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家に帰ると母は愛莉を笑顔で迎えた。わたしの方へは見向きもしない。談笑しながら家の中へ入る二人をただ見ることしかできない。

夕食は用意されていないだろうから、部屋着に着替える。今日は少し食べ過ぎてしまった。アフタヌーンティーの時のサンドイッチやスコーンについ手が伸びてしまった。公爵家のスコーンは我が家とは違う。あのジャムは同じイチゴとは思えないくらい美味だった。このまま公爵家に通っていたら本当に太ってしまいそう。

朝は散歩でもした方がいいかもしれない。


公爵家から侍女レディースメイドが派遣されたのはそれから2日後のことだった。母は二人の侍女を喜んで迎えた。子爵家では高級取りの侍女レディースメイドを雇う余裕がなかったからだ。でも、そのうちの一人がわたし用の侍女だと聞いて嫌な顔をした。


「二人とも愛莉につけましょう。茉里に侍女はいらないわ」


「奥様、申し訳ございませんがそれはできません。私は茉里様の侍女だと言われています」


母はまだ何か言っていたけど侍女が頷くことはなかった。彼女の主人は母ではなく三千院伯爵だった。でもおかしい。何故わたしに侍女をつけるの?

もしかして三千院伯爵はわたしを憐れんでいるのかもしれない。彼のわたしを見る瞳はいつも険しい。そのことがどうしてこんなにも悲しいのかしら。彼と会ったのはまだ三度目なのにいつも嫌味を言われているような気がする。


「お嬢様、ドレスはここにあるだけでしょうか」


侍女はカーサだと名乗ったあと、衣装ダンスを開けてドレスを調べている。


「ええ、そうよ。数だけはたくさんあると思うけど…」


「そうですね。子供の頃のも整理されていないようですから数は多そうです。でも着れるドレスはあまりなさそうです。奥様に言って買っていただきましょう」


「三千院伯爵に言われているの? 母はわたしの我儘だと誤魔化したみたいだけど、もう何年もドレスを買ってないの。あまり出かけることもないから妹のお下がりで充分よ」


「ですがどれもサイズが合っていません」


「見ただけでわかるの?」


「もちろんです。奥様に頼みましょう」


「無理よ。三千院伯爵との結婚となれば妹の愛莉にはこれからもっとお金がかかるの。わたしに使うお金はないのよ。それに服が小さくて入らないことは言ったのよ。でもダイエットしろって言われたわ」


侍女にこんなことを言っても無駄なことなのに何故かベラベラと話してしまった。隠してもいずれはわかることだ。わたしの味方は誰もいないことを知るのは早い方がいい。この侍女も明日には愛莉の侍女になっているだろう。そういうものだ。


「ダイエットですか? お嬢様には必要ないと思いますが……」


「妹とは背も同じくらいなのにドレスがキツイの。だから確かに太っているのだと思うわ。三千院伯爵からもみっともない格好だと言われたもの」


「理玖様がそのようなことを? 女性にそのようなことをおっしゃるとは奥様に報告しなければいけませんね」


カーサの笑顔が何故かとても怖かった。


「服のことはまた明日にでも考えましょう。ディナーの服はとりあえずこちらにしましょうか」


カーサは当然わたしの夕食もあると思っているようだ。侍女が来たからと言って夕食があるとは思えない。どう言い訳しようか。下手なことを言えばまた母を怒らせてしまう。


「だ、ダイエットをしているの。言ったでしょ。ドレスが合わないからダイエットをしているのよ。だからディナーには出るつもりはないわ」


わたしはそれだけ言うと公爵家で借りた本を取り出して読み出す。これ以上の質問は受けないと態度で示した。

侍女の視線が気になるけどここは無視した方がいいだろう。フッと息を吐くと侍女は部屋から出て行った。侍女がいるというのは結構大変だわ。でもそれも愛莉が結婚するまでのこと。愛莉が結婚してここから出るときに侍女も付いていくから、それまでは我慢するしかない。カーサが母を怒らせないといいけど……。


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