

「私たちも負けてられません。皆の者、かかりなさい」

「さあさあ、リー隊長に続くっすよ!」


 緋龍族レッド・ドラゴンさんの力で、地面を掘り、軟弱な土の層を取り除いていく。


「ついでに上下水道管も設置していいかな? つけておいた方が後々便利だと思うんだけど」

「そ、そんな技術まであるんですか」


 びっくり。鍛冶人族ドワーフさんすげえ。


「うん、城塞都市は上下水道は通してあったからね。と言っても、ナギさんの能力のような止水装置は無かったんだけど」

「止水装置?」


 私の能力にそんなのあったっけ、と首をかしげる。ただのキッチンのはずなんだけど……と、不意に気づいた。


「あ、蛇口ですか」

「そう、それ。あれは見事だね。今回はあれも取り入れてみたいと思ってるんだ。他の調理器具もとても興味深い。どれもこの世界には無いものだからね。すごく良い刺激をもらえてるよ」


 微笑むレイレオさん。

 私の能力は、ただでさえ人並み外れたレイレオさんの創造性をさらに刺激しているみたいだった。

 掘り返されて露出した土の深い層に素焼きの陶管を置き、土をかけて埋めしっかりと転圧して固めていく。こうして安定した地盤ができたら遂に家作りの工程。


「さあ、俺たちもナギの姐さんに良いところ見せようぜ!」

「「「応!」」」


 じいじ2号ことセードルフさんの号令で鍛冶人族ドワーフさんが作業に取りかかる。

 板図と呼ばれる基本的な構造を描いたものを作り、それを元に削る箇所に墨で印をつけていく。この墨付けの作業が終わったら、次は刻み作業。印を元に、丁寧に手作業で木を加工していく。

 使い込まれた独自の大工道具で、木を刻んでいく鍛冶人族ドワーフさんたちは正に職人って感じだった。

 刻まれた木材は、組み合わせるだけでパズルみたいにぴったり接着する。木の栓を両側から差し込んでこれで木組み完了。釘を使わずともこれだけで百年倒れない頑丈な建物が作れるのだとか。

 すごい技術だなぁ、と素直に感心するばかりだ。

 家が次々と組み立てられ、形になっていく。数千の職人さんたちが協力して作業する光景は壮観で圧倒されるものがあった。


「我々モ手伝オウ」


 二階や屋根を作る工程では、大鬼族オーガさんの大きな身体が役に立った。重たい木材を自分で持ち上げる必要がないので、通常の作業よりはるかに時間を短縮することができたと言う。


「やっぱ大きいとできることがちげえな。すげえ助かる」

「ソ、ソウカ? ソウ言ッテクレルノハ嬉シイガ」


 アクラさんは照れくさそうに頭をかく。


「ソレヲ言ウナラ鍛冶人族ドワーフノ方ガスゴイ。我々デハトテモ真似デキナイ技術ダ」

「いやいや俺たちは手先が器用なだけだって。大鬼族オーガの方がすげえよ。規格外だもん」

「ソンナコトハナイ。手ツキヲ見レバソコニ費ヤサレタ時間ガワカル。一ツノコトニソコマデ打チ込ムノハ中々デキルコトデハナイ」

「そう言われると照れるな。……その、ありがとな」


 なんかほっこりするやりとりだった。

 小さな鍛冶人族ドワーフさんと大きな大鬼族オーガさん。身長差があるのがまた良い。


「よし、こんな感じでいいかな」


 レイレオさんがそう言って作り上げたのはシンデレラ城だった。大きさは他の家とと変わらない小さなシンデレラ城は、細部まで細かく作り込まれもはやただの住居の域を超えている。


「いや、雨風凌げればいいので、こんなすごいのを作らなくてもいいんですけど」

「ああ、好きでやってるだけだから気にしないで。これくらい大した手間でもないし」

「大した手間じゃないんですか……」


 めちゃくちゃ凝ってるように見えるんだけど。美術2の私では一生かかってもたどり着けない領域のやつなんだけど。


「これがレイレオさんですから」


 自慢げに言ったのはじいじ2号、もといセードルフさんだった。


「俺ら凡人とは見えてる世界が違うんですよ。見てください、あの細かく作り込まれた尖塔のフォルム。並の職人なら一週間はかかりそうな仕事でもレイレオさんは簡単に一発でやってしまう。それだけ作ってきたものの量が違うんですよね。毎日規則正しく決まった時間に起き、作業を始める。一日だって休むことはありません。淡々と、ただ毎日作り続ける。もうその姿がどれだけかっこいいか」


 うっとりした様子で私に言う。

 完全にただのファンの人だ。って、いつものことだけど。


「そうかな? 僕かっこいいかな」

「ええ。レイレオさんは最高です。光です」

「えへへ」


 頬をゆるませ頭をかくレイレオさん。

 おじさんなのに愛嬌ある反応だった。

 仲良しおじおじかわいい。


「すごい! ナギのおはなしのなかみたい!」

「こ、これはたしかに心が躍るものがあるな……!!」


 目を輝かせたのはノエルちゃんと、ジルベリアさんだった。

 城塞都市への道中で私のお話を楽しく聞いてくれていた二人。


「すごく面白かったって何度も話してくれたからさ。こういうデザインにすれば喜んでくれるかなって」


 しゃがみ込んでノエルちゃんに言うレイレオさん。

 そっか、それでシンデレラ城なんだ。


「うん! じいじありがと!」

「お礼を言うのは僕の方だよ、ノエル。生まれてきてくれてありがとう」


 レイレオさんはノエルちゃんのもふもふ髪を撫でる。


「我輩も! 我輩も遊びに来て良いか!?」

「いつでもきて! いっしょにおえかきしよう」

「ほう。この至高の存在である我輩に芸術で勝負を挑むと言うのか。いいだろう、その挑戦乗ってやろう」


 仰々しくポーズを取って言うジルベリアさん。


「うう……つよそう」

「ふっふっふ。我輩が怖いか? 小娘」

「でも、まけない……!!」


 今日も楽しそうな二人だった。

 うちの集落は相変わらず平和です。



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