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 なんだかとても眠くて目を覚ましたくない。それなのに誰かがわたしを呼んでいる。

 目を覚まさないといけないの?

 目を覚ますのが怖い。だって呼んでいる声は理玖さんではないから。愛莉でもない。母様でも父様でも兄様でもない。カーサでもない。だから起きては駄目なのに……。


「…ふふ、目を覚ましたようね。ここがどこかわかる?」


 どこかなんてわかるはずがない。あれからどのくらい時間が経っているかもわからない。

 わたしは辺りを見渡す。どこかの部屋だ。壁と天井を見る。あれ? ここって……。


「ふふふ、わからないみたいね。でもどこだって関係ないわ。貴女はこれから死ぬんだから」


 死ぬ? わたしを殺すつもりなんだわ。でもこの女性がわたしを本当に殺せるのかしら。


「ど、どうしてわたしを?」


 祖父江伯爵夫人はよく見ると小さなナイフを持っている。あれでわたしを刺すつもりなんだ。


「貴女がまさか茉里さんだったなんて。もっとこう男を惑わす魅力がある人かと思ってた。同じ顔なのに全然違うのね。だからさっきは全然気付かなかった。よく見ればあの女にそっくりなのに」


 一緒にお菓子を食べていた時の面影はない。怒りが彼女の美しさを台無しにしている。どうして人間は嫉妬するのだろう。嫉妬なんて感情がなければ彼女だってこんなことはしないのに。


「あ、あの女?」


「水野透子よ。わたくしの婚約者を誘惑した女。あの女はわたくしになんて言ったと思う?」


 また伯母さんなの? 嫌になる。伯母さんはいつもいつもわたしの後ろにいるようだ。でもわたしは伯母さんじゃない。


「わからないわ」


 そう伯母さんじゃないからわからない。


「誘惑するのはやめてってお願いしに行ったわたくしに、『変なこと言わないで、アレを誘惑したつもりはないわ。あんな男なんてわたくしにふさわしくないもの。わたくしにはもっと上の人間がふさわしいの』なんて言ったのよ。その上『いつでも返すから取りにいらっしゃい』って」


 ああ、彼女は伯母さんにプライドを傷つけられたんだ。自分より明らかに身分の低い子爵家の娘にそんなことを言われて壊れてしまったんだわ。


「ま、まさか貴女が伯母さんを……」


「そうよ、あの女はわたくしを馬鹿にして、彼のことも馬鹿にした。当然の報いよ」


「まさか愛莉も貴女が殺したの?」


 そんなはずはない。嘘だと言って欲しい。


「あら、そのことも知ってたの。まあ、いいわ。もうすぐ貴女も死ぬんだから教えてあげる。彼女は貴女の代わりに殺されたのよ」


「えっ?」


 わたしの代わりに殺された? 愛莉が? 


「そうよ。わたくし、間違えたの。何年か前から夫の様子がおかしくて探ってたの。桜庭子爵の愛莉さんはあの女の姪だった。それにわたくしの夫に言い寄っていたから、てっきり彼女のせいだって思ってた。貴女はほとんど夜会に出席しないから愛莉さんがわたくしの夫の相手だと思ったの」


「間違ってます。わたしも祖父江伯爵の相手ではないです」


 ここはきっぱり言わないと誤解されたまま殺されてしまう。でも彼女はわたしの言うことなんて聞いていなかった。

 彼女は壊れている。ものすごく可哀想な人だ。だって彼女は今では誰もが認める祖父江伯爵の第一夫人なのに、自信がないなんて。


「そうね。あの女と同じ。あの人が勝手に好きなだけ。わかってる。わかってるわ。でも許せないの。貴女はあの女とは違うのかもしれない。傲慢なところはないものね。でもあの人の心を奪う女は抹殺するって決めてるの」


 一歩、一歩と近付いて来る祖父江伯爵夫人の顔は醜く歪んでいる。人間ってこんなに変わるものなのか。わたしは彼女が一歩前に進めば一歩下がる。彼女のナイフから目を離せない。本当は背を向けて逃げたい。でも背中を刺される恐怖から一歩下がることしかできない。


「貴女とわたしが一緒にいたことは理玖さんが知っているのよ。わたしが殺されたら犯人は貴女だってすぐにわかるわ」


 理玖さんはわたしが祖父江伯爵夫人と一緒にいたことを知っている。わたしがもし殺されたら疑われるのは彼女と祖父江伯爵だ。


「本当にわかるのかしら。今までわたくしは一度だって捕まらなかった。今度だって大丈夫よ。わたくしも一緒に攫われたことになるから」


 祖父江伯爵夫人は自分が疑われるとは全く考えていないようだ。今まで疑われなかったのは馬車の事故が事故として処理されたからで、今回とは全く違うのに彼女にはわかっていないようだ。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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