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15 私とのんびり内政、農業編その2


 数日後、荒れ地を利用しての作物栽培は順調に進んでいた。

土壌の栄養が不足しているにも関わらず、植えた野菜たちは順調に大きくなっている。

 色鮮やかな野菜たちが競うように大きな葉を伸ばすから、広い畑なのに狭く思えてくるくらいだった。


「驚きました……こんなに大きく育つなんて」


 犬人族カーネのおばあちゃんがびっくりして言った。


「ほら! わたしだって結構やるでしょ? 見直した?」


 自慢げに言うソラちゃん。


「何言ってんだい。これはナギさんの力のおかげだろ」

「それは、その通りだけど……」

「まあ、でもあんたもがんばってるみたいだね。大の大人がみんなして、あんたの指示で動いてるみたいだし」

「そう! わたしも結構がんばってる……と思う」

「なんでそこで弱気になるんだい」

「いや、自分で言うのは違うかなみたいな。あと、ほんとにみんなの役に立ててるかもわかんないし」

「めんどくさい子だねぇ。立ててるよ。みんな助かってるって言ってる。すごいことだよ。村中みんなをあんたが動かしてるんだから」

「そ、そうかな? すごいかな?」

「そう言ってるだろ。胸張りな。全部あんたの力なんだから」

「あ、ありがと……」


 照れくさそうに言うソラちゃん。


「そうだよ。ソラちゃんがいてよかったって私も超感謝してるんだから」


 私の言葉に、ソラちゃんはにへら、と目を細めて、


「ありがとうございます」


 そう頬をゆるめた。

そんな感じで、畑仕事に精を出す日々は流れていく。

 どうやら、私の能力は生き物の成育にかなり適したものらしい。さすが女神様がくれた能力。そう言えば、ジルベリアさんや犬人族カーネのおばあちゃんも、身体が軽くなったって言ってたっけ。食べているだけでも多少の能力アップが期待できたりするのかもしれない。

 そして私の能力は野菜と一緒にそれを浴びていた土壌にも良い効果をもたらした。

 栄養が枯渇したからからの土地に、雑草が芽吹くようになったのだ。雑草を抜く作業も必要になって、仕事量的には増える結果になっているけれど、畑としては間違いなく前に進んでいると言っていいだろう。

 土に混ぜ込んで緑肥にすることもできるし、何より荒れ地の土壌を改善できるなら、森の木を切らずとも辺境の荒野地帯を畑に変えていくことができる。

 集落みんなの食料を自給できるような、大規模農園も夢ではないというわけだ。

 早速ジルベリアさんたちにお願いして、農地の拡大も進めている。紅色の芋に、大根に、にんじん。田んぼを作って稲を植え、お米の収穫もやっていきたいところだ。

 ふふふ、夢が広がるなぁ。

 農園拡大計画のためにも、最初に植えた野菜たちを収穫する日が待たれた。どれも大きく育ってくれているけれど、しかし一週間で「はい、収穫」とはもちろんいかない。『魔王厨房デモンズキッチン』で栄養状態万全とはいえ、相応の時間が必要になる。

 それは忙しなく時間に追われる都会での日々とは違う穏やかな時間だった。朝、日が昇るのと同時に目覚め、大きくなる緑の葉に目を細めつつ畑仕事。日が傾くまで働いて、みんなでおいしいごはんを食べて眠る。

 まるで自分が自然の一部になったみたいだった。土の感触も、髪をさらう風も、なんだか親しみ深いものに感じられる。私たち生き物は、自然に生きさせてもらってるんだ、と思った。

 前世ではそんなことまったく考えもしなかったのに。

 ああ、収穫の日が楽しみだなぁ。

 採れたてってやっぱ違うのかな?

 いつも食べてる野菜よりずっとおいしかったりして。

 私とおばあちゃんに褒められて、ソラちゃんも俄然やる気になっているらしい。


「ナギ様、少し試したいことがあるんですけどいいですか?」

「試したいこと?」

「昔、すぐ枯れてしまう青い花を育てられなくて困ってたことがあって。よく似た丈夫な水色の花の花粉をつけてみたんです。そしたら、その種から青と水色の花が生まれて。そのうちいくつかの青い花はすごく丈夫に育ったんです」

「おお、そんなことあるんだ」


 異なる特徴を持つ花を掛け合わせて、互いの長所を持つ花を作る。

 異世界ってそんなこともできるんだ――ってそれ品種改良では。割とこの世界的には大発見なのでは。

 好きとは言ってたけど、自力で品種改良までたどり着くなんて。この子、もしかして逸材かもしれない。


「野菜でもやってみたいなって思うんですけど……」


 おずおずと言うソラちゃん。

 もちろん、将来有望な植物学者の芽を摘むわけにはいかない。


「うん、どんどんやっちゃって。うまくいかなくても気にすること無いから。たくさん失敗して、そこからいっぱい学んでね。期待してるよ」

「ありがとうございます、がんばります!」


 こうして、拡張した畑の隅にソラちゃん用の品種改良スペースが作られた。

 子供だし、なかなか成果は出ないだろうけど、この子の成長につながればいいな、と思う。

日々は穏やかに過ぎていった。

 そして!

 私が最初に植えたお野菜を、収穫する日が来たのである!


「諸君。これから行うのは非常に重大かつ責任を伴う作業だ。諸君らの肩に今後の我々の命運がかかっていると言っても過言ではない。主に今日の夕食的な意味で」


 それっぽい訓示を行ったのは、多分私も初の収穫で舞い上がりおかしなテンションになっていたからだろう。

 口調は多分ちょっとジルベリアさんの影響が混じっている。


「しかし、私は諸君らの力を知っている。今日、我々は勝利する。そして皆で採れたてのおいしいお野菜を皆で食べるのだ。行くぞ皆の者!」


 私たちは一気呵成に畑になだれ込んだ。

 丁寧に土を払い、葉を傷つけないよう収穫する。

 私たちの軍勢は野菜軍に対して連戦連勝を重ね、採れたての野菜の山が荷車の上に積み上がった。


「大勝利だね」

「うむ。完勝だな」

「ナギ様、わたし今度はうまくできました!」


 ソラちゃんは誇らしげにレタスを持ってくる。鼻についた泥がなんとも微笑ましい。


「うん、お疲れ様。すごいね、よくできたね」


 顔を拭いてあげると、幸せそうに目を細める。

 かわいかった。

 娘ができたらこんな感じだったのかな、なんて思いつつ私は次の工程を開始する。


「『魔王厨房デモンズキッチン』、起動――」


 さあ、料理の時間だ。



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