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28 大空洞救出戦


 アクラさんの話では、交代で侵入者がいないか見回りをしている大鬼族オーガさんがいると言う。

 まずターゲットになったのはそんな彼らだった。

 一人一人が強い力を持つ大鬼族オーガさんだからこそ、複数で行動しようという意識が弱い。

 単独で行動する彼らは、私たちの格好の標的だった。


「くらえっ! 催眠魔法! ドラゴンフライングキック!」

「いいよナイスキック!」


 ジルベリアさんがノックアウトした大鬼族オーガさんに私がごはんを食べさせる。


「ハッ。オイハ一体……」


 目覚めた大鬼族オーガさんの反応はアクラさんと同じだった。ことの経緯についての説明も一致している。騙されてるわけじゃない確認が取れてほっとしつつ、私たちは大鬼族オーガさんたちの洗脳を解いて回った。

 食べさせれば食べさせるだけ敵が減り、仲間が増えていく。瞬く間に、洞窟の中は仲間になった大鬼族オーガさんが増えていった。


「見回リヲ担当シテイル者ハコレデスベテデス。ココカラハ労働中ノ作業班ヲ襲ワナイト」

「わかった。どの班を襲うのが一番効果的かな」

「レイレオさんがいる班です。あの人を救出すれば戦況は一気にこちらに傾く」


 じいじ2号の言葉に私はうなずく。


「了解。レイレオさんがどの班にいるかわかる?」

「レイレオ? ソンナ名ノ鍛冶人族ドワーフガイタ記憶ニナイガ……」


 他の大鬼族オーガさんも反応は同じだった。

 あれ? 意外とレイレオさんって印象薄いのかな?


「偽名を使ってるんだと思います。さすがレイレオさん、捕まってもただじゃ終わらねえ」


 声を弾ませてじいじ2号は言う。

 なるほど、そういうことか。目立たないよう賢く立ち回っているらしい。


「外見の特徴としては、白い長髪をポニーテールみたいに後ろにまとめています。あとは口髭と、かけた眼鏡ですかね」

「メガネ? ソレハドウイウモノダ?」

「視力を補う特殊な鏡みたいなものです。目から少し離れたこの辺りにあると思うんですけど」

「アア、ソレナラオイニ心当タリガ――」

「出で立ちはお洒落な紳士みたいな感じで、その知的で上品で穏やかな立ち振る舞いがなんともたまらなくかっこよくてですね。ああ、俺も一度でいいからあんな風になってみたいとどれだけ憧れたことか。鍛冶人族ドワーフの中では、かなり身長も高くてすらっとしてて、あと個人的には考えてるときのこめかみに手をやる仕草が――」

「もう心当たりあったみたいだから。大好きなのはわかったから」

「はっ。申し訳ねえ。失礼しました」


 謝るじいじ2号を見ながら、この人は本当にレイレオさんが好きなんだなぁ、と思う。

 師匠大好きな一番弟子さんのためにも、絶対救い出さないと。


「ソノ者ガイルノハ第十七作業班ダ。大空洞東側ノ採掘ヲ担当シテイル」


 私たちは、悟られないよう慎重に大空洞の中を進軍した。とはいえ、既に内部を見回ってる大鬼族オーガさんたちは全員仲間にしているのでそれはさほど難しい工程では無かった。

 第十七作業班が採掘しているというその穴はしんと静まりかえっていた。


「オカシイデスネ。作業中ナノデコンナニ静カナハズ無イノデスガ」


 洞窟の中特有の湿った空気の中、その静けさはやけに不気味に感じられた。

 首をかしげつつ、穴の中に入るアクラさん。二階建ての家くらいあるその巨体から不意に力が抜ける。意志のない人形みたいに倒れ込んで、私は息を呑んだ。


「アクラさん!?」

「近づくな! この中は危険だ。空気の匂いが違う」


 ジルベリアさんが駆け寄ろうとした私を抱き留め、後方に飛ぶ。


「空気の匂いが違うって?」

「わからぬ。だが、何かおかしなガスのようなものが充満しているような感じがした」

「もしかして掘削事故とか――」


 掘削中、有害なガスが充満して採掘者の命を脅かす。そういう事故については、映画の中で見たことがある。


「いえ、レイレオさんがいるのにそれはあり得ません」


 言ったのはじいじ2号だった。


「むしろ、この状況はレイレオさんが意図的に作り出したものではないかと」

「――その通りだよ。さすがセードルフ。僕の一番弟子だね」


 穴の中から出てきたのは、白い髪をポニーテールでまとめたおじさん紳士だった。同じく白の口ひげと、黒縁の眼鏡。その外見的特徴を、私は既に聞いて知っている。


「レイレオさん、よくぞご無事で……」


 瞳を潤ませて言うじいじ2号、もといセードルフさんに、


「うん。迎えに来てくれてありがとう」


 レイレオさんは穏やかに微笑む。


「穴の中のことは心配しなくて良い。大鬼族オーガにだけ強く作用する催眠ガスを調合して充満させただけだから」


 穴の中から囚われていたらしい鍛冶人族ドワーフさんたちが出てくる。なるほど、大鬼族オーガさんにしか効かないというのは本当らしかった。


「見回りの大鬼族オーガが予定の時間に通らなかったから、何かあったのだと推測してね。この隙に逃走しようと企てたんだ。しかし驚いたな」


 レイレオさんは周囲の大鬼族オーガさんたちを興味深げに見つめて続けた。


大鬼族オーガが理性を取り戻している。あの狂化の呪いをここまで見事に解くとは。一体誰の仕事なんだい?」

「はい。こちらのナギさんというお方が」

「そうか、君が」


 レイレオさんは目を輝かせて私を見つめる。


「一体どういう原理であの呪いを解いたのか、落ち着いたら是非伺いたいものだ。僕も大鬼族オーガの前頭葉、特に前頭連合野に作用して攻撃性と凶暴性を過剰なものにしているところまでは推測できたのだけど、そこからのアプローチが難しくてね。是非君の見解を伺いたい」

