冒険者の酒場から
小さな酒場に 今夜も 冒険者が集まる
多くの戦利品を持ち寄り 賑やかな夜が始まる
私は 一人 カウンターの席に座る
ピカピカに磨かれた カウンターに
1つグラスが置かれる
「収穫はありましたか?」
キラキラと輝く 笑顔のエルフが 語りかける
私が 首を横に振ると 男は去っていく
「何か、手柄は立てられたのかい?」
テカテカ頭の 筋骨隆々なドワーフが 陽気に聞いてくる
私が 首を横に振ると おじさんは去っていく
「成果はありましたの?」
ふわふわの金髪をなびかせた 笑みを浮かべた少女が 袖を掴んで聞いて来る
私が 首を横に振ると 少女は去っていく
みんな 気軽に 話しかけてくれる
こんな愛想のない私に ただ 首を振るだけの女に
私はまだ 冒険に出ていない
毎晩この場所で ただただ みんなの成果を聞いているだけ……
酒場の奥の席 ひときわ賑やかな一角
歓声が上がり 手を叩き 喜ぶ人たち
そこだけ 一条の光が差したかのような 一角
私は振り返り その人たちを見る
きっと 羨ましげに 見ていただろう
きっと 憧れの目で 見ていただろう
私には仲間がいない……
毎晩この場所で ただただ みんなの成果を聞いているだけ……
仲間が欲しい パーティーに加わりたい
そして 期待に応えたい
仲間たちに 力になりたい
私は グラスを置き 席を立つ
今夜も この場所に 私の居場所はなかった
今夜も 昨日と同じ 私を必要とする人はいなかった
仲間が欲しい 酒を飲んで語り合いたい
そして 期待に応えたい
仲間たちの 力になりたい
下を向き うなだれた私に
腕を掴み 満面の笑みの キミ
「ボクとパーティー組まないかい?」
いつも ここで私は 首を横に振る
今夜は ここで首を 縦に振ってみた
それだけで 何かが変わる気がしたから……
ピカピカに磨かれた カウンターにグラスが二つ
あの時 キミの一言に頷いたから 私は冒険者になれた
戦果を挙げ 戦利品を手に入れ 貢献できた
そんな 冒険者らしい はじまりは
この酒場から始まった
キミとここで出会ってから……