「い、いや、私はただ持ってる能力で――」

「ほう、能力。あの呪いを解く能力か。それは大変興味深いね。僕の研究ではあの呪いは高位森精族ハイエルフの治癒魔術でも治せないよう構築されているのだけど、それを解いてしまうなんて。これはますます話を伺わなくては」

「…………」


 この人すごいきらきらした目で私を見てくるんだけど。

 期待値上がりすぎてて私ちょっとつらい。


「ふっ。見たかじいじ2号とやら。主が慕うレイレオとやらもナギの力に驚いておるぞ。これこそ我輩たちのナギが一番であるという証左ではないか」

「いえ、実力を認めれば年下だろうと躊躇いなく教えを請えるのがレイレオさんのすごいところですから」

「ほう、なかなかやるらしい。しかしそれならうちのナギだってすごいぞ。この前なんて、犬人族カーネの幼子に隠れて裁縫の仕方を教わっておったからな」

「さすがナギさん。なかなかやりますね。しかし、レイレオさんだって他にも――」


 こっちはこっちでまたなんか張り合ってるし。


「とりあえず、今はみなさんの救出を急ぎましょう」


 私の言葉に、


「そうだったね。僕にも外に出てしなければならないことがある。どんな手を使ってでも、絶対にやり遂げないといけないことだから」


 うなずくレイレオさん。

 レイレオさんが眠らせた大鬼族オーガさんたちの洗脳も解いてから、起こしたアクラさんに私は聞いた。


「もっと食材がいる。どこにあるかな?」

「食料庫ニアリマス」

「よし、そこを襲おう」

「行くぞ皆の者! 大鬼族オーガをノックアウトして仲間にして進むのだ!」


 騒ぎにならないよう警戒しつつ、食料庫へ進軍。見張りを数でノックアウトし、食材を確保。私は魔王厨房デモンズキッチンで料理の量産体制に入る。

 気絶してるところに飲ませやすいよう、やっぱスープかな。

 トマトと玉ねぎ、にんじんを細かく刻んでいく。オリーブオイルでにんにくを炒め、そこに玉ねぎとにんじんを加える。火が通ったら水と、トマトを加え煮込み開始。あとは牛乳、コンソメ、塩コショウで味を調えれば、簡単トマトスープの完成だ。

 スープを飲ませ、さらに仲間を増やす。ある程度の数が確保できればあとは早かった。同じ大鬼族オーガでも、知性があり統制が取れる分、集団戦ではこちらの大鬼族オーガさんの方が強い。魔王厨房デモンズキッチンは回復能力だから、霊酒の呪いによる力の強化効果は無効化しないというのもその意味では大きいと言えた。

 さらに、こちらにはジルベリアさんとリーシャさんがいる。


「良いぞ! もっと来い! もっと我輩を愉しませよ!」


 ジルベリアさんは、敵が多い方、多い方に進んでは無双系のゲームみたいに大勢を一気にぶっ飛ばしては緋色の目を輝かせてはしゃいでいたし、


「では、次は武器庫を落としましょう。五番隊は右のルートから。七番隊は中央を、二番隊は左を進んでください。四番隊、二十秒後に敵と交戦します。警戒を」


 リーシャさんは大鬼族オーガさんたちを完璧に指揮して、次々と大空洞の支配エリアを拡大していた。

 もうこれ私いなくても大丈夫なんじゃないかな。

 そんな思いに駆られつつ、蓋を開けると、ふわっとトマトの新鮮な酸味が鼻腔をくすぐる。戦いの途中なのに、私の周りは結構平和だ。

 武器庫を奪うと、戦況は一気にこちらに傾いた。鍛冶人族ドワーフさんたちは、乱雑に積まれて傷んだ武器を、ほんの少しの手入れで新品同然のものにすることができた。

 そして何より、こちらにはレイレオさんがいる。


「催眠ガスに使った麻酔薬を込めた弾丸だ。簡易的に作ったものだけど、十分程度なら大鬼族オーガを眠らせられるはずだ。これなら、多少の傷では止まらない大鬼族オーガでも無力化することができる」


 ものの数分で作ったものだったにも関わらず、その威力は絶大だった。

 撃たれた大鬼族オーガたちは、ものの数秒で膝を折り、崩れ落ちる。


「すごい。あの大鬼族オーガがこんなに簡単に……」


 一人の鍛冶人族ドワーフさんが呆然とつぶやく。

 その隣で叫んだのはじいじ2号、もといセードルフさんだった。


「いけるぞ! これなら俺たちも戦える!」


 その事実は、銃が扱える鍛冶人族ドワーフさんたちが、対大鬼族オーガにおける強力な戦力に変わったことを意味していた。

 狂化状態の大鬼族オーガは次第にその数を減らし、大空洞の奥へ、奥へと後退していく。

 大鬼族オーガさんの洗脳を解き、さらに鍛冶人族ドワーフさんも助け出すことで、続々と増えていく私たちの戦力。

 戦況ははっきりと私たちの方へ傾きつつあった。



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